トップインタビュー:全日本空輸 代表取締役社長 伊東信一郎氏
日本航空の撤退路線に興味なし
羽田便はできるだけ多く飛ばす
羽田の本格国際化で注目される冬ダイヤの申請時期が迫るなか、全日本空輸(全日空:NH)代表取締役社長の伊東信一郎氏が、インタビューに応じた。NHは10月末の羽田増便に先駆け、7月1日に成田/ミュンヘンの直行便を就航し、先日スターアライアンスに加盟したブラジルTAM航空(JJ)とのコードシェア運航も予定している。いよいよ日本を代表するエアラインとして飛躍が期待される同社のトップに、市場に対する認識と今後の方針を聞いた。
−国土交通省の成長戦略会議で航空分野の政策案が取りまとめられているが、航空行政に対する要望は
伊東信一郎氏(以下、敬称略) 当社がずいぶん昔から主張してきたオープンスカイや羽田の内際ハブ化などが重点項目に盛り込まれ、考えの方向性が一致しており、大枠は良い方向にあると認識している。ただ、日本の航空会社の国際競争力を強固にしていくために公租公課については働きかけが必要だろう。特に日本特有といえる航空燃料課税はその核心であり、これはぜひとも撤廃してほしいと思っている。
−成長戦略会議で、2011年度中に羽田発着枠の新しい配分方法を確立するように提言されているが
伊東 羽田の国際線枠が9万回になったことは一歩前進したといえる。当初昼間の枠は3万回とされたのが6万回になったのも進歩していると思う。とはいえ、まだまだ需要はあり、もっと増やしていい。もともと飛んでいる便もあるから利用者もそれほど増えたとは感じないだろう。一方の成田の枠が増える方向性にあることにも異議はない。要は使い方の問題だ。
−全日空にとって、成田と羽田の位置づけとは
伊東 先日発表した「首都圏デュアル・ハブ」モデルの構築が基本的な考え方。一概にはいえないが、現況を見ると羽田は近距離路アジアへの直行便が中心で、成田は欧米路線やアジアへの乗り継ぎ需要がかなりの比重を占めている。
−日本航空が撤退するアムステルダムやローマ、デンパサール、コナ、ブリスベン線などに就航する可能性は
伊東 まったく関心がない。太平洋線でいえば、今後はATI(独占禁止法適用除外)のもとでのマーケティングとなる。コンチネンタル航空(CO)、ユナイテッド航空(UA)とあわせ3社で最もレベニューが増えるデスティネーションを選択するため、従来とは違った観点で路線展開をしていくことになる。太平洋線のATI承認は10月を想定はしているが、確実なところは分からない。
−羽田本格国際化後の展開方針は
伊東 日本と中国間の航空交渉が進んでいないため、現在、台北線の就航と香港線を昼の時間帯に移すことくらいしか決まっていない。羽田の国際化とはいっても、昼便が3万回から6万回になるだけで、そのボリュームは日本発着の航空便数に占める割合でいえば、かなり小さい。深夜・早朝便については需要が先にあるのか、供給することで需要が生まれるのか、“鶏と卵”のようなもので就航してみなければ何ともいえない。
−具体的なスケジュールはいつ頃発表の予定か
伊東 冬ダイヤの策定基準にあわせて5月中にはしっかり決めたい。いくつか候補地はあがっており、夜の時間帯にもできるだけ飛ばしたいと考えている。
−国際航空運送協会(IATA)が求める航空会社への外資規制緩和についてはどう思うか
伊東 デリケートな問題だが、中長期的に見れば、資本規制のない時代が来ると考えることだ。航空業界は激動の只中にあり、デルタ航空(DL)とノースウエスト航空(NW)、COとUAなどと合併が相次ぎ、ヨーロッパでも連合化が進んでいる。そういう流れからも、オープンスカイは行くところまで行くと考えないといけない。
ただ、外資に吸収されるというのとは反対に、我々にとってチャンスでもある。本当に強い航空会社になるのであれば、いつまでも規制があることを前提にはしていられない。航空会社のビジネス自体が大きく変わっており、一国だけに留まっている時代ではない。特に日本はそうであり、アジアの成長マーケットでどうやって存在感を出していくか。そういうことを見据えて体力をつけないと厳しくなる。
−グローバル化の時代であり、日本人客ばかり相手にしていくわけにもいかない
伊東 日本人客の比率を下げていく努力が必要。というより、実際に日本の人口は減っていくから、アジアを中心とする外国人の顧客をどう掴んでいくのか。あるいは欧米で事業展開をしていけるのか。そういった大きな課題を持ってやっていく。“ANA”の知名度も上げる必要があるだろう。
−関空や中部をはじめ地方空港発着路線についての今後の戦略は
伊東 関空・中部は路線を絞っているが、この2空港は非常に厳しいマーケット。LCCの運航も含めて、今後どうしていくか悩んでいるところ。具体的にしていきたいが、たとえば関空などを見ると、運航コストが高くLCCのビジネスモデルにはあわない。ただ、成長戦略会議でLCC専用ターミナルの整備にも触れられており、そうした動きがどこまで進むか注目しているところだ。
−ありがとうございました
<過去のトップインタビューはこちら>
羽田便はできるだけ多く飛ばす
羽田の本格国際化で注目される冬ダイヤの申請時期が迫るなか、全日本空輸(全日空:NH)代表取締役社長の伊東信一郎氏が、インタビューに応じた。NHは10月末の羽田増便に先駆け、7月1日に成田/ミュンヘンの直行便を就航し、先日スターアライアンスに加盟したブラジルTAM航空(JJ)とのコードシェア運航も予定している。いよいよ日本を代表するエアラインとして飛躍が期待される同社のトップに、市場に対する認識と今後の方針を聞いた。
−国土交通省の成長戦略会議で航空分野の政策案が取りまとめられているが、航空行政に対する要望は
伊東信一郎氏(以下、敬称略) 当社がずいぶん昔から主張してきたオープンスカイや羽田の内際ハブ化などが重点項目に盛り込まれ、考えの方向性が一致しており、大枠は良い方向にあると認識している。ただ、日本の航空会社の国際競争力を強固にしていくために公租公課については働きかけが必要だろう。特に日本特有といえる航空燃料課税はその核心であり、これはぜひとも撤廃してほしいと思っている。
−成長戦略会議で、2011年度中に羽田発着枠の新しい配分方法を確立するように提言されているが
伊東 羽田の国際線枠が9万回になったことは一歩前進したといえる。当初昼間の枠は3万回とされたのが6万回になったのも進歩していると思う。とはいえ、まだまだ需要はあり、もっと増やしていい。もともと飛んでいる便もあるから利用者もそれほど増えたとは感じないだろう。一方の成田の枠が増える方向性にあることにも異議はない。要は使い方の問題だ。
−全日空にとって、成田と羽田の位置づけとは
伊東 先日発表した「首都圏デュアル・ハブ」モデルの構築が基本的な考え方。一概にはいえないが、現況を見ると羽田は近距離路アジアへの直行便が中心で、成田は欧米路線やアジアへの乗り継ぎ需要がかなりの比重を占めている。
−日本航空が撤退するアムステルダムやローマ、デンパサール、コナ、ブリスベン線などに就航する可能性は
伊東 まったく関心がない。太平洋線でいえば、今後はATI(独占禁止法適用除外)のもとでのマーケティングとなる。コンチネンタル航空(CO)、ユナイテッド航空(UA)とあわせ3社で最もレベニューが増えるデスティネーションを選択するため、従来とは違った観点で路線展開をしていくことになる。太平洋線のATI承認は10月を想定はしているが、確実なところは分からない。
−羽田本格国際化後の展開方針は
伊東 日本と中国間の航空交渉が進んでいないため、現在、台北線の就航と香港線を昼の時間帯に移すことくらいしか決まっていない。羽田の国際化とはいっても、昼便が3万回から6万回になるだけで、そのボリュームは日本発着の航空便数に占める割合でいえば、かなり小さい。深夜・早朝便については需要が先にあるのか、供給することで需要が生まれるのか、“鶏と卵”のようなもので就航してみなければ何ともいえない。
−具体的なスケジュールはいつ頃発表の予定か
伊東 冬ダイヤの策定基準にあわせて5月中にはしっかり決めたい。いくつか候補地はあがっており、夜の時間帯にもできるだけ飛ばしたいと考えている。
−国際航空運送協会(IATA)が求める航空会社への外資規制緩和についてはどう思うか
伊東 デリケートな問題だが、中長期的に見れば、資本規制のない時代が来ると考えることだ。航空業界は激動の只中にあり、デルタ航空(DL)とノースウエスト航空(NW)、COとUAなどと合併が相次ぎ、ヨーロッパでも連合化が進んでいる。そういう流れからも、オープンスカイは行くところまで行くと考えないといけない。
ただ、外資に吸収されるというのとは反対に、我々にとってチャンスでもある。本当に強い航空会社になるのであれば、いつまでも規制があることを前提にはしていられない。航空会社のビジネス自体が大きく変わっており、一国だけに留まっている時代ではない。特に日本はそうであり、アジアの成長マーケットでどうやって存在感を出していくか。そういうことを見据えて体力をつけないと厳しくなる。
−グローバル化の時代であり、日本人客ばかり相手にしていくわけにもいかない
伊東 日本人客の比率を下げていく努力が必要。というより、実際に日本の人口は減っていくから、アジアを中心とする外国人の顧客をどう掴んでいくのか。あるいは欧米で事業展開をしていけるのか。そういった大きな課題を持ってやっていく。“ANA”の知名度も上げる必要があるだろう。
−関空や中部をはじめ地方空港発着路線についての今後の戦略は
伊東 関空・中部は路線を絞っているが、この2空港は非常に厳しいマーケット。LCCの運航も含めて、今後どうしていくか悩んでいるところ。具体的にしていきたいが、たとえば関空などを見ると、運航コストが高くLCCのビジネスモデルにはあわない。ただ、成長戦略会議でLCC専用ターミナルの整備にも触れられており、そうした動きがどこまで進むか注目しているところだ。
−ありがとうございました
取材・撮影:緒方信一郎(航空・旅行ジャーナリスト)
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