旅行業・観光業DX・IT化支援サービス

新春トップインタビュー:日本航空社長の大西賢氏

  • 2011年1月11日
更生計画は想定通りに推移
まずは財務体質の強化を優先


 昨年、更生計画のもと復活への第一歩を踏み出した日本航空(JL)。不採算路線からの撤退、機材のダウンサイジング、コスト構造の変革、人員削減、収益力強化などを通じて、まずは筋肉質な財務体質に変革していく取り組みを進めている。「これまでのところ再生計画は想定通り」とJL社長の大西賢氏。再生に向けた歩みは着実に進んでいる。オープンスカイ、共同事業、羽田国際化などビジネス環境が大きく変わるなか、どのような舵取りをしていくのか。2010年の振り返りとあわせて、2011年の展望について話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
                           
                           
−2010年はJLにとってターニングポイントとなった年でした。市場動向の分析やそのなかでの更生計画の進展状況、それに対する評価をお聞かせください

大西賢氏(以下、敬称略) 総需要でいえば、リーマンショックからは想定したよりも早く立ち直っていると思う。2010年は当初の見通しよりも、国際旅客で10%増、国内線は前年とほぼ同じという感じだ。しかし、我々は、そうした総需要の推移とはまったく異なる動きをした。2008年比でいえば、座席供給量は国際で4割減、国内で3割減としており、全体では3分の2程度の供給規模に落としている。そのようななかで、国際線旅客のイールドは上がってきていると感じている。総需要が増えているなかでJLに質を求めるお客様を取り込めているのだろう。

 JALグループとしてやるべきことは量を追求していくというよりも、まず財務体質を強化していくこと。資産の効率を上げて、筋肉質な体質になることが最大の課題だ。路線を縮小すると同時に、リージョナル機は除いて150席以上の機種も7機種から今年度末までには4機種にまで削減する。関連会社の整理も進め、賃金体系も大きく見直した。整理解雇に至ったのは大変残念だが、当初考えていたことを期限内にできつつあると感じている。

 国際線、国内線とも旅客数は減っているが、搭乗率は上がっている。総需要が回復しているなかで、物量を増やしていくことはひとつの考え方だが、我々のめざしているところは違う。しっかりとした運営をやっていくことがなにより大切なことだ。


−今年の見通しはいかがでしょうか

大西 昨年に総需要が回復しきったと見れば、今年も昨年と同じような傾向が続くとはいえないのではないか。円高は観光需要にはカンフル剤になりえるが、各企業への影響は大きく、総需要という観点からはマイナスの面もある。また、アジアでの不安定要因も気にかける必要があるだろう。こうした影響を除外して考えれば、今年も昨年とほぼ同じような市場規模になるのではないか。国内市場では、新幹線の延伸の影響を考慮すれば、航空需要の伸び率を若干鈍化するのではないかと見ている。

 今年は、昨年秋以降に進めた座席縮減が通年化することになるので、昨年比では供給規模は減ることになる。国内では多頻度小型化をさらに進めて、お客様の利便性を上げていきたい。


−昨年秋に羽田空港が国際化され、消費者からも注目を集めています。JL便はどのように推移していますか。また、今後の課題は

大西 JLはサンフランシスコ、ホノルル、パリ、シンガポール、バンコク、そして台北の松山空港に新たに就航した。いずれも非常に良い結果となっている。シンガポールは他社の就航もあって供給過多の心配はあったが、ふたを開けてみるとそれなりの需要があり、昨年11月が70%台、12月は90%に届く搭乗率となった。サンフランシスコについては70%台だが、深夜早朝枠を利用した運航スケジュールの周知が広がれば、もっと伸びるだろう。中国、韓国の既存路線も好調だ。尖閣諸島問題による中国需要への影響も、11月をピークに底は打ったと感じている。

 目玉はパリ便。羽田から欧州に飛ばしているのは今のところJLだけだ。しかし、日本発の需要は爆発的に伸びるとは思っていない。そういう意味で、パリ便は現地での需要取り込みにおけるひとつの試金石になると考えている。成田便とは異なり、パリを午前中に出発するので、現地の人は動きやすいと思う。加えて、パリのシャルル・ド・ゴール空港では乗り継ぎに便利なターミナル2を使用しているのも大きな利点だ。

 成田便も堅調に推移している。(同じ路線でも)羽田便と成田便では時間帯が違う。羽田便が飛ぶことで、お客様にとっては選択肢が増えた。そもそも羽田便はいずれも高需要路線ばかり。総需要が伸びているなか、成田便も埋まったうえで、羽田便も好調に推移している。

 これからの課題としては、首都圏需要は取り込めているので、地方からの乗り継ぎ需要の拡大だろう。これも告知を続けていけば、需要は伸びると思う。ビジネスでも観光でも内際乗り継ぎは非常に期待できる。また、2013年の発着枠拡大に備えて、空港施設の拡張も必要になってくるだろう。


−今年は独占禁止法適用除外(ATI)のもと、アメリカン航空(AA)との共同事業が本格化します。そのメリットをお聞かせください

大西 共同事業とは、わかりやすくいえば両社が同じ財布を持つことで、そこが共同運航など従来の提携関係とは決定的に違う。共通の財布に収益が入ってくる。だから、売り方も路線の張り方も変わってくる。利便性を高めて、いかに多くのお客様に利用してもらえるか。両社にとって、そういうことを考えながら進めるインセンティブが働くという構造だ。つまり、航空会社側とお客様とのメリットはかなりの部分で重なってくると思う。

 それ以外にも、ターミナル施設の共同利用などによるコスト削減、手荷物基準の共通化による利便性向上などもメリット。さらに、これから詰めていく必要はあるが、割引運賃の扱いなどもこれまで以上に柔軟になっていく可能性がある。


−今後さらにオープンスカイも進むと予想されています。それに対する期待をお聞かせください

大西 オープンスカイは時代の流れなのだろうと思う。米国とは先進的にオープンスカイを進めているが、米州、欧州、アジアという枠組みで見た場合、今後伸び率として期待できるのはアジアだろう。政府はアジアのなかで優勢順位をつけ、まず韓国、シンガポール、マレーシアと交渉を進めていく方針だが、それに対して納得感はある。

 オープンスカイのもとで、もっと規制を緩和してもらいたいと思っている。それによって需要が喚起できる。競争は激しくなるだろうが、緩和されれば規制のなかで得られるマーケットよりも、はるかに大きな部分を獲得できる。そのほうが、我々が生き残る道は見つけやすい。


−海外のLCCが日本に就航し、全日空(NH)もLCCの設立に動いています。更生計画のなかではLCCを検討するとしていますが、現在のお考えをお聞かせください

大西 LCCは新たなマーケットの創造に比重が置かれていると思う。勉強はしているが、現在、財務体質を強化していくなかで、積極果敢にLCCという薄利の分野に打って出る価値があるかどうかは疑問だ。先行者利得は利用者を囲い込むことにメリットがあるが、LCCはそういったモデルではない。100円でも安価な運賃があれば利用者はそちらを選択するはずだ。だから、参入するタイミングというよりは、ビジネスモデルを完成させるタイミングの方が優先されるのだと思う。


−旅行会社と航空会社との関係も変わってきています。インターネットによる直販など流通構造が変化してきているなかで、旅行会社との関係はどう見ていらっしゃいますか

大西 国内旅行と海外旅行とではアレンジの仕方がまったく違う。国内であれば、ネットを通じて自分でできる部分が大きいが、海外はいろいろな手間がかかり、旅行会社の手助けは必要だ。旅行会社は依然として非常に大きい存在だと思う。つまり、航空会社とは共存共栄の関係だ。現在、コミッションによるつながりはなくなりつつあるが、需要創造でのつながりは続いていく。そういう意味では、航空会社にとって旅行会社はますます重要な存在になっていると思う。

 旅行会社は、我々が直接フォローできない部分を多く持っている。旅行会社はお客様と直接話すことでニーズをくみ上げ、我々は我々でニーズを見つけながら、一緒に商品を造っていきたい。


−今後の中長期的な戦略をお聞かせください

大西 やはり、まずは体力をつけることが先決だ。不採算路線や景気に影響を受けやすいリゾート路線などを切ったが、再度そういった路線に出て行くためにはそれなりのリスク態勢が必要になってくる。財務体質が強化されれば、再び出て行ってビジネスチャンスを獲得していくことは可能になるだろう。できるだけ早くネットワークを広げていきたいとは思っている。それはある意味、我々の使命だろう。


−社会が内向きになっているといわれ、また旅行マーケットが成熟しているなかで、海外旅行市場を伸ばしていくために必要なことはなんでしょうか

大西 なにかトリガーを引くものを造っていくことが大切なのではないか。現状では動かない層を動かすためのアプローチには、いろいろなものがあるはず。それはLCCかもしれないし、オープンスカイかもしれない。また、価格で刺激するという部分もあるだろう。それはLCCだけができるというものでもない。我々でも、ある期間内で価格的に需要を喚起するタイミングはあると思うし、ある特別な日にインセンティブを動かすこともできるのではないかと思う。また、チャーターにも積極的に取り組んでいきたい。


−ありがとうございました


<過去のトップインタビューはこちら>