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羽田特集:航空会社の戦略(1)日系キャリアに千載一遇のチャンス到来

  • 2010年11月2日
 10月31日からの冬期スケジュールの開始にともなって、羽田空港の本格的な国際化がはじまった。定期チャーター便だったソウル(金浦)、上海(虹橋)、北京、香港の各路線が定期便となったのに加えて、新規路線も次々と就航。路線・便数も多い日系航空会社にとって、近年にない大きなビジネスチャンスであることに間違いない。運用的な制限はあるものの、各社とも新たな需要の創出に大きな期待をかけている。
                        
                       
                       
JL高需要路線でイールド重視、NH新規路線でシェア拡大ねらう

 羽田空港の国際化にあわせて、日本航空(JL)、全日空(NH)とも従来のアジア近距離便に加えて、新たな国際路線を展開している。両社が新たに飛ばすのは台北(松山)、バンコク、シンガポール、ホノルル。JLの単独路線はサンフランシスコとパリ。NHはロサンゼルスに就航した。合計でJLが10路線で1日13便、NHが8路線で1日11便という規模。単なる増便を超えた、まったく新しい路線展開だ。

 両社とも路線の選定は、2国間の協定や政策上の制限を考慮して決めざるを得なかった。昼間時間帯は政策上、アジア近距離のビジネス路線という制限があるため、従来の定期チャーター路線に加えて、台北線(松山)の開設と香港便を深夜早朝時間帯から移動させるにとどまっている。上海および北京については、両社とも増便の希望はあるが、すべて今後の日中航空交渉次第だ。

 一方、早朝深夜時間帯の長距離路線について、JL国際営業部路線販売グループ・グループ長の越智健一氏は「パリ、サンフランシスコともビジネス需要を見込んで就航を決めた。それぞれの都市からの以遠も期待できる」と語り、イールドの高いビジネス客に焦点をあてた路線決定であるとした。また、パリ線については、「JL単独路線なので、ビジネス、レジャー双方の市場で大きな強みになるはず」と勝算を見込む。

 NHはロサンゼルス線を高需要路線と位置づける一方、他の欧米路線への就航は避けた。NH企画室ネットワーク戦略部主席部員の江崎隆洋氏は、その理由として「深夜早朝時間帯の23時から5時までは、騒音対策のため2500メートルのD滑走路しか使えない。大型機でヨーロッパやアメリカ東海岸に飛ばしても、収益を担保するだけのペイロードを満たせないと判断した」と明かす。ただし、滑走路運用の緩和、収益を担保できるだけの新しい機材の導入、就航空港の発着枠や発着時間の確保など環境が変われば、状況は変わってくるとの考えも示す。そうした意味からも、NHでは大型機並みの航続距離を持ちながらも経済効率が向上するボーイングB787型機の導入に期待しており、羽田路線でも有効活用していきたい意向だ。



主要ターゲットはビジネス需要、地方需要で仁川との競争にも自信

 両社とも、ホノルル線を除くすべての路線で、主要ターゲットをビジネス需要と想定している。JLの越智氏は「首都圏のビジネスが主なターゲット。次にレジャーという順番になるだろう」と語り、「近距離になればなるほど、時間を有効に使いたいビジネス客には羽田の利便性を感じてもらえるだろう」と期待する。また、NHの津田氏も「昼間時間帯の便については、羽田は明らかにビジネス客が中心」と予測する一方、深夜早朝時間帯の便のビジネス需要については、「アンケートをとったところ、成田の昼間便への支持と意見は二分している」という。

 とはいうものの、「ビジネス需要だけで座席を埋めることはできない」(NH津田氏)とJLとNHともに認識している。ビジネス客同様に、羽田路線の開設はレジャー客にとっても選択肢が増える。「例えば首都圏在住者であれば、深夜早朝便を利用することで仕事帰りに長距離の海外デスティネーションに飛ぶことも可能になる。それは成田便では実現できなかったことだ」(JL越智氏)と話す。

 新しいレジャー需要を創出するうえで、両社とも注目しているのが地方需要の取り込みだ。NH津田氏は「国内39路線のネットワークを使って地方発の需要を取り込める」と意欲的。アジア近距離路線の場合、朝8時、9時台羽田発のソウル便、香港便、北京便への接続は難しいものの、10時以降の出発であれば、接続可能な国内路線も多くなる。さらに、深夜早朝便ではあればその可能性は大きく広がる。「新たな投資をせずに、ビジネス拡大をねらえるのは大きい」(NH津田氏)。

 当然、JLの場合も同様だ。特にパリ便やサンフランシスコ便は今までにない時間帯。多くの地方路線との接続も可能なため、地方のレジャー需要の受け皿になりえる。加えて、JLの越智氏は「政府の方針に沿うかたちで、インバウンド需要も取り込みたい」と、訪日外国人旅客の獲得にも力を入れていく姿勢を示す。

 地方路線と国際路線を結ぶ本格的なハブ空港をめざす羽田にとって、意識するのはやはり、韓国の仁川空港の存在だ。NHの津田氏は「価格の面からすると、韓国の航空会社と競争は厳しいところがある」と打ち明けるも、「仁川にデイリーで飛んでいない地方空港もある。一方、羽田への国内線は1日何便もある。選択肢は地方と羽田を結ぶ路線の方がはるかに多い」とメリットを強調する。状況はJLも同じだ。



公示運賃は羽田が若干高め、成田との需給調整も必要か

 消費者も旅行会社も気になるのが羽田便の運賃設定。NHの場合は「同じ路線では、成田便と比べて羽田便の方を若干高く設定している。従来の値付けと同じ感覚でやっている」と津田氏。羽田の利便性を価値と捉え、またイールドの高いビジネス客を見込んだ運賃設定している。一方、JLの越智氏は「路線によって、羽田と成田の運賃を分けることもあるだろう。例えば、近距離については運賃が分かれやすくなるのではないか」と発言するにとどめた。

 運賃の差も含め、成田便と羽田便との競合あるいはすみ分けも気になる点だ。JLの越智氏は「競合路線については、羽田を飛ばすなら、成田の減便、あるいは機材のダウンサイズで、首都圏の路線として両方の供給をうまく調整していきたい。羽田と成田を使い分けてもらえる環境を整えるのが大切」と語る。一方、NHの津田氏は、「まだ羽田は本格的な国際化になっていないので、成田への明確な影響は出ていない」としたうえで、「ビジネスで時間を重視する旅客は羽田に移ってくるのだろう。そのときは、成田の需給調整や機材変更が必要になるか、あるいはインバウンドの需要で座席を埋めていくことになるのだろう」と見通す。

 両社とも、成田路線と同様に、羽田路線でもアライアンスパートナーや外航他社とコードシェア提携を結ぶともに、就航地以遠のネットワークも拡大している。今後羽田の国際路線が拡大するにつれて、羽田での際際乗り継ぎ機会も増えていく可能性がある。特に米国路線に関しては、NHのスターアライアンス、JLのワンワールドとも独占禁止法の適用免除(ATI)を念頭に置いた、戦略が進められていくと予想される。成田の発着枠も拡大していくなか、日系2社の首都圏発のネットワーク戦略はどう進むのか。今後の羽田の需要動向がひとつの指針になる。


取材:山田友樹