旅行業界の新型インフルエンザ対策−「事業継続計画」の重要性
東京海上日動火災保険は4月14日、旅行会社勤務者を対象に「第3回海外旅行安全対策セミナー」を開催した。2009年に入り、新型インフルエンザ(H5N1 型)の流行への懸念が一段と高まっていることを受け、「ケーススタディに基づく旅行業界における新型インフルエンザ対策 〜今何をすべきか?〜」というテーマで実施。東京海上日動火災保険旅行業営業部長の網本卓夫氏は冒頭の挨拶で、「昨今は新型インフルエンザや政情への不安を背景に、旅の安全や安心がよりクローズアップされている」と述べ、「各社が具体的な対策を検討するうえでの材料としてほしい」とセミナーの目的を伝えた。
▽新型インフルエンザ対策行動計画を全面改定、政府の対策も積極化
セミナーは2部構成で、第1部では厚生労働省健康局結核感染症課の感染症情報管理室長兼新型インフルエンザ対策推進室長である難波吉雄氏から、新型インフルエンザを取り巻く最新状況が語られた。新型インフルエンザとは、新しい亜型(長期間、人の間で流行したことのない亜型)のウイルスが人から人へ効率よく感染できるように変異するもので、大流行(パンデミック)を引き起こすとされている。現在までのところ、新型インフルエンザの発生は確認されていないが、鳥インフルエンザ(H5N1型)の人への感染は2009年3月末で417人に上り、うち257人が死亡。感染者が多いのはインドネシア・ベトナム・中国だが、今年に入ってエジプトも増えているという。
未発生の新型インフルエンザに対しては、対策の有効性について不確定要素が多いため、「各種対策を総合的、効果的に組み合わせ、バランスの取れた戦略をめざす」と難波氏。すでに「新型インフルエンザ対策行動計画」を全面改定し、具体的な行動を示した「新型インフルエンザ対策ガイドライン」を新たに策定したほか、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄を国民の23%を占める約3000万人分から45%にまで増やす計画もある。また、現状では新型インフルエンザウイルスを基に製造されるパンデミックワクチンを国民全員分製造するには新型インフルエンザの発生から1年半前後の期間を要すると想定されているが、6ヶ月程度まで短縮できるよう、ワクチンの研究開発を促進し、製造体制を強化していく方針も示した。
▽新型インフルエンザ対策、事業継続の計画策定を
第2部では、東京海上日動リスクコンサルティングのBCMコンサルティング第一グループ主任研究員である小林俊介氏から旅行業界が行うべき具体的な対策が示された。小林氏は、「新型インフルエンザのパンデミック(大流行)による被害の深刻度は、バイオや化学、核などによる広域災害やテロ、マグニチュード8の地震と同レベルに位置づけられている」と説明。新型インフルエンザ発生時に旅行業に求められる対応として、顧客の生命維持や国内外への感染の拡大防止、在外の顧客に対する帰国手段の確保などを挙げ、具体的な対策案として新型インフルエンザに対応した事業継続計画(BCP;Business Continuity Plan)の策定を提言した。
BCPとは、新型インフルエンザなどの災害によって企業の事業活動が中断した場合に備え、あらかじめ優先すべき業務を決めておき、許容されるサービスレベルを保ちながら早急に復旧できるよう、対応方法などを規定しておく実行計画を指す。一般の災害と異なり、新型インフルエンザウイルスは実際に発生するまで致死率や感染速度がわからないため、「ウイルスの特性や感染拡大の状況に応じて対応できるよう、柔軟性のある計画を策定することが重要」だと話した。
▽催行中ツアーの対応を最優先に
セミナーでは感染状況を5段階に区分し、それぞれのケーススタディを実施。旅行業において考慮すべきシナリオと対応すべき業務の例を示し、スムーズな対応のために必要な事前準備を明らかにした。なかでも優先すべきは、感染が確認された地域での催行中ツアーにおける対応要領。具体的には、顧客の健康状態の確認や関係連絡先からの情報収集方法、同業者間における情報連絡体制などを整理し、現地の添乗員やツアーオペレータの行動のマニュアル化が必要となる。また、緊急時における業務の優先順位付けを明確にし、状況によっては国内旅行の予約は止めて海外旅行の窓口業務に人員を振り分ける、といった柔軟な対応も望まれる。事前準備の案としてはこのほか、新型インフルエンザの基礎知識などの社員教育、休業中の賃金や労務管理の取り決め、マスクや消毒液など備品の準備、本社と海外拠点との連携のための指揮系統や役割分担、一定期間業務がストップした場合の財務的な影響度の把握などがあげられた。
BCPは継続的な運用と見直しが重要
最後にBCP策定のための具体的な手順が示された。まずは、社員の行動要領や重要業務選定における考え方など、新型インフルエンザに対する会社の基本方針を策定。そのうえで各種シナリオを設定し、業務へのインパクトの分析から重要事業を選定する。さらにリスク評価や被害想定を行い、取るべき戦略や対応方法を検討。最終的に、基本計画書や対応計画書、部門別マニュアルなどのBCP文書に落とし込む。
ただし、BCPは一度作れば終わりではなく、「継続的に運用・見直しを行い、事業継続を達成するマネジメントシステム(BCM:Business Continuity Management)の確立が重要」と小林氏。また、BCP策定においては業界の特性を考慮する必要があり、「旅行業の場合、鉄道やバス、ホテル、旅館、航空港湾と密接に連携するべき」という点も強調した。
▽新型インフルエンザ対策行動計画を全面改定、政府の対策も積極化
セミナーは2部構成で、第1部では厚生労働省健康局結核感染症課の感染症情報管理室長兼新型インフルエンザ対策推進室長である難波吉雄氏から、新型インフルエンザを取り巻く最新状況が語られた。新型インフルエンザとは、新しい亜型(長期間、人の間で流行したことのない亜型)のウイルスが人から人へ効率よく感染できるように変異するもので、大流行(パンデミック)を引き起こすとされている。現在までのところ、新型インフルエンザの発生は確認されていないが、鳥インフルエンザ(H5N1型)の人への感染は2009年3月末で417人に上り、うち257人が死亡。感染者が多いのはインドネシア・ベトナム・中国だが、今年に入ってエジプトも増えているという。
未発生の新型インフルエンザに対しては、対策の有効性について不確定要素が多いため、「各種対策を総合的、効果的に組み合わせ、バランスの取れた戦略をめざす」と難波氏。すでに「新型インフルエンザ対策行動計画」を全面改定し、具体的な行動を示した「新型インフルエンザ対策ガイドライン」を新たに策定したほか、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄を国民の23%を占める約3000万人分から45%にまで増やす計画もある。また、現状では新型インフルエンザウイルスを基に製造されるパンデミックワクチンを国民全員分製造するには新型インフルエンザの発生から1年半前後の期間を要すると想定されているが、6ヶ月程度まで短縮できるよう、ワクチンの研究開発を促進し、製造体制を強化していく方針も示した。
▽新型インフルエンザ対策、事業継続の計画策定を
第2部では、東京海上日動リスクコンサルティングのBCMコンサルティング第一グループ主任研究員である小林俊介氏から旅行業界が行うべき具体的な対策が示された。小林氏は、「新型インフルエンザのパンデミック(大流行)による被害の深刻度は、バイオや化学、核などによる広域災害やテロ、マグニチュード8の地震と同レベルに位置づけられている」と説明。新型インフルエンザ発生時に旅行業に求められる対応として、顧客の生命維持や国内外への感染の拡大防止、在外の顧客に対する帰国手段の確保などを挙げ、具体的な対策案として新型インフルエンザに対応した事業継続計画(BCP;Business Continuity Plan)の策定を提言した。
BCPとは、新型インフルエンザなどの災害によって企業の事業活動が中断した場合に備え、あらかじめ優先すべき業務を決めておき、許容されるサービスレベルを保ちながら早急に復旧できるよう、対応方法などを規定しておく実行計画を指す。一般の災害と異なり、新型インフルエンザウイルスは実際に発生するまで致死率や感染速度がわからないため、「ウイルスの特性や感染拡大の状況に応じて対応できるよう、柔軟性のある計画を策定することが重要」だと話した。
▽催行中ツアーの対応を最優先に
セミナーでは感染状況を5段階に区分し、それぞれのケーススタディを実施。旅行業において考慮すべきシナリオと対応すべき業務の例を示し、スムーズな対応のために必要な事前準備を明らかにした。なかでも優先すべきは、感染が確認された地域での催行中ツアーにおける対応要領。具体的には、顧客の健康状態の確認や関係連絡先からの情報収集方法、同業者間における情報連絡体制などを整理し、現地の添乗員やツアーオペレータの行動のマニュアル化が必要となる。また、緊急時における業務の優先順位付けを明確にし、状況によっては国内旅行の予約は止めて海外旅行の窓口業務に人員を振り分ける、といった柔軟な対応も望まれる。事前準備の案としてはこのほか、新型インフルエンザの基礎知識などの社員教育、休業中の賃金や労務管理の取り決め、マスクや消毒液など備品の準備、本社と海外拠点との連携のための指揮系統や役割分担、一定期間業務がストップした場合の財務的な影響度の把握などがあげられた。
BCPは継続的な運用と見直しが重要
最後にBCP策定のための具体的な手順が示された。まずは、社員の行動要領や重要業務選定における考え方など、新型インフルエンザに対する会社の基本方針を策定。そのうえで各種シナリオを設定し、業務へのインパクトの分析から重要事業を選定する。さらにリスク評価や被害想定を行い、取るべき戦略や対応方法を検討。最終的に、基本計画書や対応計画書、部門別マニュアルなどのBCP文書に落とし込む。
ただし、BCPは一度作れば終わりではなく、「継続的に運用・見直しを行い、事業継続を達成するマネジメントシステム(BCM:Business Continuity Management)の確立が重要」と小林氏。また、BCP策定においては業界の特性を考慮する必要があり、「旅行業の場合、鉄道やバス、ホテル、旅館、航空港湾と密接に連携するべき」という点も強調した。