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取材ノート:地方のアウトバウンド活性化へ−行政、航空、旅行、観光局の視点

  • 2010年10月27日
 JATA国際観光会議のシンポジウム「地方のアウトバウンド市場を如何に活性化させるか?」は、モデレーターの航空新聞社取締役編集長の石原義郎氏が冒頭に「結論を得る議論ではない」と述べたとおり、現状および課題などの共有が主な目的。航空自由化、LCCの市場本格参入、羽田空港の国際化、成田空港の発着枠拡大、成田・関西の両空港でのLCCターミナルの設置計画など、日々の情勢も刻々と変化している。変化にいかに対応し、消費者に受け入れられる商品造成につなげていくか。行政、航空会社、観光局、旅行会社の4人のパネリストの議論をまとめた。
                                          
                                                     
▽モデレーター
航空新聞社取締役編集長 石原義郎氏

▽パネリスト
国土交通省航空局監理部国際航空課課長補佐 田口芳郎氏
アシアナ航空(OZ)専務取締役日本地域本部長 玄東實氏
ハワイ・ツーリズム・オーソリティー(HTA)プレジデント&CEO
マイク・マッカートニー氏
西鉄旅行専務取締役営業企画本部長 横山達男氏


1:行政−成長のための規制緩和
相互のリスク分散がチャーター解決の案


 田口氏は国土交通省総合政策局観光部旅行振興課課長補佐から鹿児島県庁を経て国際航空課と、今回のテーマの多くの要素を経験した経歴をもつ。現在の航空行政の立場から、成長戦略ではオープンスカイの推進、チャーター便の緩和、羽田のハブ空港化と成田の国内/国際の乗り継ぎ強化が重点施策と説明。

 このうち羽田については、昼3万回、夜3万回の計6万回が増加しても限られた発着枠であり、成田も地方を強く意識した路線展開ではなく、その転換が緒についた段階との考えだ。羽田、成田とも改善に向かうものの、打ち出された発着枠拡大の施策だけでは足りないとの認識もある。当面、地方発ロングホールの需要には羽田・成田の首都圏空港と地方空港間のネットワーク改善、近隣3000キロメートル圏内のアクセスはオープンスカイをいかした地方発直行便需要を開拓する2本立ての対応を視野に入れている。

 チャーター便の場合、地方発は主に2つのパターンがある。1つは定期化をめざし、双方向の旅客の利用を想定する近隣3000キロ圏内の連続的チャーター。もうひとつは単発で運航するロングホールへのチャーターだ。ロングホールは大手と地場の旅行会社が共同で仕入れをする動きに期待したいという。


2:航空会社−羽田就航は純増で需要喚起、LCCは定着に時間が必要

 玄氏はOZが現在、日本の18空港、22路線、週176便、1日25便を運航しており、そのうち地方13空港で初となる国際線を運航した実績と、その継続性を強調する。地方の運航では地方自治体の支援なしに継続は難しいという。また、最近は韓国発アウトバウンド需要が増えたことも、運航の継続を後押している。

 羽田空港での運航について定期チャーター便の開始当初は、「お客様はいないのではないかと思っていた」と本音を漏らす。ところが蓋を開けると、成田便に影響を及ぼすことなく、羽田就航分がすべて純増。需要が喚起され、成田はレジャー、羽田はビジネスというすみ分けができた。地方発、特に西日本発の需要は仁川空港での乗り継ぎが可能であるため、羽田発国際線を利用する需要は、地理的関係が重要な要素になるとの考えだ。

 地方への就航が期待されるLCCについては、LCCが5社ある韓国の状況を説明。国内線のシェアで37%と大きな存在感になりつつあるという。OZグループ会社のエアプサン(BX)は国内線の60%をオンライン販売、その他は法人セールスで対応しているが、日本ではオンラインは10%未満。「安い料金を提示しても、なかなか即需要に結びつかない。信用を積み重ねないと定着しない」と、地方でのLCC定着には時間を要するとの見方だ。ちなみに、OZではBXをLCCではなく、リージョナルエアラインとして位置づけている。


事例紹介:ニュージーランド航空のチャーター便展開−来年度は倍増

 ニュージーランド航空(NZ)日本地区営業本部長の三舩園恵氏によると、2009/10年度に、
地元密着の旅行会社、東京に本社機能を持つ旅行会社など5社の総合仕入れで、名古屋発3便、
沖縄発1便の地方発チャーター便を展開した。この結果を受け、2010/11年度は12月から3月
に札幌、仙台、広島、福岡、熊本、宮崎、鹿児島の7都市を加えて運航。前年にひきつづき継
続する名古屋は倍増の6出発日とした。消費者に受け入れられる適正価格を実現するため、連
続チャーター便の運航はコストを下げる点で大切なポイントだという。

 さらにNZが重視するのは、地域密着の取り組み。特に、地方都市は地域がチャーター便
を持ってくる意識で取り組むことが欠かせない考えといい、地方自治体がプロモーションと
空港運営にかかわり、政府観光局とはプロモーション、受入れ側となるオークランド空港と
はウェルカムイベント準備と、それぞれとの連携したチームワークが必要とした。


3:観光局−航空問題は航空だけでなく、旅行関連全体のバランスを熟慮

 HTAのマッカートニー氏は、日本/ハワイ間の供給座席数が4.3%減の現状を踏まえつつ、地方からのアウトバウンドの活性化に期待、地方の旅行会社と協力していく考えだ。2005年10月の福岡/ホノルル線など地方発ハワイ便の運休で、地方発のハワイ旅行に影響が及んだが、現在は韓国経由での訪問も推進している。

 羽田発ハワイ線については、日本航空(JL)、全日空(NH)、ハワイアン航空(HA)の3社が就航する。このうち日系2社の就航は「ハワイ以外にもデスティネーションは選択できたはず」といい、就航便を維持する協力体制を惜しまないと強調する。チャーター便については修学旅行やスポーツでの利用があり、ホノルルマラソンでは例年、チャーター便が運航されている。ただ、航空会社の現状を鑑みると、効率性の観点は不可欠との視点を忘れず、定期便、チャーター便と協力したいとの考えだ。

 デスティネーションは、移動手段としての足がないと成り立たず、その意味でLCCを含め航空会社の就航は常に歓迎する。ただし、フライト単体だけでなく旅行全体として考えると、旅行に関連するサプライチェーンのバランスが重要で、どのプレイヤーも健全に利益を出すことが理想系だと話す。


事例紹介:JTBの航空座席対応−羽田/ホノルルのチャーター便3割増

 2002年から地方市場が伸びておらず、地方の需要喚起は「ハードルが高い」とジェイティ
ービー航空政策室長の清水直樹氏は認識を示す。一方、オープンスカイや運賃自由化の政策
が打ち出され、今後の動きに着目したいという。

 羽田の地方活用の観点では、羽田/ホノルル間のチャーター便を実施した際に、地方から
の旅行者が3割増になり、一定の需要があるとの見方だ。また、地方都市発のチャーター便
をデスティネーション開発と絡める事例を紹介。クロアチアへの需要が拡大しているが、
「適正価格で適正な時期に供給する」ことが成否を分けるポイントだ。


4:旅行会社−福岡市場は羽田に過度な期待なし
LCCは様子見


 福岡空港の国際線は1990年代に19航空会社が乗り入れ、アジア、ハワイ、欧米、オセアニアと計30路線が就航していた。2001年のテロ以降、市場環境の変化により2003年には撤退の動きが本格化し、現在では14社、18路線に縮小。路線の方面は主に東南アジアだ。こうした状況を打破する旅行会社の需要喚起について、西鉄旅行の横山氏は「1社だけでは限界」との見方を示す。

 羽田の国際化で地方発の需要取り込みに期待が集まるが、福岡発のハワイ行きを例にすると、前後1泊を追加しないと利用できない。このため、価格や内容で他の路線と比べて競争力がない。ただし横山氏は、羽田発着の国際線利用に消極的というよりは条件次第との考えだ。その用件は、九州発羽田経由の国際線座席の供給があるか、という点。仁川経由ハワイ行きの商品造成は韓国の需要動向に左右され、現在は座席確保が厳しい状況にある。今後は欧米への乗り継ぎも難しくなるとの見方だ。このため、羽田はもちろん成田を経由する欧米方面の座席を確保できるか否かが、地方発の需要増加の鍵になりそうだ。

 チャーターに関しては自社単独運航のメリットは大きいものの、リスクも同様に大きい点が課題。運用ではフェリー便を減らし、全体で10本以上の連続的な運航を計画して、ツアーで売りきれない2割から3割の座席が個札対応されれば、旅行会社の負担は軽減されると話す。また、ピーク期はサイパン、グアム便の利用にとどまらず、欧米や北欧などデスティネーション開発は必須との考えだ。こうした積極的な取り組みをする上で、チャーター便の機材が直前になり運航されない場合の課題を指摘し、旅行業法では旅程補償を旅行会社が負うため、積極策に転じる上でのこの課題への対応が必要との認識を示した。