現地情報:冬のリヨン、光の饗宴をめぐる−昼と夜それぞれの魅力
クリスマスシーズンにあわせ、世界各国でイルミネーションのイベントが開催される。最近では日本でもこの季節になると、各地が色とりどりの光で彩られるニュースがメディアをにぎわせ、風物詩としても定着した感もある。イルミネーションに特化した“夜の観光”の可能性は今後、ますます世界各地で広がっていくだろう。そんなイルミネーションの中でも、毎年世界中から約400万人もの観光客が訪れるという、フランスのリヨンのイベント「フェット・デ・リュミエール」とともに、冬のリヨンの魅力を紹介する。
世界遺産の街全体がイルミネーションの投影対象に
フランス第2の都市リヨンの冬の一大イベント、光の饗宴「フェット・デ・リュミエール」は、今年で10年目を迎えた。世界遺産都市を彩るこの祭典の起源は古くは15世紀、欧州全土で猛威を振るったペスト終焉の際、聖母マリアに感謝を捧げたという言い伝えのほか、1852年にフルヴィエールの丘にあるノートルダム聖堂に聖母マリア像を建立し、キリスト教の「無原罪マリアのお宿りの日」(12月8日)にキャンドルを灯した習慣に由来する。
今日では宗教色は極めて薄く、街のライトアップをテーマにした市民参加型のフェスティバルとして、4日間にわたる期間、市内中心の約70ヶ所の建造物、通り、丘の斜面や川面までもが、光のアーティストたちの投影対象となっている。建物に照明美術作品を投射してアーティスティックな演出をするのがリヨン・スタイルのライトアップで、夜の帳が下りるにつれて斬新な光のべールをまとって闇の中に浮かび上がる、対岸から眺めるローヌ河西側の旧市街やフルヴィエールの丘の美しさは圧巻だ。
そして、イベントのクライマックスである12月8日は、一般の家庭も窓辺にいっぱいのルミニョン(「心の小さな灯び」の意)と呼ばれるキャンドルを灯し、街全体が光の魔法にかけられたような幻想的な雰囲気に包まれていく。今年は8日がイベントの最終日でもあり、文字通り温かい無数の灯りに包まれたフィナーレを迎えた。
日本ともゆかりのある、古典的な魅力の街並み
“光の街”リヨンの魅力は、もちろん夜だけに終わらない。世界遺産に指定され、17世紀にタイムスリップしたような気分が味わえる旧市街には、トラブールと呼ばれる迷路のような抜け道があちこちに残っている。それらは昔、絹職人たちが絹を雨に濡らさないように運んだ道であり、大戦中はレジスタントたちが暗躍した舞台でもある。
このトラブールは実は、日本と大きなかかわりがある。日本とリヨンの関係はそもそも、19世紀の絹の交易によってスタートし、かつては日本製の生糸が横浜港から出荷され、リヨンで美しい絹に生まれ変わったのである。市内には装飾美術館や織物美術館があり、現在も伝統的な絹織物のメーカーも多い。例えば、シャネルやディオール、サン・ローラン、ウンガロなどの老舗メゾン御用達のブランシーニ・フェリエのアトリエでは、シルクのスカーフのプリント実演が常時公開されており、見学が可能だ。半島地区の市庁舎や国立オペラ座に近くにあるので、立ち寄るのに便利である。
星付きレストランが集まるグルメも魅力
リヨンでは美食もはずせない。リヨンは市内および日帰り可能な近郊に、ミシュラン星付きのレストランが点在するグルメ都市だ。MOF(フランス最優秀職人賞)の会長を務め、ミシュラン3ツ星を1965年以来保持するポール・ボキューズ、2ツ星のニコラ・ル・ペック、アラン・シャペル、トロワグロ、ピラミッド、ジョルジュ・ブランなど世界的な名店がそろう。さらに市内には、ボキューズのブラッスリーが5店舗ある。
もちろん世界的な美食の都の醍醐味は、有名店に限らない。半島地区にあるメルシエール通りや古い石畳の残る旧市街には、ブッションと呼ばれる庶民的な伝統的ビストロが軒を並べる。リヨン風のサラダやクネル、黒ブダンやリヨン風ソーセージなど、カニュと呼ばれた絹職人たちの空腹を満たした郷土のB級グルメに舌鼓を打つリヨンっ子で、いつも賑わっている。
また、有名シェフが自ら素材の品定めに来るというポール・ボキューズ中央卸売市場は、フランスで1番美味といわれるブレス産の鶏やドンブ産のクネルなど、高級食材が豊富に揃ったローヌ地方の食文化の見事なウィンドーである。MOFがオーナーの鶏やチーズ専門店のほか、生牡蠣をその場で味わえるオイスターバー、さらに観光客でも参加が可能な料理のアトリエもある。また、日本でも人気上昇中のパティシエ、リシャール・セーヴの赤と黒で統一した卸売市場内のブティックは、2006年のベスト・デザイン賞を受賞。塩バター・キャラメルやマロンクリームのマカロンは絶品だ。アペリティフにぴったりのフォワグラや黒胡麻・ゴルゴンゾーラ入りのマカロン・サレをぜひ試してみたい。
▽フェット・デ・リュミエール
http://www.lumieres.lyon.fr/lumieres/sections/fr
世界遺産の街全体がイルミネーションの投影対象に
フランス第2の都市リヨンの冬の一大イベント、光の饗宴「フェット・デ・リュミエール」は、今年で10年目を迎えた。世界遺産都市を彩るこの祭典の起源は古くは15世紀、欧州全土で猛威を振るったペスト終焉の際、聖母マリアに感謝を捧げたという言い伝えのほか、1852年にフルヴィエールの丘にあるノートルダム聖堂に聖母マリア像を建立し、キリスト教の「無原罪マリアのお宿りの日」(12月8日)にキャンドルを灯した習慣に由来する。
今日では宗教色は極めて薄く、街のライトアップをテーマにした市民参加型のフェスティバルとして、4日間にわたる期間、市内中心の約70ヶ所の建造物、通り、丘の斜面や川面までもが、光のアーティストたちの投影対象となっている。建物に照明美術作品を投射してアーティスティックな演出をするのがリヨン・スタイルのライトアップで、夜の帳が下りるにつれて斬新な光のべールをまとって闇の中に浮かび上がる、対岸から眺めるローヌ河西側の旧市街やフルヴィエールの丘の美しさは圧巻だ。
そして、イベントのクライマックスである12月8日は、一般の家庭も窓辺にいっぱいのルミニョン(「心の小さな灯び」の意)と呼ばれるキャンドルを灯し、街全体が光の魔法にかけられたような幻想的な雰囲気に包まれていく。今年は8日がイベントの最終日でもあり、文字通り温かい無数の灯りに包まれたフィナーレを迎えた。
日本ともゆかりのある、古典的な魅力の街並み
“光の街”リヨンの魅力は、もちろん夜だけに終わらない。世界遺産に指定され、17世紀にタイムスリップしたような気分が味わえる旧市街には、トラブールと呼ばれる迷路のような抜け道があちこちに残っている。それらは昔、絹職人たちが絹を雨に濡らさないように運んだ道であり、大戦中はレジスタントたちが暗躍した舞台でもある。
このトラブールは実は、日本と大きなかかわりがある。日本とリヨンの関係はそもそも、19世紀の絹の交易によってスタートし、かつては日本製の生糸が横浜港から出荷され、リヨンで美しい絹に生まれ変わったのである。市内には装飾美術館や織物美術館があり、現在も伝統的な絹織物のメーカーも多い。例えば、シャネルやディオール、サン・ローラン、ウンガロなどの老舗メゾン御用達のブランシーニ・フェリエのアトリエでは、シルクのスカーフのプリント実演が常時公開されており、見学が可能だ。半島地区の市庁舎や国立オペラ座に近くにあるので、立ち寄るのに便利である。
星付きレストランが集まるグルメも魅力
リヨンでは美食もはずせない。リヨンは市内および日帰り可能な近郊に、ミシュラン星付きのレストランが点在するグルメ都市だ。MOF(フランス最優秀職人賞)の会長を務め、ミシュラン3ツ星を1965年以来保持するポール・ボキューズ、2ツ星のニコラ・ル・ペック、アラン・シャペル、トロワグロ、ピラミッド、ジョルジュ・ブランなど世界的な名店がそろう。さらに市内には、ボキューズのブラッスリーが5店舗ある。
もちろん世界的な美食の都の醍醐味は、有名店に限らない。半島地区にあるメルシエール通りや古い石畳の残る旧市街には、ブッションと呼ばれる庶民的な伝統的ビストロが軒を並べる。リヨン風のサラダやクネル、黒ブダンやリヨン風ソーセージなど、カニュと呼ばれた絹職人たちの空腹を満たした郷土のB級グルメに舌鼓を打つリヨンっ子で、いつも賑わっている。
また、有名シェフが自ら素材の品定めに来るというポール・ボキューズ中央卸売市場は、フランスで1番美味といわれるブレス産の鶏やドンブ産のクネルなど、高級食材が豊富に揃ったローヌ地方の食文化の見事なウィンドーである。MOFがオーナーの鶏やチーズ専門店のほか、生牡蠣をその場で味わえるオイスターバー、さらに観光客でも参加が可能な料理のアトリエもある。また、日本でも人気上昇中のパティシエ、リシャール・セーヴの赤と黒で統一した卸売市場内のブティックは、2006年のベスト・デザイン賞を受賞。塩バター・キャラメルやマロンクリームのマカロンは絶品だ。アペリティフにぴったりのフォワグラや黒胡麻・ゴルゴンゾーラ入りのマカロン・サレをぜひ試してみたい。
▽フェット・デ・リュミエール
http://www.lumieres.lyon.fr/lumieres/sections/fr
横浜で楽しめるリヨンのイルミネーション
日本でも2008年の日仏友好150周年をきっかけに
「大阪光のルネッサンス」がスタートするなど、建物
に照明美術作品を投射するリヨン・スタイルのライト
アップが注目を集めはじめている。2010年の冬には歴
史的建造物である横浜赤レンガ倉庫1号館前のスケート
リンクを舞台に、リヨンから光のアーティストを招請
した光のイベントの開催が予定されている。それに
先駆けて、今年の光の祭典の編集映像が「フェット・
デ・リュミエール〜リヨンから横浜への光のバトン〜」
と題され、2010年2月27日に赤レンガ倉庫のスケート
リンク前の壁に投射される。
ちなみに、今年の「フェット・デ・リュミエール」では、横浜市がリヨン市との姉妹
都市提携50周年を記念してキャンドルを贈った。その販売収益がフランス救世軍に寄付
されたことが、国営放送「France3」の特集番組で取り上げられ、話題となった。
▽横浜・リヨン姉妹都市提携50周年記念特別イベント
http://www.welcome.city.yokohama.jp/brilliant/pickevent/event2.html
リヨンでの滞在
フルヴィエールの丘の中腹あたりに佇む4ツ星ホテル
「ヴィラ・フロランティーヌ」は、エントランスの美し
いフレスコ画が印象的だ。館内はエレガントな雰囲気だ
が、かつては17世紀に建造された僧院であったという。
ここから一望する、オレンジ色の甍の並ぶルネッサンス
風の旧市街の風景は、文字通り“プティ・フローレンス”
といった趣。メイン・ダイニング「テラス・ド・リヨン」
で、MOFに輝くシェフ、ダヴィ・ティソの、伝統的なリヨ
ン料理とは一味違う洗練された軽いタッチのフレンチに舌鼓を打つのもいい。もう
1晩はリヨンから車で約30分のボージョレ地区にある、同じルレ・エ・シャトー系列の
シャトー・バニョールに宿を取り、田園気分を味わうのもおすすめだ。
取材協力:フランス観光開発機構、リヨン観光局、
レイルヨーロッパ・ジャパン、ルレ・エ・シャトー
取材:平野いづみ