トップインタビュー:ユナイテッド航空 太平洋地区副社長ミュラー氏

  • 2009年9月8日
日本市場への投資は継続
新分野でビジネス広げる旅行会社に期待


 ユナイテッド航空(UA)の太平洋地区副社長にジェームス・ミュラー氏が就任した。経済危機と新型インフルエンザによる航空需要の低迷だけでなく、デルタ航空とノースウエスト航空の合併、2010年の首都圏空港再拡張などを控え、米系航空会社は経営環境の大きな変化の渦中にある。9年間の長期にわたり同役職を務めた前任者のマーク・シュワブ氏の後を引き継ぎ、さらなる発展に向けて采配を振るうミュラー氏に、現在の市場に対する認識や今後の方針を聞いた。


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−就任に際しての抱負は

ジェームス・ミュラー氏 (以下、敬称略) 就任した当初はちょうど新型インフルエンザ問題の渦中だったため、大変困難な時期を過ごしたが、おかげで日本でのビジネスというものをすばやく学ぶ好機になった。我々は活動的かつ強い企業として長い間日本マーケットにかかわってきた強みがある。私の役割は、引き続き前任者の築き上げてきた企業スタンスを保ち続けること、そして現在の強い日本チームとともにできる限り長い間成功し続けることだと考えている。


−日本市場の現況と動向をどのように見ていらっしゃいますか

ミュラー 5、6月と比べ7、8月は盛り返してきているように見えるが、特にレジャー客の増加は目覚しいものがある。お盆の、夏のピーク期なので驚くことではないものの、ホノルルや西海岸といったデスティネーションの需要が高まっている。一方、秋は一般的にビジネス客の集客時期だが、今年はこの業界の誰もが心配するとおり、あまり楽観視できない状況だ。


−新型インフルエンザによる影響は日本市場が大きかったと聞きますが

ミュラー 太平洋地区のうち、米国内に比べると日本と中国で大きな影響があったことは確か。ただし、現在はこれまでどおりに戻りつつある状況と考えたい。少し前には社員の出張を制限していた企業も確かにあったが、現在はそのような制限も見られなくなっている。


−これからの日本市場の傾向をどう見ていますか

ミュラー 日本はよく成熟した市場として、依然として太平洋地区での最も重要な位置を占めている。このスタンスは変わることはないが、日米間の渡航者数が減少傾向にあることには少々不安を感じている。こうした状況の中で、航空会社も対応策を見出し、流れを変える必要があることは明らかで、それが重要課題だ。まず日米双方の観光当局に働きかけ、サポートできることを模索しているところだ。



−これからチャレンジしていく課題はなんでしょうか

ミュラー 他社でも同じ問題に直面していると思うが、まずはこの経済危機を乗り越えなければならない。当社でも重要事項の順位付けを厳密にし、どこに投資していくべきかを吟味するなど財政を守ることを余儀なくされている。こうした状況下で、できる限りやりたいことをやれるよう機会を見出すことがチャレンジといえる。


−1月には新デルタ航空がスタートしますし、御社もコンチネンタル航空(CO)との協力関係もできあがり、新局面を迎えることでしょう。今後の戦略をお聞かせください


ミュラー 確かに、これから大変強い相手との競合が待っている。ただ、COのアライアンスによって南米へのアクセスが増幅される上、当社にも需要の高いニューヨーク線があるため、利用者にとって利便性が大幅に向上すると予想している。さらに全日空(NH)との協力関係にも注目しており、我々3社が提携することにより他アライアンスでは提供できなかった地域へのアクセスを可能にできると考えている。


−今後の地方需要の見通しと、需要取り込みの戦略についてお聞かせください

ミュラー 現在運航する関空/サンフランシスコ線はこの先もずっと続けていくつもりであり、その利便性の高さには自信を持っている。成田、関空圏以外の地域については、NHとの協力関係でより広がりを見せるのではないかと予想している。当社が長い間米軍へのサービスをしてきた歴史で沖縄から米国への乗り継ぎ便を毎日提供するなどの成功例があり、これは多くのお客様にとって利便性の高いものだと思っている。


−路線拡大や新規参入などの計画はありますか

ミュラー 長期的なプランとしては引き続き積極的に日本への投資を続け、NHとの協力関係をより強固なものに作り上げていく。経済も上向いてきており、将来的には非常に強い立場を確立し、より強大になっていく機会を得られるはずだ。関西や中部エリアでの拡大ももちろんしたいところだが、これらの地域は、実際は少数の企業客の動向による影響を受けやすいため、この先彼らのビジネスがどのように伸びていくのかを見ていく必要がある。それによって拡大などの戦略を立てていくことになるだろう。


−2010年以降、首都圏空港が拡張します。羽田空港を含む日米間路線の戦略をどのように考えていますか

ミュラー (成田・羽田空港の拡大は)日本の航空業界にとって大きな転機となる。現在のところ太平洋地区では航空会社同士の大きな競争はそれほどないが、当社としては常にそのエリアにある国に対し、平等に顧客獲得の機会を得られるような“開かれた空”であるよう強く提案しており、羽田でも同じように多くの航空会社が関与し、発展していければいいと考えている。(羽田からの)日米間フライトの取り扱いが増えることはNHとのつながりがより密接になるものと思われ、互いのサポートを強化することにもつながっていくはずだ。


−競合他社に対する御社の優位点はどこですか

ミュラー 他社に勝る点はいくつかあるが、顧客から選ばれるポイントとして有力な3点をあげるとすれば、まずファースト、ビジネスクラスに導入した、フルフラットシートなどを含むプレミアムキャビンだ。ほかに類を見ないサービスとして自信を持っている。

 2点目として、今年当社が力を入れている「コー・カスタマー・サービス(co-customer service)」の向上、つまり荷物の運搬から空港内でのスムースな移動などすべてを含めたサービスを強化することで、昨年に比べ格段によい評価を得ているという調査結果もでている。3点目は顧客が自らの旅行計画をコントロールできるようにしている点だ。インターネット・チェックインやマイレージを貯めたりアップグレードしたりと、自分で旅を組み立て、さまざまなサービスを受けることができるように工夫している。


−中でも特に重要なものは

ミュラー 当社は特にビジネスマンをターゲットとする航空会社であり、ビジネスクラスに関することは非常に重要だ。ただ、クラスだけでなくネットワークもより多様な商品やサービスを提供する必要性を見出しており、お客様にさまざまなオプションを提示することにより、より多くのニーズに応えていけるようになると信じている。


−日本のレジャーマーケットへの戦略は

ミュラー 旅行会社からのフィードバックに真摯に耳を傾けたところ、団体旅行の手続きを簡潔にすること、市場の要望にすばやく対応できるようにすること、の2点が心に残った。これに応えることによって団体旅行市場を拡大し続け、成功を手にすることができると感じている。以前、ファースト、ビジネスクラスのシート数の議論があったとき、市場のフィードバックを基に、特にボーイングB747型機の場合でエコノミークラスの座席数を増やしたという経緯もある。


−ゼロコミッションによって、旅行会社との関係は変化したでしょうか

ミュラー ゼロコミッション後といえども、当社が長い間培ってきた日本の旅行会社との関係は特に変わっていない。依然として多くのチケットは旅行会社で発券されており、従来どおり旅行会社は顧客の要望を満たす商品を用意していくだろう。当社はいつでも新風を巻き込んでくれる旅行会社を歓迎しており、たとえば団体旅行などの新しい分野でビジネスを広げていけるチャンスがあるのであれば、そうした旅行会社とも積極的にビジネスを築き上げていきたいと考えている。

 当社は日本市場での長い経験を有しており、今後も引き続き市場の中での競争力を高めるためにプロダクトやサービスを強化、充実していく。そのためにも、旅行業界のパートナーと相互に利益をもたらせる関係を継続的に構築していきたいと願っている。


ありがとうございました


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