DS応援プロジェクト:旅行会社の社員教育

  • 2010年4月26日
積極的な学ぶ体制づくりに創意工夫、業界内での連携も必要
〜DSは自己啓発から「旅行のプロ」資格としての権威づけを〜


 トラベル・カウンセラー(T/C)制度の活用や、社内での資格制度の利用、社員教育について、旅行会社の各研修担当者にアンケートを実施した。T/C制度、特にデスティネーション・スペシャリスト(DS)がいかに社内研修や社員教育に活用されているかを見出すのが目的だったが、アンケートからは各社がDSだけにとどまらず、独自の勉強法や研修、さらに社内の資格制度を展開していることがうかがえた。今回はDSの人材育成という目的に焦点をあて、旅行会社のDSの位置づけとともに、人材育成を目的に実施する工夫や体制をまとめる。
             
            
自己啓発にDS取得推進

 多くの旅行会社は社員にDSの資格取得を奨励している。合格すれば費用を全額補助しており、場合によっては1人で複数方面の受講や受験を認めている会社もあるほど。しかし、その目的は個人のモチベーションをアップするための自己啓発にとどまっており、具体的な販売促進に反映されていないのが現状だ。

 近畿日本ツーリスト(KNT)では、現場実践を通じた教育(OJT)と集合研修(Off−JT)の階層別研修を人材育成の柱とし、それを補助する形で自己啓発のための資格や通信講座150以上を網羅、その受講をサポートしている。その中には総合旅行業務取扱管理者やTOEIC、地理能力検定と一緒に、トラベル・コーディネーター(TC)やDSも含まれている。ただし、膨大な項目の中にそれぞれの選択肢が埋没してしまう感も否めない。担当者も、日常の業務が多忙なため、選択肢の多彩さが、逆に資格や通信講座を受講する際のネックになっている可能性があるという。今後は、語学と観光に関する資格や講座に特化する方向も検討中とのことだ。

 ジャルパックでは、DS合格者の声を次の合格者につなげるため、ユニークな取り組みをしている。合格者に勉強の仕方や持続方法などをインタビューし、イントラネット(社内のウェブ掲示板)に定期掲載しているのだ。これに加え、DSの申し込み者にメッセージを送り、時にはこのインタビューを盛り込むことで合格につながるようにサポートしている。


自社商品への理解深めるテストも実施

 旅行会社の社員にとって、デスティネーションや自社商品の知識を習得することは必要不可欠だが、その量は膨大だ。これを、日常の業務と平行して勉強していくのは難しく、どの会社でも課題となっていることだろう。各社ではどのように教育をしているのだろうか。

 トラベル世界では、自社ツアーの内容を把握するための勉強会を開催している。特に内容を重視するツアーを取り上げ、細部まで理解を深めるのが目的だ。また、毎週1回試験も実施。各自がツアーに対する理解度を把握できると同時に、それを社内評価にも反映させている。

 日本旅行では、各種セミナーを実施しており、昨年は19講座に約450名が参加。また、業務に有効な外部の通信教育を180講座ピックアップして受講を推進、約270名が受講した。さらに、月に1度は「重点商品知識テスト」を実施。商品企画担当者や販売促進担当者が作成した問題を、イントラネットを活用して発信し、翌週に回答を発信するシステムだ。こうした取り組みにより、学ぶ機会の提供、社外からの情報収集や知識習得、社内のコミュニケーション構築などがはかれているとしている。

 また、社内研修や勉強会のキーワードの1つとなっているのが、CS(顧客満足)だ。エスティーワールドの場合、今年の2月から「CSグレードアッププロジェクト」を展開している。すべての部署からCSリーダーを選任し、彼らが中心となって各部署でのCS 向上を推進していくというもの。同時に「CS等級制度」を取り入れ、6月末には全社員が受験するCSテストを実施する予定となっている。


強化部門に社内独自の資格制度

 社内独自の資格制度を設けている会社も少なくなかった。日本旅行では、2002年に海外ウエディングエキスパートを制定し、各支店から毎年約15名の合格者を輩出している。合格には、年7、8回の講座の受講、現地研修、マニュアルやCD−ROMといった資料の作成などが必要で、認定後は認定証やバッジ、専用の名刺が用意される。自他ともに認めるエキスパートとなった後は、商品の品質向上に貢献し、海外挙式相談会などで活躍していく。現在までの認定者は135名。この春からは新たにヨーロッパエキスパートも制定した。

 また、トップツアーでは、ミーティングプランナーの資格を設けている。法人による会議や研修などのビジネス旅行を専門に扱うための資格で、講習や試験のほか、会場見学などの実地研修を実施。これまでに資格を取得したのは180名で、認定者にはMPの称号を与えている。

 ANAセールスでは、国内と海外それぞれに旅行エキスパートを、その次の段階としてトラベルコーディネーターの資格を設けている。旅行エキスパートの認定試験はイントラネットで年に2回おこなわれ、現在国内403名、海外207名が取得。トラベルコーディネーターは総合旅行業務取扱管理者の資格保持者にプラスして規定の認定合格者に与える。規定の認定の中には、JATAのTCも含まれており、特にTCのコミュニケーション・スキルの内容を評価している。トラベルコーディネーターは、接客対応やコンサルティング能力向上の目安として用いているほか、後輩指導の指針としても活用しているという。


業界全体の連携した取り組みで有効活用を

 各社は社員が学ぶ体制づくりにさまざまな工夫をこらしている。勉強会や資格の獲得は、個人はもちろん、部署や社内のモチベーション向上にもつながっている。反面、コスト削減の一環として従業員の減少や勤務時間の調整が進み、個々の仕事量が増加するなかで時間がつくりづらい環境にある。また、用意された講習以外は学ばないなど知識向上に向けた自主性が低下するといった事情も発生しており、各社とも体制づくりを模索し続けているようだ。

 また、T/C制度の各種資格については、あくまで自己啓発のひとつのツールにとどまっているという位置づけも明確となった。DSは、海外旅行市場の活性化のため、知識の向上により旅行のプロを育てるという目的があるが、「旅行のプロ」の資格という意味では直接の販売に効果をもたらす権威を発するところまではいたっていない。今後、DSにどの程度の魅力付けができるかはもちろん、JATA、観光局、旅行会社など、業界全体の連携による活用も求めていくべきだろう。


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