若者に旅行を注目させるヒント、「目的の明確化」「価値観の共有」の事例
若者の旅行離れは数字の上だけでなく、日々の業務で実感している旅行会社も少なくないだろう。先ごろ開催されたJATA経営フォーラム2009の分科会Aは、「将来のリピーターを獲得するには!!−若者に旅行を注目させるヒントを探る−」がテーマ。U.S.トラベルアソシエイションのディレクター田中映子氏がモデレーターを務め、コメンテーターの東京圏駅ビル開発の営業部マーケティンググループリーダー浦野亮一氏、ダイヤモンド・ビッグ社地球の歩き方編集本部副本部長の奥健氏、日本通運の首都圏旅行支店SIT企画販促課課長の中島慎一氏が、各社の取り組みや提案を語った。
海外旅行に価値を見出せない若者たち
最近、海外旅行に対する若者の反応でよく耳にするのは、「この旅、行って意味がありますかね?」というセリフ。根底に「無駄なことは省きたい」、「失敗したくない」といった合理的かつ消極的な思考があるという。事実、海外旅行の阻害要因を調べたところ、「高い」、「休暇が取れない」、「他のレジャーに興味がある」といったもっともな理由に加え、「自分に価値のあるものかどうか疑問」、「査証の取得や更新が面倒」という理由もあげられ、旅行に携わる者にとっては絶句するばかりだ。
また、若者へのメッセージリーダーが不在というのも課題のひとつ。タレントの猿岩石がテレビ番組の企画で世界へ旅に出た1996年、若者に絶大な影響力をもった。また、95年から97年にタイ国際航空(TG)が放った広告「タイは、若いうちに行け」というメッセージは、確実にタイへの需要を動かしたものだ。当時、猿岩石の有吉氏、森脇氏のコンビは22歳、TGのイメージキャラクターを務めていたいしだ壱成は19歳から21歳だったという。今、年齢層にあった等身大のモデル、特に20代男子の発掘が求められている。
細分化するニーズにヒットする企画を
このように若年層の需要が冷え込んでいる今、コメンテーターの3社はどのように若い世代を取り込んでいるのだろうか。
JR東日本のグループ会社である東京圏駅ビル開発は、首都圏の中小駅にショッピングセンター「アトレ」を展開している。浦野氏によると「その土地の特性とマーケットを徹底的に把握することで、100の街があれば100のアトレを開発する」方針で事業を展開。基幹店である恵比寿駅は需要の3分の2が20代から30代の女性であることからファッションに力を入れ、品川駅は9割を食関係が占めるというように、駅ごとの特性にあわせた開発で人と街との関係性を築いてきた。
また、日本通運の中島氏は、ネットが若者に及ぼす影響の大きさをあげる。欧州サッカーやツール・ド・フランスなどのスポーツ観戦は、企画するだけでは若者が動かなくなった。しかし、参加者が観戦記をネットで公開し、それがミクシィで話題になったことで、「日通のF1はいい」と口コミが広がったという。中島氏は「ネットを介して若者の価値観に響いたのだと思う」と述べるとともに、同社がミクシィに介在せず、あくまで自然発生的に起こった口コミに信憑性が増したとも分析している。
今年で30周年を迎える地球の歩き方は、旅行業界の変化を敏感に嗅ぎとってスタイルを変えてきた。奥氏は「定期的に旬の情報を掲載するのはもちろん、写真や地図を多用してデスティネーションの可視化(見える化)に努めている。いかにその土地をイメージしてもらうかが鍵」という。そのなかで06年からスタートしたビジュアル型ガイドブック「GEM STONE」シリーズがあたっているという。パリのお菓子屋さん&パン屋さん、イギリスのスイーツというようにテーマを絞り込むことで、20代から30代の女性にヒットしているのだ。
マーケットの創造が将来のリピーター獲得に
各社の取り組みでは、若者に旅行を注目させるには、目的の明確化や価値観の共有がひとつのポイントとなっている。同時に旅を提供する旅行会社と旅行者、デスティネーションと旅行者の関係性を築いていくことも、これからの時代のキーワードになっていきそうだ。
奥氏は「チラシ化しているパンフレットを、旅の過ごし方や楽しみ方を提案する媒体としてはどうか」と提案。同社でもより若年層を対象とするムック本で、読者層に近い人物が等身大の目線で滞在プランや旅のヒントを紹介し、「失敗しない旅、後悔しない旅」を提案することで、デスティネーションと読者の関係性を構築してきた実績がある。
日通でも旅行会社と旅行者の新しい関係性を築くべく、SIT企画販促課で小・中学生を対象とした「ユース野外体験教室」を展開している。「子供たちに経験の場を提供することで、達成感を味わってほしい」(中島氏)のがねらいで、視野の拡大や人間関係の育成など「旅育」することで将来のリピーターへとつなげていきたい考え。体験の場は海外へも広げており、今後は大学生も視野に入れて社会貢献のプログラムも入れていきたい意向だ。またこうしたプロジェクトは、官民が協力して取り組んでいくべき時代とも話している。
会の終盤では、若者を刺激し、将来のリピーターを育成するキーワードは「マーケットの創造」であり、旅行業界はマーケットを創り上げていく時代に入ったとまとめられた。東京圏駅ビル開発では「アトレという舞台とショップという役者を魅力的に演出するのは我々社員」(浦野氏)としており、プロデュース型運営を同社の戦略の1つにあげている。旅行会社の場合も、もはや旅を企画・販売するだけでなく、旅をプロデュースする総合力が求められる時代なのだ。
なお、発想の転換の一例として、日本独特の文化を海外へ「伝えに行く」という考え方も提案された。例えば、日本のアニメや漫画の文化はインバウンドに活用されてきたが、これをアウトバウンドにキックバックするというアイデア。関連イベントでは、フランスの「ジャパンエキスポ」やアメリカの「アニメエキスポ」など万単位を集客する巨大イベントがある。旅の目的が明確であり、若者とデスティネーションの関係性をプロデュースできる舞台になり得る。
海外旅行に価値を見出せない若者たち
最近、海外旅行に対する若者の反応でよく耳にするのは、「この旅、行って意味がありますかね?」というセリフ。根底に「無駄なことは省きたい」、「失敗したくない」といった合理的かつ消極的な思考があるという。事実、海外旅行の阻害要因を調べたところ、「高い」、「休暇が取れない」、「他のレジャーに興味がある」といったもっともな理由に加え、「自分に価値のあるものかどうか疑問」、「査証の取得や更新が面倒」という理由もあげられ、旅行に携わる者にとっては絶句するばかりだ。
また、若者へのメッセージリーダーが不在というのも課題のひとつ。タレントの猿岩石がテレビ番組の企画で世界へ旅に出た1996年、若者に絶大な影響力をもった。また、95年から97年にタイ国際航空(TG)が放った広告「タイは、若いうちに行け」というメッセージは、確実にタイへの需要を動かしたものだ。当時、猿岩石の有吉氏、森脇氏のコンビは22歳、TGのイメージキャラクターを務めていたいしだ壱成は19歳から21歳だったという。今、年齢層にあった等身大のモデル、特に20代男子の発掘が求められている。
細分化するニーズにヒットする企画を
このように若年層の需要が冷え込んでいる今、コメンテーターの3社はどのように若い世代を取り込んでいるのだろうか。
JR東日本のグループ会社である東京圏駅ビル開発は、首都圏の中小駅にショッピングセンター「アトレ」を展開している。浦野氏によると「その土地の特性とマーケットを徹底的に把握することで、100の街があれば100のアトレを開発する」方針で事業を展開。基幹店である恵比寿駅は需要の3分の2が20代から30代の女性であることからファッションに力を入れ、品川駅は9割を食関係が占めるというように、駅ごとの特性にあわせた開発で人と街との関係性を築いてきた。
また、日本通運の中島氏は、ネットが若者に及ぼす影響の大きさをあげる。欧州サッカーやツール・ド・フランスなどのスポーツ観戦は、企画するだけでは若者が動かなくなった。しかし、参加者が観戦記をネットで公開し、それがミクシィで話題になったことで、「日通のF1はいい」と口コミが広がったという。中島氏は「ネットを介して若者の価値観に響いたのだと思う」と述べるとともに、同社がミクシィに介在せず、あくまで自然発生的に起こった口コミに信憑性が増したとも分析している。
今年で30周年を迎える地球の歩き方は、旅行業界の変化を敏感に嗅ぎとってスタイルを変えてきた。奥氏は「定期的に旬の情報を掲載するのはもちろん、写真や地図を多用してデスティネーションの可視化(見える化)に努めている。いかにその土地をイメージしてもらうかが鍵」という。そのなかで06年からスタートしたビジュアル型ガイドブック「GEM STONE」シリーズがあたっているという。パリのお菓子屋さん&パン屋さん、イギリスのスイーツというようにテーマを絞り込むことで、20代から30代の女性にヒットしているのだ。
マーケットの創造が将来のリピーター獲得に
各社の取り組みでは、若者に旅行を注目させるには、目的の明確化や価値観の共有がひとつのポイントとなっている。同時に旅を提供する旅行会社と旅行者、デスティネーションと旅行者の関係性を築いていくことも、これからの時代のキーワードになっていきそうだ。
奥氏は「チラシ化しているパンフレットを、旅の過ごし方や楽しみ方を提案する媒体としてはどうか」と提案。同社でもより若年層を対象とするムック本で、読者層に近い人物が等身大の目線で滞在プランや旅のヒントを紹介し、「失敗しない旅、後悔しない旅」を提案することで、デスティネーションと読者の関係性を構築してきた実績がある。
日通でも旅行会社と旅行者の新しい関係性を築くべく、SIT企画販促課で小・中学生を対象とした「ユース野外体験教室」を展開している。「子供たちに経験の場を提供することで、達成感を味わってほしい」(中島氏)のがねらいで、視野の拡大や人間関係の育成など「旅育」することで将来のリピーターへとつなげていきたい考え。体験の場は海外へも広げており、今後は大学生も視野に入れて社会貢献のプログラムも入れていきたい意向だ。またこうしたプロジェクトは、官民が協力して取り組んでいくべき時代とも話している。
会の終盤では、若者を刺激し、将来のリピーターを育成するキーワードは「マーケットの創造」であり、旅行業界はマーケットを創り上げていく時代に入ったとまとめられた。東京圏駅ビル開発では「アトレという舞台とショップという役者を魅力的に演出するのは我々社員」(浦野氏)としており、プロデュース型運営を同社の戦略の1つにあげている。旅行会社の場合も、もはや旅を企画・販売するだけでなく、旅をプロデュースする総合力が求められる時代なのだ。
なお、発想の転換の一例として、日本独特の文化を海外へ「伝えに行く」という考え方も提案された。例えば、日本のアニメや漫画の文化はインバウンドに活用されてきたが、これをアウトバウンドにキックバックするというアイデア。関連イベントでは、フランスの「ジャパンエキスポ」やアメリカの「アニメエキスポ」など万単位を集客する巨大イベントがある。旅の目的が明確であり、若者とデスティネーションの関係性をプロデュースできる舞台になり得る。
取材:竹内加恵