現地レポート:中欧フライ&クルーズ
高品質シニア向け中欧商品の造成ポイント
リバークルーズで従来のパターンから変化を
歴史や文化芸術に造詣が深いシニア層を中心に、近年注目を集める中欧エリア。しかしフランスやイタリアで造成される地方都市組み込みの「一国完結型モノツアー」では、集客しづらい特性を持つ。ウィーンやプラハ、ブダペストといった中欧各都市を線で結ぶ、「周遊型のパッケージ」が販売の主流となる。とりわけ高品質商品の対象となる目の肥えたシニア層に強く訴求するためには、従来のパターン化されたコースに変化を持たせ、移動における身体的負担も軽減させるツアー企画が功を奏することだろう。そこで注目したいのが、中欧フライ&クルーズだ。
ヨーロッパに適したリバークルーズ
中欧のツアーについて、ハンガリー政府観光局局長のコーシャ・バーリン・レイ氏は、「モノツアーにこだわらず販売する必要がある。例えばハンガリー王国時代の歴史地図でゆかりがある都市を組みあわせ、変化に富むコース設定をすると集客もよい」と語る。組みあわせ可能な都市に多様性があるのも中欧の特徴といえる。先に述べたように、従来のパターン化されたコースに変化を持たせたツアー企画が功を奏することだろう。
そこで注目したいのが、中欧フライ&クルーズ。ドイツの黒森(シュバルツバルト)を源に黒海へと注ぐドナウ川を、客船クルーズを利用して(1)移動の足と(2)宿泊、(3)寄港地観光を兼ねるのがポイント。ディナークルーズのようなポーション仕様ではなく、悠久の大河ドナウを船泊で満喫すると同時に、陸路や空路とは違った「ゆとり」を提供することができる。特に、ヨーロッパでのリバークルーズは、大河周辺に人が集まり都市が形成されたことから、着岸場所と市街が直結しているのが一般的。寄港地観光がスムーズに行われる利点がある。
今回取材したAMAウォーターウェイズの「アマダージョ号」は、長さ360フィート、幅38フィート、キャビン数75のコンパクトなブティック客船で、外洋を航行するメガシップとは趣も異なる。付帯設備の整う大型客船の場合、便利とはいえ広い船内での移動に疲れを感じるシニアも少なくない。その点アマダージョ号は、乗船可能人員が最大で150名という規模だけに、メインダイニングなどのパブリックスペースと客室との距離が近いのもポイント。
クルーズの起点、ブダペストへのアクセス
「リバークルーズ」と聞けば川下りを想像するだろうが、アマダージョ号の航路はブダペストを起点に、ドナウを上るコースをたどる。おもに航行は夜や午前。時間をかけて上るため、景色の移ろいがゆるやかでやさしい。乗船・下船日(いずれも土曜日)を含め8日間の行程で、ドイツ南部のフィルスホーフェンをめざす。
船内の共通通貨はユーロ、共用語は英語で日本語のアナウンスはない。寄港地における無料のガイディングや有料エクスカーションも基本は英語でされるため、FITであれば、旅慣れて英語が達者でなくては楽しめない。日本代理店と相談をしながらチャーター企画や混乗パッケージの商品化を進めることが重要で、添乗員はもとより、日本語ガイドの同乗、または寄港地での手配をする必要がある。また、フリータイムには自転車の無料貸出もあり、自由に動きたい欧州リピーターにはおすすめだ。
ちなみに、アマダージョ号の起点はブダペストだから、空のゲートウェイをウィーンで組むとよいだろう。ブダペストへの定期直行便は現在オフラインのため、オーストリア航空(OS)を利用して、ウィーンでのイン/アウト、ないしはウィーンに入り、他都市アウトのコースをとるようにする。ウィーンで乗継ぎハンガリー入りする場合、入国審査はシェンゲン協定により、オーストリアのウィーン・シュヴェヒャート空港となる。成田からウィーンへのOS直行便は、木曜を除き原則毎日就航しており、ブダペストやプラハなど人気の主要都市への同日乗継便も時間帯がよく、ブダペスト行きは1時間5分のトランジットタイムで利便性が高い。ウィーンからブタペスト・フェリヘジ空港への飛行時間は約45分。最終目的地に到着するのは現地時間の午後17時45分なので、そのままホテルでチェックインをして長旅の疲れをとるよう配慮したい。
クルーズ前後の工夫で旅の印象が変わる
「ドナウ川紀行」をひとつのキャッチにする場合、世界遺産に登録されるブダペストの街並みを陸上観光で堪能してから乗船に導くと、都市景観が立体的に感じられて違った印象が楽しめる。丘陵のブダ地区からドナウ川やペスト地区を見下ろし、盆地状に広がるブダペスト市内をバス車窓や徒歩で視覚に訴え、さらには船上から眺めて別れを告げるのも旅情がある。「ドナウの真珠」「ドナウの女王」の異名のとおり、ライトアップされた夜の顔は、昼とはまた違った美しさを持つ。アマダージョ号のブダペスト出航時間は夜の9時。最も光またたく時間帯に甲板に出て航路につく。そうした演出を可能にする。
ちなみにウィーンは市の中心がドナウ川から車で所要約30分の距離と外れるため、寄港地観光だけでは見学箇所が限られ、注意が必要だ。ウィーンを商品の目玉とする場合、乗船前後にウィーンのホテル宿泊を組むのも一考だろう。また、ドイツ南部のバイエルン州の町、フィルスホーフェンで最終下船して以降の行程にも熟慮したい。
なぜならフィルスホーフェンはガイドブックには載らないような小さな村で、見どころも限られる。そこでFITはアマダージョ号のコンシェルジュに下船後のスケジュールとトランスファー手配を依頼することになる。そもそも乗船時に、下船後のトランスポーテーションについて希望アンケートの用紙を提出するしくみ。下船時には目的地別の大型バス(有料)が待機しており、個人客は申告したバスに乗り込む。
商品化するのであればチャーターバス、もしくはミニバンの地上手配とあわせ、多少のコストをかけても下船後のフォローをしたほうがよいだろう。例えば小グループであれば、最寄駅まで移動して鉄道と組みあわせるのも一案だ。州都ミュンヘンの中央駅へは地方急行列車のREを利用して約2時間、同日中にウィーンへ直行することも可能な距離。ヨーロッパを車窓でも鑑賞できることで、旅の奥ゆきが増す効果も期待できる。
▽AMAウォーターウェイズ http://www.amawaterways.com/
(代理店はザ・コンタクトが務める)
リバークルーズで従来のパターンから変化を
歴史や文化芸術に造詣が深いシニア層を中心に、近年注目を集める中欧エリア。しかしフランスやイタリアで造成される地方都市組み込みの「一国完結型モノツアー」では、集客しづらい特性を持つ。ウィーンやプラハ、ブダペストといった中欧各都市を線で結ぶ、「周遊型のパッケージ」が販売の主流となる。とりわけ高品質商品の対象となる目の肥えたシニア層に強く訴求するためには、従来のパターン化されたコースに変化を持たせ、移動における身体的負担も軽減させるツアー企画が功を奏することだろう。そこで注目したいのが、中欧フライ&クルーズだ。
ヨーロッパに適したリバークルーズ
中欧のツアーについて、ハンガリー政府観光局局長のコーシャ・バーリン・レイ氏は、「モノツアーにこだわらず販売する必要がある。例えばハンガリー王国時代の歴史地図でゆかりがある都市を組みあわせ、変化に富むコース設定をすると集客もよい」と語る。組みあわせ可能な都市に多様性があるのも中欧の特徴といえる。先に述べたように、従来のパターン化されたコースに変化を持たせたツアー企画が功を奏することだろう。
そこで注目したいのが、中欧フライ&クルーズ。ドイツの黒森(シュバルツバルト)を源に黒海へと注ぐドナウ川を、客船クルーズを利用して(1)移動の足と(2)宿泊、(3)寄港地観光を兼ねるのがポイント。ディナークルーズのようなポーション仕様ではなく、悠久の大河ドナウを船泊で満喫すると同時に、陸路や空路とは違った「ゆとり」を提供することができる。特に、ヨーロッパでのリバークルーズは、大河周辺に人が集まり都市が形成されたことから、着岸場所と市街が直結しているのが一般的。寄港地観光がスムーズに行われる利点がある。
今回取材したAMAウォーターウェイズの「アマダージョ号」は、長さ360フィート、幅38フィート、キャビン数75のコンパクトなブティック客船で、外洋を航行するメガシップとは趣も異なる。付帯設備の整う大型客船の場合、便利とはいえ広い船内での移動に疲れを感じるシニアも少なくない。その点アマダージョ号は、乗船可能人員が最大で150名という規模だけに、メインダイニングなどのパブリックスペースと客室との距離が近いのもポイント。
クルーズの起点、ブダペストへのアクセス
「リバークルーズ」と聞けば川下りを想像するだろうが、アマダージョ号の航路はブダペストを起点に、ドナウを上るコースをたどる。おもに航行は夜や午前。時間をかけて上るため、景色の移ろいがゆるやかでやさしい。乗船・下船日(いずれも土曜日)を含め8日間の行程で、ドイツ南部のフィルスホーフェンをめざす。
船内の共通通貨はユーロ、共用語は英語で日本語のアナウンスはない。寄港地における無料のガイディングや有料エクスカーションも基本は英語でされるため、FITであれば、旅慣れて英語が達者でなくては楽しめない。日本代理店と相談をしながらチャーター企画や混乗パッケージの商品化を進めることが重要で、添乗員はもとより、日本語ガイドの同乗、または寄港地での手配をする必要がある。また、フリータイムには自転車の無料貸出もあり、自由に動きたい欧州リピーターにはおすすめだ。
ちなみに、アマダージョ号の起点はブダペストだから、空のゲートウェイをウィーンで組むとよいだろう。ブダペストへの定期直行便は現在オフラインのため、オーストリア航空(OS)を利用して、ウィーンでのイン/アウト、ないしはウィーンに入り、他都市アウトのコースをとるようにする。ウィーンで乗継ぎハンガリー入りする場合、入国審査はシェンゲン協定により、オーストリアのウィーン・シュヴェヒャート空港となる。成田からウィーンへのOS直行便は、木曜を除き原則毎日就航しており、ブダペストやプラハなど人気の主要都市への同日乗継便も時間帯がよく、ブダペスト行きは1時間5分のトランジットタイムで利便性が高い。ウィーンからブタペスト・フェリヘジ空港への飛行時間は約45分。最終目的地に到着するのは現地時間の午後17時45分なので、そのままホテルでチェックインをして長旅の疲れをとるよう配慮したい。
クルーズ前後の工夫で旅の印象が変わる
「ドナウ川紀行」をひとつのキャッチにする場合、世界遺産に登録されるブダペストの街並みを陸上観光で堪能してから乗船に導くと、都市景観が立体的に感じられて違った印象が楽しめる。丘陵のブダ地区からドナウ川やペスト地区を見下ろし、盆地状に広がるブダペスト市内をバス車窓や徒歩で視覚に訴え、さらには船上から眺めて別れを告げるのも旅情がある。「ドナウの真珠」「ドナウの女王」の異名のとおり、ライトアップされた夜の顔は、昼とはまた違った美しさを持つ。アマダージョ号のブダペスト出航時間は夜の9時。最も光またたく時間帯に甲板に出て航路につく。そうした演出を可能にする。
ちなみにウィーンは市の中心がドナウ川から車で所要約30分の距離と外れるため、寄港地観光だけでは見学箇所が限られ、注意が必要だ。ウィーンを商品の目玉とする場合、乗船前後にウィーンのホテル宿泊を組むのも一考だろう。また、ドイツ南部のバイエルン州の町、フィルスホーフェンで最終下船して以降の行程にも熟慮したい。
なぜならフィルスホーフェンはガイドブックには載らないような小さな村で、見どころも限られる。そこでFITはアマダージョ号のコンシェルジュに下船後のスケジュールとトランスファー手配を依頼することになる。そもそも乗船時に、下船後のトランスポーテーションについて希望アンケートの用紙を提出するしくみ。下船時には目的地別の大型バス(有料)が待機しており、個人客は申告したバスに乗り込む。
商品化するのであればチャーターバス、もしくはミニバンの地上手配とあわせ、多少のコストをかけても下船後のフォローをしたほうがよいだろう。例えば小グループであれば、最寄駅まで移動して鉄道と組みあわせるのも一案だ。州都ミュンヘンの中央駅へは地方急行列車のREを利用して約2時間、同日中にウィーンへ直行することも可能な距離。ヨーロッパを車窓でも鑑賞できることで、旅の奥ゆきが増す効果も期待できる。
AMAウォーターウェイズ社長に聞く、ドナウ川リバークルーズ
2002年設立以来、のべ9万人の乗客を扱うAMAウ
ォーターウェイズ(AMA)は2002年に創立。創業者
で社長のルディ・シュライナー氏によると、米国が
好景気に沸くなか完売の状況が続いたが、08年秋の
リーマンショックを受け当初の成長予測は下方修正
された。しかし、予約状況から2009年は「25%から
30%程度の成長率」と試算する。「2011年まで新型
客船を投入し続ける用意があるほか、ヨーロッパ域
内にとどまらず、例えばメコン川のリバークルーズ
なども手がける」とシュライナー氏。攻めの姿勢を
崩さず、日本マーケットにも目を向けはじめた。
成長の理由に、インターネットと口コミ効果をあ
げる。「下船時に回収する乗客アンケートを即日米
国本社へ提出させ、諸問題を現場にフィードバック
する。翌日出航の短いタームのなかでも、早々に前
回の意見を反映させる」という。例えば以前、冷凍
食材を使用していた魚介類を、意見を考慮して寄港
地で新鮮な食材を取り寄せるようにし、飛躍的に美
味しさが増したことで、「それが口コミとなって伝
わった」と振り返る。また、船内に置かれたカラー
写真のポストカードは、何枚書いても送料を会社側
が負担する。これもシュライナー氏のアイデアで「e
メールではない温かさが伝わるうえに、(船体が描
かれたカードは)最高の広告宣伝になる」。小さな
積み重ねが顧客満足につながり、やがてグループオ
ーガナイザーとなってリピートする顧客が少なくな
いという。
AMAの本社は、米国カリフォルニア州。そのためドナウクルーズの乗客の約40%が
アメリカ人だ。カナダ人(15%)とあわせると、利用者の半数以上が北米圏。次いで多
いのがオーストラリア人(35%)だから、利用者の9割が英語圏になる。「日本語を含む
多言語への具体的な対応は今のところ考えていない」というものの、「アジアは今後、
注力したいマーケット」とルディ氏。国籍比率を鑑みて「日本風のアレンジはインセン
ティブなどによるチャーターでの対応が現状の範囲」というが、在庫が限られるクルー
ズは積極的なアプローチがカギになる。成功旅行会社の手配力を活かし、可能性を探
っていきたい。
▽AMAウォーターウェイズ http://www.amawaterways.com/
(代理店はザ・コンタクトが務める)
取材:千葉千枝子