取材ノート:インバウンドの地方への拡大、日本の「真の魅力」を伝えるには

認知度の低い日本の多様性に隠れたインバウンド需要
「日本ならでは」の体験はありのままで提供を

同じように、長年日本との関わりを持っているヒル氏も「『スシ・ゲイシャ・フジサン』といった定番のイメージも大事だが、プラスアルファの部分ももっと海外にもっと紹介すべき」と同意見だ。日本でF1鑑賞、スキー、ハイキングなどのアクティビティが楽しめるということや「縄文杉、沖縄のビーチ」など日本人にとっての定番の国内観光地でさえ海外で認知されていないとし、ヒル氏はそれらが伝われば「集客力があるだろう」と期待を示す。
また、ヒル氏は「外国人にあわせる必要はない」という。「日本ならでは」の体験も重要なポイントであり、旅館や田舎で日本の伝統的な生活を体験してみたいという欧米人旅行者は多いからだ。例えば、温泉は外国人に敬遠されると思いがちだが、旅行者側からすると「日本にいる間だけでも入ってみたい」という気持ちがあるようだ。実際に石川県和倉温泉の加賀屋はインバウンド向けに特別なことはしていないが、1995年にインセンティブ旅行を受け入れて以来、台湾からの旅行者を毎年7000人以上獲得し続けている。小田氏は「畳、布団、和食、接客係のサービス」が訪日旅行者から好評だったほか、日本旅館の「おもてなし、サービス、ホスピタリティが台湾のお客様の琴線に触れたことが一番大きかったのでは」と分析している。
地方のインバウンド、課題はコミュケーションと行きやすさ
訪日外客向けアピール、ブランド構築には外国人の目線を活用

また、ダンネンバーグ氏、ヒル氏はともに地方の最大の課題はアピール不足だとしている。日本人にとってはメジャーな国内の観光地、観光資源でさえ世界的に知られていないことからも明らかなように、地方からも観光資源やその魅力を十分に伝え切れていないのが現状だ。加賀屋の場合は大型のインセンティブ旅行客の受け入れをきっかけとして台湾市場に浸透したが、地方自治体での総合的なアプローチでインバウンド客を獲得しているケースはまだ少ないのだろう。
では、海外向けにアピールするにはどうしたらいいのか。ダンネンバーグ氏はアピール力の弱い日本人の特性をふまえ、「グローバルでは物事を2割から5割増でいう傾向にあり、それより控えめだと訴求力がなくなってしまう」として、積極的にアピールできる外国人のピーアールのプロを起用することを提案した。
また、ブランド構築をするうえでも外国人の視点を取り入れることはポイントとなる。ヒル氏は「日本人の考える日本の魅力と外国人の考える日本の魅力は違う」として、自身のニュージーランド政府観光局での経験について語った。例えば、ヒル氏自身は見慣れていてあたり前と思っているような星空が、日本人にとって魅力的で観光としての訴求力があるということを日本人スタッフから提案されたという。ヒル氏はさらに、そういった外国人の目線をさらに反映させるためにも「日本政府観光局(JNTO)や観光庁などに、その担当地域での戦略について決定権を有するようなポジションに、外国人スタッフを入れるべき」と、観光戦略の要職に外国人を採用するようすすめる。
「偶然」ではなく「戦略的」なプロモーションを
観光への予算拡大で「本気のツーリズムカントリー」へ

ただ、こうした「戦略的なプロモーション」をするにはまとまった予算も必要となる。ヒル氏によるとニュージーランドのGDPは静岡県と同規模だが、グローバルな観光ピーアールに割りあてている予算は日本全体と同じくらい費やすことで奏効しているという。ヒル氏は「本気のツーリズムカントリーになるには予算が必要」で、ツーリズムは観光客は飲食、宿泊、買い物などほかの分野にも経済的な波及効果があるため、「政府をはじめとして、地方や都道府県レベルでも、各県での観光材料のプロモーション用に予算を割りあててもらえれば」と観光産業に対する一層の注力を促す。
モデレーターを努めた近畿日本ツーリスト(KNT)専務取締役の越智良典氏は以上の議論について「それには『国の覚悟』が必要だが、まだ不十分」と感想を述べた。日本が真の「観光立国」となるには個々の観光産業従事者の努力も必要だが、訪日外国人旅行者が日本の「果てしない」魅力を「発見」するには、民間だけではなく政府レベル、地方レベルでの取り組みを一層強化し、戦略的かつ総合的なアプローチが欠かせないという結論に達したシンポジウムとなった。
取材:安井久美