新春インタビュー:ハワイ州観光局代表の一倉隆氏

  • 2011年1月13日
体験・体感で想像以上におもしろいハワイをアピール
スポーツで新たなターゲット展開を開始


 旅行需要全般が冷え込んだ一昨年に比べ、回復基調に入ったといわれた2010年。ハワイに関しては羽田空港の国際化に伴い、羽田発着の定期便が就航。ハワイアン航空(HA)の日本就航などハワイ旅行のパターンに新たな選択肢が加わったことで、注目を集めた。ハワイ州観光局(HTJ)では、2011年から体験や体感をテーマに、新たなターゲットに向けたマーケティングプランの展開に乗り出している。HTJ代表の一倉隆氏に、ハワイの市場動向や新しいマーケティング戦略を中心に話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)


−2010年を振り返って、日本市場の動向をお聞かせください

一倉隆氏(以下、敬称略) 昨年は2009年からのリカバリーの年だった。2010年の日本人旅行者数の目標を122万人としていたが、達成できる見通しだ。1月から11月までは前年比4.9%増の111万4772人で、12月には羽田線の効果が浸透して10%近い伸びが見込めることから12万人くらいになると考えている。出足は鈍かったが、秋口に入ってから好調の兆しが見えてきた。


−秋には羽田線が就航した一方で、日本航空(JL)のコナ線撤退がありました。それぞれの影響と、羽田線就航による地方マーケットの需要喚起について考えをお聞かせください

一倉 JLのコナ線については、需要のアップダウンがあって利益を上げるのが難しいなか、運航を続けていただいたことに感謝しており、オアフ島だけではないハワイのアピールに寄与いただけたと思っている。2010年のハワイ島(ビッグ・アイランド)への日本人旅行者数は18万人を超えるくらいになったのではないか。現地のホテルによっては、コナ線撤退後もさほど人数は落ちていないという声も聞かれており、この好調さを今後も維持すべく現在、旅行会社8社のご協力のもと、ビッグ・アイランドキャンペーンも実施している。

 一方、羽田線については、都心部および神奈川東部在住の方には、ハワイが非常に行きやすくなったのは確か。現地到着が昼頃のため、時差による疲れをあまり感じずに済む点もメリットだ。地方マーケットへの期待もあるが、ハワイ発便は深夜到着となり、後泊が必要となるとパッケージツアーでは難しい面もあるので、今は様子見の段階だ。

 九州マーケットを例にとると、福岡を中心に旅行会社と定期的に話をしている。また、九州のなかでも大分や宮崎といったように、成田、関空、中部といったハブ空港からアクセスが悪いマーケットに向けて、どのように働きかけていくのかはひとつの課題でもある。HTJとしてもどのマーケットに可能性があるのか、もう少し時間をかけて見極めていく。それほど大きなマーケットではなくても、これまでアクセスの問題でハワイに目を向けていなかった地方のお客様に対して、需要喚起のきっかけとなる可能性はある。


−2011年のマーケティングプランのねらいを教えてください

一倉 2009年および2010年は、ハワイ州誕生50周年にちなんだアニバーサリーを意識して「人生の中の、ハワイ。」を展開してきた。2011年は新しいマーケット、特に若い方やハワイに行ったことのない方に対して、ハワイの面白さをアピールするための新たなタグライン「想像より、おもしろい。ハワイ」を設定した。

 これは「人生の中の、ハワイ。」というコピーが若い人にあまり響かず、自分向きの言葉ではないと受け止められたという調査結果を反映したもので、ビジュアル的にも現地での体験・体感をイメージした展開となっている。写真家の高砂淳二さんに引き続き撮影をお願いしており、高砂さんのカメラを通してこれまでとは違った面白いアングルでハワイを紹介できると思っている。


−最近の若い人のハワイ旅行のスタイルは

一倉 ハワイはいつ行っても変わらないデスティネーションという見方が強く、ハワイは結婚してから行けばよいと考えているのだろう。若い人にとって関心のあるスポーツやアクティビティ、カルチャーといった要素があることをもっと知っていただかないと、振り向いてもらえないのかなと思う。

 「今行かないと」ということでいえば、イベントもそのひとつ。例えば、「ホノルルマラソン」はこれがあるからハワイに行くという人が大勢いる。ただし、座席供給数からみて現在の1万2000人から1万3000人が限度だ。

 一方で、他の島でもマラソン・イベントはたくさんある。そこでHTJではハワイでのスポーツの情報を発信するサイト「旅スポハワイ」を立ち上げた。日本でレジャーとして楽しむ人が多く、かつハワイが他のデスティネーションと比べて優位性のあるスポーツを「ラン」、「ウォーク」、「バイク(サイクリング)」、「ゴルフ」の4つのテーマに分けて紹介している。開設に先立ち実施した調査で、スポーツ目的で旅行をするときの課題として8割を超える人が「情報がない」ことをあげており、まずはHTJが情報を取りまとめ、提供することにした。次は申し込みや予約が必要になるので、旅行会社にも商品造成の働きかけをしている。


−ハワイへの旅行の販売動向について、最近の傾向を教えてください

一倉 ここ2、3年は、パッケージからノンパッケージへの移行が明らかだ。ノンパッケージのなかでも完全個人手配の比率は10%くらい上がってきている。割合でいえば、パッケージ7割に対してノンパッケージが3割で、ノンパッケージの大半は完全個人手配。米本土からの旅行者の場合6割は完全個人手配なので、日本でも将来的にはそのくらいのポテンシャルはあるのかもしれない。

 ただ、既存の旅行会社のビジネスがだめになるとは思っていない。お客様が求めているものをいかにつかんで提供できるか、スケルトンの商品でいいのか、これは私から旅行会社にいつも問いかけていることだ。オンラインであればコストをかけずに商品の切り替えができるのだから、そういうところで旅行者の求めている商品提供ができないかと考えている。今回の旅スポハワイの調査でも「情報がない」、「どこで手配すればよいか」という旅行者の声が確認できている。それを旅行会社がどのように受け止めていただけるのか、HTJとしても期待している。


−2011年の日本人旅行者数の目標を教えてください

一倉 ハワイ州としての目標値は125万人。ひとつマイナス要因をあげれば、11月にAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が開催されるので、前後あわせて10日間くらい影響を受けることが考えられる。それ以外はプラス基調で推移すると思っている。

 ただし、JLの機材変更に伴い、デイリーベースで200席強減少している大阪線の座席が増える前提であれば、目標値を上回る可能性はあると思っている。関西では「ハワイは売る席がない」といわれているほどで、就航している各社に機材の大型化のお願いをしているところだ。昨年11月に日本に初就航したHAも日本路線の増便に意欲をみせており、早い段階での大阪乗り入れも期待している。とはいえ、日本路線は韓国をはじめ、ハワイへの直行便のない中国からの旅行者も利用しているので大きな上積みは望めないが、130万人くらいになる可能性もあると思っている。


−ハワイの魅力について、個人的なお考えをお聞かせください

一倉 ここ数年、ハイエンドなイメージのハワイを意識して紹介してきた感があるが、体験とか体感、感動もアピールポイントとして強い部分であると思っている。フラ愛好家など、元来ハワイの文化に興味のあるリピーターに向けての素材は十分にあるが、例えば歴史や芸術好きの団塊の世代の方などに対して、ヨーロッパのルーブル美術館や大英博物館に匹敵するものがハワイにあるかといえば、それは難しい。

 やはりハワイの優位性は年間を通じて気持ちのよい気候であり、安心して走れるコースやリーズナブルに体験できるゴルフ、気軽に楽しめるウォーキングやサイクリングなどのスポーツといったところにある。山ガールという言葉もブームになったが、こうしたレジャーを楽しむ方は大勢いる。HTJとしては情報がないといったギャップを埋めることで、思っている以上に楽しめるハワイを知っていただきたいし、このあたりがハワイの新しい楽しみ方のポイントになると考えている。


−ありがとうございました


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