トップインタビュー:シンガポール航空日本支社長キャンベル・ウィルソン氏

  • 2010年8月10日
羽田線就航で東京に1日4便
供給過多の懸念一蹴、質の高いプロダクトやサービスで需要取り込みへ



 機内設備や接客サービスへの評価から、今年の「エアライン満足度調査」(エイビーロード・リサーチ・センター)で3年連続の総合1位にランクインしたシンガポール航空(SQ)。日本市場での高い支持を背景に、今年10月末の冬期スケジュールからは羽田空港に1日2便就航、関西線も週3便増と、さらなる拡大を見せる。3月にシンガポール航空日本支社長に就任したキャンベル・ウィルソン氏に、今後の戦略を語ってもらった。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)


−日本支社長就任の抱負をお聞かせください

キャンベル・ウィルソン氏(以下、敬称略) 私はこれまでニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、カナダ、香港、中国、イギリスなど、さまざまな国に住み、さまざまな人々と一緒に仕事をしてきた。高校生時代には、日本でも暮らしたことがある。今回の着任にあたり、洋の東西を問わず多様なビジネスパートナーと接してきた経歴や、過去に日本で暮らした経験が役立つことと思う。スタッフの貢献やパートナーの協力があり、幸い日本ではプレミア・エアラインとしてすでに確実な地位を築いている。私の着任中にこれをさらに強めていきたい。

 最初の3ヶ月は昨年のダメージの回復に集中した。今年は目標を高めに設定しているが、今年4月から6月は達成できている。現在、ビジネス渡航、団体渡航ともに回復を見せているし、レジャー需要は非常に好調。経済状況の改善や近年のシンガポールにおける総合リゾート開発といった要因が重なり、渡航者の増加につながっている。下期はかなり明るい見通しだ。


−10月からは羽田空港から新路線の就航と関西線も増便を予定されています。他航空会社との競争が激化する状況での戦略はどのように考えられていますか

ウィルソン 当社の戦略は常に座席供給量と需要のバランスをとることにある。羽田線、関西線ともに、供給量に対して充分な利用があると自信を持っている。さらに長期的な戦略としては、機材や機内設備の改善を続けている。2007年には成田線へA380型機の導入を開始し、それ以降も関空、中部、福岡線に新機材とシートを投入している。成田と羽田も含め、日本路線のエコノミークラス、ビジネスクラスはA380型機と同じシートだ。

 A380型機は導入以来、顧客から非常に良い反響を得ている。反響には2種類あり、ひとつは機材に対するもの。しかし主な反響は、新しいシートやエンターテイメントといった機内設備に対して寄せられている。当社は常に機内設備への投資に努めており、A380型機の導入もその戦略の延長上にある。こういった一連の改善策も、今回の「エアライン満足度調査2010」での評価に結びついたといえるだろう。


−羽田線を開設しても成田線の減便はしない考えとのことですが、東京発着路線の戦略を教えてください

ウィルソン 羽田線はまったく新しい市場。成田線は現在、午前11時30に出発してシンガポールに午後7時に到着するスケジュールだが、羽田の早朝便は午前6時台に出発し、シンガポールには昼ごろに到着する。半日を観光に使うことができるため、パッケージツアー客にも適した運航スケジュールだ。また、深夜便は仕事を終えてから空港に向かい、寝ている間にシンガポールへ飛ぶことができる。シンガポール以遠のオーストラリア、ニュージーランド、バリなどへ午前中の乗り継ぎも可能だ。東京発着の座席供給量は増えたが、乗り継ぎの利便性向上、新たな機内設備など、増加分を埋められると自信を持つ根拠は十分にある。

 東京は東京としてひと括りで考えており、成田と羽田で戦略に違いはない。東京からの4便のフライトは、それぞれ発着時刻や乗り継ぎがまったく異なる。たとえば、羽田を夜中に出発してシンガポールに早朝到着する便は、午前出発の東南アジア路線にすぐ乗り継ぐことができる。午前11時30分に出発して午後5時40分に到着する成田線は、ヨーロッパ路線への乗り継ぎが良い。また、シンガポールから羽田へ午後3時40分に出発する便は、観光客にとって理想的といえる。各路線にそれぞれの長所がある。成田、羽田線は、往復をどちらかの空港に変えることもできる。羽田線のプロモーション運賃を除いて、基本的に航空運賃は同じ。需要動向に応じて今後、より安い運賃を提供できる便が決まるだろう。


−東南アジアではLCCが台頭していますが、今後日本でも競争が本格化しそうな予感があります。日本路線でのLCCとの競争についてお聞かせください

ウィルソン 競争は歓迎する。業界にとっても、消費者にとっても良いものだ。東南アジアではたしかにLCCが台頭しているものの、当社はこの何年にも渡る激しい競争のなかでも成功してきており、世界的に価値の高い航空会社だという自負がある。また、客層が異なるためLCCとは競合しないと考えている。SQで渡航したいという人は、良いサービス、素晴らしい機内設備、高い価値を求めている。ある人は良いサービスを求め、ある人は安い価格を求める。2つは異なった市場だ。消費者は彼らの判断で選ぶことができる。

 なお、「ローコスト」のコストは航空会社のコストを意味しており、必ずしも旅客のコストを意味するわけではない。旅客がフルサービスキャリアと同程度、あるいはそれ以上の運賃を支払っているケースも往々にしてあるのではないかと思う。


−3月のご着任当初、旅行業界との関係強化を強調されていましたが、ゼロコミッション時代において旅行会社とはどのような関係を望んでいますか

ウィルソン これまでどおり良好な関係を保ち続けたい。ゼロコミッション政策は、航空会社が旅行会社と張りあおうというものではない。コミッションの固定化は、何千ものチケットを販売しようと努力してくれる旅行会社と、そのほかの旅行会社の扱いが同等になるという問題があった。ゼロコミッションへの移行は、より継続的に協力してくれる旅行会社が、より大きな対価を得られるという公平性を軸にした構造になると認識している。

 また、旅行は多くの場合、感情の体験だ。「人」は旅行に必須の要素であり、出発までの期間には旅行会社こそ人との触れあいの場となる。旅行会社への需要は今後もあり続けるだろう。

 特に日本はサービスを重視する文化がある。確かにインターネット市場が増大していることも事実だが、オンラインサービスと専門的なスキルを持った人間による対応は、どちらも必要なものだ。旅行会社は、能力や知識にプライドを持って接客してほしい。旅行会社で自分の渡航の目的に沿った希望をすべて叶えてもらえるならば、ほとんどの顧客はその専門性に喜んで対価を支払うだろう。

―ありがとうございました


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