新春トップインタビュー:日本海外ツアーオペレーター協会会長の大畑貴彦氏
OTOAスタンダード創出で質と価値の向上へ
協働の推進も強化
バンコクのデモ活動やアイスランドの火山噴火、中国の尖閣諸島問題など外的要因に左右された一方で、羽田国際化や格安航空会社(LCC)の日本就航など海外旅行市場にとって動きのある1年となった2010年。業界内には需要の回復傾向を歓迎する声が多いが、6月に日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)新会長に就任したサイトラベルサービス代表取締役の大畑貴彦氏は「あまり良くなかった」と振り返る。2011年は、旅行商品にとって安心安全の目安となる「OTOAスタンダード」導入に向けた取り組みも始めたいという大畑氏に今後の活動計画や見通しについて聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一 構成:秦野絵里香)
−2010年の振り返りと2011年の見通しについてお考えをお聞かせください
大畑貴彦氏(以下、敬称略) 羽田空港が10月末に国際化したが、それまではタイのデモやアイスランドの火山噴火など、各地で何かしら起こっていた。こうした事件や事故は例年起こることだが、旅行業界全体として楽観視できるような状況ではないと思っている。「前年比何%増」といった出し方で好調だというが、そればかりがひとり歩きしてしまっていないだろうか。
2011年についても、これまでの流れからいってV字回復は無理だろう。円高は続いているが、必ずしも手放しで喜べるものではない。当然、旅行は他業種の人に行ってもらわないと成立しないため、円高だからいいというものでもなく、デフレの問題もあって悪循環になっているところがあると思っている。
一方で、羽田の国際化は海外旅行のきっかけの材料になると思う。LCCや茨城空港の開港なども業界にとっては明るい兆しになった。OTOA会員のビジネスにもプラスに作用している。ただし、FIT化が進んでいることもあり旅行会社の仕入れる席が足りていない。
−そのような環境下での2011年の活動方針はどのようにお考えでしょうか
大畑 オペレーターは黒子の存在。オペレーターは直接エンドユーザーの顧客を持っているわけではなく、現地と旅行会社をうまくつなげる接着剤のような役目。日本旅行業協会(JATA)などの需要喚起に対してどういうサポートをできるかが重要だ。
その意味で、以前から推進している「協働」を継続していきたい。様々な業種、業態が関係する旅行業界において、みんなでひとつの目的にむかって一緒に取り組もうというのが協働。これまでも、良い旅行商品やサービスをエンドユーザーに提供するために事業者間取引についてのグローバルスタンダード化を推進したり、JATAからの要請があればデスティネーションのセミナーに協力したりしている。
また、都市別安全情報については今後もさらに増やしていきたい。安全・安心は常に充実していこうと考えている。
−グローバルスタンダードの議論が足踏みをしてしまっているように感じます
大畑 (他の議論も含めて)業界全体で新しい空気を取り入れていかなければならない中で、こういう風にかえたほうがいい、というものがなかなか見当たらない。業界全体が前進していないように思う。
グローバルスタンダードについては、海外旅行に行って帰ってくるまで、様々な業種、業態が関わっているが、決して対等な関係ではない。しかし、日本のアウトバウンドにおけるオペレーターへの依存度は非常に高い。だからこそ、取引関係の適正化が必要だと訴えている。ただし、OTOAは対立姿勢でいるのではなく、「協働」したいということを理解してほしい。
いずれにしても、まずは今後観光庁が開催する予定の約款改正の検討会に出席し、意見を述べていくことが第一歩だ。
−ネット系旅行会社の増加やLCCの台頭など旅行業界が大きく変化する中で、ツアーオペレーターが果たすべき役割をどうお考えでしょうか
大畑 日本の旅行業界で我々は「受け」の立場。直接エンドユーザーと接するわけではないし、日本の中でOTOAの存在を知っている人は少ないと思う。しかし、我々は「受身」であるとは考えていない。海外ではツアーオペレーターと旅行会社は同義であり、お客様に満足していただきたい気持ちは強く、責任も大きい。
一つの案として、現地の施設やサービスの基準や目安として「OTOAスタンダード」を設定しようという話が出ている。一般の消費財などと比較して、旅行自体の価値を貨幣に換えた時にどの程度のものになるかを理解しやすくしたい。例えば、安心、安全の観点から最低限ここは押さえなければいけないところなど目安になるようなものを考えている。
前例のない話であり利害関係もあってなかなか難しいと思うが、誰かが手を挙げないといけないのではないか。OTOAスタンダードが確立できれば、安全・安心の観点でも旅行会社とOTOA会員を経由する理由付けができる。まずは、何をもってスタンダードとするか、というところからスタートしたい。OTOAスタンダードができて機能すれば、オペレーターの地位や認知度の向上にもつながってOTOAに入る会社も増えるだろうし、そういう流れにしていきたい。また、そうでなければ、OTOAの存在意義も問われると思う。
−新しい取り組みについてお教えてください
大畑 インバウンドは、OTOA会員の中ですでに取り扱っている会社もあるが、オペレーターは「受け」のノウハウを持っていることから、今後も増えていくだろう。国がこれほどインバウンドに注力する中で、会員各社はアウトバウンドだけでこの先いいのだろうかと考えていると思う。インバウンドに取り組みたいという会員会社が多ければ、協会としてもサポートする必要があると思う。現在は、OTOAとしての方針について議論しているところだ。定款の改正が必要なので、公益法人の制度改革と合わせて検討していくことになるだろう。
もちろん、そうなった場合にはアウトバウンドのみを取り扱う会員、インバウンドのみの会員などもでてくるはずで、会費はどうするのか、保険はどうするのか、など細かい取り決めを明確化しなければいけない。とはいえ、それは実務的な問題で、まずはOTOAとしてインバウンドを活動領域に含めるのかどうかという明確な結論が大事だ。いずれにしても、インバウンドだけでなく、会員のこれからの事業展開を聞いてサポートする必要があると考えている。
−今後の海外旅行市場の拡大に向けた需要喚起のアイデアがあればお聞かせください
大畑 少子化で人口は減ってきているが、教育機関の観光学部などは増えている。インバウンドのために創設しているのかもしれないが、学生たちを現地に向かわせる取り組みが増えれば需要も伸びてくるのではないか。
また、オペレーターとしては現地でのサポートの充実をはかって、「また来たい」と思ってもらえるようにしたり、新しいデスティネーションの紹介や定番デスティネーションの新しい切り口を提案できると考えている。
−ありがとうございました
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協働の推進も強化
バンコクのデモ活動やアイスランドの火山噴火、中国の尖閣諸島問題など外的要因に左右された一方で、羽田国際化や格安航空会社(LCC)の日本就航など海外旅行市場にとって動きのある1年となった2010年。業界内には需要の回復傾向を歓迎する声が多いが、6月に日本海外ツアーオペレーター協会(OTOA)新会長に就任したサイトラベルサービス代表取締役の大畑貴彦氏は「あまり良くなかった」と振り返る。2011年は、旅行商品にとって安心安全の目安となる「OTOAスタンダード」導入に向けた取り組みも始めたいという大畑氏に今後の活動計画や見通しについて聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一 構成:秦野絵里香)
−2010年の振り返りと2011年の見通しについてお考えをお聞かせください
大畑貴彦氏(以下、敬称略) 羽田空港が10月末に国際化したが、それまではタイのデモやアイスランドの火山噴火など、各地で何かしら起こっていた。こうした事件や事故は例年起こることだが、旅行業界全体として楽観視できるような状況ではないと思っている。「前年比何%増」といった出し方で好調だというが、そればかりがひとり歩きしてしまっていないだろうか。
2011年についても、これまでの流れからいってV字回復は無理だろう。円高は続いているが、必ずしも手放しで喜べるものではない。当然、旅行は他業種の人に行ってもらわないと成立しないため、円高だからいいというものでもなく、デフレの問題もあって悪循環になっているところがあると思っている。
一方で、羽田の国際化は海外旅行のきっかけの材料になると思う。LCCや茨城空港の開港なども業界にとっては明るい兆しになった。OTOA会員のビジネスにもプラスに作用している。ただし、FIT化が進んでいることもあり旅行会社の仕入れる席が足りていない。
−そのような環境下での2011年の活動方針はどのようにお考えでしょうか
大畑 オペレーターは黒子の存在。オペレーターは直接エンドユーザーの顧客を持っているわけではなく、現地と旅行会社をうまくつなげる接着剤のような役目。日本旅行業協会(JATA)などの需要喚起に対してどういうサポートをできるかが重要だ。
その意味で、以前から推進している「協働」を継続していきたい。様々な業種、業態が関係する旅行業界において、みんなでひとつの目的にむかって一緒に取り組もうというのが協働。これまでも、良い旅行商品やサービスをエンドユーザーに提供するために事業者間取引についてのグローバルスタンダード化を推進したり、JATAからの要請があればデスティネーションのセミナーに協力したりしている。
また、都市別安全情報については今後もさらに増やしていきたい。安全・安心は常に充実していこうと考えている。
−グローバルスタンダードの議論が足踏みをしてしまっているように感じます
大畑 (他の議論も含めて)業界全体で新しい空気を取り入れていかなければならない中で、こういう風にかえたほうがいい、というものがなかなか見当たらない。業界全体が前進していないように思う。
グローバルスタンダードについては、海外旅行に行って帰ってくるまで、様々な業種、業態が関わっているが、決して対等な関係ではない。しかし、日本のアウトバウンドにおけるオペレーターへの依存度は非常に高い。だからこそ、取引関係の適正化が必要だと訴えている。ただし、OTOAは対立姿勢でいるのではなく、「協働」したいということを理解してほしい。
いずれにしても、まずは今後観光庁が開催する予定の約款改正の検討会に出席し、意見を述べていくことが第一歩だ。
−ネット系旅行会社の増加やLCCの台頭など旅行業界が大きく変化する中で、ツアーオペレーターが果たすべき役割をどうお考えでしょうか
大畑 日本の旅行業界で我々は「受け」の立場。直接エンドユーザーと接するわけではないし、日本の中でOTOAの存在を知っている人は少ないと思う。しかし、我々は「受身」であるとは考えていない。海外ではツアーオペレーターと旅行会社は同義であり、お客様に満足していただきたい気持ちは強く、責任も大きい。
一つの案として、現地の施設やサービスの基準や目安として「OTOAスタンダード」を設定しようという話が出ている。一般の消費財などと比較して、旅行自体の価値を貨幣に換えた時にどの程度のものになるかを理解しやすくしたい。例えば、安心、安全の観点から最低限ここは押さえなければいけないところなど目安になるようなものを考えている。
前例のない話であり利害関係もあってなかなか難しいと思うが、誰かが手を挙げないといけないのではないか。OTOAスタンダードが確立できれば、安全・安心の観点でも旅行会社とOTOA会員を経由する理由付けができる。まずは、何をもってスタンダードとするか、というところからスタートしたい。OTOAスタンダードができて機能すれば、オペレーターの地位や認知度の向上にもつながってOTOAに入る会社も増えるだろうし、そういう流れにしていきたい。また、そうでなければ、OTOAの存在意義も問われると思う。
−新しい取り組みについてお教えてください
大畑 インバウンドは、OTOA会員の中ですでに取り扱っている会社もあるが、オペレーターは「受け」のノウハウを持っていることから、今後も増えていくだろう。国がこれほどインバウンドに注力する中で、会員各社はアウトバウンドだけでこの先いいのだろうかと考えていると思う。インバウンドに取り組みたいという会員会社が多ければ、協会としてもサポートする必要があると思う。現在は、OTOAとしての方針について議論しているところだ。定款の改正が必要なので、公益法人の制度改革と合わせて検討していくことになるだろう。
もちろん、そうなった場合にはアウトバウンドのみを取り扱う会員、インバウンドのみの会員などもでてくるはずで、会費はどうするのか、保険はどうするのか、など細かい取り決めを明確化しなければいけない。とはいえ、それは実務的な問題で、まずはOTOAとしてインバウンドを活動領域に含めるのかどうかという明確な結論が大事だ。いずれにしても、インバウンドだけでなく、会員のこれからの事業展開を聞いてサポートする必要があると考えている。
−今後の海外旅行市場の拡大に向けた需要喚起のアイデアがあればお聞かせください
大畑 少子化で人口は減ってきているが、教育機関の観光学部などは増えている。インバウンドのために創設しているのかもしれないが、学生たちを現地に向かわせる取り組みが増えれば需要も伸びてくるのではないか。
また、オペレーターとしては現地でのサポートの充実をはかって、「また来たい」と思ってもらえるようにしたり、新しいデスティネーションの紹介や定番デスティネーションの新しい切り口を提案できると考えている。
−ありがとうございました
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