新春トップインタビュー:阪急交通社代表取締役社長の生井一郎氏
「お客様第一」を継続強化
全ブランドをクロスチャネル販売へ
羽田空港国際化の追い風があったものの、欧州の火山や尖閣問題、韓国の砲撃事件などの影響を受けた2010年。阪急交通社では、メディア販売の特性を活かして素早い対応をすることで、引き続き好調な実績を残しているという。今後はウェブをはじめ、クロスチャネルでの販売も強化していく計画だ。代表取締役社長の生井一郎氏に2011年の方針と見通しについて話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−2010年の市場動向、御社の実績についてお聞かせください
生井一郎氏(以下、敬称略) 4月の下旬にアイスランドの噴火があり、後半は尖閣諸島や朝鮮半島の砲撃などの問題もあり、この3つによって相当の影響を受けた。ただし、2009年の新型インフルエンザの際もそうだったが、我々はメディア販売であるために、早期対応によって早めに回復できているため、収益、取扱高は前年より良い。弊社のお客様は年齢層が高く、時間的な余裕があるので、ツアーの再募集をかければ他の月への切り替えがあり得ることも幸いしたのではないか。結果的にはあまり影響はなかった。
収益面では、新型インフルエンザが起こった2009年度は回復を第一に考え、キャンペーンをせざるを得なかったが、2010年度は通常価格の商品が回復した。キャンペーン商品を出しても、通常商品の方が集客は良かった。取り扱いは人数ベースで上期、下期とも1%程度の増加だった。ただ、当社は2009年度のうちに大幅に回復していたので、1、2%でも非常に大きい数値だ。2008年度と比べても海外、国内両方ともいい。
−2011年の見通しはいかがでしょうか
生井 海外旅行はすでに販売を開始しており、4月以降の商品でヨーロッパが好調に推移しているのでさほど心配していない。心配があるとすれば中国、韓国、アジアがどうなるかだが、これは様子を見ないとわからない。景気はわずかによくなっている感覚があるが、旅行需要は今までのように大幅に伸びる時代ではない。海外旅行も国内旅行も微増だと思う。
また、企業経営としては、全般として今のところ計画通りに進んでおり、このままいけば順調に進むと考えている。これはいつもお客様の目線を大切にしてきた結果だろう。お客様支持率ナンバーワンの実現に向けて、特に品質管理、安全運行を意識している。
また、商品価値は、価格の安いものが悪く、価格の高いものがいいという問題ではない。価格が安くても内容が良ければ支持されていく。この価格でこの内容、という差が大きければ大きいほどお客様にとっては嬉しい。高く売ることなら誰にでもできる。こうした点を企業として努力をしなければならない。
−就任後のインタビューでは、方面別の送客数について、数年内にヨーロッパ3割、中国3割、その他4割、とおっしゃっていました。現在はどのような状況でしょうか
生井 中国の観光需要がこういう状態なので、現時点ではヨーロッパは目標(3割)を上回っている。台湾、ベトナム、カンボジアなど他のアジアは中国と韓国の影響で増えている。これまでは中国、韓国を合わせるとヨーロッパを上回っていたが、現状を考えると、ヨーロッパは阪急交通社の主軸でもあり40%以上、中国、韓国が20%でも良い。
新デスティネーションにも取り組むが、何十万人という単位にはならない。とはいえ、会報誌「トラピックス倶楽部」の会員は340万人まで達しており、ヨーロッパなど特定のデスティネーションだけでなく、多方面の旅行商品を揃える。その際、どこに行ってもトラピックスの品質が保証されることを重視している。
−昨年は羽田空港に大きな注目が集まりましたが、この影響を含めて航空座席への対応をお教えください
生井 大きな注目が集まった結果、予想以上に好調で特にヨーロッパへの集客が良かった。ただ、グループ旅行では必ず席の問題が出てくる。すべての路線がそろう2011年の春先も見ないと今後の推測はできない。羽田については、地方のお客様が羽田から出られる体制ができればいいし、旅行会社としてはもっと羽田が隆盛になってほしいと思う。ただ、今は東京地区のトラピックスだけで席がいっぱいになってしまうので、席がもっと出てくれば、地方のお客様を羽田経由でどんどん海外にお連れしたい。
−ゼロコミッションなどによって旅行会社の経営環境が大きく変わっているほか、流通面でもオンライン販売が伸びています。こうした環境変化への取り組みについてお聞かせください
生井 阪神阪急ビジネストラベルは2010年の取扱高は増えたが、コミッションビジネスからフィービジネスへの移行により営業収益は減っている。コミッションが復活するわけではないので、それに対応した方法を考えるほかない。今までのような代理店の役目はなくなってきている。ただ、ビジネストリップがなくなることは絶対ない。そこで付加価値を付けた部分の戦略を練るしかない。
オンライン販売について、他社と若干違うのは、単純にウェブサイトだけというビジネスモデルではないこと。カタログ、新聞、ウェブサイトが確実にクロスしている。同じ商品にインターネットからも新聞からも予約が入り、販売手法は全部リンクしている。ウェブサイト単独でなく、いろいろなメディアが混ざり合うから効果が出てくる。4月にはウェブサイトを見やすくリニューアルする予定だ。
いずれにしても、我々の仕事の第一はお客様。企業論理よりもプライオリティがあるのはお客様の目線であり、お客様の気持ちを理解することだ。旅行に参加してくださる方たちが自分たちの仕事、生活を支えてくださっているので、その方々がどう思い、どう考えるか、お客様のことを第一に考えなくてはならない。
−今後のアウトバウンドの拡大策、振興策についてのアイディアを教えてください
生井 日本は右肩上がりの時代は終わり、成熟社会に入っている。これからは、一人ひとりの趣味や目的にあった分野の旅行を作っていかないとだめだと思う。今年の見通しとして旅行需要が若干上がるといったのは、リピーターも含めた数だ。また、世界的にも経済がいいわけでもない。そういう環境下では、各社の知恵の出しあいになる。我々は、若い社員が実際に現地に足を運んでツアーを作り、さらに品質をアップさせてきた。こうした積み重ねでお客様からの支持を頂いている。こうした努力を今後も重ねることで数を増やしていくしかないと考えている。
−ありがとうございました
<過去のトップインタビューはこちら>
全ブランドをクロスチャネル販売へ
羽田空港国際化の追い風があったものの、欧州の火山や尖閣問題、韓国の砲撃事件などの影響を受けた2010年。阪急交通社では、メディア販売の特性を活かして素早い対応をすることで、引き続き好調な実績を残しているという。今後はウェブをはじめ、クロスチャネルでの販売も強化していく計画だ。代表取締役社長の生井一郎氏に2011年の方針と見通しについて話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−2010年の市場動向、御社の実績についてお聞かせください
生井一郎氏(以下、敬称略) 4月の下旬にアイスランドの噴火があり、後半は尖閣諸島や朝鮮半島の砲撃などの問題もあり、この3つによって相当の影響を受けた。ただし、2009年の新型インフルエンザの際もそうだったが、我々はメディア販売であるために、早期対応によって早めに回復できているため、収益、取扱高は前年より良い。弊社のお客様は年齢層が高く、時間的な余裕があるので、ツアーの再募集をかければ他の月への切り替えがあり得ることも幸いしたのではないか。結果的にはあまり影響はなかった。
収益面では、新型インフルエンザが起こった2009年度は回復を第一に考え、キャンペーンをせざるを得なかったが、2010年度は通常価格の商品が回復した。キャンペーン商品を出しても、通常商品の方が集客は良かった。取り扱いは人数ベースで上期、下期とも1%程度の増加だった。ただ、当社は2009年度のうちに大幅に回復していたので、1、2%でも非常に大きい数値だ。2008年度と比べても海外、国内両方ともいい。
−2011年の見通しはいかがでしょうか
生井 海外旅行はすでに販売を開始しており、4月以降の商品でヨーロッパが好調に推移しているのでさほど心配していない。心配があるとすれば中国、韓国、アジアがどうなるかだが、これは様子を見ないとわからない。景気はわずかによくなっている感覚があるが、旅行需要は今までのように大幅に伸びる時代ではない。海外旅行も国内旅行も微増だと思う。
また、企業経営としては、全般として今のところ計画通りに進んでおり、このままいけば順調に進むと考えている。これはいつもお客様の目線を大切にしてきた結果だろう。お客様支持率ナンバーワンの実現に向けて、特に品質管理、安全運行を意識している。
また、商品価値は、価格の安いものが悪く、価格の高いものがいいという問題ではない。価格が安くても内容が良ければ支持されていく。この価格でこの内容、という差が大きければ大きいほどお客様にとっては嬉しい。高く売ることなら誰にでもできる。こうした点を企業として努力をしなければならない。
−就任後のインタビューでは、方面別の送客数について、数年内にヨーロッパ3割、中国3割、その他4割、とおっしゃっていました。現在はどのような状況でしょうか
生井 中国の観光需要がこういう状態なので、現時点ではヨーロッパは目標(3割)を上回っている。台湾、ベトナム、カンボジアなど他のアジアは中国と韓国の影響で増えている。これまでは中国、韓国を合わせるとヨーロッパを上回っていたが、現状を考えると、ヨーロッパは阪急交通社の主軸でもあり40%以上、中国、韓国が20%でも良い。
新デスティネーションにも取り組むが、何十万人という単位にはならない。とはいえ、会報誌「トラピックス倶楽部」の会員は340万人まで達しており、ヨーロッパなど特定のデスティネーションだけでなく、多方面の旅行商品を揃える。その際、どこに行ってもトラピックスの品質が保証されることを重視している。
−昨年は羽田空港に大きな注目が集まりましたが、この影響を含めて航空座席への対応をお教えください
生井 大きな注目が集まった結果、予想以上に好調で特にヨーロッパへの集客が良かった。ただ、グループ旅行では必ず席の問題が出てくる。すべての路線がそろう2011年の春先も見ないと今後の推測はできない。羽田については、地方のお客様が羽田から出られる体制ができればいいし、旅行会社としてはもっと羽田が隆盛になってほしいと思う。ただ、今は東京地区のトラピックスだけで席がいっぱいになってしまうので、席がもっと出てくれば、地方のお客様を羽田経由でどんどん海外にお連れしたい。
−ゼロコミッションなどによって旅行会社の経営環境が大きく変わっているほか、流通面でもオンライン販売が伸びています。こうした環境変化への取り組みについてお聞かせください
生井 阪神阪急ビジネストラベルは2010年の取扱高は増えたが、コミッションビジネスからフィービジネスへの移行により営業収益は減っている。コミッションが復活するわけではないので、それに対応した方法を考えるほかない。今までのような代理店の役目はなくなってきている。ただ、ビジネストリップがなくなることは絶対ない。そこで付加価値を付けた部分の戦略を練るしかない。
オンライン販売について、他社と若干違うのは、単純にウェブサイトだけというビジネスモデルではないこと。カタログ、新聞、ウェブサイトが確実にクロスしている。同じ商品にインターネットからも新聞からも予約が入り、販売手法は全部リンクしている。ウェブサイト単独でなく、いろいろなメディアが混ざり合うから効果が出てくる。4月にはウェブサイトを見やすくリニューアルする予定だ。
いずれにしても、我々の仕事の第一はお客様。企業論理よりもプライオリティがあるのはお客様の目線であり、お客様の気持ちを理解することだ。旅行に参加してくださる方たちが自分たちの仕事、生活を支えてくださっているので、その方々がどう思い、どう考えるか、お客様のことを第一に考えなくてはならない。
−今後のアウトバウンドの拡大策、振興策についてのアイディアを教えてください
生井 日本は右肩上がりの時代は終わり、成熟社会に入っている。これからは、一人ひとりの趣味や目的にあった分野の旅行を作っていかないとだめだと思う。今年の見通しとして旅行需要が若干上がるといったのは、リピーターも含めた数だ。また、世界的にも経済がいいわけでもない。そういう環境下では、各社の知恵の出しあいになる。我々は、若い社員が実際に現地に足を運んでツアーを作り、さらに品質をアップさせてきた。こうした積み重ねでお客様からの支持を頂いている。こうした努力を今後も重ねることで数を増やしていくしかないと考えている。
−ありがとうございました
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