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現地レポート:パリ、変貌を遂げる古くて新しい街

  • 2009年6月5日
FIT向け、パリの新情報〜最先端の情報を持つ日本人観光客に追いつくために〜

 2008年にパリを訪れた外国人観光客の数は2900万人で、そのうち日本人観光客は約65万人を数える。従来のグルメ、ショッピング、観光だけでは物足りないリピーターのFITが多く、パリジャンやパリジェンヌになった気分で“暮らすような旅”への需要が相変わらず増え続けている。「日本人観光客は、最先端のパリ情報を持ってやってくる。時には、私達もそれを参考にしているほどだ」と、パリ市観光・会議局のパトリシア・バルテルミー氏も語る。だからこそ、旅行業界の従事者も最新のパリ情報を常にアップデートしておくことが求められる。今回は現地取材で収集した最新情報の中から、パリの新しさを求めるFITにぴったりの素材をまとめた。


より環境に優しい街づくりの推進で、新たな交通網が登場

 2008年6月、定期水上バス「ヴォゲオ」が登場した。運行区間はオーステルリッツ駅とパリ東部郊外のメゾン・アルフォール間の9.26キロメートルで、途中2駅に停車する。所要約40分で、運賃は3ユーロだ。現在のところ利用者の評判は上々で、10年末までの試験運行の結果を見て、パリ西部にも拡大する予定だという。“セーヌ川の渡し船”として登場したヴォゲオは遊覧船のバトービュスに比べて席数は少ないが、通勤時間を除けばたいてい座ることができる。席からは近年、開発が進み、ダイナミックに変貌していくパリ東部エリアをセーヌ川からのんびりと眺めることができ、単なる交通手段以外の利用価値もあるだろう。

 さらに、新しい乗り物も登場する。パリジャンと観光客のエコな足として定着したレンタサイクル「ヴェリブ」の成功を受け、今度は電気自動車のカー・シェアリング計画「オートリブ」がスタートする。2009年末から10年初頭にかけて4000台の電気自動車が設置され、市内には地下200台、地上500台分の専用駐車場が用意される予定。料金は距離制で、タクシーやレンタカーより割安なのがメリットだ。

 また、シャルル・ド・ゴール国際空港とパリ市内を結ぶ国道1号線(A1)で、ラッシュ・アワーにタクシーとシャトルバスの専用レーンが設けられた。夕方に発着することが多い日本からの直行便の利用客にはうれしいニュースといえるだろう。





話題のスポットが続々とオープン

 「104(ル・サンキャトル)」はかつてのパリ市の葬儀場を改装し、若手アーティストの発掘と支援を目的に08年にオープンした、新しいタイプの文化の創造と交流スペース。アート・インフラを重視する国柄らしく、2つの劇場と19室のアトリエ付き住居を併設しており、週1回、アトリエを一般公開している。2009年にはカフェやレストランも内部にオープンする予定だ。

 また、07年9月には「建築文化財博物館」がリニューアル・オープン。フランス政府が国家遺産として認定した建造物や像の実物大レプリカを展示しており、巡礼路にある中世ロマネスク教会のタンパンから19世紀のル・コルビジェの集合住宅まで、フランスの建築史が俯瞰できる。実物を見学する旅行の前後に、この博物館の見学を組みあわせることを提案したい。実物は内部が暗かったり、遠すぎて見えにくかった部分も、レプリカでは詳細に再現されており、間近でじっくりと見ることで新たな発見をすることもある。

 同博物館は、エッフェル塔が望めるトロカデロ広場に位置しており、館内からエッフェル塔の美しい眺めも見られる。特にライトアップされた夜はエッフェル塔の光が館内にまで届き、とてもロマンチックだ。館内には、30年代にシャイヨー宮を改装した建築家であるジャック・カルリュのアパルトマンがあり、現代風に改装されて週末の午後のみ、一般公開されている。昨年、内装を担当したのはクリスチャン・ラクロワで、今年はエルメスの前デザイナーであるマルタン・マンジェラが担当。シュールなエスプリが感じられる、華やかな宴のあとを思わせるような白い空間は一見の価値あり。インセンティブ・ツアーなどのイベント・スペースとしてのレンタルも可能だ。

 このほか、パリ東部のオーステルリッツ河畔再開発の新しいシンボルとなっている、モードとデザインの商業施設「ドッグ・アン・セーヌ」にも09年秋、「モードデザイン博物館」がオープン。パリの“酸素スポット”であるブローニュの森の順化園には2010年、創造と現代アートをテーマにしたルイ・ヴィトン財団の美術館がオープンし、ラ・ヴィレット公園内にはジャン・ヌーヴェル設計によるパリ交響楽団のシンフォニー・ホールが建設される。フロアが交互に重なりあった宇宙船のような外観が印象的で、12年完成予定だ。


リピーターに人気のセーヌ左岸、注目の素材

 パリのカルチエ(地区)はひとつひとつが個性豊かなことから、しばしばプティ・ヴィラージュ(小さな村)にたとえられる。なかでも5月革命の時代、若い芸術家や文化人たちが熱い議論を交わす舞台となったサン・ジェルマン・デ・プレは、さしずめジャズと実存主義文学、カフェ文化の村。伝統的アカデミスムと知的スノビズム、前衛的な反抗精神の絶妙な均衡が生みだす、パワーあふれる魅力は今日も昔も変わらない。

 ドラゴン通りの一角、隠れ家のような建物の螺線階段を上ると、最上階のアパルトマンの部屋にマダム・ロペスのプライベート・ギャラリーがある。かつて、デザイン・ホテルブームを生み出した装飾家であるジャック・ガルシアと一緒に仕事をしていたという彼女の審美眼で選ばれた、味のあるオブジェや家具が光の降り注ぐ中で息づいている。パリジェンヌのアパルトマンを訪問する気分を味わえる、シックで通好みなスペースだ。蚤の市や街のアンティーク・ショップはすでに行きつくした、アンティーク・フリークやプロに勧めたい。

 また、サン・ジェルマンのプティホテル「ベラミ」がリニューアル・オープンした。アースカラーがアクセントとして使われ、単なるミニマリズムに終わらない都会的に洗練された空間が魅力的だ。Wi−Fiが接続無料でスパも完備。サロンにはヴォーグ誌などで有名な写真家のデヴィット・ラシャペルの作品が飾られている。左岸好きのリピーターやモード関係者などに紹介したい。

 さらにもっと暮らすような旅なら、キッチン付のレジデンス・ホテルでの滞在を提案したい。ラスパイユ通りのオーガニック・マルシェやビュッシ市場など、通常の旅行ではできない日用品や食材の買い物ができて、一層楽しめることうけあいだ。パリジャンとふれあい、ホームスティの気分を楽しみたいなら、シャンブル・ドット(B&B)のシステムも利用できる。若い頃にパリを行きつくし、親となってリピートするファミリー層向けや語学研修ツアーなどのアコモデーション提案の際、選択の幅がぐんと広がるのではないだろうか。


取材協力:フランス政府観光局
取材:本誌 高橋絵美、構成:編集部