現地レポート:オーストラリア、ビクトリア州

  • 2009年4月17日
ビクトリア州で楽しむ庭園都市と絶景の海岸道路
〜“歴史と文化の薫り”と“大自然の造形”〜


 オーストラリアは都市と自然の距離が近い国だ。市街地の中心部から車で1時間も走れば豊かな自然を味わうことができ、野生動物たちと出くわすことができる。なかでもビクトリア州は都市と大自然の対照を楽しむのに適したデスティネーションといえる。面積はオーストラリア大陸全体の3%で2番目に小さな州でありながら、歴史と文化の中心にしてオーストラリア第2の都市であるメルボルンを擁する。そして、この“ガーデン・シティ”と称されるチャーミングな街を取り囲むように、大自然の魅力がコンパクトな州の中に収まっている。ビクトリア州にはオーストラリアの魅力が凝縮されているのだ。


庭園都市メルボルン−利便性と見どころに富んだ散策の街

 地上250メートル、メルボルン屈指の高層ビル「リアルト・タワー」最上階にあるメルボルン展望台(Melbourne360°)から見下ろすメルボルンの街並みは実にコンパクトだ。眼下には、街のランドマークの一つでもあるフリンダース・ストリート駅のクラシックなビクトリア様式の駅舎がたたずみ、すぐ近くを流れるヤラ川の南側には、新複合型施設のサウスゲート、その向こう側に広がるサウス・ヤラの高級住宅地を確認できる。反対側に目を転じると、碁盤の目のように走るストリートによって整然と区切られた市街が広がる。

 メルボルンが世界でも有数のガーデン・シティ(庭園都市)と呼ばれる理由となったのは、市内に450ヶ所とされる庭園の多さ。すべてを確認できるわけではないが、街なかの緑の多さは展望台の上からの眺望で十分に納得できる。

 展望台から見た「コンパクトで、歩いて楽しみやすそうな街」の印象は、地上に降りるとさらにその実感を強くする。というのも、中心部である「シティ」と呼ばれるエリアにはショッピングスポットやレストラン街など都市の魅力と機能がギュッと詰まっていて、さらにレーンウェイと呼ばれる多くの路地にはおしゃれなカフェなどが沢山あり、街の散策に絶好の休憩場所を提供している。しかも、東西約2.5キロメートル、南北約1.5キロメートルのシティの外周をシティ・サークル・トラムが巡回運行しており、無料で利用できる。右回りと左回りがあり、このトラムと2本の足さえあれば、メルボルンの街の散策は自由自在といえる。

 なお、メルボルン展望台は一度入場料を支払えば、再入場が可能になった。このため、昼間の眺望を楽しんでその他の観光を楽しんだ後、夜になって再び展望台からや夜景を堪能するといった使い方もできるようになった。


ロイヤル・エキシビション・ビル館内ツアーは隣接の博物館で申込み

 メルボルンの街並みは実にシックな外観に彩られている。19世紀の面影を残すクラシカルな建物は、この街がオーストラリアでも有数の歴史を持ち、連邦成立から1927年まで国の首都を務めていた伝統の存在を物語っている。そんな街の歴地と伝統を象徴するのが「ロイヤル・エキシビション・ビル」である。

 このビルは隣接するカールトン庭園とともに2004年、オーストラリア初の世界文化遺産に登録された。メルボルンがゴールドラッシュに沸き、世界有数の繁栄を謳歌していた時代である1880年と1888年に万国博覧会を開催した際の主会場として使用されたもので、1901年にはオーストラリア連邦成立のセレモニー会場ともなった。現在も展示会などイベント施設として利用されており、万博会場施設が現役の施設として現存するのは世界で唯一。ちなみに1880年の万博に出展されたスチームエンジンは日本へ輸出されることになり、ロイヤル・エキシビション・ビルはオーストラリアの対日貿易の出発点となった場所でもある。

 ロイヤル・エキシビション・ビルの南北には緑豊かなカールトン・ガーデンが広がり、池や噴水、花壇などの間を散策するだけでリフレッシュできる。また、北側の庭園との間にはメルボルン博物館があり、ロイヤル・エキシビション・ビルの館内見学ガイドツアーに参加する場合は同博物館で申し込む。ガイドツアーは毎日午後2時から催行されるが、現役の展示会場として利用されている施設のため、イベント開催時はツアーが中止となる。











絶景また絶景のグレート・オーシャン・ロード

 ビクトリア州の人々が「世界で最も美しい海岸道路」と自慢するグレート・オーシャン・ロードは、実際に訪れてみるとその表現が決して大げさなものではないと実感できる。東の起点、トーキーから西の終点アランスフォードまでの約260キロメートルの海岸線に沿ったドライブルートで、トーキーまではメルボルンからわずか90キロメートル、車で1時間20分ほどでアクセスできる。

 ハイライトはグレート・オーシャン・ロードの中間よりやや西寄りに位置するポート・キャンベル国立公園。オーストラリア大陸の南端が海とぶつかり、南極海から打ち寄せる荒波と吹きつける烈風によって大地を削りとられ、断崖絶壁となって何とか持ちこたえている。そんな長い年月をかけた自然の営みを目の当たりにできる。

 断崖絶壁はさらに浸食され、崩落し、かつては大地だったはずの岩々が海のなかにさまざまな造形で取り残されている。こうした海中の奇岩群のなかで最も有名なものが「12使徒(The Twelve Apostles)」。ただし、絶えることのない侵食作用にさらされており、現在は8つの奇岩だけを見ることができる。

 「12使徒」のほかにも絶景ポイントはいくらでもある。たとえばダブルアーチ型にくりぬかれた橋状の奇岩であったことからこの名がついた「ロンドン・ブリッジ」。しかし、96年にダブルアーチの一方が崩落し、現在ではシングルアーチ状となっている。また「ロック・アード・ゴージ」も絶景ポイントで、名前の由来は悲劇の船。グレート・オーシャン・ロードの沖合は船の難所として知られ、無数の船が難破し700人以上が遭難している。そのうち助かったのは2名のみとされ、この2名が奇跡的に流れ着いた海岸が難破した船の名前「Loch Ard」号にちなんでロック・アード・ゴージと名付けられた。

 ポート・キャンベル国立公園の絶景を短時間に満喫するならヘリコプターによる遊覧飛行が最適で、複数の企業がヘリツアーを催行している。たとえば「12 Apostles Helicopters」はハイライトを上空観光する9分間のフライト、国立公園全体をカバーする16分間のフライト、国立公園とその西側のベイ・オブ・アイランドを含む25分間のフライトの3種類を運航している。



道中も見どころたっぷり、サーフィンの聖地や鈴なりのコアラ?!

 グレート・オーシャン・ロードの魅力はポート・キャンベル国立公園を中心とする海と断崖の絶景だけにとどまらない。起点であるトーキーはサーフィン文化の中心地として知られる。世界的に有名なサーフブランド「リップカール」や「シルバークイック」などの本拠地でもあり、サーフィン用品を集めたアウトレット「サーフ・シティ・プラザ」や、「サーフ・ワールド・ミュージアム」はサーフィンに関心のある旅行者には見逃せない。隣のベルズビーチはサーファーの聖地。キアヌ・リーブス主演の映画『ハードブルー』のロケ地でもある。

 ローンも有名サーフィン・ポイントの一つだが、グレート・オーシャン・ロード最大のリゾートとしても知られ、数多くの宿泊施設がそろっている。ローンからさらに20キロメートルほど西進したケネット・リバーは野生のコアラ観察に最適な場所。グレート・オーシャン・ロードから少し山側に入ると、そこはコアラの生息地だ。車をゆっくり走らせながら樹上を見上げると、あちらの木、こちらの木にコアラが休憩している。1本の木に何匹ものコアラがいるわけではないので、「鈴なり」という表現は不正確だが、印象としては“森の中にコアラが鈴なり”といった感じ。これほど高い確率で野生のコアラに遭遇できる場所は珍しいだろう。実はケネット・リバーでは、コアラによる食害で立ち枯れてしまったユーカリの木が目立つほど個体数が増えているというのだから、遭遇率も高いわけだ。


ビクトリア州政観、SITデスティネーションとしての魅力を日本市場に紹介

 コンパクトなエリアに魅力的な観光素材がたっぷり
詰まったビクトリア州は、日本人観光客のデスティネ
ーションとして相性抜群といえる。ただし2008年はオ
ーストラリアを訪れた日本人旅行者数は前年比20%減
少。日本人出国者数全体の減少率6.9%を上回ってし
まった。ビクトリア州への日本人旅行者数はさらに落
ち込んで前年比27%減。日本からの燃油サーチャージ
額が欧州並みの5万円台まで上がった影響が大きかった
が、ビクトリア州に関しては、加えてメルボルン直行
便の運航休止が影響した。

 09年は3月以降、日本/オーストラリア間の供給座
席数がさらに3割減となることもあり、依然厳しい状
況が続く。09年1月にビクトリア州政府観光局の日本
地区局長に就任したアダム・パイク氏は「09年も日本
人旅行者数は減少が続くと見ざるを得ない」とする。
しかし人数の減少を、そのまま悲観的には捉えていな
いという。というのも、もともとビクトリア州は量販
デスティネーションとは一線を画してきたからだ。
今後、日本の海外旅行市場として有望な団塊世代中心
の熟年層、セルフドライブなどを抵抗なく楽しめる
新世代のFIT、教育旅行、各種SITなどに向けた素材と
環境に恵まれたビクトリア州は、数より質で勝負で
きるとの自信を得ているようだ。パイク氏も「ひとつ
ひとつのツアーは小規模だが、SITはビクトリア州を
深く知ってもらうためにも重要。数多くのSITを受け
入れ、参加者を満足させるだけの力がビクトリア州に
はある。個々の分野に着実にアピールしていきたい」
としている。また飲食企業とのタイアップによるビク
トリア州の認知度向上の取り組みや、これまではパイ
プのなかったSIT取扱い旅行会社などにも積極的に
アプローチしていく方針だ。




取材協力:ビクトリア州政府観光局、タスマニア州政府観光局
取材:高岸洋行