現地レポート:スイス−世界遺産のベルニナ線、途中下車の旅
サン・モリッツからティラーノへ、スイス商品拡充のカギ握るベルニナ線
〜世界遺産と多様な自然と文化の違いがポイントに〜
スイス東部のエンガディン地方への注目が高まっている。2008年、この地域を走る「レーティッシュ鉄道アルブラ線/ベルニナ線と周辺の景観」が世界遺産に登録されたことがフックとなり、ベルニナ山群を含めた「スイス3大名峰」をうたう商品が造成され、売れ行きも順調だ。5月末に開催された「スイス・トラベル・マート(STM)」でも、エンガディン・サンモリッツ観光局のブースは日本をはじめ、世界各地の旅行会社の担当者との予約でいっぱいだった。ポストツアーでは短期間ではあったが、途中下車をして沿線の見どころを訪れ、車窓の旅以外の楽しさを発見。新しい商品造成の可能性を垣間見た。
サン・モリッツ/ティラーノの沿線の魅力
ベルニナ線のサン・モリッツ/ティラーノ間の車窓からは、3つの氷河や氷河湖ラーゴ・ビアンコ、ベルニナ・アルプスの主峰ピッツ・ベルニナをはじめ頂上に雪を頂く数々の名峰など、美しくも迫力ある風景を次々と見ることができる。ベルニナ線の最高地点である標高2253メートルのオスピツィオ・ベルニナを越えると、列車はゆっくりとカーブを繰り返しながら標高約1000メートルを降下し、イタリア語圏のポスキアーヴォへ。その間、初夏に訪れたなら一面が雪に覆われた銀世界から、タンポポやクロッカスが咲く春の山、半袖姿の人々が闊歩する夏の街の風景まで、わずか2時間30分の間に四季を感じる変化に富んだ景色を楽しめる。ドイツ語圏からイタリア語圏へ走り抜けるため、車窓から見られる町並みの雰囲気に変化があるのもこの区間ならではの魅力だ。
車窓の風景も魅力だが、それだけで終わらせずにぜひ、途中の小さな町に滞在して周辺の魅力を味わいたい。サン・モリッツはもとより、ポントレジーナ、ディボレッツァ、ポスキアーヴォなど、ヨーロッパの人々にとって冬のスキーリゾートとしての人気が高い町が多くあり、観光地としての受入れが十分に整っている。日本人旅行者には、この土地の多様性が楽しめる春から秋をすすめたい。どの町も初心者から経験者まで楽しめるハイキングコースが整っており、ケーブルカーを利用すれば手軽にベルニナ・アルプスの大パノラマを望める。展望を満喫したら麓の町をめざし、花々が咲き乱れる中をゆっくり下ろう。そして、地元ならではの食材を使った伝統料理にも挑戦したい。美しい景色の中で、この地域が育んだ料理を楽しむのも旅の良い思い出になる。ちなみに、この地域は黄葉も定評があり、山全体がカラマツの黄色に染まる秋も、異なる風情が楽しめるはずだ。
また、この地域はイタリアと国境を接しているため、ミラノ・イン/アウトの商品造成が可能であることにも注目したい。現地オペレーターの担当者によると、スイスは鉄道網が発達していることから、ミラノ発でも満足度の高いスイスモノ商品ができるという。ミラノは日本航空(JL)が運航する直行便があり、日系航空会社を好むシニア層の支持があるようだ。
ディアボレッツァで雪を頂く名峰と雄大な氷河を堪能
ベルニナ・ディアボレッツァ駅はサン・モリッツから40分、ベルニナ急行の発着駅ポントレジーナからは20分で到着する。駅のすぐ近くには、通年で運行するケーブルカーがあり、すぐに展望台へアクセスできる。徐々に目の前に雪をかぶった山肌が近づいてきて迫力があり、移動手段以上の楽しみがある。
10分ほどで標高2978メートルの展望台に到着。そこは白銀の別世界だ。展望台からは眼下に流れるペルス氷河や、氷河の奥にはベルニナ・アルプスの最高峰のひとつであるピッツ・パリュをはじめ4000メートル級の白い峰々が連なっていて、その眺めは圧巻だ。万が一曇っていても、標高が高いことから天候の変化も早く、晴れ間に遭遇する可能性も高い。
展望台には名峰が一望できるレストランがあり、ここでランチやティータイムの時間をとることをおすすめしたい。スキー客で賑わいを見せる冬以外は、混みあうこともあまりなく、ゆっくりと周囲の山々を眺めながらエンガディン地方の郷土料理やスイスの定番料理を堪能できる。また、景色を一望できる野外ジャグジーもある。大人2人が入れる小さなサイズなのでグループには適さないが、FITにはぜひすすめたい。この景色に包まれながらのジャグジーは特別な体験となるだろう。ちなみに、ジャグジーは予約が必要だ。
アクティビティでは、氷河横断トレッキングがある。ハイキングを好む健脚な旅行者にはペルス氷河を横断し、ランチ休憩をはさんで午後はモルテラッチ氷河を下るコースに挑戦してほしい。所要時間はガイド付きで約5時間。予約は展望台の隣の専用窓口で当日、受け付けとなる。初心者にはベルニナ・デァオボレッツァ駅の2つ手前にあるモルテラッチ駅からモルテラッチ氷河の末端まで行くコースがおすすめ。往復約1時間30分で、比較的平坦な道が多いので、気軽に体験できる。
イタリアの香りするポスキアーヴォ、ベルニナ線のシンボルも
ディアボレッツァから再度列車に乗り、標高最高地点であるオスピツィオ・ベルニナを過ぎ列車が降下すると空気も温かみを帯び、車窓からは新緑の木々や草原をはじめ、タンポポやクロッカスなどの花々が見えてくる。小さな村々も可愛いらしく、絵本の世界のような景色が続き、見入っているとそのうちにイタリア語圏の町、ポスキアーヴォに到着する。人口5000人の小さな山麓の町は、周囲の山々が映るポスキアーヴォ湖の湖畔でランチを楽しむ人や、オープンカフェでのんびり会話を楽しむ人々の姿が見られ、先ほどまでの山岳風景とはうって変わった可愛らしい印象の町だ。
この町を基点にぜひ訪れたいのが、ブルージオ/カンパッチオ駅間にある石造のループ橋。この旅程のハイライトともいえるアルブラ/ベルニナ線のシンボル的な存在で、このループ橋を走る列車の映像や写真を見たことがある人も多いだろう。360度ぐるりと回って高度を変えていく構造だが、トンネルに入らずループが完全に露出しているものは世界でも珍しい。車窓からではなかなか全体を見ることができないが、ポスキアーヴォから10分ぐらい車を走られたところに橋の全体を見ることができる場所があり、簡単にループ橋の全景を写真に収めることができる。鉄道好きにはもちろん、そうでない人にも一見の価値のある場所だ。
町自体にも魅力があり、特に広場は中世の雰囲気を残すパステルカラーの建物に囲まれていて趣がある。近くには19世紀にスイス人画家によって描かれたこの地域の絵を多く展示しているポスキアーヴォ美術館があり、今自分が訪れている町の当時の様子が偲ばれ興味深い。日本でもファンの多いスイス人画家フェルディナンド・ホドラーの作品もいくつかある。美術館を訪れた後は、広場にあるオープンカフェに座ってイタリアンジェラードなどを注文して、その土地の風を感じながらゆっくりすごすのも良いだろう。
〜世界遺産と多様な自然と文化の違いがポイントに〜
スイス東部のエンガディン地方への注目が高まっている。2008年、この地域を走る「レーティッシュ鉄道アルブラ線/ベルニナ線と周辺の景観」が世界遺産に登録されたことがフックとなり、ベルニナ山群を含めた「スイス3大名峰」をうたう商品が造成され、売れ行きも順調だ。5月末に開催された「スイス・トラベル・マート(STM)」でも、エンガディン・サンモリッツ観光局のブースは日本をはじめ、世界各地の旅行会社の担当者との予約でいっぱいだった。ポストツアーでは短期間ではあったが、途中下車をして沿線の見どころを訪れ、車窓の旅以外の楽しさを発見。新しい商品造成の可能性を垣間見た。
サン・モリッツ/ティラーノの沿線の魅力
ベルニナ線のサン・モリッツ/ティラーノ間の車窓からは、3つの氷河や氷河湖ラーゴ・ビアンコ、ベルニナ・アルプスの主峰ピッツ・ベルニナをはじめ頂上に雪を頂く数々の名峰など、美しくも迫力ある風景を次々と見ることができる。ベルニナ線の最高地点である標高2253メートルのオスピツィオ・ベルニナを越えると、列車はゆっくりとカーブを繰り返しながら標高約1000メートルを降下し、イタリア語圏のポスキアーヴォへ。その間、初夏に訪れたなら一面が雪に覆われた銀世界から、タンポポやクロッカスが咲く春の山、半袖姿の人々が闊歩する夏の街の風景まで、わずか2時間30分の間に四季を感じる変化に富んだ景色を楽しめる。ドイツ語圏からイタリア語圏へ走り抜けるため、車窓から見られる町並みの雰囲気に変化があるのもこの区間ならではの魅力だ。
車窓の風景も魅力だが、それだけで終わらせずにぜひ、途中の小さな町に滞在して周辺の魅力を味わいたい。サン・モリッツはもとより、ポントレジーナ、ディボレッツァ、ポスキアーヴォなど、ヨーロッパの人々にとって冬のスキーリゾートとしての人気が高い町が多くあり、観光地としての受入れが十分に整っている。日本人旅行者には、この土地の多様性が楽しめる春から秋をすすめたい。どの町も初心者から経験者まで楽しめるハイキングコースが整っており、ケーブルカーを利用すれば手軽にベルニナ・アルプスの大パノラマを望める。展望を満喫したら麓の町をめざし、花々が咲き乱れる中をゆっくり下ろう。そして、地元ならではの食材を使った伝統料理にも挑戦したい。美しい景色の中で、この地域が育んだ料理を楽しむのも旅の良い思い出になる。ちなみに、この地域は黄葉も定評があり、山全体がカラマツの黄色に染まる秋も、異なる風情が楽しめるはずだ。
また、この地域はイタリアと国境を接しているため、ミラノ・イン/アウトの商品造成が可能であることにも注目したい。現地オペレーターの担当者によると、スイスは鉄道網が発達していることから、ミラノ発でも満足度の高いスイスモノ商品ができるという。ミラノは日本航空(JL)が運航する直行便があり、日系航空会社を好むシニア層の支持があるようだ。
ディアボレッツァで雪を頂く名峰と雄大な氷河を堪能
ベルニナ・ディアボレッツァ駅はサン・モリッツから40分、ベルニナ急行の発着駅ポントレジーナからは20分で到着する。駅のすぐ近くには、通年で運行するケーブルカーがあり、すぐに展望台へアクセスできる。徐々に目の前に雪をかぶった山肌が近づいてきて迫力があり、移動手段以上の楽しみがある。
10分ほどで標高2978メートルの展望台に到着。そこは白銀の別世界だ。展望台からは眼下に流れるペルス氷河や、氷河の奥にはベルニナ・アルプスの最高峰のひとつであるピッツ・パリュをはじめ4000メートル級の白い峰々が連なっていて、その眺めは圧巻だ。万が一曇っていても、標高が高いことから天候の変化も早く、晴れ間に遭遇する可能性も高い。
展望台には名峰が一望できるレストランがあり、ここでランチやティータイムの時間をとることをおすすめしたい。スキー客で賑わいを見せる冬以外は、混みあうこともあまりなく、ゆっくりと周囲の山々を眺めながらエンガディン地方の郷土料理やスイスの定番料理を堪能できる。また、景色を一望できる野外ジャグジーもある。大人2人が入れる小さなサイズなのでグループには適さないが、FITにはぜひすすめたい。この景色に包まれながらのジャグジーは特別な体験となるだろう。ちなみに、ジャグジーは予約が必要だ。
アクティビティでは、氷河横断トレッキングがある。ハイキングを好む健脚な旅行者にはペルス氷河を横断し、ランチ休憩をはさんで午後はモルテラッチ氷河を下るコースに挑戦してほしい。所要時間はガイド付きで約5時間。予約は展望台の隣の専用窓口で当日、受け付けとなる。初心者にはベルニナ・デァオボレッツァ駅の2つ手前にあるモルテラッチ駅からモルテラッチ氷河の末端まで行くコースがおすすめ。往復約1時間30分で、比較的平坦な道が多いので、気軽に体験できる。
イタリアの香りするポスキアーヴォ、ベルニナ線のシンボルも
ディアボレッツァから再度列車に乗り、標高最高地点であるオスピツィオ・ベルニナを過ぎ列車が降下すると空気も温かみを帯び、車窓からは新緑の木々や草原をはじめ、タンポポやクロッカスなどの花々が見えてくる。小さな村々も可愛いらしく、絵本の世界のような景色が続き、見入っているとそのうちにイタリア語圏の町、ポスキアーヴォに到着する。人口5000人の小さな山麓の町は、周囲の山々が映るポスキアーヴォ湖の湖畔でランチを楽しむ人や、オープンカフェでのんびり会話を楽しむ人々の姿が見られ、先ほどまでの山岳風景とはうって変わった可愛らしい印象の町だ。
この町を基点にぜひ訪れたいのが、ブルージオ/カンパッチオ駅間にある石造のループ橋。この旅程のハイライトともいえるアルブラ/ベルニナ線のシンボル的な存在で、このループ橋を走る列車の映像や写真を見たことがある人も多いだろう。360度ぐるりと回って高度を変えていく構造だが、トンネルに入らずループが完全に露出しているものは世界でも珍しい。車窓からではなかなか全体を見ることができないが、ポスキアーヴォから10分ぐらい車を走られたところに橋の全体を見ることができる場所があり、簡単にループ橋の全景を写真に収めることができる。鉄道好きにはもちろん、そうでない人にも一見の価値のある場所だ。
町自体にも魅力があり、特に広場は中世の雰囲気を残すパステルカラーの建物に囲まれていて趣がある。近くには19世紀にスイス人画家によって描かれたこの地域の絵を多く展示しているポスキアーヴォ美術館があり、今自分が訪れている町の当時の様子が偲ばれ興味深い。日本でもファンの多いスイス人画家フェルディナンド・ホドラーの作品もいくつかある。美術館を訪れた後は、広場にあるオープンカフェに座ってイタリアンジェラードなどを注文して、その土地の風を感じながらゆっくりすごすのも良いだろう。
保存食が伝統の味
深い山と谷に囲まれたエンガディン地方では、雪に
閉ざされる長い冬を乗り切るため、保存食をベースに
した食文化が育まれてきた。保存食といっても、上手
に乾燥させているので味が凝縮され、さらに旨味が引
き立ち、そのまま食べても料理の隠し味として利用
してもおいしい。この土地ならではの味をプラス
すれば、旅をする場所への思い、楽しみがさらに増す
だろう。
■ビュンドナー・フライシュ
牛肉の塊を風通しの良い場所につるして乾燥させ、
薄く削ったもの。生ハムのような風味が前菜やワイン
のおつまみに最適で、噛めば噛むほど、肉の旨味が口
いっぱいに広がる。ハイキングにはこの肉とチーズと
フランスパンを持参するのがスイス流。
■ビュンドナー・ゲルシュテンズッペ
細かく切って日干しした野菜と麦を、ビュンドナー
・フライシュやベーコン、にんじん、セロリ、ねぎな
どの野菜と一緒にじっくり煮込んだスープ。一旦乾燥
させるので、各食材からの出汁が際立ち、コクのある
クリーミーな味わいとなる。冬の定番料理だが、夏
でも多くのレストランで食べられる。
■エンガディナー・ヌストルテ
ヌスはナッツの意味。クルミをキャラメルで煮て、
固めの生地で焼いたお菓子。甘すぎない日本人
好みの味であることと、賞味期間が2ヶ月あること
から、お土産にも最適。サン・モリッツの「ホテル・
ハウザー」のものが有名だが、エンガディン地方
の特産品でもある。
取材協力:スイス政府観光局、スイス・インターナショナル・エアラインズ
取材:本誌 高橋絵美