現地レポート:ドイツ−ロストックとルール文化都市
北部の新素材、シュベリン城と新生ルール地域の可能性
新デスティネーションの開発進む、多様性の再認識を
多様な見どころがあるにもかかわらず、ドイツのパッケージツアーの多くがロマンチック街道を中心とした南部に集中している。わかりやすいコピーやノイシュバンシュタイン城といったランドマークがあり、人気が高く売りやすいのがその理由の一つだが、今後、送客を増やすには旅行会社側が広い視野でドイツを知り、その魅力を商品や提案に反映していくことが必要だ。ドイツ観光局(GNTB)ではデスティネーション開発を強化しており、今年の「ドイツ・トラベル・マート」(GTM)も初めて、旧東ドイツ沿岸地方で開催。これにあわせて開催都市のロストック、さらに2010年のGNTBのテーマである「ヨーロッパの文化都市ルール」地域を視察し、新たなドイツ旅行に繋がる素材に出会った。
北部のランドマークになる期待、シュベリン城
ロストックはバルト海から内陸に遡った旧東ドイツ最大の港湾都市で、中世にはハンザ同盟都市として栄えた歴史を持つ。港からは帆船によるクルーズが楽しめ、バルト海に面したヴァルネミュンデは高級保養地として夏は賑わいを見せる。まずはロストックを基点にした観光素材を視察。
日本人への訴求力ある素材として注目されるのが、ロストックから車で2時間ほどの距離にある「シュベリン城」。19世紀半ば、メクレンブルク侯爵によって建てられた北ドイツを代表する美しい城だ。城内は一部が州政府の議事堂として使われているほか、17世紀から19世紀の美術品を集めたミュージアムがあり、特に磁器のコレクションが素晴らしい。
一番の魅力は6つの庭園を巡りながら、水面に映る城やボートが浮かぶシュベリン湖を眺めることだ。春はガーデンショーが開催され、花と城と湖のコンビネーションがことさら美しい。圧倒的な人気を誇るノイシュバンシュタイン城は南アルプスの山々を背景にした縦長のシルエットが美しい森の城だが、シュベリン城は湖を背景に幅広く堂々とした佇まいの水と庭園に囲まれた城で、南のノイシュバンシュタン城、北のシュベリン城という対比したアプローチも可能だ。ベルリンにハンザ都市、シュベリン城を加えた旅程も可能で、すでにこうした旅程のツアーを販売している旅行会社もある。
ドイツの風土、農業と酪農に触れる
その土地の風土に触れることも、旅の印象を左右する重要な要素。そんな体験ができる場として利用できるのが、ロストックから22キロメートルの距離にあるマナーハウス「ホーエン・ルーコヴ」。ここが他のマナーハウスと異なっているのは、1700頭の乳牛と1400ヘクタールの農地を持ち、本格的に酪農と農業を営んでいること。オーナーはそのことにとても誇りを持っている。
通常はB&Bとして13ベッドを提供。宿泊は難しいが、移動中のレストランとしての利用が可能だ。常設のレストランはないが、要望に応じて最大120人の食事がセッティング可能で、数年前のドイツ・サミットの際は食事会が開催された。火曜日の午後は城と農場の見学ツアーを実施しており、グループで訪れる場合やそれ以外の日を希望する場合は予約が必要だ。
このほか、ロストックから車で30分くらいの場所にある「エアレープニス・ドルフ」もある。直訳すると「体験村」で、搾乳、パン作り、キャンドル作り、トラクターライドなどが体験できる。1000人程度が収容できるカフェやパーティースペースもあり、地元の食材を豊富に使った食事やジャズのライブ、ダンスなどが楽しめ、移動中の食事やカフェの場にも利用可能だ。ワイン、ハチミツ、ジャムなどの農産物をはじめ、カントリーテイストのクラフトも充実しており、特に女性には喜ばれるだろう。
ルール工業地帯の世界遺産
かつて炭鉱と鉄鋼業が盛んだったルール地方。ルール工業地帯のイメージが強いが、現在は炭坑跡が世界遺産に登録され、当時の建物をミュージアムやエキシビション会場として利用するなど、新しい芸術と文化の発信地として認知を高めつつある。GNTBは2010年のテーマを「ヨーロッパの文化都市ルール」とし、かつての工業地帯であるルール地方が芸術、文化、経済の中心都市として生まれ変わった様子に焦点をあてる。
エッセンにあるツォルフェライン炭坑は、今年創立90周年を迎えたバウハウスの建築様式にのっとって1932年に造られた。当時最新にして最大、「世界一美しい石炭抗」と呼ばれ、現在では重要な産業記念碑としてユネスコの世界遺産に登録されている。広大な施設はガイドの案内によって見学でき、当時の状態がそのまま保存された様子に臨場感と想像力が刺激される。事前に予約すれば「建築」や「機械」などテーマを特定したツアーもできる。
敷地の50%がオフィスやホール、ミュージアム、映画館などとして利用されており、そのなかの「レッド・ドット・デザイン美術館」では自動車から家具、時計やアクセサリーに至るまで、世界的なデザインコンテスト「レッド・ドット賞」の受賞作1000点あまりが展示されている。また、敷地内のレストラン「カジノ・ツォルフェライン」は明るく洗練された雰囲気で、上質のサービスと料理を提供してくれる。
生まれ変わったルール地方の魅力と可能性
オーバーハウゼンにあるドイツ最大規模のショッピングセンターCentorO(チェントロ)の隣にある「ガゾメーター」も注目したい。1929年にガスタンクとして造られたが、現在は異色の展示会場に変身。年間200万人が訪れる街のランドタワーとなっている。高さ117メートル、直径68メートルのタンクの中は窓ひとつなく、黒く光る壁に囲まれている。今年のテーマは「ソーラーシステム」で、赤く光る太陽や頭上に浮かぶ巨大な月、壁に展示された写真の数々が、美しくも不思議な雰囲気を醸し出している。
このほか、「ルール地帯の穀物倉庫」と呼ばれたデュイスブルクの運河沿いの地域も、近代的なオフィスビルや博物館、美術館、住宅、公園などが建ち並ぶ経済・文化地区に変身した。テュッセンの製鉄所跡もレクリエーション、スポーツ、文化施設を併設する人気スポットに生まれ変わったほか、当時の姿を残す製鉄所跡の見学も可能だ。
これらの観光素材はマスツーリズムでは難しいかもしれないが、地域内のデュッセルドルフには日本人のビジネス渡航が多く、週末の休日の過ごし方として、業務渡航の手配の際に伝えたい。また、産業観光、デザインといった特別なテーマを持った素材が多く、レジャーのみならず視察などの団体旅行の可能性もある。特に、新生したこの地域は、日本でも注目されている地域再生の視察テーマとしても利用できるだろう。何かのきっかけに企画・提案できるような多様なテーマを持っておきたい。
新デスティネーションの開発進む、多様性の再認識を
多様な見どころがあるにもかかわらず、ドイツのパッケージツアーの多くがロマンチック街道を中心とした南部に集中している。わかりやすいコピーやノイシュバンシュタイン城といったランドマークがあり、人気が高く売りやすいのがその理由の一つだが、今後、送客を増やすには旅行会社側が広い視野でドイツを知り、その魅力を商品や提案に反映していくことが必要だ。ドイツ観光局(GNTB)ではデスティネーション開発を強化しており、今年の「ドイツ・トラベル・マート」(GTM)も初めて、旧東ドイツ沿岸地方で開催。これにあわせて開催都市のロストック、さらに2010年のGNTBのテーマである「ヨーロッパの文化都市ルール」地域を視察し、新たなドイツ旅行に繋がる素材に出会った。
北部のランドマークになる期待、シュベリン城
ロストックはバルト海から内陸に遡った旧東ドイツ最大の港湾都市で、中世にはハンザ同盟都市として栄えた歴史を持つ。港からは帆船によるクルーズが楽しめ、バルト海に面したヴァルネミュンデは高級保養地として夏は賑わいを見せる。まずはロストックを基点にした観光素材を視察。
日本人への訴求力ある素材として注目されるのが、ロストックから車で2時間ほどの距離にある「シュベリン城」。19世紀半ば、メクレンブルク侯爵によって建てられた北ドイツを代表する美しい城だ。城内は一部が州政府の議事堂として使われているほか、17世紀から19世紀の美術品を集めたミュージアムがあり、特に磁器のコレクションが素晴らしい。
一番の魅力は6つの庭園を巡りながら、水面に映る城やボートが浮かぶシュベリン湖を眺めることだ。春はガーデンショーが開催され、花と城と湖のコンビネーションがことさら美しい。圧倒的な人気を誇るノイシュバンシュタイン城は南アルプスの山々を背景にした縦長のシルエットが美しい森の城だが、シュベリン城は湖を背景に幅広く堂々とした佇まいの水と庭園に囲まれた城で、南のノイシュバンシュタン城、北のシュベリン城という対比したアプローチも可能だ。ベルリンにハンザ都市、シュベリン城を加えた旅程も可能で、すでにこうした旅程のツアーを販売している旅行会社もある。
ドイツの風土、農業と酪農に触れる
その土地の風土に触れることも、旅の印象を左右する重要な要素。そんな体験ができる場として利用できるのが、ロストックから22キロメートルの距離にあるマナーハウス「ホーエン・ルーコヴ」。ここが他のマナーハウスと異なっているのは、1700頭の乳牛と1400ヘクタールの農地を持ち、本格的に酪農と農業を営んでいること。オーナーはそのことにとても誇りを持っている。
通常はB&Bとして13ベッドを提供。宿泊は難しいが、移動中のレストランとしての利用が可能だ。常設のレストランはないが、要望に応じて最大120人の食事がセッティング可能で、数年前のドイツ・サミットの際は食事会が開催された。火曜日の午後は城と農場の見学ツアーを実施しており、グループで訪れる場合やそれ以外の日を希望する場合は予約が必要だ。
このほか、ロストックから車で30分くらいの場所にある「エアレープニス・ドルフ」もある。直訳すると「体験村」で、搾乳、パン作り、キャンドル作り、トラクターライドなどが体験できる。1000人程度が収容できるカフェやパーティースペースもあり、地元の食材を豊富に使った食事やジャズのライブ、ダンスなどが楽しめ、移動中の食事やカフェの場にも利用可能だ。ワイン、ハチミツ、ジャムなどの農産物をはじめ、カントリーテイストのクラフトも充実しており、特に女性には喜ばれるだろう。
ルール工業地帯の世界遺産
かつて炭鉱と鉄鋼業が盛んだったルール地方。ルール工業地帯のイメージが強いが、現在は炭坑跡が世界遺産に登録され、当時の建物をミュージアムやエキシビション会場として利用するなど、新しい芸術と文化の発信地として認知を高めつつある。GNTBは2010年のテーマを「ヨーロッパの文化都市ルール」とし、かつての工業地帯であるルール地方が芸術、文化、経済の中心都市として生まれ変わった様子に焦点をあてる。
エッセンにあるツォルフェライン炭坑は、今年創立90周年を迎えたバウハウスの建築様式にのっとって1932年に造られた。当時最新にして最大、「世界一美しい石炭抗」と呼ばれ、現在では重要な産業記念碑としてユネスコの世界遺産に登録されている。広大な施設はガイドの案内によって見学でき、当時の状態がそのまま保存された様子に臨場感と想像力が刺激される。事前に予約すれば「建築」や「機械」などテーマを特定したツアーもできる。
敷地の50%がオフィスやホール、ミュージアム、映画館などとして利用されており、そのなかの「レッド・ドット・デザイン美術館」では自動車から家具、時計やアクセサリーに至るまで、世界的なデザインコンテスト「レッド・ドット賞」の受賞作1000点あまりが展示されている。また、敷地内のレストラン「カジノ・ツォルフェライン」は明るく洗練された雰囲気で、上質のサービスと料理を提供してくれる。
生まれ変わったルール地方の魅力と可能性
オーバーハウゼンにあるドイツ最大規模のショッピングセンターCentorO(チェントロ)の隣にある「ガゾメーター」も注目したい。1929年にガスタンクとして造られたが、現在は異色の展示会場に変身。年間200万人が訪れる街のランドタワーとなっている。高さ117メートル、直径68メートルのタンクの中は窓ひとつなく、黒く光る壁に囲まれている。今年のテーマは「ソーラーシステム」で、赤く光る太陽や頭上に浮かぶ巨大な月、壁に展示された写真の数々が、美しくも不思議な雰囲気を醸し出している。
このほか、「ルール地帯の穀物倉庫」と呼ばれたデュイスブルクの運河沿いの地域も、近代的なオフィスビルや博物館、美術館、住宅、公園などが建ち並ぶ経済・文化地区に変身した。テュッセンの製鉄所跡もレクリエーション、スポーツ、文化施設を併設する人気スポットに生まれ変わったほか、当時の姿を残す製鉄所跡の見学も可能だ。
これらの観光素材はマスツーリズムでは難しいかもしれないが、地域内のデュッセルドルフには日本人のビジネス渡航が多く、週末の休日の過ごし方として、業務渡航の手配の際に伝えたい。また、産業観光、デザインといった特別なテーマを持った素材が多く、レジャーのみならず視察などの団体旅行の可能性もある。特に、新生したこの地域は、日本でも注目されている地域再生の視察テーマとしても利用できるだろう。何かのきっかけに企画・提案できるような多様なテーマを持っておきたい。
ドイツ・トラベル・マート、開催
ドイツ観光局(GNTB)は5月、「ドイツ・トラベル・
マート(GTM)」を北ドイツのロストックで開催した。
世界43ヶ国からバイヤーや報道関係者などが612人、日
本からも29人が参加した。
2008年のドイツ全体の宿泊者数は前年比2%増だが、
世界的な経済危機の影響により2009年は2.5%減と予想
される。しかしGNTBのCEOであるペトラ・へードルファ
ー氏は、他のヨーロッパ諸国に比べると1日あたりの旅
費が67ユーロと安価であることを強調。さらにウォーキ
ングやサイクリングなどアウトドアのインフラ整備、北
ドイツを含む新しいデスティネーションの開発などドイ
ツの旅の魅力をアピールし、今後の早期回復をはかると
語った。
そのほか、誘客のきっかけになる今後の周年予定とし
て、2010年にマイセン陶器の300周年、10年に1度行われ
るオーバーアマガウのキリスト受難劇、ミュンヘンのオ
クトーバーフェスト200周年、ドイツ鉄道の175周年、
2011年にモーターカー125周年、FIFA女子サッカーの
ドイツ開催など、今後多数のイベントが開催されること
を紹介した。
取材協力:ドイツ観光局
取材:戸谷美津子