ベストシーズン再発見(3)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(後編)

  • 2010年12月25日
 前回に引き続き、今回も一生に一度は見たい祭りやイベントを取り上げたい。今回のテーマは「クリスマスシーズンと年末年始」。この時期には、クリスマスと新年を祝うさまざまなイベントが集中して行なわれる季節。本書でも、オーストリア・ウィーンの舞踏会シーズンの開幕を告げるクリスマスの祝祭や、ブラジル・リオデジャネイロのニューイヤーイベントなどを紹介している。「クリスマスシーズンと年末年始」は、会社勤めの人でも比較的まとまった休みが取りやすく、海外旅行に出かける絶好の時期。そんな顧客に、ぜひ提案したいデスティネーションとして、今回はここ数年、日本人観光客が増えているという筆者注目の2つを紹介したい。
                                       
                                         
〜顧客が希望する出発月から、最適なデスティネーションを提案〜
 この連載では、世界的なビジュアル誌「ナショナルジオグラフィック」の書籍「世界のベストシーズン&プラン」の記事をもとに、様々な視点から世界の旅行先の「ベストシーズン」を考えていく。



クリスマスらしい風景を堪能するなら、アメリカ・南西部のサンタフェへ

 ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ──。いつの時代も観光客を魅了してやまない魅力的な大都市が数多くあるアメリカだが、もし、顧客がクリスマスシーズンに旅行を計画しているなら、ぜひすすめてほしい町がある。それは、南西部ニューメキシコ州の州都、サンタフェだ。

 この町のクリスマスを彩るのが、ファロリートと呼ばれる小さな灯り(現地では複数形のファラリトスと呼ばれることもある)。小さな紙袋に砂を引き、その上にロウソクを立てただけの“即席紙灯篭”といったシンプルな構造だが、クリスマス・イブの夜には、数千、数万のファロリートが家の屋根や塀、道路や歩道などに灯される。本書では「このファロリートが由緒ある町の広場と、広場を取り巻く日干しレンガ造りの建物すべての横桟や窓敷居に並べられている様子を想像してみてほしい」と記しているが、ちょっと考えただけでも、その美しさに酔いしれそうだ。もちろん、サンタフェではこの時期、さまざまなクリスマスイベントが催され、町中がクリスマスムード一色になる。

 「サンタフェのクリスマスをたたえるのはファロリートだけではない」とも、本書は紹介する。「この町のクリスマスの伝統は数百年の歴史が生み出したものだ。この時期、広場にかがり火がたかれ、ファロリートがきらめくキャニオンロードを、人々はキャロル(喜びの歌)を歌いながら歩く」──。こうしたサンタフェのクリスマス風景は、実は深い町の歴史に根付いたものだ。

 サンタフェは1607年、スペイン人によって築かれたという歴史を持つが、その何千年も前からここで暮らしてきた先住民がいる。サンタフェでツアー会社「サンタフェ・ジャパン・コネクション」を営む小林志寿子代表によると、「町の周囲に散らばるインディアンの居住区をプエブロと呼ぶが、それぞれのプエブロではクリスマスの時期に、伝統のインディアン・ダンスが見られ、とても興味深い」という。

 サンタフェのクリスマスは日本ではまだあまり知られていないが、「アメリカ国内では非常に有名で、この時期には全米中から観光客が集まる。日本人観光客も年々増えている」(小林代表)。ホテルやエアーの手配は、早め早めを心がけたほうがよさそうだ。


新年の到来を祝う旅なら、見逃せないシドニーの「ニュー・イヤー・イブ」

 大みそかの夜、顧客が新年の到来を祝うイベントに参加したいというなら、オーストラリアのシドニーは最もふさわしい旅行先の1つだろう。同地では毎年12月31日の夜、「ニュー・イヤー・イブ」という盛大なイベントが行なわれる。メインを飾るのは、色とりどりの打ち上げ花火。本書では、その様子を次のように紹介している。

 「真夜中になると、大みそかの夜ならではの光景が繰り広げられる。ハーバーブリッジは文字通り爆発するような炎に包まれ、世界屈指の見事な花火が、目にまばゆい強烈な光で夜空を照らす。ハーバーブリッジから50メートル下の海面に向けて、光のカーテンが流れ落ち、次から次と打ち上げられる花火の大輪が夜空に幾重にも重なって、目がくらくらするほど派手な色彩の饗宴が続く」。

 毎年150万人を超える見物客を集めるという世界的にも有名なこのイベントは、2011年で15回目を迎える。午後9時から花火が始まり、シドニーハーバー・ブリッジなどでの光のパレードなどがその年の最後の夜を彩った後、カウントダウンを告げる花火が新年を迎える午前0時まで続くが、イベント自体は午後5時からプレショーが行なわれる。そのほかにも、シドニー湾を周遊しながら花火見物を楽しみ、船上で新年を迎えるパーティ・クルーズやオペラハウスでのガラ・パーティーなど、多彩な催しが目白押しだ。ビューポイントの1つでもある対岸のタロンガ動物園では、閉園後の動物園へ入場して花火が見物できる特別なチケットが、大みそか限定で発売される。

 ロンドンやニューヨークなど、花火を打ち上げて新年を祝う都市はシドニーのほかにも数多くあるが、ニュー・サウス・ウェールズ州政府観光局の成田仁子氏は、シドニーの人気の秘密を次のように分析する。「まず、季節が夏のため、気候が温暖で快適に過ごせること。さらに、地理的に世界の主要都市の中で、最も早く新年を迎える位置にあること。世界屈指の美しさを誇るシドニーの港と華麗な花火がマッチして、言葉では言い表せない見事な光景が楽しめることも魅力だ」──。

 もし、年末年始にシドニーを訪れたら、花火見物の前後にぜひおすすめしたいのがコースタル・ウォーク。シドニー湾周辺の海岸線沿いには、快適なウォーキングコースが整備されており、「12月から2月にかけては、海岸沿いを散策するには絶好のシーズン」(成田氏)。シドニー周辺には、ライフセーバー発祥の地であるボンダイビーチなど、世界的にも有名な美しいビーチが数多くあって楽しめる。


執筆:浅山真
立教大学観光学科卒業後、東急観光入社。1990年日経BP社入社。「旅名人」副編集長などを経て、2009年1月に日経ナショナルジオグラフィック社の企画編集ディレクターに就任。
http://www.nationalgeographic.jp/

出典:「世界のベストシーズン&プラン」 2010年10月発行
英BBC放送の旅番組のプロデューサーなどを務める著名な旅行ライターが、世界の人気観光地について「ベストシーズン」をキーワードに厳選した海外旅行の指南書。旅のタイプを6つに分類し、各月ごとにおすすめの場所をモデルプラン付きで紹介している。




▽これまでの「ベストシーズン再発見」
ベストシーズン再発見(2)一生に一度は見たい、世界の祭りやイベント(前編)(2010/12/04)
ベストシーズン再発見(1)限られた時期しか見られない貴重な野生動物の姿(2010/11/20)