トップインタビュー:キャセイパシフィック航空日本支社長サイモン・ラージ氏
羽田就航に意欲
プロダクトに継続投資で質の高さを維持
2010年は首都圏空港の再拡張が予定され、すでに発着枠が拡大した成田空港に中東系航空会社が相次いで就航するなど、日本の空が様変わりしつつある。また、格安航空会社(LCC)もじわじわと日本市場での存在感を増してきている。昨年に東京就航50周年、そして今年は大阪で就航50周年を迎えるキャセイパシフィック航空(CX)は、こうした環境をどのように分析し、どのような戦略を立てているのか。昨年8月17日付けでCX日本支社長に着任したサイモン・ラージ氏に聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−現在の市場をどう見ていますか
サイモン・ラージ氏(以下敬称略) 2009年は大変難しい年だった。ちょうど私が日本に来た7月前後は、新型インフルエンザの影響もあって最悪の時だった。しかし、それ以降は回復し、2009年の第4四半期と今年の1月から2月は微増だが、今後はさらに回復すると見ている。ただ、昨年は航空運賃の下落が重要な課題になった。需要にあわせるために価格が10%から20%下がった。また、企業方針の変更により、ビジネス客が減少したのも影響した。さらに上期の輸送量の減少も響いたほか、燃油価格の大幅な変動への対応も大きな問題だ。
しかし、私は積極的に捉えている。フライトの減便などはあるものの、ネットワークの維持と新機材導入への投資は継続していく。燃油価格の上昇、さらに環境配慮の点からも最新機材の導入は航空会社として不可欠。また、ビジネスクラス、エコノミークラスといったプロダクトへの投資も大切だ。今後、新型インフルエンザ以上の大きなショックがない限り、回復を確信している。
−どのくらいの回復を見込んでいますか
ラージ 回復の兆候はまず貨物に見られた。昨年の第4四半期に空輸が大きく復活し、10月には貨物で最高益を出した。今年に入ってからは、旅客も増えている。旅客は昨年、グローバルでのロードファクターの実績は良かった。価格の下落はあったが、主に中国と香港で戻りつつある。CXは本社が香港にあることから、世界的な不況の影響をそれほど受けず経済成長を続けている中国市場を取り込みやすいのは幸運だと思う。これから10年間を見ると、中国の成長はすさまじい。当社はその点でもよいポジションにいるといえるだろう。さらに、当社は中国国際航空(CA)をはじめ中国に株主がいる。中国と良好なパートナーシップを保っており、中国の成長を背景にできるという利点もある。
−2010年10月には羽田の発着枠が増えます
ラージ もちろん発着枠を使いたい。羽田の発着枠を得られるのであれば使わない理由はない。今年の後半には、羽田に就航したいと考えている。最大で1日2便を運航可能になるため、非常に期待している。日本あるいは海外のビジネス需要に対して、羽田の選択肢を提示できることは良いことだ。
座席供給量については、どのような層に羽田からのフライトが望まれるかを考慮し、それによって機材やコンフィギュレーションを決めることになるだろう。縮小傾向にあるこの業界において、CXは日本においても成長しているといえる。
−チャーター便についてはどのように考えていますか
ラージ 非常に重要なサービスの一部と捉えている。チャーター便はレジャーの団体向けのもので、ビジネスを運ぶ定期便とはまったく異なる。当社の日本路線は5都市に就航しているが、それ以外の都市にも重要性があり、チャーター便の可能性は絶えず探っている。昨年は定期便を保つのが難しかったものの、ゴールデンウイークやシルバーウイークなど異なる時期にチャーター便の機会を探ることができた。今後もさらなる市場の開拓のために、チャーター便の機会を探っていく。
−格安航空会社(LCC)に対する戦略をお聞かせください
ラージ ビジネスを保つためには、価格を少し上げることになるが、同時に輸送力も維持しなければならない。当社はLCCではないため、サービス、機内食、ブランドなど良い品質に対価を払う層に対応する戦略をとっている。景気が悪くなると影響を受けるが、景気が上向けば、現状が示しているように多くの顧客がサービスのある航空会社を選ぶ。サービスの向上のための投資など、当社のようなビジネスモデルはコストがかかるが、それを求める顧客がいる。例えば機内のエンターテイメントシステムなども、特に長距離路線でのニーズが高いため、時間と費用の投資を続けている。
その一方、ここ2、3年で多くのプロジェクトを複数のエリアで進め、成功している。そのひとつが、インターネットによる直販のオンラインサービス「e-Journey」などのシステム構築だ。
−足元に広いスペースのある座席を有料販売するなど、LCCに近いシステムも導入されているようですが
ラージ われわれは多様なサービスを提供することで、人々が何を求め、何に対して費用を払うのかを理解できるように分析している。食事、シート、予約やチェックインの方法などサービスをフレキシブルに選べるようにセグメント別に設定し、その中でいくら払うのか顧客が選べるようにしている。長年にわたって築いた質の高いブランドに基づいたもので、品質を下げているとは考えていない。
−今年CXの日本支社は東京で51周年、大阪で50周年を迎えます。今後の日本市場での展開に向けたお考えをお聞かせください
ラージ 商業的な航空会社の歴史がそれほど長くないなかで、50周年は長い年月だ。当社はこれまで長い間、日本に投資してきた。現在のCEOであるトニー・タイラーをはじめ、フィリップ・チェン元最高経営責任者など、シニアマネジメント層の多くが日本支社で働いている。日本と当社には長い歴史があり、信頼関係がある。日本からのサービスを向上させ、キャビンクルーも日本で採用したいと考えている。今後10年間、日本と中国の関係はさらに深まり、経済もともに伸びると思う。その意味で当社は非常によい位置にいると自負している。
−ありがとうございました
プロダクトに継続投資で質の高さを維持
2010年は首都圏空港の再拡張が予定され、すでに発着枠が拡大した成田空港に中東系航空会社が相次いで就航するなど、日本の空が様変わりしつつある。また、格安航空会社(LCC)もじわじわと日本市場での存在感を増してきている。昨年に東京就航50周年、そして今年は大阪で就航50周年を迎えるキャセイパシフィック航空(CX)は、こうした環境をどのように分析し、どのような戦略を立てているのか。昨年8月17日付けでCX日本支社長に着任したサイモン・ラージ氏に聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−現在の市場をどう見ていますか
サイモン・ラージ氏(以下敬称略) 2009年は大変難しい年だった。ちょうど私が日本に来た7月前後は、新型インフルエンザの影響もあって最悪の時だった。しかし、それ以降は回復し、2009年の第4四半期と今年の1月から2月は微増だが、今後はさらに回復すると見ている。ただ、昨年は航空運賃の下落が重要な課題になった。需要にあわせるために価格が10%から20%下がった。また、企業方針の変更により、ビジネス客が減少したのも影響した。さらに上期の輸送量の減少も響いたほか、燃油価格の大幅な変動への対応も大きな問題だ。
しかし、私は積極的に捉えている。フライトの減便などはあるものの、ネットワークの維持と新機材導入への投資は継続していく。燃油価格の上昇、さらに環境配慮の点からも最新機材の導入は航空会社として不可欠。また、ビジネスクラス、エコノミークラスといったプロダクトへの投資も大切だ。今後、新型インフルエンザ以上の大きなショックがない限り、回復を確信している。
−どのくらいの回復を見込んでいますか
ラージ 回復の兆候はまず貨物に見られた。昨年の第4四半期に空輸が大きく復活し、10月には貨物で最高益を出した。今年に入ってからは、旅客も増えている。旅客は昨年、グローバルでのロードファクターの実績は良かった。価格の下落はあったが、主に中国と香港で戻りつつある。CXは本社が香港にあることから、世界的な不況の影響をそれほど受けず経済成長を続けている中国市場を取り込みやすいのは幸運だと思う。これから10年間を見ると、中国の成長はすさまじい。当社はその点でもよいポジションにいるといえるだろう。さらに、当社は中国国際航空(CA)をはじめ中国に株主がいる。中国と良好なパートナーシップを保っており、中国の成長を背景にできるという利点もある。
−2010年10月には羽田の発着枠が増えます
ラージ もちろん発着枠を使いたい。羽田の発着枠を得られるのであれば使わない理由はない。今年の後半には、羽田に就航したいと考えている。最大で1日2便を運航可能になるため、非常に期待している。日本あるいは海外のビジネス需要に対して、羽田の選択肢を提示できることは良いことだ。
座席供給量については、どのような層に羽田からのフライトが望まれるかを考慮し、それによって機材やコンフィギュレーションを決めることになるだろう。縮小傾向にあるこの業界において、CXは日本においても成長しているといえる。
−チャーター便についてはどのように考えていますか
ラージ 非常に重要なサービスの一部と捉えている。チャーター便はレジャーの団体向けのもので、ビジネスを運ぶ定期便とはまったく異なる。当社の日本路線は5都市に就航しているが、それ以外の都市にも重要性があり、チャーター便の可能性は絶えず探っている。昨年は定期便を保つのが難しかったものの、ゴールデンウイークやシルバーウイークなど異なる時期にチャーター便の機会を探ることができた。今後もさらなる市場の開拓のために、チャーター便の機会を探っていく。
−格安航空会社(LCC)に対する戦略をお聞かせください
ラージ ビジネスを保つためには、価格を少し上げることになるが、同時に輸送力も維持しなければならない。当社はLCCではないため、サービス、機内食、ブランドなど良い品質に対価を払う層に対応する戦略をとっている。景気が悪くなると影響を受けるが、景気が上向けば、現状が示しているように多くの顧客がサービスのある航空会社を選ぶ。サービスの向上のための投資など、当社のようなビジネスモデルはコストがかかるが、それを求める顧客がいる。例えば機内のエンターテイメントシステムなども、特に長距離路線でのニーズが高いため、時間と費用の投資を続けている。
その一方、ここ2、3年で多くのプロジェクトを複数のエリアで進め、成功している。そのひとつが、インターネットによる直販のオンラインサービス「e-Journey」などのシステム構築だ。
−足元に広いスペースのある座席を有料販売するなど、LCCに近いシステムも導入されているようですが
ラージ われわれは多様なサービスを提供することで、人々が何を求め、何に対して費用を払うのかを理解できるように分析している。食事、シート、予約やチェックインの方法などサービスをフレキシブルに選べるようにセグメント別に設定し、その中でいくら払うのか顧客が選べるようにしている。長年にわたって築いた質の高いブランドに基づいたもので、品質を下げているとは考えていない。
−今年CXの日本支社は東京で51周年、大阪で50周年を迎えます。今後の日本市場での展開に向けたお考えをお聞かせください
ラージ 商業的な航空会社の歴史がそれほど長くないなかで、50周年は長い年月だ。当社はこれまで長い間、日本に投資してきた。現在のCEOであるトニー・タイラーをはじめ、フィリップ・チェン元最高経営責任者など、シニアマネジメント層の多くが日本支社で働いている。日本と当社には長い歴史があり、信頼関係がある。日本からのサービスを向上させ、キャビンクルーも日本で採用したいと考えている。今後10年間、日本と中国の関係はさらに深まり、経済もともに伸びると思う。その意味で当社は非常によい位置にいると自負している。
−ありがとうございました