現地レポート:トルコ、エーゲ海と遺跡で訪ねるイズミール地方

  • 2010年9月10日
未踏のデスティネーション開発に向けて
エーゲ海と遺跡で訪ねるトルコ・イズミール


 イスタンブールから空路約1時間、イズミールは国内第3の工業貿易都市で、日本における名古屋をイメージさせる。トルコ周遊の定番である一国完結型ツアーでは、全土を時計回りに巡る際の初訪問地に選ばれ、中継点という印象も強い。しかし、エーゲ海沿岸に位置するイズミールとその周辺は、地理的要衝にあるため歴史遺産に恵まれ、かつ欧州人のバカンス先として賑わいをみせる。日本での「エーゲ海」はギリシャ特有の観光資源を連想させるが、トルコ側のエーゲ海観光は未開拓のままだ。イズミールのデスティネーション開発に、今後の可能性を探った。
                           
                    
MICEから個人旅行まで
素材価値の高いイズミールと周辺エリア


 イズミールは過去の大戦で壊滅的ダメージを受けるも、戦後はイズミール湾から放射線状に街区が開かれ整備が進んだ。現在、コナック広場にある時計台が街のシンボルだが、周辺は観光俗化しておらず穏やかな雰囲気で、街歩きにも最適な規模だ。最初に街が造られたのは紀元前3000年頃、トロイとならぶ先進的文化都市だった。1415年、オスマン帝国領となり、時計台はその末期に建てられた。

 日本発着ツアーの多くは、5ツ星の「ヒルトン・イズミル」か「スイソテル・グランド・エフェス」を利用する。特に老舗ホテルが前身の後者は、国際会議場「グランド・エフェス・コンベンションセンター」を併設しているため、欧州を中心にMICEの利用も多い。

 イズミールがMICE候補地に選ばれる理由は、(1)欧州本土に比べコスト安であること、(2)目の肥えたオーガナイザーにもまだ知られていない地であること、(3)周辺エクスカーションに海・陸の立体性をもたせられることの3点があげられる。近年では日本の大手企業も、スイソテル・グランド・エフェスと国際会議場をMICEで利用した。

 特筆すべきは、イズミールの近郊にある古代遺産エフェシスとエーゲ海リゾートの街、チェシメだ。いずれも磨けば光る観光素材としてその価値は抜群だが、日本ではあまり知られていない。これらを商品に組み込むためには、イズミールをワンストップではなく連泊拠点にすることが鍵になる。


今こそ一見の価値があるエフェソス遺跡
イズミールから日帰りも可能


 イズミール近郊にある古代遺産エフェソスは、アテネやローマとは比較にならないほど規模が大きく、保存状態も良好だ。客船クルーズのエクスカーションをはじめ、ツアー客や個人旅行者など多くの国際観光客が訪れる。ユネスコ世界遺産の暫定リストに載るも登録には至らず、そのせいか日本人観光客はまばらだ。しかし「登録前の今こそ一見の価値有り」と世界中が注目する。

 その昔、エーゲ海の中心港湾都市として繁栄したエフェソスは、女神アルテミスを祀る神殿が「古代における世界の七不思議」にあげられている。巨大遺跡群はとにかく圧巻で、壮麗なケルスス図書館や2万5000人が収容可能な古代劇場など、どれをとっても神秘的だ。遺跡の集積度が高いため、ガイド付きで2時間以上の余裕をもって歩きたい。

 ちなみに現在も、エフェソスの語源である「エフェス(Efes)」の名はさまざまなところで使われる。最も有名なトルコのビールのブランドも「エフェス」だ。

 エフェソス遺跡はイズミール国際空港から74キロメートル離れた場所にあり、高速道路を利用して車で約1時間。タクシー料金は140トルコリラ(約8400円)程度で、イズミール市街から日帰り観光も可能だ。


エーゲ海リゾート、チェシメで
ヨーロピアン・バカンスを


 欧州のバカンスシーズンに賑わいをみせるのが、エーゲ海沿岸のリゾートタウン・チェシメだ。このあたりは、すぐ近くの島がギリシャ領で目視できるほどの距離にあるが、欧州サイドより物価的にリーズナブルでかつ自然環境が極めてよい。リゾートの穴場として休暇に入ったヨーロピアンが海水浴目的に訪れる。

 チェシメの中心街は小さい城塞が残るだけ。周辺のローカルホテルの多くは、もとがキャラバンサライ(シルクロードの交易商人が滞在した宿)で規模も小さい。ただし、海岸線には見晴らしの良いカフェ・レストランが軒を連ね、ランチョン・ブレイクに最適だ。貿易港であるイズミールに海水浴場はないため、チェシメ周辺に点在するビーチに向かうのが欧州人バカンス客の常道。しかしチェシメの日本語情報は極めて少なく、特に周辺情報に乏しい。

 チェシメの周辺、入り江に点在する海水浴場は洗練されており、観光素材としては充分な価値がある。海岸線沿いには豪邸(別荘)が建ち並び、リゾート開発初期のオアフ島を思わせる。その一角に「シェラトン・チェシメホテル・リゾート&スパ」があるが、ほかに大手外資の姿はない。従順なイスラム教徒を知らせる赤地に月星のトルコ国旗が欧風なビーチに並んではためく光景は、異国の果てを思わせる。

 また、アヤヨルギ湾に点在するローカルビーチは、日本の海の家のようにビーチマットを少定額制で利用でき、家族連れの西欧人で賑わう。エーゲ海は船上から眺めるだけのものでなく、実際に泳いで水とたわむれるものなのだと知らされる。そこにトルコ・エーゲ海沿岸の人気の源がある。

 なお、チェシメから内陸に戻る途中にあるアラチャトの街は、新興の街区があって夕食に最適なレストランや宿泊可能なホテルがよい風情をかもし出している。食のレベルは高く、値段は安い。


取材協力:トルコ航空(TK)
取材:千葉千枝子(観光ジャーナリスト・東京成徳短大講師)