トップインタビュー:ジャルパック代表取締役社長 大西誠氏

  • 2010年2月17日
総需要の底上げがホールセラーの使命、シェア獲得より商品造成で目標達成へ
〜日本航空の再出発の節目に「JALパック」ブランド復活〜


 ジャルパックは2010年度上期商品から、AVA(アヴァ)とI’ll(アイル)の2ブランドを19年ぶりに「JALパック」に統合し、販売を開始した。旅行者にとってなじみがあり、市場に浸透している「JAL」ブランドを打ち出すことで、日本航空(JL)グループの旅行商品であることをアピールするとともに、旅行者の視点でのわかりやすさを追求していく。折しもJLが復活に向けて再始動する節目の年に、ツアーブランドとしても新たな展開をはかることになる。「JALパック品質を提供していく」と語る代表取締役社長の大西誠氏に、2010年度の戦略を聞いた。(聞き手:本誌編集長 松本裕一)
    
   
▽関連記事
ジャルパック大西社長、「まずまずのスタート」−質と新しさで目標達成へ(2010/02/08)
新生「JALパック」、顧客目線の高品質な旅を提案−上期目標取扱8%増めざす(2010/01/27)
 
 
−2010年はジャルパックの本体であるJLにとって大きな節目となります。この時期に「JALパック」ブランドの復活に至った経緯とねらいをお話ください

大西誠氏(以下、敬称略) 2009年度はブランドができて45周年、会社設立40周年にあたる節目の年だった。着任した昨年4月から商品や組織の見直しを開始し、6月ごろからブランドの変更を考えはじめた。結果的にブランドは19年ぶり、社内的にも企業理念を20年ぶりに刷新することになった。

 ブランド認知度の調査によると、旅行者は「JLといえばジャルパック」と“ジャルパック”の浸透度は高いが、アイルやアヴァはそれに及ばずブランド名がJLに結びついていない傾向があった。また、社内でも社員の“ジャルパック”ブランドへの愛着が高かった。

 そのため、顧客目線の認知度を重視してブランド刷新を決断した。「JALパック」ブランドの復活とモノブランド化は、旅行会社にとってもわかりやすい変更だったのではないかと考えている。また、「JALパック」の表記は、お客様がアンケートやインターネットの検索キーワードでこのように書くことが多いため。このことも、お客様がどのようにブランドを認識されているかを示していると思う。


−商品発表会では、旅行会社との共存が重要とお話されていました。今後、どのように信頼関係を築き共存していきますか

大西 旅行会社と共栄共存する方針はこれまでとまったく変わっていない。旅行会社との信頼関係が今後の核になると考えている。今回のブランド刷新が旅行会社にとってもわかりやすい変更だと述べたが、お客様に選んでいただける商品を作ることが旅行会社へのプラスになるということ。当然のことだが、それは意識してやっていこうと思っている。また、コミッションのあり方は発表通り(JALパック・セレクションとJALパックは10%、JALパック・スペシャルは8%)だ。従来と比較する必要はないかもしれないが、(これまで8%だったアヴァの期首商品が10%になるなど)旅行会社には利益を出していただきやすくなったのではないかと思う。

 旅行会社が販売しやすい質のいい商品をつくることが、信頼関係を築くために重要だと捉えている。JLグループ再編にあたっては、その影響などについて心配をおかけしたが、新体制でのオペレーションがスムーズにできていることから、お客様に安心感を持っていただけたようで出足はまずまずだ。


−2010年度上期の取扱人数目標を前年比8%増の18万3600人とされています。目標達成へ向けた戦略を教えてください

大西 2010年は首都圏空港の拡張など、需要拡大の要素がいくつか見られるが、個人的には上海万博が大きな要素だと考えている。景気は変わらず低迷しており回復の兆しはないが、一方でパスポート発給数が増加しているという発表や、今年の出国者数は全体で前年比7.4%増という見通しもある。まずは上期の数字が出揃うのを待ちたいところだが、弊社が海外旅行市場でシェアを拡大するというよりも、お客様に選んでいただける商品を造成することで目標を達成したい。

 目標達成へ向けては、「いい旅、新しい旅、JALパック」のキャッチフレーズ通り、価格競争ではなく商品の品質自体を訴えていく。旅行代金の低下は一定のレベルまできており、お客様もそのなかで品質を求めたいという声が強くなっている。


−「いい旅、新しい旅」とは具体的にどんな旅ですか

大西 いい旅とは品質の向上。ハード面はある程度価格に比例するので、主にソフト面に注力したい。選任コンダクターやスーパーTC同行商品だけでなく、中国と韓国の現地ガイドには来日研修を実施するなどサポート体制も強化して、現地での品質の向上と安定をめざす。

 新しい旅とは、新デスティネーションの提案だ。ジャルパックは40年前に旅行開発株式会社の名前でスタートしており、創業時の精神に立ち返って新しいものをつねに追及していきたい。上期は本格的にブータンを取り上げる。昨年10月に私自身がブータンの視察に出向き、首相にもお会いした。ブータンは国民が感じる幸福度が高いことはよく知られているが、国家として量ではなく質を重視しており、そこが我々の求めるところと一致する。そのほか、若手社員が組織横断的に造成した企画旅行もいくつか展開している。記念日旅行も提案していく。


−JLの再建計画案では、不採算路線の撤退や人員削減が不可欠とされています。ジャルパックの組織運営にはどのような変化が起きる可能性があるでしょうか。さらに、路線縮小が避けられない場合、外航を活用する可能性はありますか

大西 レジャー路線であれビジネス路線であれ、一定の路線整理は避けられないだろう。しかしハワイなど渡航者数の多い主要な路線は従来通り運航されるほか、成田/ホーチミン線や成田/ハノイ線のベトナム路線の増便や、バンクーバーへのデイリー運航など、より商品を組みやすくなった面もある。重要な路線に変更はないと信じているので、路線縮小はあまり気にしていない。

 組織としては、ジャルパックは、当然JLグループの方針に沿ってやっていくわけで、一言でいえばJLがめざしているように少数精鋭、筋肉質で着実に利益を出せる体制を求めていくということ。ジャルパックとしてそれを実現することが重要だと考えている。

 また、外航については、デスティネーションに魅力があり利益が出せるのであればこだわらない。ただ、ジャルパックはJLの座席を活用して利益を出すのが使命であり、第一義。お客様も「JALパックの旅行ならJLで行く」と思っている。


−最後に、新たな歩みをはじめるにあたっての意気込みをお聞かせください

大西 アウトバウンドのホールセラーとしては、総需要の底上げが使命。そのためには革新を続けていきたい。

 具体的には自社のアイディアによる商品の造成を進めていく。特に今後力を入れていくのは、4月中旬から発売を開始する「家族修学旅行」だ。これは構想に数年をかけた自信作。商標登録もした。子どもの頃の宿泊体験は成人してからの宿泊数に結びつく。家族単位での旅行をもっと活性化して、子どものときからいい旅行体験をしてほしい。

 まずは夏休み商品としての販売になるが、夏期はどうしても価格が上がってしまう。個人的には通年商品として展開したいが、そのためには学校や職場の休暇体制など国への働きかけが必要だろう。

 旅行はときめきを感じさせるエンターテインメントだと思っている。感動する旅行体験の演出を通して、日本の国際化に貢献できるよう、業界のみなさんと協力して取り組んでいきたい。


−ありがとうございました


<過去のトップインタビューはこちら>