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取材ノート:チャーターの新たな可能性−ジャルパックのファミリージェット

  • 2009年10月21日
チャーターの新たな可能性−方面志向から客層向けカスタマイズ
ターゲット向けの強いアピール力で集客


 ジャルパックは夏ピーク期の8月14日、JALウェイズ(JO)機のチャーターによる「ファミリージェットハワイツアー」を催行した。“家族専用機”であるこのファミリージェットは12歳未満の子ども連れ旅行者限定とし、家族旅行者に喜ばれるサービスを盛り込み、初の試みに関わらず362名を完売。2歳未満の乳幼児は31名で通常ツアーの約6倍の参加となった。催行後の問いあわせも多く、子連れ旅行の需要喚起に繋がったといえるだろう。一機丸ごとチャーターする上、客層を限定することでリスクは高まるが、客層別の需要促進という新たな可能性がうかがえる。この企画に携わったチャーター開発部グループ長の炭谷進氏と、ハワイ・アメリカ部ハワイグループアシスタントマネージャーの長嶋剛史氏に話を聞いた。


自身の体験から発案・企画、一度の催行で一気にニーズを把握

 ジャルパックでは昨年の夏、リゾート路線を中心にファミリー向けプランを企画していた。以前から「いっしょにベビちゃん」という乳幼児を連れての海外旅行商品はあったが、当時の行き先は近場のグアム。ハワイをデスティネーションに据えたくとも、「小さい子を連れている場合、ロングフライトが大きな壁だ」と、自身も幼児と乳幼児をもつ長嶋氏は考えた。「子連れで旅行をする人は、他人の迷惑をまず考えてしまう。親は周囲に気を遣ってしまい、リラックスできない」。そんな壁を取り除くことから取り組みがはじまったという。

 「チャーターなら、ニーズにあわせてカスタマイズすることができる」と、チャーター開発部の炭谷氏。子どもが泣き出したりしたとき、周りが自分と同じような年代の子どもを連れた人ならば“お互い様”と許しあい、気を遣わずにすむ。「そういう環境を作り出すことが重要」で、今回は機内に注目することに決めた。そのためには一機丸ごと買い取りのチャーターである必要があったのだ。


チャーターだからできるサービス、大きなセールスポイントに

 ファミリージェットの機内で受けられるサービスの内容はさまざまだが、目を引くのは授乳スペースの設置である。後方8席をカーテンで仕切った簡易の“授乳室”だが、乳幼児を連れた母親にとってこれほどありがたいものはない。実際、想像以上の利用者があったといい、需要に対し的確に供給したことになる。

 さらに、授乳室の位置にあわせ、0歳から2歳までの子連れ家族を後方にまとめ、子どもの年齢別に席を割り振る配慮もしている。乳幼児連れの旅行は現地での行動よりも、旅行先へ行く移動中の快適性を心配するためにあきらめる人が多い中、この授乳室は大きなセールスポイントになったことだろう。チャーターであるため使用機材が明確であることから、パンフレットでは座席配列図を一例として掲載し、授乳室のほかおむつ台設置トイレ、バシネット対応座席の位置を明確に表示することも可能であった。

 このほか、客室乗務員は子どもの扱いに長けたスタッフを選出。使用機材の通常の配置数にさらに3人を補充して、子どもの搭乗客への対応に備えた。また、チャイルドミールの充実や紙オムツの用意、帰国便での子ども向け映画の大画面上映など、約8時間を過ごす機内環境に力を入れているのがよくわかる。さらにツアーには宅配サービスのパルシステムやグリコ、DEAN&DELUCAの協賛を得て、協賛社提供の学習帳や粉ミルク、トート・バッグなどのオリジナルグッズを配布。機内ですぐに利用でき、好評であったという。


料金設定もニーズにマッチ、チャーターならではのメリット

 料金設定でも子連れ世代の事情を配慮。お盆休みの終わりのほうの値段が下がりはじめる時期の出発だが、自社の例年の平均よりもさらに5000円ほど安く料金を設定した。そこに加え「子ども料金半額」、さらに2歳未満の乳幼児は「100円」という料金設定でお得感を打ち出しており、旅行消費に二の足を踏みがちな層の背中を押した。もうひとつ、チャーターならではの料金設定が、席の確約と追加代金の設定だ。家族にとって座席配列は重要というニーズにも合致するもので、「2名窓側並びのおとなりシート」、「2名窓側並びおとなりシート+通路側空席」、「3名窓側並びお隣シート」、「4名真ん中4席並びシート」など細かく配列を設定。参加者の約3人に1人となる118名が座席アレンジを利用した。

 こうした料金設定も、「一機買いのチャーターだからこそできたこと」と両氏は口をそろえる。家族単位で採算がとれればいいわけで、数字は明かさなかったものの「収益性は高かった」という。子どもや乳幼児の料金を安く設定しても、より気軽に参加できるようになり、大人の参加人数を増やすことができた。グループは4名から5名が中心だが、10名前後のグループも散見し、乳幼児を連れた夫婦の場合、その両親もツアーに参加するケースが多くなるという家族旅行の動向を知るチャンスにもなった。

 結果として、参加者のうち、12歳未満の子どものシェアは年間の17%より15ポイント多い32%、2歳未満の子どもの参加率は、年間のわずか0.2%に対し同ツアーの場合は7.9%。企画の段階で長嶋氏は「お母さんが“産休中にしたいこと”の中には海外旅行があり、参加する子どもは小さい年齢になる」と分析していたものの、特に2歳未満の乳幼児の参加数は予想を上回ったという。


“手当て”を必要としている人に、セグメント別チャーターの将来性も視野

 もちろん、このツアーならではの課題もある。参加者へのアンケートによると、乳幼児や小さな子どもを連れた家族にはおおむね好評であったが、小学校高学年の子どもの家族からは「機内がちょっとうるさい」とコメントもされたという。また、おむつ交換台のあるトイレだけが混雑した事態があり、座席配分を考え直す必要もあると考える。ジャルパックではそういった課題もふまえ、来年度はグアムをデスティネーションとしたツアーを早い時期に実施するほか、ほかのデスティネーションの可能性も探っていく考えだ。

 FITが増え、直販で席を購入する客が増える昨今。失った分を補うのはチャーターだと、炭谷氏は期待する。「旅行をする客層はこれまでとは違ったニーズを持っている。今は値段だけで勝負する時代ではない。手当てを必要としている人に適切なケアができる、それこそが付加価値であり、チャーター便にはその可能性が無限にある」と語る。今後は車椅子利用者向けなど多様なセグメントに向けたツアー企画を実現したい考えで、これをきっかけに「多くの改善点や次の企画へのアイデアの糸口が見えた」と炭谷氏。「来年度は半期で5本くらいのペースでできれば」と、意欲をみせる。デスティネーションや出発時期に偏重しがちだったチャーター利用ツアーに、新たな展開が見えはじめた。


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