トップインタビュー:阪急交通社次期代表取締役社長 生井一郎氏
お客様目線の徹底でシェア拡大へ
まずは「足元固め」でブランド堅持
いよいよ4月1日、阪急交通社と阪神航空は統合し、新しい阪急交通社が始動する。新体制では、業務渡航をのぞく旅行部門の企画旅行や団体旅行、外国人旅行を取り扱う。また、阪神航空のホールセール商品であるフレンドツアーは存続させ、トラピックスなどを含むすべてのブランドをそのまま守っていくという。一方、業務渡航分野では新会社「阪急阪神ビジネストラベル」を発足し、阪急交通社の下に置く。このような新体制での船出にあたり、4月1日に阪急交通社代表取締役社長に就任する生井一郎氏に、初年度の方針を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−社長就任後の方針についてお聞かせください
生井一郎氏(以下、敬称略) 事業本部長になった2002年以来、「価格の競争から価値競争へ」を提唱してきた。つまり、旅行会社の論理ではなくお客様の論理で物事を考えるということだ。この方針を大きく変えることはないが、今後は「お客様第一」という点をより強化していく。阪急交通社は「お客様の支持率ナンバー1」になることをめざしているが、そのためには「お客様目線」でツアーを造成し、現状の不足部分を補っていきたいと思う。あくまでもお客様の論理にあわせて戦略や戦術を立てていくつもりだ。お客様から選ばれる商品を作っていくことで、結果的にシェアがついてくる。そのように私は信じている。
実は2003年の交通事故が、お客様第一を考える大きな転機となった。2001年までは集客することが第一で価格競争をしていたが、安全性という品質面を担保しない限りお客様の支持が得られないことがはっきりとした。2003年以降は、ヨーロッパや中国など全方面でオペレーターを対象とした安全運行会議を役員が参加して開催するようになり、シートベルトの締め方をはじめとする基本的な事項も毎年何度も確認している。それが奏効したのか、以降大きな事故は発生していない。
質を落とすことなくお客様に値ごろ感を出すためのこうした取り組みは、私の考えでは現在のところ8割程度までできてきている。今後もこのような「お客様第一」の取り組みを続け、今後2年から3年でこれを完成させたい。
−統合後のブランド戦略についてお聞かせください
生井 阪急交通社の主体はトラピックスであり、統合では業務渡航分野は別会社に移行するため、新「阪急交通社」は主催旅行メインの会社となる。トラピックスも阪神航空のフレンドツアーも、主力のデスティネーションがヨーロッパと重なる部分はあるが、歴史あるフレンドツアーを守り、トラピックスの良いところとあわせて一緒に成長をしていきたい。フレンドツアーはリピーターのお客様が多く、すでにお客様の支持を得ているため、そのブランドを大切に維持していきたい。
いずれにしても、ブランド戦略の最終形がどのような形になるかはお客様が決めてくれるだろう。まずはトラピックス、イーベリー、クリスタルハート、ロイヤルコレクション、そして阪神航空フレンドツアーの5つのブランドを今までどおり守り、お客様の反応を参考にした上で次の戦略を考えていく。
−商品造成について、各ブランドの仕入れは一緒にするのでしょうか。また、オペレーターやホテルなどとの関係に変化はありますか
生井 現段階では共同仕入れにすることは考えていない。阪急交通社は以前から、オペレーターにお願いしている部分が多く、それが他社との違いだ。オペレーターのノウハウを最大限に活かし、ツアーを動かしている。一方、フレンドツアーは約80%のオペレーションを阪神航空の子会社で、スペインやイタリアを主に扱っているビアヘス阪神に発注している。同社も統合により阪急交通社の子会社となるが、この関係は従来通り続けていきたいと思う。
ただし、同じ会社になるのだから、いずれ検討することもあるだろう。例えば、ビアヘス阪神はすでにクリスタルのオペレーションの1割程度を受けている。とはいえ、まずは今まで通り阪急交通社の9割近くを色々なオペレーターに発注する体制を継続することになる。
−2010年度の目標についてお聞かせください。また、中長期的に方面別のポートフォリオはどのように見込まれているでしょうか
生井 2009年度の主催旅行での海外送客実績は約82万6000人の見込みだが、2010年度の目標については営業部門とのコンセンサスを取っておらず、今の段階で明確に定まった数字はない。ただ、気持ちとしては当然100万人をめざしたい。
方面については、理想と現実は異なるものの、優先順位からいうと数年後にはヨーロッパ3割、中国3割、その他で4割になることを期待している。現状ではヨーロッパは2009年度で28万人前後を送客した。また、2005年に現地法人を立ち上げた中国では2009年度で19万人となり、目標の20万人に近づきつつある。足元の伸びも見られることから、いずれはヨーロッパを抜くことも可能だろう。その次の段階としては近場の韓国や香港などアジア方面を売っていきたい。
−主力の販売経路は新聞を中心とするメディアですが、インターネットはどのようにご覧になっていますか
生井 メインの募集媒体は従来通り新聞とし、そのほかトラピックスの会員誌、DM、新聞の折り込み、インターネットで販売する。フレンドツアーを「トラピックス方式」で販売することは考えていないが、トラピックスの会員誌でフレンドツアーを宣伝することはあり得る。
広告としてインターネットが注目されているが、阪急交通社も新聞には必ずウェブサイトのURLを入れている。新聞広告とインターネット広告とのクロスメディアにより、お客様が集まってくるケースは多く見受けられる。ネット販売では商品群を少し変えて、トラピックスのなかでも個人型の旅行も手がけていきたい。また、携帯からアクセスできるシステムやツーアップなど個人型の商品を充実させていく。すでにツーアップ商品の造成や携帯からのトラピックスの予約を開始している。
メディア販売は100%完成されているという訳ではない。基本は現状のビジネスモデルで足元を固めつつも、時代の流れを読んで改善の余地がある部分にアプローチする必要があるだろう。
−最後に、阪急阪神ビジネストラベルの目標や方針を教えてください
生井 阪急阪神ビジネストラベルはより専門化した会社とする。現在の阪急交通社と阪神航空の営業状況は同程度の規模で、両社を合わせると業務渡航のシェアでは4位程度になる。今後は更にシェア拡大をめざす。
ゼロコミッションによりフィービジネスに移行せざるを得ないが、これから競争が激化すると当然ながらフィービジネスでも各社が首を絞めあう可能性がある。フィービジネスを展開するには「付加価値」を提供し、それに値するものに対してお客様からフィーを頂戴するという捉え方をするしかない。
一方で、航空会社に対する交渉力向上のために他社との提携やM&Aによってボリュームを確保する動きもあるが現時点では考えていない。まずは足元をしっかりと固めることが重要と考えている。
−ありがとうございました
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まずは「足元固め」でブランド堅持
いよいよ4月1日、阪急交通社と阪神航空は統合し、新しい阪急交通社が始動する。新体制では、業務渡航をのぞく旅行部門の企画旅行や団体旅行、外国人旅行を取り扱う。また、阪神航空のホールセール商品であるフレンドツアーは存続させ、トラピックスなどを含むすべてのブランドをそのまま守っていくという。一方、業務渡航分野では新会社「阪急阪神ビジネストラベル」を発足し、阪急交通社の下に置く。このような新体制での船出にあたり、4月1日に阪急交通社代表取締役社長に就任する生井一郎氏に、初年度の方針を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
−社長就任後の方針についてお聞かせください
生井一郎氏(以下、敬称略) 事業本部長になった2002年以来、「価格の競争から価値競争へ」を提唱してきた。つまり、旅行会社の論理ではなくお客様の論理で物事を考えるということだ。この方針を大きく変えることはないが、今後は「お客様第一」という点をより強化していく。阪急交通社は「お客様の支持率ナンバー1」になることをめざしているが、そのためには「お客様目線」でツアーを造成し、現状の不足部分を補っていきたいと思う。あくまでもお客様の論理にあわせて戦略や戦術を立てていくつもりだ。お客様から選ばれる商品を作っていくことで、結果的にシェアがついてくる。そのように私は信じている。
実は2003年の交通事故が、お客様第一を考える大きな転機となった。2001年までは集客することが第一で価格競争をしていたが、安全性という品質面を担保しない限りお客様の支持が得られないことがはっきりとした。2003年以降は、ヨーロッパや中国など全方面でオペレーターを対象とした安全運行会議を役員が参加して開催するようになり、シートベルトの締め方をはじめとする基本的な事項も毎年何度も確認している。それが奏効したのか、以降大きな事故は発生していない。
質を落とすことなくお客様に値ごろ感を出すためのこうした取り組みは、私の考えでは現在のところ8割程度までできてきている。今後もこのような「お客様第一」の取り組みを続け、今後2年から3年でこれを完成させたい。
−統合後のブランド戦略についてお聞かせください
生井 阪急交通社の主体はトラピックスであり、統合では業務渡航分野は別会社に移行するため、新「阪急交通社」は主催旅行メインの会社となる。トラピックスも阪神航空のフレンドツアーも、主力のデスティネーションがヨーロッパと重なる部分はあるが、歴史あるフレンドツアーを守り、トラピックスの良いところとあわせて一緒に成長をしていきたい。フレンドツアーはリピーターのお客様が多く、すでにお客様の支持を得ているため、そのブランドを大切に維持していきたい。
いずれにしても、ブランド戦略の最終形がどのような形になるかはお客様が決めてくれるだろう。まずはトラピックス、イーベリー、クリスタルハート、ロイヤルコレクション、そして阪神航空フレンドツアーの5つのブランドを今までどおり守り、お客様の反応を参考にした上で次の戦略を考えていく。
−商品造成について、各ブランドの仕入れは一緒にするのでしょうか。また、オペレーターやホテルなどとの関係に変化はありますか
生井 現段階では共同仕入れにすることは考えていない。阪急交通社は以前から、オペレーターにお願いしている部分が多く、それが他社との違いだ。オペレーターのノウハウを最大限に活かし、ツアーを動かしている。一方、フレンドツアーは約80%のオペレーションを阪神航空の子会社で、スペインやイタリアを主に扱っているビアヘス阪神に発注している。同社も統合により阪急交通社の子会社となるが、この関係は従来通り続けていきたいと思う。
ただし、同じ会社になるのだから、いずれ検討することもあるだろう。例えば、ビアヘス阪神はすでにクリスタルのオペレーションの1割程度を受けている。とはいえ、まずは今まで通り阪急交通社の9割近くを色々なオペレーターに発注する体制を継続することになる。
−2010年度の目標についてお聞かせください。また、中長期的に方面別のポートフォリオはどのように見込まれているでしょうか
生井 2009年度の主催旅行での海外送客実績は約82万6000人の見込みだが、2010年度の目標については営業部門とのコンセンサスを取っておらず、今の段階で明確に定まった数字はない。ただ、気持ちとしては当然100万人をめざしたい。
方面については、理想と現実は異なるものの、優先順位からいうと数年後にはヨーロッパ3割、中国3割、その他で4割になることを期待している。現状ではヨーロッパは2009年度で28万人前後を送客した。また、2005年に現地法人を立ち上げた中国では2009年度で19万人となり、目標の20万人に近づきつつある。足元の伸びも見られることから、いずれはヨーロッパを抜くことも可能だろう。その次の段階としては近場の韓国や香港などアジア方面を売っていきたい。
−主力の販売経路は新聞を中心とするメディアですが、インターネットはどのようにご覧になっていますか
生井 メインの募集媒体は従来通り新聞とし、そのほかトラピックスの会員誌、DM、新聞の折り込み、インターネットで販売する。フレンドツアーを「トラピックス方式」で販売することは考えていないが、トラピックスの会員誌でフレンドツアーを宣伝することはあり得る。
広告としてインターネットが注目されているが、阪急交通社も新聞には必ずウェブサイトのURLを入れている。新聞広告とインターネット広告とのクロスメディアにより、お客様が集まってくるケースは多く見受けられる。ネット販売では商品群を少し変えて、トラピックスのなかでも個人型の旅行も手がけていきたい。また、携帯からアクセスできるシステムやツーアップなど個人型の商品を充実させていく。すでにツーアップ商品の造成や携帯からのトラピックスの予約を開始している。
メディア販売は100%完成されているという訳ではない。基本は現状のビジネスモデルで足元を固めつつも、時代の流れを読んで改善の余地がある部分にアプローチする必要があるだろう。
−最後に、阪急阪神ビジネストラベルの目標や方針を教えてください
生井 阪急阪神ビジネストラベルはより専門化した会社とする。現在の阪急交通社と阪神航空の営業状況は同程度の規模で、両社を合わせると業務渡航のシェアでは4位程度になる。今後は更にシェア拡大をめざす。
ゼロコミッションによりフィービジネスに移行せざるを得ないが、これから競争が激化すると当然ながらフィービジネスでも各社が首を絞めあう可能性がある。フィービジネスを展開するには「付加価値」を提供し、それに値するものに対してお客様からフィーを頂戴するという捉え方をするしかない。
一方で、航空会社に対する交渉力向上のために他社との提携やM&Aによってボリュームを確保する動きもあるが現時点では考えていない。まずは足元をしっかりと固めることが重要と考えている。
−ありがとうございました
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