トップインタビュー:オーストリア航空日本・韓国支社長の村上昌雄氏

  • 2010年12月22日
独自の路線ネットワークで堅調な伸び
プロダクトのよさでハイバリューな客を獲得


 4月から「悲願だった」という成田/ウィーンのデイリー運航を開始したオーストリア航空(OS)。これをどう続けていくか、そしていかに利益をあげていくか。今もって景気回復の兆しが見えにくい旅行業界において、航空会社のあるべき姿を追及していくことで着実に実績を伸ばしていく。日本・韓国支社長の村上昌雄氏に話を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)    
                                   
                                   
                         


−2010年を振り返ってみて、どのような年でしたか

村上昌雄氏(以下、敬称略) 実績でいうと、予想外によい結果を残しつつある。この4月にデイリー運航が始まったことで、該当フライトだけでなく全体的なビジネスクラスのロードファクターが顕著に上がった。これが実績に大きく作用していると思う。

 もちろん2008年のリーマンショックの影響を、特にビジネストラフィックで今年のはじめごろまでは引きずってきたという印象があるが、春以降はそれも戻りつつある。完全な状態までは戻ってはいないものの、回復傾向にあるといえる。特に第2四半期以降に急激な回復を見せている。

 また、レジャーの面でも、私たちの非常に強いエリアである中・東欧デスティネーションにかなり支えられている。オーストリアはもちろんクロアチア、スロベニア、ハンガリー、チェコ、特にこのあたりの需要が非常に高く、利用者の年齢層が比較的高いため、往復ともビジネスクラス利用などのパッケージ利用が多い。


−最近は中東や北欧などで乗り継ぎ、欧州へ向かうネットワークを強める動きが顕在化していますが、そうした他社との競合をどのようにお考えですか

村上 供給量が増えれば競争が激化するであろうことは当然の市場原理だろう。逆に考えれば、欧州に拠点を持たない航空会社が欧州線を強化するというのは、欧州への需要が高いという意味であり、需給バランスでいえばマーケットは十分にあるということだ。そのうえでの供給量増加なので、今のところは競争激化を悲観的には見ていない。

 それに、新しく欧州路線に参入する航空会社は、いわゆるロンドンやパリ、ローマなどの「メインデスティネーション」と呼ばれる路線が中心になる。それに対して、欧州の航空会社というのは非常に長い間欧州に根を下ろしており、それぞれが独特のネットワークを持っている。当社は欧州で最大の中・東欧のネットワークを持っており、その基幹はそう簡単には揺るがない。ウィーンの最短乗り継ぎ時間が25分という点も、我々の大きな強みとなっている。


−他社と差別化を図っているサービスはありますか

村上 昨今ではエアバスA380型機を除けば機体そのものには大きな違いはないので、やはり航空会社の原点はお客様になにを提供できるのかというところにあると思う。

 我々は2000年に、オーストリアの本社と日本支社で「4つのC」というプロジェクトを立ち上げた。東京路線での「キャビンクルー(Cabin Crew)」「キャビンコンフォート(Cabin Comfort・快適性)」「チャイナウェア(Chinaware・食器)」そして「キュイジーヌ(Cuisine・食事)」の面でのサービス向上をめざしたものだ。結果、2、3年の間に日本人の客室乗務員を導入し、ビジネスクラスを「ライフラットシート」に変更した。食器に関しては和食用にノリタケの食器を特注し、日本路線のみで使用している。

 食事も定期的にお客様の残したものをチェックして、何が良くないのかを考え、早いときでは翌月にはメニューを改善するなどしており、洋食・和食ともに自信を持っている。


−御社にとって日本市場とはどのような位置づけなのでしょうか

村上 我々はオーストリアの国内、そして欧州域内、中距離路線として中近東やロシア、長距離路線として北米と中国、日本、インド、タイなどが主要なデスティネーションだが、この長距離路線の重要度は年々増している。

 というのも、欧州でも格安航空会社(LCC)が非常に台頭しており、サービスを維持したまま値段を下げなくてはならないという矛盾が生じている。しかし長距離路線には大きなLCCとの競争がない。サービスの質を維持したまま一定の利益を生むことができるのが長距離路線であり、これは当社に限ったことではなく航空会社全体が長距離路線を重要視する理由だろう。

 その中で、伸び率としては間違いなくインドや中国が日本をしのいでいるが、市場の成熟度という観点から、日本は大きな潜在力を持っていると考えている。例えば日本からの渡航者数が1%減少したとしても、結果的に旅行単価が1.1%上がり旅行総支出が上がるのであれば、そこに潜在力を見て取ることができる。日本にはその潜在力があるということがすでにわかっている。


−航空会社と旅行会社の関係が大きく変わりつつある現状を、どのように捉え、どのように対応していこうとお考えですか

村上 とにかくWin−Winのシチュエーションを作っていかなくてはならない。これは常々社員・本社にも伝えていることだ。日本市場は他国と比べると異なっている。遅れているとか間違っているというのではなく、独自の成長を遂げて、現在の状況にいたっている。「旅行業者はもういらない」などという極端な意見を述べる人がいるが、それは日本では絶対に通用しない。

 一方でゼロコミッションの時代、旅行会社はより良いサービスをお客様に提供し適正なサービス料をいただくことが、ますます必要になると思う。サービスの質が企業収益にダイレクトに反映することで、自ずからお客様に対するサービスの質が向上するだろう。


−2011年をどう予想されますか

村上 市場自体には、少なくとも大きなネガティブ要因はないのではないかと思うが、逆に大きく膨らむ要素もない。お客様の数が伸びないのなら、どうやって売り上げをあげていくのか。それを考えていくマーケットになりつつある。いわゆるハイバリューなお客様をひとりでも増やしていかなければ、これから先は厳しい時代になっていくのではないか。

 また、今年は成田と羽田の国際空港の拡張という大きな節目の年となったが、来年は大きなインフラ拡張は予定されていない。一方で、国策として進められるLCCとチャーターが市場を賑わすことだろう。


−イールドを上げるにはどういった戦略をお持ちですか。具体的になにかあれば教えてください

村上 デイリー運航が始まったところであり、今後もプロダクトの質を上げていかなくてはならないと思っている。長期的に見てもボーイングB777型機の機材自体は変わらないため、長距離路線の機内サービスを向上させていきたい。機内食の内容を改良することはもちろん、フルフラットシートの導入など欧州路線をご利用のお客様に支持されるサービスを勉強しながらどんどん取り入れていきたいと思う。

 レジャー部門の開拓地域としては、リピーター市場に向けて東欧、つまりクロアチア、スロベニア、チェコ、ハンガリー、このあたりを観光局や旅行会社と連携しながらさらに掘り下げていく必要があると考えている。それに加えて、さらに東のルーマニアやブルガリアといったエリアを開拓していきたいと思う。ロシアのソチでオリンピックも開催予定であり、バルカン諸国から徐々に黒海に近づくような形で欧州を広げていければいい。

 日本のレジャーマーケットの中でそうした国々は需要も高い。そして当社はそこに供給できる強いネットワークを持っている。航空運賃が割高になるが、乗り継ぎの利便性も含め、値段に見合う高品質のプロダクトを提供することで、ご理解いただけると思う。


−ありがとうございました


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