ITソリューション特集:コラム<ITソリューションの有効活用>(2)

  • 2010年11月17日
ITソリューションの有効活用で旅行ビジネスが変わる
コラム第2回:最新トレンドがもたらす新たな事業領域


 オンライン販売における最新トレンドは、かなりのスピードで変化している。それを支え加速しているのは、スマートフォンに代表されるモバイル端末、そして通信インフラの進化である。今回はこれらが旅行業界にもたらす新たな可能性をお伝えしたい。
                                         
                                           
日々拡大するスマートフォンの影響力

 最近、急速に影響力を増しているスマートフォン。一過性の流行ではなく、今までにない操作感や利便性が支持されることで、販売台数を伸ばし続けている。国内でのスマートフォンの販売実績は、2007年の96万台から2009年には194万台へと急伸。2010年は284万台に達する見込みで、今後も伸び続けると予想されている。
 
 さらに、技術が進歩し利用者の関心が上がるにつれて、モバイルキャリアやサプライヤーのスマートフォンに対する注目度も拡大し、今後のユーザー数増加に拍車をかけるだろう。
 
 ユーザーの支持を集める理由は、先進的なデザインや操作感もさることながら、圧倒的な利便性を生み出す高い機能が備わっている点である。その機能を拡大する数々のアプリケーションで旅行関連アプリが増加している。スマートフォンと旅行との親和性は、ますます拡大していく傾向にある。旅行関連ではどのような機能がどのように利用されているのだろうか。

◆事例1:地球の歩き方「旅行ガイドブックアプリ」
 位置情報データ(GPSデータ)とナビゲーション機能を使い、現在地から目的地までのルートを簡単に調べられるようにした。表示される地図もこれまでの携帯に比べ画面が大きく見やすくなっており、旅行先で行きたいところに容易に行けるようになり、旅行の楽しさをさらに拡大させている。

◆事例2:ビッグローブ旅行「旅比較ねっと」
 位置情報データで、旅先で今いる場所から近い宿を検索したり、駅やレストランなどのお店の情報を現在位置に近い周辺情報として、容易に得ることができるようになった。

◆事例3:楽天トラベル「たびメモ」
 スマートフォンで撮影した旅先の写真を、その場でツイッターやフェイスブックなどのSNSにアップし、リアルタイムに旅の感動を伝えることが簡単になった。



 このほかにも、海外で現地の言語の音声や文章を翻訳したり、ガイドブックや辞書などの書籍類を小さな端末のなかにすべて納めて持ち歩いたりすることも可能になった。旅行者がほしい情報をほしいときにいつでも調べたり、取得できたりとまさに現地においてコンシェルジェサービスを受けているような便利さを実現している。

 また、大手旅行会社でもマーケットの動きに対応すべく、各社では独自のiPhoneアプリの開発が盛んになっている。エイチ・アイ・エス(HIS)は、目的地を選択するとその都市の海外ツアーチラシ一覧が表示され、予約センターへの案内が表示されるサービスを展開。近畿日本ツーリスト(KNT)は、国内宿泊の予約ができるアプリを配信するなど、既存のウェブ販売や店舗販売との連携をとり、販促を目的としたアプリが続々と導入されている。


スマートフォンとインフラの進化で新たな動き

 スマートフォンが浸透しつつある背景には、ネットワークなどのインフラの整備やデータ定額制の一般化により、利用に対するハードルが低くなったことがあげられる。

 加えて、モバイル回線の高速化や無線LAN(いわゆるWi-Fi)が普及したことにより、画像や動画など大容量のデータもストレスなく見られる環境が整った。最近では、モバイルWi-Fiルーターの登場で、どこにいても自分の周囲を無線LANエリアにすることも可能となっている。

 インフラ面の進化は国内だけにとどまらない。これまではほとんど利用されてこなかった海外での携帯データ通信も、環境の整備とともにいよいよ本格的な普及がはじまりそうだ。

 今年1月に、海外携帯電話レンタルや国際モバイルデータ通信サービスを展開するインターコミュニケーションズが海外データの通信定額プランを開始したのを皮切りに、夏にはソフトバンクやNTTドコモも同様のサービスを提供し、通信料が高価であった海外におけるデータ通信も身近になった。より高速での通信を希望する人向けに海外で使えるモバイルWi-Fiルーターも出てきている。

 さらに、このようなサービスを旅行会社から提供するという動きもある。このモバイルWi-Fiルーターを旅行期間だけ安価でレンタルするサービスや、ジャルパックでは今年7月、添乗員がモバイルWi-Fiルーターを持ち歩き、添乗員の近辺に無線LANエリアを作り出すサービスを試験的に導入している。モバイル環境を意識した旅行ビジネスへの活用も拡大しつつあるのだ。


利用シーンの変化から生まれる接点

 ユーザーが利用する機器や環境に変化が生じることで、これまではアプローチできなかった旅行シーンでの接点を持てる可能性が広がった。これまで旅行商品を提供する側からのサービスは、旅行出発前に提供するものが圧倒的に多かった。しかし、これからは「旅先でのサポート」という、いわゆる旅行先でのコンシェルジェサービスのようなアプローチが可能となる。

 例えば、旅行会社として旅先でのおすすめのショッピング店舗、レストラン、観光スポットなどを表示し、さらに店舗までのルートを案内してくれるサービス(アプリ)をスマートフォン向けに提供したり、空き時間に簡単にオプショナルツアーを申し込めるようにすれば、旅先での旅行者の動きは活性化し、顧客満足は向上するだろう。それにより、旅行前や旅行中における販売機会の拡大も期待できる。

 これまでオンライン販売では、「自宅の机の前で積極的に情報(旅行商品)を探すユーザー」を主なターゲットとすることが多かった。しかし、購買行動に変化をもたらすツイッターなどのソーシャルネットワーク、その利用を促進するスマートフォンなどの新しいトレンドは、ユーザーとの新たな接点を産み出し、旅行商品に新しい価値を付け加えていくことになる。これからは旅行中や帰着後など、多様なシーンでの利用に応えられる新しいサービスの提供も考えていかなければならない。



執筆:森田亘(株式会社山敷広告制作所 ディレクター)
http://www.yamako.jp/index.shtml

 旅行検索・比較サイト「AB-ROAD」での制作業務を経て、
山敷広告制作所に入社。ディレクターとして旅行業界関連の
広告制作のみならず、ウェブ上のサービスやコンテンツの企
画を担当し、旅行商品の販促強化を目的としたサービスの企
画・提案から運用まで幅広く携わる。