取材ノート:市場拡大の鍵、客船誘致のポイント−クルーズシンポジウム(1)
今年で5回目となる「ジャパン・クルーズ・シンポジウム」。今回の開催地、福岡は韓国・釜山との定期航路を持ち、さらに中国発定点クルーズの外航客船が来港する、日本でも有数の海のゲートウェイだ。インバウンドで中国人観光客の経済効果が見えつつあるが、今後、さらに市場を拡大するには日本発アウトバウンドも重要性が高いことが関係者の認識であることが再確認された。第1回はクルーズ船社の配船を決定するメカニズム、第2回は日本のアウトバウンド・クルーズ市場活性化の鍵について2回にわたり、同シンポジウムの議論をまとめた。
クルーズ船社の配船の決め手
この数年で中国人のクルーズ市場が拡大し、日本では特に九州への寄港が増加している。これは上海や北京の都市住民をターゲットにした韓国、日本を訪れるクルーズが増えたため。福岡に寄港する外航客船に限っても2010年は66隻の予定で、2008年の23隻以来増加している。日本市場は、スタークルーズが福岡を拠点に配船した2000年にクルーズ人口21万5900人、外航クルーズに限ると13万500人という最高値を記録したが、それ以降この数値を上回ることができない。
クルーズ人口の増加、市場拡大には、日本への配船を増やすことが必要だ。その点では、日本を定点クルーズのルートに組み込んでもらうのが早い。ただし、配船に際してクルーズ船社は「双方の利益」が重要という。
ロイヤル・カリビアン・クルーズ(RCI)国際営業部長のラマ・レバプラガダ氏は「ある特定の地域へ配船するには相応の理由が必要。日本への配船を実現するにはパートナーシップと相互の利益を考えないと難しい」という。この考えを補足したのがスタークルーズ日本オフィス代表の荒木辰道氏。「寄港地での一人の消費額が200米ドルから300米ドル。これが500人から1000人単位のクルーズ客船の場合、観光に限らず各種産業へ波及する。市全体の収入として考えると、その収入を原資にポート・チャージの割引が考えられないか」と、誘致側に踏み込む。
コスタクルーズ・アジア太平洋地区最高責任者のダリオ・ルスティコ氏は、ヨーロッパで成功を収めたモデルを日本、中国、韓国で見出している。「バルセロナ、ローマ、マルタとスペイン、イタリア、フランスを市場としてヨーロッパで集客に成功した。日本、中国、韓国も戦略的に重要であり、この地域のクルーズ人口の飛躍的な増加が望まれる」と語る。ルスティコ氏をはじめ、日中韓を「ゴールデン・トライアングル」と語るクルーズ船社も多く、この地域の人たちが相互に往来回数を増やすことへの期待は高い。
つまり、クルーズ客船誘致では、インバウンドの一方向のベクトルだけではなく、アウトバウンドも一対として考えなければ、長期的な誘致やクルーズ船社の魅力は欠ける。ポート・チャージの割引など収益に結びつくインセンティブと同時に、需要を作り出す力が無ければ、継続的な寄港には結びつかないのだ。
収益は重要だが受入れのバリエーションを多様に
ただし、ポート・チャージは「世界と比較した場合、日本の港のコストはそう高くはない」とホーランド・アメリカ・ライン配船・航程計画担当ディレクターのサイモン・ドューウェス氏はいう。だが、このところの円高基調で「円の価値は数年前と比べて上昇しており、コストを下げるための努力はしていく」とプリンセス・クルーズのショアオペレーション担当副社長ブルース・クルムリン氏は指摘する。「船は収益を見ながら移動が可能」(ルスティコ氏)という言葉が端的だが、コストがあわなければ配船そのものを見直す可能性があるため、為替などの変動的な要素は考慮に入れつつも、変動要素を補ってあまりある要素をアピールしていかなければならない。それが寄港地での集客に加え、受入れの整備、および受入れ地でのエンターテイメントの多様化だ。
福岡市はこうした要望に対する取り組みを進めている。博多港は釜山との間に定期旅客航路があることからCIQが常駐しているうえ、釜山以外にも済州島、上海をはじめ、大連、青島、天津といったインバウンドの主要客を送り出す都市にも海路で近い。出入国の体制整備、地理的優位性のメリットを活かしつつ、さらに強固にしたい考えだ。福岡市港湾局局長の池田薫氏は「朝に福岡に到着し、大宰府での観光、ランチを経て天神でショッピングという行動パターンが定番化しつつあり、これにメニューを加えていくことが課題」と多様化の必要性への認識を示し、具体的な行動に入る段階にあることを明かした。
メニューの多様化をはかる促進剤と期待するのが、2011年3月に全線開通となる九州新幹線だ。博多駅から鹿児島中央駅を約1時間20分で結び、沿線となる熊本市を含め、観光客の短時間での移動範囲が大きく広がるようになる。九州の各地域と新幹線を活用して、クルーズ客に対するエクスカーションの多様化、特にデスティネーションの拡大は来年には実現するだろう。
また、先ごろ九州観光推進機構は国が規制緩和や税制上の特例措置を適用する「総合特区」構想で、九州アジア観光戦略特区を申請する考えを表明しており、官民一体となった後押しがはかられている。この30項目の構想では、クルーズ船乗り入れ増加のため日本領海での船上カジノを許可することも含まれている。九州への洋上から陸上までクルーズ客船を楽しむメニューの多様化をはかるねらいがある。
中国市場、欧米市場との違いと誘客の鍵
上海錦江旅游有限公司出境旅游中心副総経理の楊東氏は中国人のクルーズ人口の急増について「5年前は受入れのみ。それ以降、中国人のクルーズ客はほぼゼロから25万人にまで増加した。ただし、欧米と異なり、中国では船はあくまで『交通機関』と捉えられている。目的地のプライオリティが高く、その知名度が高くなければ購入につながらない」という。「1に宣伝、2に宣伝、3に宣伝」とまで表現し、日本が受入れを増やすことを望むならば、今以上のピーアール活動が必須との考えだ。
旅客については、「80%は若い世代で、40代が過半数を占めている。若い人の好みにあわせ、満足させる知恵を絞ってほしい」と話す。また予約時期も中国では1ヶ月から2週間前までが多いため、直前までピーアール活動を展開すると効果的だという。クルーズ船社には、「ショッピングの時間はできるだけ多くとってほしい」と述べ、飛行機の旅行と異なり、重量制限がない点がショッピングの魅力を高める要素で、現在の需要を獲得している要因だと語る。
ただし、中国のクルーズ市場では短距離、短時間で旅行ができる日・韓クルーズ以外もすでに芽を出している。特に高級クルーズを目的に、アラスカや欧州へのフライ&クルーズ市場が一定の規模になり、デスティネーションの多様化も進んでいるという。このため、こうした経験を積んだリピーター層にも対処できるよう、日本の文化や歴史を説明する優秀なガイドが求められるとも強調。「20名のうち、1名から2名しか適切なガイドがおらず、養成を急いでほしい」と要望する。クルーズだけに限った問題ではないが、日本側は今後、引き続き宣伝・誘客、受入れ地の多様化、ソフトの充実に向けた活動が不可欠だ。
クルーズ船社の配船の決め手
この数年で中国人のクルーズ市場が拡大し、日本では特に九州への寄港が増加している。これは上海や北京の都市住民をターゲットにした韓国、日本を訪れるクルーズが増えたため。福岡に寄港する外航客船に限っても2010年は66隻の予定で、2008年の23隻以来増加している。日本市場は、スタークルーズが福岡を拠点に配船した2000年にクルーズ人口21万5900人、外航クルーズに限ると13万500人という最高値を記録したが、それ以降この数値を上回ることができない。
クルーズ人口の増加、市場拡大には、日本への配船を増やすことが必要だ。その点では、日本を定点クルーズのルートに組み込んでもらうのが早い。ただし、配船に際してクルーズ船社は「双方の利益」が重要という。
ロイヤル・カリビアン・クルーズ(RCI)国際営業部長のラマ・レバプラガダ氏は「ある特定の地域へ配船するには相応の理由が必要。日本への配船を実現するにはパートナーシップと相互の利益を考えないと難しい」という。この考えを補足したのがスタークルーズ日本オフィス代表の荒木辰道氏。「寄港地での一人の消費額が200米ドルから300米ドル。これが500人から1000人単位のクルーズ客船の場合、観光に限らず各種産業へ波及する。市全体の収入として考えると、その収入を原資にポート・チャージの割引が考えられないか」と、誘致側に踏み込む。
コスタクルーズ・アジア太平洋地区最高責任者のダリオ・ルスティコ氏は、ヨーロッパで成功を収めたモデルを日本、中国、韓国で見出している。「バルセロナ、ローマ、マルタとスペイン、イタリア、フランスを市場としてヨーロッパで集客に成功した。日本、中国、韓国も戦略的に重要であり、この地域のクルーズ人口の飛躍的な増加が望まれる」と語る。ルスティコ氏をはじめ、日中韓を「ゴールデン・トライアングル」と語るクルーズ船社も多く、この地域の人たちが相互に往来回数を増やすことへの期待は高い。
つまり、クルーズ客船誘致では、インバウンドの一方向のベクトルだけではなく、アウトバウンドも一対として考えなければ、長期的な誘致やクルーズ船社の魅力は欠ける。ポート・チャージの割引など収益に結びつくインセンティブと同時に、需要を作り出す力が無ければ、継続的な寄港には結びつかないのだ。
収益は重要だが受入れのバリエーションを多様に
ただし、ポート・チャージは「世界と比較した場合、日本の港のコストはそう高くはない」とホーランド・アメリカ・ライン配船・航程計画担当ディレクターのサイモン・ドューウェス氏はいう。だが、このところの円高基調で「円の価値は数年前と比べて上昇しており、コストを下げるための努力はしていく」とプリンセス・クルーズのショアオペレーション担当副社長ブルース・クルムリン氏は指摘する。「船は収益を見ながら移動が可能」(ルスティコ氏)という言葉が端的だが、コストがあわなければ配船そのものを見直す可能性があるため、為替などの変動的な要素は考慮に入れつつも、変動要素を補ってあまりある要素をアピールしていかなければならない。それが寄港地での集客に加え、受入れの整備、および受入れ地でのエンターテイメントの多様化だ。
福岡市はこうした要望に対する取り組みを進めている。博多港は釜山との間に定期旅客航路があることからCIQが常駐しているうえ、釜山以外にも済州島、上海をはじめ、大連、青島、天津といったインバウンドの主要客を送り出す都市にも海路で近い。出入国の体制整備、地理的優位性のメリットを活かしつつ、さらに強固にしたい考えだ。福岡市港湾局局長の池田薫氏は「朝に福岡に到着し、大宰府での観光、ランチを経て天神でショッピングという行動パターンが定番化しつつあり、これにメニューを加えていくことが課題」と多様化の必要性への認識を示し、具体的な行動に入る段階にあることを明かした。
メニューの多様化をはかる促進剤と期待するのが、2011年3月に全線開通となる九州新幹線だ。博多駅から鹿児島中央駅を約1時間20分で結び、沿線となる熊本市を含め、観光客の短時間での移動範囲が大きく広がるようになる。九州の各地域と新幹線を活用して、クルーズ客に対するエクスカーションの多様化、特にデスティネーションの拡大は来年には実現するだろう。
また、先ごろ九州観光推進機構は国が規制緩和や税制上の特例措置を適用する「総合特区」構想で、九州アジア観光戦略特区を申請する考えを表明しており、官民一体となった後押しがはかられている。この30項目の構想では、クルーズ船乗り入れ増加のため日本領海での船上カジノを許可することも含まれている。九州への洋上から陸上までクルーズ客船を楽しむメニューの多様化をはかるねらいがある。
中国市場、欧米市場との違いと誘客の鍵
上海錦江旅游有限公司出境旅游中心副総経理の楊東氏は中国人のクルーズ人口の急増について「5年前は受入れのみ。それ以降、中国人のクルーズ客はほぼゼロから25万人にまで増加した。ただし、欧米と異なり、中国では船はあくまで『交通機関』と捉えられている。目的地のプライオリティが高く、その知名度が高くなければ購入につながらない」という。「1に宣伝、2に宣伝、3に宣伝」とまで表現し、日本が受入れを増やすことを望むならば、今以上のピーアール活動が必須との考えだ。
旅客については、「80%は若い世代で、40代が過半数を占めている。若い人の好みにあわせ、満足させる知恵を絞ってほしい」と話す。また予約時期も中国では1ヶ月から2週間前までが多いため、直前までピーアール活動を展開すると効果的だという。クルーズ船社には、「ショッピングの時間はできるだけ多くとってほしい」と述べ、飛行機の旅行と異なり、重量制限がない点がショッピングの魅力を高める要素で、現在の需要を獲得している要因だと語る。
ただし、中国のクルーズ市場では短距離、短時間で旅行ができる日・韓クルーズ以外もすでに芽を出している。特に高級クルーズを目的に、アラスカや欧州へのフライ&クルーズ市場が一定の規模になり、デスティネーションの多様化も進んでいるという。このため、こうした経験を積んだリピーター層にも対処できるよう、日本の文化や歴史を説明する優秀なガイドが求められるとも強調。「20名のうち、1名から2名しか適切なガイドがおらず、養成を急いでほしい」と要望する。クルーズだけに限った問題ではないが、日本側は今後、引き続き宣伝・誘客、受入れ地の多様化、ソフトの充実に向けた活動が不可欠だ。