ITソリューション特集:旅行販売の新たな潮流−3社の最新動向

  • 2010年10月20日
 オンライン旅行市場ではITを駆使し、従来の旅行業にないユニークな展開がはじまっている。特にこの数年のオンライン旅行サイトのサービス改善や新たなトレンドを巧みに取り入れた販売手法は、既存の旅行ビジネスとはスピード感が違う。オンラインならではの旅行販売に取り組む旅キャピタル、楽天トラベルと旅行販売への展開に意欲を示すグルーポンの3社に聞いた。
                                                             
                               
1:OEM提供 
他社サイトに販売窓口を拡充−旅キャピタル


 2007年の設立から8月末現在で旅行会社と旅行ポータルの150サイト、旅行業以外の350サイトに航空券や宿泊予約サービスを旅行コンテンツとしてOEM提供し、2011年9月期決算の売上高110億円を見込むまでに成長しているのが旅キャピタルだ。

 OEMとはOriginal Equipment Manufacturerの略で、製品やサービスを提供先のブランド名で生産すること、またはそのような企業のことを指す。旅行業でも従来から、パッケージツアーなどでOEMのビジネスがあった。ただし、旅キャピタルの場合は、自社が運営する国内航空券の「エアーズゲート」「e航空券.com」「旅ツウ」や、海外ホテルの「旅ウェブ」、海外航空券の「CAS Tour」、ハワイ専門「アロハセブン」、インバウンドの宿泊サイト「stayat.jp」などの商材を、提供先サイトのユーザー動向にあわせてカスタマイズし、コンテンツとして提供している。これにより、旅キャピタルとしては提供先の顧客に対して直接の販売窓口を広げることになる。

 同社代表取締役社長の吉村英毅氏は、成長の秘訣を「社内でのシステムとウェブの開発と、クライアントユーザーの利用形態にあわせて作りこんだOEM提供」という。旅行会社には各社が不得意な分野の旅行商材のコンテンツ提供、旅行以外の企業にはサイトのユーザーが望む旅行コンテンツを提供している。たとえば、OEMの提供先である「スカイゲート」は海外旅行に強い。そこに旅キャピタルはOEMで国内航空券と国内旅行を提供する。その際、同サイトは価格に敏感なユーザーの反応が良いので、ボトム価格帯を意識した商品ラインアップを作り上げた。スカイゲートでは学生が帰省に国内航空券を利用する需要があり、提供開始から3年以上で当初の10倍以上の取扱額になったという。

 現在では企業の出張需要に対応し、ポッカコーポレーションや三井生命などのイントラネットにも商品を提供。出張手配では、格安航空券と出張予定の変更にあわせて対応可能な券面を用意する。

 こうしたサービスを提供するにあたり、速いスピードでユーザビリティを改善することは欠かせない。提供先の企業と一緒にユーザーの購買行動や商品提供の導線の改善、提供する商品のラインアップについてブラッシュアップをし、継続的に改良していく。OEM提供先は初期導入や作りこみの費用なしに、小さくビジネスを立ち上げられるうえ、時期や季節によってラインアップを変えることも容易で、利用者を満足させる品ぞろえができる。OEM提供先の商材などで異なるものの、旅キャピタルは売上の一部をレベニューシェアし、OEM提供先の収入増にもつながっている。



2:グルーポン 
口コミ+共同購入で販売効率アップ−「グルーポン・ジャパン」


 今、インターネットで最も期待が高まる販売手法のひとつがグルーポン系サービスのフラッシュマーケティングだ。本家アメリカのグルーポン社が日本の企業クーポッドを買収し、本格的なサービスを開始している。注目は成長性の速さ。同社はアメリカで2008年11月創業、7ヶ月で単月黒字を達成した。さらに、創業からの総売上高10億ドルもわずか2年3ヶ月で達成している。



 グルーポンは「グループ」と「クーポン」を組みあわせた造語。そのビジネスは、グルーポンでチケット購入した個々人がグループになることで一定数の集客が担保され、1つのクーポンよりも高い割引率で販売できるというシンプルなもの。ただし一定数の集客が担保されるよう、購入者がツイッターで他の人に推薦するという口コミの伝播力を基盤に成立するビジネスだ。また、消費者が代金を支払う先は、実際のサービスを提供する店舗ではなく、グルーポンということも特徴。グルーポンは店舗に対して、SNSでの宣伝に貢献できるという優位性があり、店舗には売上のおよそ半分をシェアする。

 アメリカではじまったこのビジネスは新規参入の障壁が低いことから、すでにヨーロッパや中国でも同種のサイトが数百を超えて展開され、日本でもリクルート、食べログのほか、新聞社などが参入している。

 グルーポン・ジャパン執行役員の野田臣吾氏(WEBマーケティング本部長兼事業開発本部長兼WEBプロデュース本部長)は「良いものを50%以上の高い割引率で提供することに気を配っている。内容はプランナーが厳選しており、消費者に『行こう』というきっかけを与えている」とし、「旅行にも応用していきたい」と旅行分野への進出に意欲を示す。なかでも、交通、ホテル、オプショナルツアーなど単品商品の親和性が高いと見ている。たとえば、ホテルの新規オープンにあわせて展開すれば、消費者の口コミが活発になりやすく、商品の良さが伝わりやすい。アメリカでは乗馬体験ツアーやヘリコプターのレッスン体験などの事例があるという。

 グルーポン・ジャパンでは、東京の某ホテルのコース料理を50%超の割引となる5000円のクーポン券を出し、24時間に665人を集客した。ホテルは来店者にサービスを提供し、1人あたり5000円のおよそ50%をグルーポンから受け取る。上記の例では、約160万円が支払われる計算だ。スタッフの賃金や運営コスト、食材の原価コストは必要だが、従来の広告・宣伝費用を店舗側が支払う形から支払われる側に逆転した。あらゆるコストを換算してマイナスになる場合は「広告・宣伝費と比べて、どちらが良いかを提案することも可能だ」と野田氏はいう。

 旅行会社では、宿泊すると109円がもらえると話題になったトクートラベルがすでにグルーポン・ビジネスに参入し、宿泊施設のほか、レストランにも拡大している。野田氏はこうした状況をにらみつつ、グルーポン・ジャパンが日本の主要都市で展開していることを踏まえ、「宿泊機関と運輸を一緒のクーポンとして組み立てることも可能。そうすれば、地域にユーザーが足を運ぶきっかけになる」といい、地方公共団体や観光局などを巻き込んで地域活性化をフックにしたビジネス展開もできると考えている。


3:ツイッター
毎日5万人とのコミュニケーション機会を創出−「楽天トラベル」


 すでに、消費者とのコミュニケーションツールとして、多くの旅行会社が導入しているツイッター。140文字と限られたことばで綴ることから「ミニブログ」ともいわれるこのサービスを、旅行業界で早くから取り入れたのが楽天トラベルだ。同社は2009年8月から開始し、つぶやきを見るフォロワー数は現在、5万人を超えている。ちなみに、楽天トラベルの5人のつぶやき担当者は「つぶやき娯レンジャー」というユニークな名称だ。

 楽天トラベルマーケティング部部長の高野芳行氏によると、日本で広まる前からツイッターを利用していた社員がおり、現場からの提案ではじまった。同社はインターネットでの販売のため顧客と直接の接点が少ないため、ツイッターを利用してその機会を増やし、ブランド認識を高めることを目的としている。

 つぶやきは曜日や時間ごとのテーマをタイムスケジュールで発表。毎日10時には「本日の先だし情報」として、本サイトでの露出よりも早く情報を提供するなど、フォロワーへの特典も設けている。また、つぶやきの運営には楽天トラベル内でレギュレーションを設定しているが、その時期に応じた効果的な案を採用して幅広い活動ができるよう、心がけている。たとえば、羽田空港の新国際線ターミナルが公開された際に、動画サイトのユーストリームを利用して実況中継を行ない、ツイッターでつぶやくという、新しい試みを取り入れた。新企画はミーティングで問題点や課題をあげて改善し、少しずつコミュニケーションの基盤を強固にしている。

 また、自社にマイナスなつぶやきがないか、ウォッチしている。特に、自社のサービスの批判や苦情などのマイナスなコメントには大きな関心が集まる傾向がある。しかし、高野氏は「マイナスの情報にも誠実な対応をすれば、ユーザーに理解していただける」という。これは、ネット用語でいわゆる「炎上」といわれる、マイナス情報の独り歩きを防ぐリスク管理にもなっている。

 ツイッター導入による、販売促進への明確な実績が気になるところだが、現在は5万人のユーザーがフォロー、つまりサービスを認識する機会や評価する人が毎日5万人あり、そらの動きを可視化できるようになった。同社は今後、ユーザーとのコミュニケーションを主眼に運用し、フォロワーを増やすだけでなく、5万人を超えるユーザーの要望を種類別にアカウントを複数化することを考えているという。こうした取り組みで、ユーザーが楽天トラベルに絡みやすいコミュニケーション体制を深めていく考えだ。

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 3社の事例としてOEM提供による販売窓口の拡大、共同購入による消費者の購買喚起、ツイッターによる消費者対応と、それぞれ異なる取り組みを紹介した。ただし、いずれも共通するのは、インターネットがさまざまな場所にリンクを貼ることができ、その情報を自由に往来できる特徴をいかして、他社の力も上手に活用してビジネスを展開している点だ。ITは販売促進、顧客満足度の向上、マーケティングなど、目的や課題解決にあわせ、消費者やBtoBなどパートナーとともに効果的な使い方ができることが、今回の事例からうかがえるだろう。