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「休暇分散化」に期待と不安(2) 旅館ホテルも賛否両論

 休暇分散化は観光業界、地域に大きな影響を与えるだけに、業界は敏感に反応している。国際観光旅館連盟(佐藤義正会長)はこのほど、会員旅館に休暇分散化に対するアンケートを実施した。その結果、賛成意見と反対意見が拮抗。「期待はあるけど不安も大きい」という旅館ホテルの声が、この問題の難しさを物語っている。


国観連がアンケート 混雑イメージ払しょく期待

 休暇分散化の是非について、有効アンケート数422のうち、「賛成」は126票、「反対」は184票。反対が賛成を上回ったが、その差は大きくない。さらに「どちらとも言えない」が112票だったように、地域や旅館によって事情が異なることもあり、判断がつきかねるというのが現状のようだ。

 賛成の理由は、「観光地の混雑や道路渋滞の緩和」が105票でトップ。国内旅行活性化の妨げになっている「連休=混雑・渋滞」のイメージを払しょくすることへの期待が大きい。次いで、「遠隔地観光が容易になり、国内観光の需要増」77票、「旅行先の選択肢が広がる」36票、「地域内交流が盛んになり、地域意識が醸成」21票。

 賛成派からは「なにより国内観光需要増につながる」「客室需要の平準化で、満室で断るケースが減り、まんべんなく集客できる」という意見が主流。

 「新しい試みを行うことで別の流れを作り、現状を変化させたい」「旅行に出かける心の余裕を持つ国に」「不況対策として必要」など大局的な視点で国家レベルの取り組みを歓迎する声も目立ち、「やってみる価値はある。試験的に実施してみたらいい」と肯定的に捉える旅館も多い。


地域間競争の激化懸念も

 一方、反対の理由は「地域間競争が一層激化し今以上に有名観光地に観光客が集中する」94票が1位に。以下、「有給休暇取得の促進が先決」74票、「地域固有の伝統的な祭事の開催日が固定されている」72票、「海外旅行の増加を懸念」45票となった。

 反対派からはそのほか、「全国一律の休日でないと地域間や、全国に散在する家族や友人との交流ができない」「旅行市場が混乱する」「休前日料金が曖昧になるほか単価低下も懸念」「全国から観光客が訪れる観光地と、周辺など一部の地域を対象とした観光地ではメリットの差が大きい」など多様な意見が。「日本の企業風土、東京に集中する経済環境を考えると効率的なシステムを実現できると思えない」と実現性を心配する声や、「各旅館団体の考えを主張する場を設けてほしい」という主張もあった。

 「どちらとも言えない」と回答した旅館は「予測できない部分が多い」「分散化の方法次第」「徹底的な議論が必要で、不具合は修正・改善する柔軟さが必要」「高速1千円で痛い目にあったので簡単には賛同できない」と慎重な意見。

 賛否を問わず目立ったのは、反対の1位となった「地域間競争の激化」による観光地の淘汰を心配する声。加えて「地域内競争も激化し、結局価格競争が加速する」や、賛成派からも「高稼働の旅館は取りこぼしが減る反面、混雑する大手旅館から小規模旅館へという客の流れがなくなり、小規模旅館は衰退する」など特定旅館への一極集中も危惧されている。

 また、現行案に問題があるとする意見としては、関東、近畿など同じ地域を同一ブロック化することへの疑問が多い。「特に大都市圏内を分散しないと結局一極集中のまま」。

 また、祝日を移動させることについて「記念日の意義が薄れ、日本の伝統を滅ぼす。歴史と伝統を重んじることが条件」「歴史ある祭事はどうなるのか」など、日本の伝統文化の1つである旅館として、日本固有の文化への配慮を求める声が目立った。

 ただ、休暇のあり方について検討すること自体は賛成、反対に関わらず関心が高く、「長期休暇より、各月に連休を創設したり、3連休を増やしたほうが需要増につながる」「何よりも有給休暇の取得促進に対する施策が必要」「企業の都合や修学旅行への対応を」「全国統一の休みを増やすほうがいい」など様々な提案が寄せられた。

 このように旅館ホテル業界だけでも意見は百出。観光庁・政府は、観光業界はもちろん、関係各所から広く意見を求め、集約した上で議論を深めることが求められる。


休暇分散化とは

 大型連休を地域ごとに分散させることで観光需要の拡大をはじめ観光産業に様々な効果をもたらす施策として、政府の観光立国推進本部が設置している省庁横断型のワーキングチームが検討を進めている。

 現行案では、春のゴールデンウイークと秋に、一部の「国民の祝日」を全国5地区ごとに分散させて大型連休を創出。地区別に連休を取得することで需要の平準化を図る。観光地の生産性向上や雇用の安定化、国民の生活面にも好影響が見込まれ、大規模な休暇改革として注目を集めている。

 ただ、観光だけでなく企業や教育など影響を与える分野は大きく、慎重な意見が根強い。観光庁は説明会や実証実験を行い、広く理解を求めていく。

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情報提供:トラベルニュース社