新春トップインタビュー:日本旅行業協会(JATA)会長の金井耿氏

  • 2010年1月6日
2010年は明るさ取り戻す年に
会員目線を突き詰め事業展開へ


 2009年は旅行市場全体が大きな打撃を受け、今後も燃油価格の再高騰や新型インフルエンザの第2波などの懸念は続く。一方で、2010年は成田および羽田空港の拡張に加え、日米航空自由化が合意され、旅行業界は新たな転換期を迎える。年初にあたり、2009年の振り返りと2010年の取り組みについて、日本旅行業協会(JATA)会長の金井耿氏に聞いた。(聞き手:弊誌編集長 松本裕一)





−2009年を振り返り、現在の市場環境から2010年の旅行市場はどのように推移するとお考えでしょうか。事業展開の基本方針を含めてお聞かせください

金井耿氏(以下、敬称略) 2008年9月にリーマンショックがあり、そこに2009年は新型インフルエンザが追い打ちをかける形になって、1年中荒波にもまれ続けたという感じだ。円高の傾向など海外旅行にプラスの要素が効果を現す前に、もっと大きいマイナスの波に飲み込まれてしまった。個人的には、2001年の9.11、2003年のSARS以上と感じている。

 一方、年始以降の予約状況から、海外への動きの回復傾向が見える。この傾向を持続させ、少しでも明るさを取り戻す年にしたい。燃油サーチャージが値上がりする動きもあり、決して楽観を許さない状況だが、手をこまねいているわけにはいかないので、まずはいい年にするという決意でいく。状況に適切な対応で乗り切っていく覚悟をしなければならない。

 このような状況下で、会員がJATAに求めるものはより厳しく、より具体的になってくる。我々ができることは、旅行会社にとってどのような方向が望ましいのかを突き詰め、旅行業全体を代表するものとしてきちんと発信していくことだと思う。会員の中でも様々な業態があり、必ずしも利害が一致するわけではないが、行政や取引先、消費者など外部との関係の中で、ベクトルがあわせられる部分がある。そうした会員の姿勢を大事にしながら行動していく。


−今年は、ビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)が最終年度を迎えます。JATAとして、どのように取り組んでいくのでしょうか

金井 VWCでは新しい切り口で活動を展開してきたが、数字的には必ずしも思ったような成果につながっていない。しかし、今の状況の厳しさを考えると、キャンペーンをやってきたために留まり得ているともいえる。状況が変われば、多くの効果に結びつく可能性は残っているし、各国の政府観光局は日本人観光客に引き続き強い期待をもってくれているので、ポイントを絞ってキャンペーンを展開することが大切だ。

 2010年に2000万人という目標達成が厳しい状況になっているが、なるべく早い時期に目標値に達する努力をしていく。VWCのチームは今年、1700万人から1750万人にしようという気持ちで取り組んでおり、我々としても少なくとも1700万人まで上げることをめざしている。


−民主党政権が予想以上に観光に対して積極的に動いています。その影響についてJATAではどう見ていますか

金井 観光を政策の重要な柱のひとつとして位置付け、来年度の予算編成でも具体的に取り組みを示すなど、非常に心強い政策展開をしている。我々は、民としてどう行動していくのかが問われると思う。観光庁と共同で、政策にシンクロするような形で活動を展開していく必要がある。

 今のところインバウンドが中心だが、アウトバウンドも国内旅行もバランスよく発展するための取り組みを旅行業界として進めていく。その意味でVWCだけでなく、国内向けの「もう一泊、もう一度(ひとたび)」キャンペーンも引き続き力強く展開していかなければいけないと思っている。


−2010年には首都圏空港で座席数の増加が期待されます。一方で、地方空港の活性化も重要な課題ですが、2010年の日本の空についてどのように捉えていますか

金井 首都圏空港の拡張は、減便、廃止の傾向が進む中で大いに期待している。茨城空港などを含めて、フライトを利用する機会が増えるのは非常にいいこと。我々にとっても、うまく使えば大きなチャンスになりうる。例えば羽田からの長距離路線が出ると、地方からの乗継がよくなるなどいろいろなメリットがある。海外旅行の需要に対して相当プラスのインパクトを与える要素だと思う。

 地方については、定期便の減便はあるもののチャーター便が増え、2008年末のITCチャータールールの緩和が効果を出していることは間違いない。今後も地方のチャーターは大きな要素になると思う。航空会社は機材を効率化しているので中型機も使用しやすくなっており、海外旅行の利便性の確保につなげられるだろう。ただ、地方はCIQなど空港自体の問題があるほか、羽田が便利になることと相反する部分も出てくるので、微妙なバランスが必要だ。


−国内線のゼロコミッション化の話もあり、旅行会社と航空会社の関係が岐路にあるように感じられますが、お考えをお聞かせください

金井 対等な関係でお互いが相手の利点を使いあう、相互の協力によって全体の需要を創造するのが本来の姿。昨今の動きは必ずしもそうでなく、JATAとしての申し入れが、必ずしも顧みられていないこともある。双方ともに状況が厳しい中で、一方的にこちらに転嫁するだけで話が終わってしまうのは問題ではないか。こういう時こそお互いに共同して作戦を立て、需要創造に結びつけなければいけない。その視点が薄れてしまっている。

 とはいえ、今のまま推移するとも思っていない。航空会社も航空自由化、首都圏空港の発着枠拡大などがあり、競争の形や顧客政策も変化してくる。例えば航空会社はこの数年、ビジネス需要を追い求めていたが、経済危機で搭乗率が苦しくなった。そこで急に、旅行会社に観光客も運びたいといわれても難しい。もっと安定的に双方に益するような取り組みが必要になってくる。一方で旅行会社側も、連携などが当然起こってくるだろう。


−旅行会社は従来のビジネスモデルで立ち行かなくなっています。今後どのように進み、どこをめざすべきとお考えでしょうか

金井 その答えは企業のおかれた条件や状況を踏まえて、自分で見つけ出すしかない。ただ、サプライヤーからの手数料をベースにした経営がやりにくくなっているのは事実なので、消費者からフィーをいただく形がひとつのモデルとしてありうると思う。しかし、それは簡単にできることではなく、価値を見出せるフィーをいただくための工夫を求められ、どういう付加価値創造が可能なのかということにもかかってくる。

 今の旅行業界の苦悩は、「消費者が旅行会社に求めているものは何か」という問いに対する答えをなかなか見いだせないことにある。しかし、その中で間違いなくいえるのは、旅の形が変わっていることだ。流通経路の問題にもからむが、一番典型的な例が高速道路料金の休日1000円化。土日にぱっと車で出かけて、この辺で宿を探してみるかと携帯を開き、あれば泊まるし、なければ戻ってくることができてしまうようになった。

 今は消費者側に様々な選択肢があって、旅行商品も素材が瞬間的に単品で流通し、「計画性」がいらなくなっている。これは旅行会社が手掛ける旅と対極にある。そういうものが一般化してきた現実をきちんと捉えないと答えが出てこない。逆にいうと、ある程度の計画性がないとできない旅を、ビジネスの根本に据えるべきではないか。各社の得意分野をベースに、単独のお客様だけでは実現しにくい旅、目的を持って行く旅、思い付きでは経験できない特別の価値を持った旅を、我々自身が作りだしていくべきだろう。


―ありがとうございました


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