取材ノート:学園祭に見る若者の海外旅行観、「一歩踏み出すきっかけを」

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行かない理由は「機会がなく」「お金がない」

とりわけ注目すべきは、海外旅行へ行かない理由だ。「機会がない」と「お金がない」の2つに大きく分かれ、例えば東京では前者が59%で後者が29%を占める。このアンケートは研究会のメンバーそれぞれが知人、友人の伝手を頼って配布した。メンバーは海外旅行によく行く学生であるため「海外旅行に興味のある学生を中心にしたアンケートになっていると思います。実態はこの数字より厳しいものかもしれません」と、同研究会会長の住吉まゆ子さん(ビジネスマネジメント学群2年生)。
住吉さんの実感では、海外旅行によく行く学生とそうでない学生の旅行経験には大きな差があり、ニ極化しているという。海外旅行に費やす金額にもその傾向が顕著で「1年間に海外旅行に費やすことのできる金額」では、3万円未満が9%、5万円未満が7%に対して、20万円以上を出す学生も12%いる。会場を訪れていた男子学生(海外旅行経験5度以上)に聞いてみると「1回あたり20万円くらいまで」で、回数は1年に2、3回。20万円は「アルバイトで貯められるぎりぎり」だ。一方、海外旅行に2度行ったことがあるという女子学生2人組は、5万円以下。「国内旅行なら2万円くらいで行ける」し、「5万円以上は高すぎて、そこまでお金をかけたくない」のが理由だ。
学生の1、2回の海外旅行経験は未経験者と同じ

「1度でも海外旅行で感動した経験のある学生は、次の休みにも海外旅行に行きたくなると思うんですよ」と住吉さん。アンケート結果では「今までに海外旅行に行ったことがある」学生は78%もいる。だが、そのうち1回が35%、2回が23%で半数強を占める。1、2度行ったきり、行かなくなった理由を解明するのも、業界の重要な課題になる。
これについて住吉さんは「海外旅行経験2回までは、未経験者と捉えていいと思います」と話す。今の学生は修学旅行で海外旅行を経験することが多い。また、子どもの頃に家族旅行で1度くらい海外に行く学生もいる。つまり「1、2度というのは自分の意志ではなく、半ば強制的に行った海外旅行。自分で手続きをしないし、行き先も選ばないから、実際には未経験者と変わらない。修学旅行は思い出として楽しいですが、団体行動が基本で自分の意志では動けないので、海外旅行としての感動は体験できないと思います」との見解だ。
家族の海外旅行経験もポイント、「機会があれば行きたい」

海外旅行経験が「修学旅行でオーストラリアに1回、子どもの頃の家族旅行でグアムに1回」という19歳の男子学生は「機会さえあれば、海外旅行にぜひ行きたい」という。それではその機会とは何なのか。「誰かが連れて行ってくれなければ、このままだと新婚旅行とかになっちゃいますね」。海外旅行に行かない学生の典型的な例だ。
「旅行のパンフはベテラン向け」、業界はストーリーテラーの育成を

また、会場には各社のツアーパンフレットが置かれていたが、手にする訪問者はほとんどいなかった。ある女子学生は「私はケアンズに行ってみたいんですけど、ツアーパンフレットって似たようなツアーがいっぱいあるし、よく知らない地名がずらずら書いてあるだけで、知識がないとわかりづらい」という。同行の女子学生は「料金も複雑で、どう見たらいいかわからない。旅行会社のパンフレットは旅のベテランさん向けで、若者向けではないように感じる」そうだ。

学生の需要を喚起するストーリーテラーを発掘するとともに、産学協同プロジェクトなど学生の活用、次の学生になる子どもを含む家族旅行の開拓などが次の一手となるだろう。学園祭プログラムから「若者の旅行離れ」対策の端緒が見えてきた。
プロと違う学生の目線に注目を
「VWC学園祭応援プログラム」の企画立案者であるVWC2000万人推進室担当部長の荻野義
一氏は、選出した5団体の学園祭をすべて視察、どの企画も充実した内容だったという。
なかでも桜美林大学の国際ツーリズム研究会は系列の中高生までを視野に入れ、パスポー
トの取得方法といった初心者向けの内容を展示して、海外旅行の気軽さを広くアピールし
た点を評価。また、ユニークな試みとして松本大学の企画をあげた。地元の人にも開放し
たシンポジウムを開催し、海外旅行のみならず訪日外国人客を迎える地元にも役立つ内容
だったという。荻野氏は「学生には旅のプロのとは違う目線がある」と話し、「旅行会社
には学生の目線を上手に取り入れて、若年層マーケットを拡大してほしい」と語った。
VWCでは2010年、2つのターゲットを取りあげて重点的に活動を展開していく予定で、そ
のうちのひとつに海外旅行に興味のない学生への啓蒙をあてている。そのアプローチ方法
として、スポーツが好きな学生が本場でスポーツ観戦をしたり、音楽をする学生が民族音
楽に触れるといった体験型ツーリズムと、誰と行くかを重視する今の学生の志向にマッチ
したコミュニケーション型ツーリズムの2つを検討している。また、これまでの学生向け
旅行では、卒業旅行ばかりを注目してきた感があるが、来年は大学1、2年生の若いうちか
ら海外旅行のすばらしさを体験できるよう、アピールしていく考えだ。
産学連携の可能性、学生の力
「業界は、学生の力にもっと注目してほしい」というのは、同研究会を指導する鈴木勝
教授。日々学生と触れている同氏は、学生のネットワーク構築技術、課題を与えたときの
集中ぶりなどを高く評価する。例えば、今回は活動費用として30万円がVWC推進室から支
援された。学生にとって30万円は「ものすごい大金」。この費用で15人の学生が約2週間
フル活動し、300人にマーケティングリサーチを行った。写真や映像も多用しており、企
画全体では賄い切れない部分もありそうだが「学生時代の今しかできないことを、一所懸
命にやりたい」と、住吉さんもいう。
「学生は、時間はあるし体力もある。目標や課題を与えれば、その情熱はすごい。業界
は学生の力を気軽に使ったらいいんですよ(笑)」と鈴木教授。会場の片隅では、鈴木教
授から「観光で町田市の町興し」の課題を与えられた男子学生が、一心不乱に企画作りに
取り組んでいた。
取材:江藤詩文