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新春トップインタビュー:日本旅行業協会(JATA)会長の金井耿氏

  • 2011年1月6日
二極化のなか高品質の旅に活路
まずは需要創造から


 経済危機や新型インフルエンザの影響を大きく受けた2009年から、2010年は旅行需要が回復傾向に転じた。羽田空港の国際化という追い風があった一方で、ゼロコミッションや新しい運賃認可制度、オープンスカイの推進など航空業界の大きな動きもあり、業界構造はさらなる変化も予想される。2010年の振り返りと2011年の展望について、日本旅行業協会(JATA)会長の金井耿氏に聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
                                           
                                          
−2010年の総括と、2011年の見通しをお聞かせください

金井耿氏(以下、敬称略) 緩やかだが回復基調にあった年といっていい。景気も完全に戻ったといえないが、海外旅行は上海万博、サッカーのワールドカップなど大きなイベントがあり、国内でも平城遷都1300年祭にずいぶん人が集まった。それから成田の拡大、羽田の国際化はかなり大きなインパクトになった。年頭に反転攻勢の年にしたいと申し上げたが、そのきっかけはつかみ得たと感じている。

 2011年の外部環境は心配なこともある。景気の先行きも不透明だし、雇用もすぐに改善とはならない。2010年のような大きなイベントがあまりない。ただし、羽田の国際化、国内では東北新幹線が12月に新青森まで開通し、九州も3月に全線開通するといった好材料もある。いろいろ変化を乗り越える知恵と工夫をきっちり出していけば順調にいくと思う。


−JATAの2011年度の活動方針を教えてください

金井 新しいことを始めるというより、今まで取り組んできたひとつひとつのテーマを継続して事業展開をはかることになる。まず、どうやって需要を作り出していくかが大きなテーマ。事業環境の変化に対応するためのアシストとして、環境をどう整備できるかが、2番目のテーマになる。さらにコンプライアンスや人材育成などの問題のほか、来年は一般社団法人への移行という大きな課題もある。

 ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)と、国内向けの「もう一泊、もう一度(ひとたび)」は継続する。VWCは国の目標値の2000万人には達しなかったが、今までにない需要創造の取り組みを展開できた自負はある。各国の政府観光局などから評価を得られており、成田の強化、羽田の国際化などのキャンペーンに多くの協賛をいただいた。回復基調に入ったところで、少なくともあと1年は基盤固めをしたい。


−昨年は運賃の上限認可制への移行、オープンスカイの推進など、航空関連の動きが活発でした。ゼロコミッションも含め、これらは旅行業界にどういう意味を持つのでしょうか

金井 上限認可制など利害が必ずしも一致しないケースもあるが、旅行会社と航空業界の関係は切っても切れない。例えばリーマンショックが起こった2年前に、航空会社側からの観光需要への期待が高まったように、Win−Winの関係を追及しうるベースはあるので、関係をひとつひとつ築いていくことが必要だろう。たとえば、規制緩和が進んだチャーターは、関係構築が大きなテーマとなる。我々が実施するチャーターコーディネーターのように、両方で支えあえるテーマを見つけることが必要だ。

 また、ゼロコミッションの影響の大きさにより、旅行会社側でもインハウスエージェントの再編が起こり、また数社共同で発券しようという動きも出ている。そういう展開によって、航空会社との新たな関係の構築につながっていくと思う。


−羽田の再国際化が旅行業界に与えたインパクトについて、所感をお聞かせください。また羽田の今後に期待する変化、課題があれば教えてください

金井 非常に大きな出来事だ。少なくともこの2ヶ月は大きな効果をもたらしている。首都圏のゲートウェイで、お客様に2つの選択肢ができたという意味で利便性が高まった。旅行会社にとっても、羽田発と成田発の両方のパッケージツアーを提供できることは非常にメリットが大きい。成田もスカイライナーのアクセスが良くなり、LCC誘致など新しい展開をはかろうとしている。全体としても大きくプラスの方に効いてくると評価している。

 羽田は現在の発着の時間帯からすると、利便性が高まったのは主に首都圏のお客様。これから便数が増えたときに、どのように地方路線と繋げるかが議論になってくる。また、本当の意味での国際化をめざす上で、成田との棲み分けも課題になる。とはいえ、羽田の国際化は現時点で良い方向にいっているので、これをどう伸ばしていくのかがまず大事だろう。それを活用しきったうえで、JATAとして申し上げることがあれば申し上げていく。


−旅行の質、付加価値の取り組みについて、あらためてお考えを伺えますか

金井 ネット販売の伸張は大きなトレンドで、それらがいろいろな変化をもたらすのは間違いない。ただ、すべてがそこに流れていくのではなく、例えばLCCで旅行に行く人もいる一方で、時間的な余裕や“ゆったり感”、高度な内容の旅を求める人が必ずいる。二極化がますます強まるなかに、我々が生き残っていく価値が存在しうる。我々の活路はそちらの方にあって、そのなかで事業の成立をはかっていくことになる。

 その意味でお互いの競争はより厳しくなっていく。今までのように、大勢を相手にして全部一遍にうまくやろうとしても難しい。多様化、多極化で、かなりきめ細かな対応が求められるし、それができないと生き残っていくことは難しくなっていくと思う。


−政府がインバウンドの取り組みを強化していますが、JATAのインバウンドの取り組みを聞かせてください。また、アウトバウンド拡大に向けたアイディアをお聞かせください

金井 インバウンドで経済を活性化していくという方向性は間違っていない。JATA会員の中でインバウンドを直接手がける加盟会社は今のところさほど多くないが、この2、3年で力が入ってきたし、手がけようとする会社が増えてきている。インバウンドは制度が未整備で、いろいろな問題が出ているので、それをしかるべき相手に伝えていく。2009年から観光庁と共催で訪日外国人の受け入れのセミナーを全国で開催し、インバウンドに対するアシストをやっている。

 ただ、インバウンドを拡大するためには、日本人が海外へ出て行くことも必要。我々も、今若い人がなかなか外国に行かない問題に対し、パスポートをもっと取ってもらおうというキャンペーンをやっているが、これらをもう少し高めていく必要は当然あると感じている。


−ありがとうございました


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