取材ノート:訪日外国人のリピーター化、市場別の目的差異が鮮明に
訪日外国人のリピーター化が進み、市場ごとに訪問地や観光の目的の差異が明確になっている。日本政府観光局(JNTO)は先ごろ開催した第6回JNTOインバウンド旅行振興フォーラムで、「訪日外客実態調査2008速報」からこのような傾向を紹介した。2008年の訪日旅行市場は、世界的な経済危機により下半期の訪日外客数が急減して上半期のプラス成長を相殺、通年では前年比0.1%増の835万1600人となった。09年も引き続き厳しい環境が予想されるなか、JNTOは「リピーター」「地方分散」「個人旅行」をキーワードに需要喚起を進める方針を示している。これらのキーワードで訪日旅行市場の実態を探る。
リピーター割合が拡大、台湾と香港は70%超
2008年の訪日外客実態調査は、訪日旅行を終えて出国直前の外国人旅行者を対象に実施。08年2月、7月から8月、10月の3回の調査で、約1万5000人から回答を得ている。調査場所は新千歳、仙台、成田、羽田、中部、関西、福岡、那覇の各国際空港と博多港。これらの空海港で、出国者の約90%をカバーしている。回答者の居住地別の割合は、2008年の訪問者全体と比較しても、おおむね合致している。回答者のうち、観光目的での訪日外国人は全体の約53%となる7930人であった。
調査結果では、リピーターの割合は全体では61.7%で、そのうち観光目的で2回以上の訪日経験のある人は34.9%。観光客に限定すると、観光目的で2回以上訪日した人は50.8%となる。この数値は2006年度では47.5%で、リピーターが増加していることがわかる。観光目的のリピーター比率を引き上げているのは特に香港と台湾で、両市場ともに70%以上。香港は79.0%で対06年度比4ポイント増、台湾は72.1%で3.6ポイント増だ。訪日回数が40回の人もいたという。このほかの市場では、韓国が50.9%、タイ・シンガポール・マレーシアも48.7%となっている。
一方、訪日外客数では韓国と台湾に次いで3番目に多い中国のリピーター率は13.4%。訪日観光団体旅行の解禁が2000年で、当初は地域限定での導入であったため、リピートする対象人数が少ないことが要因のひとつと考えられ、JNTOでは今後増加する「伸びしろ」があると分析する。
その意味では、リピート率が20.6%で初訪日の人が約8割を占める「イギリス・ドイツ・フランス(英・独・仏)」の市場もターゲットになり得るだろう。2008年の訪問者数で、イギリスは7.0%減(20万6500人)と減少したが、フランスは7.1%増(14万7600人)、ドイツは0.8%増(12万6200人)と、厳しい経済情勢下でも増加しており、訪日旅行への強い意欲が感じられる。また、オーストラリアも観光客の割合が50%を超えているが、リピート率は30.9%に留まっている。
居住地別に訪問地分かれる、北海道の訪問率が拡大
「地方分散」については、今回の資料では特に大きな傾向は見られない。北海道の訪問率が2006年から1.7ポイント増の8.1%となっている程度だ。しかし、居住地別に見てみると、訪問先にはっきりと差が出ている。例えば、全体の訪問率が58.9%と群を抜いて高い東京都には、中国、オーストラリア、英・独・仏の訪問者の75%前後が訪れる一方、韓国と台湾からの訪問率は45%程度。また、福岡県は全体の訪問率は9.7%だが、韓国の訪問率は21.3%となっている。同様に大分県は全体が4.9%で、韓国からは13.4%、熊本県は全体が4.7%で韓国は11.6%と、九州への外客は韓国の訪問者が多い。
訪問地の差異は、初訪日の割合や地理的な要因に加え、観光目的の差にも左右されている。調査での観光目的について聞いた質問では、台湾と中国と香港ではショッピング、韓国は温泉がそれぞれ41%以上の支持率で第1位となったのに対し、オーストラリア、アメリカ・カナダ、英・独・仏では歴史的建造物の見物が45%以上の支持を集め、英・独・仏では65.3%に達する。例えば、日光東照宮など世界遺産に登録された歴史的建造物のある栃木県は全体の訪問率は3.6%であるものの英・独・仏からの訪問率は7.1%で、観光客に限ると14.4%となる。同じく、世界遺産の厳島神社がある広島県の訪問率も全体は4.0%だが、オーストラリアからが14.8%、英・独・仏は11.3%だ。
このほか注目したいのは、全体の傾向として日本食への関心が高まっていること。全体の37.0%が目的としており、2006年から17.6ポイントも向上した。また、オーストラリアからの訪問者のうち35.6%が「日本人とのふれあい」を目的として回答し、観光目的の2位に入っている。「地方分散」つまり「地方の誘客」を考える上では、このような市場ごとの特性を的確に把握して戦略を立てることも重要なポイントになり得るだろう。
成熟市場、欧米市場は個人旅行多く、中国も個人化へ動き
「個人旅行」のキーワードについてはどうか。観光目的での全訪問者の旅行形態は、団体ツアーが40.5%、個人自由型ツアーが15.0%、個人旅行が42.5%となっている。団体ツアーと個人旅行が多い傾向は、市場規模の大きいアジア圏の傾向が反映されていると考えられる。特に中国は、ビザの制約から82.6%が団体ツアーで訪日している。一方、リピート率の高い韓国や台湾、香港では個人の自由型ツアーと個人旅行の割合の合計が50%を超える。特に香港は、団体ツアーが32.7%であるのに対し、個人自由型ツアーが20.1%、個人旅行が46.5%となっており、リピート率の高さとあわせて「成熟した市場」といえるだろう。
欧米からの訪問者はアジア圏と異なり、個人旅行の傾向が強い。アメリカでは個人自由型ツアーが11.7%、個人旅行が62.4%で、英・独・仏も個人自由型ツアーが16.4%、個人旅行が66.4%となっている。
これらのデータを踏まえて個人旅行での取り込みを考えると、市場規模や「伸びしろ」から考えて中国が有望な市場だろう。観光庁も、中国人の個人旅行を認められるよう観光ビザの発給要件の見直しを進めている。個人旅行がしやすい受入環境も、これまで以上に整備していくことが必要だ。
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リピーター割合が拡大、台湾と香港は70%超
2008年の訪日外客実態調査は、訪日旅行を終えて出国直前の外国人旅行者を対象に実施。08年2月、7月から8月、10月の3回の調査で、約1万5000人から回答を得ている。調査場所は新千歳、仙台、成田、羽田、中部、関西、福岡、那覇の各国際空港と博多港。これらの空海港で、出国者の約90%をカバーしている。回答者の居住地別の割合は、2008年の訪問者全体と比較しても、おおむね合致している。回答者のうち、観光目的での訪日外国人は全体の約53%となる7930人であった。
調査結果では、リピーターの割合は全体では61.7%で、そのうち観光目的で2回以上の訪日経験のある人は34.9%。観光客に限定すると、観光目的で2回以上訪日した人は50.8%となる。この数値は2006年度では47.5%で、リピーターが増加していることがわかる。観光目的のリピーター比率を引き上げているのは特に香港と台湾で、両市場ともに70%以上。香港は79.0%で対06年度比4ポイント増、台湾は72.1%で3.6ポイント増だ。訪日回数が40回の人もいたという。このほかの市場では、韓国が50.9%、タイ・シンガポール・マレーシアも48.7%となっている。
一方、訪日外客数では韓国と台湾に次いで3番目に多い中国のリピーター率は13.4%。訪日観光団体旅行の解禁が2000年で、当初は地域限定での導入であったため、リピートする対象人数が少ないことが要因のひとつと考えられ、JNTOでは今後増加する「伸びしろ」があると分析する。
その意味では、リピート率が20.6%で初訪日の人が約8割を占める「イギリス・ドイツ・フランス(英・独・仏)」の市場もターゲットになり得るだろう。2008年の訪問者数で、イギリスは7.0%減(20万6500人)と減少したが、フランスは7.1%増(14万7600人)、ドイツは0.8%増(12万6200人)と、厳しい経済情勢下でも増加しており、訪日旅行への強い意欲が感じられる。また、オーストラリアも観光客の割合が50%を超えているが、リピート率は30.9%に留まっている。
居住地別に訪問地分かれる、北海道の訪問率が拡大
「地方分散」については、今回の資料では特に大きな傾向は見られない。北海道の訪問率が2006年から1.7ポイント増の8.1%となっている程度だ。しかし、居住地別に見てみると、訪問先にはっきりと差が出ている。例えば、全体の訪問率が58.9%と群を抜いて高い東京都には、中国、オーストラリア、英・独・仏の訪問者の75%前後が訪れる一方、韓国と台湾からの訪問率は45%程度。また、福岡県は全体の訪問率は9.7%だが、韓国の訪問率は21.3%となっている。同様に大分県は全体が4.9%で、韓国からは13.4%、熊本県は全体が4.7%で韓国は11.6%と、九州への外客は韓国の訪問者が多い。
訪問地の差異は、初訪日の割合や地理的な要因に加え、観光目的の差にも左右されている。調査での観光目的について聞いた質問では、台湾と中国と香港ではショッピング、韓国は温泉がそれぞれ41%以上の支持率で第1位となったのに対し、オーストラリア、アメリカ・カナダ、英・独・仏では歴史的建造物の見物が45%以上の支持を集め、英・独・仏では65.3%に達する。例えば、日光東照宮など世界遺産に登録された歴史的建造物のある栃木県は全体の訪問率は3.6%であるものの英・独・仏からの訪問率は7.1%で、観光客に限ると14.4%となる。同じく、世界遺産の厳島神社がある広島県の訪問率も全体は4.0%だが、オーストラリアからが14.8%、英・独・仏は11.3%だ。
このほか注目したいのは、全体の傾向として日本食への関心が高まっていること。全体の37.0%が目的としており、2006年から17.6ポイントも向上した。また、オーストラリアからの訪問者のうち35.6%が「日本人とのふれあい」を目的として回答し、観光目的の2位に入っている。「地方分散」つまり「地方の誘客」を考える上では、このような市場ごとの特性を的確に把握して戦略を立てることも重要なポイントになり得るだろう。
成熟市場、欧米市場は個人旅行多く、中国も個人化へ動き
「個人旅行」のキーワードについてはどうか。観光目的での全訪問者の旅行形態は、団体ツアーが40.5%、個人自由型ツアーが15.0%、個人旅行が42.5%となっている。団体ツアーと個人旅行が多い傾向は、市場規模の大きいアジア圏の傾向が反映されていると考えられる。特に中国は、ビザの制約から82.6%が団体ツアーで訪日している。一方、リピート率の高い韓国や台湾、香港では個人の自由型ツアーと個人旅行の割合の合計が50%を超える。特に香港は、団体ツアーが32.7%であるのに対し、個人自由型ツアーが20.1%、個人旅行が46.5%となっており、リピート率の高さとあわせて「成熟した市場」といえるだろう。
欧米からの訪問者はアジア圏と異なり、個人旅行の傾向が強い。アメリカでは個人自由型ツアーが11.7%、個人旅行が62.4%で、英・独・仏も個人自由型ツアーが16.4%、個人旅行が66.4%となっている。
これらのデータを踏まえて個人旅行での取り込みを考えると、市場規模や「伸びしろ」から考えて中国が有望な市場だろう。観光庁も、中国人の個人旅行を認められるよう観光ビザの発給要件の見直しを進めている。個人旅行がしやすい受入環境も、これまで以上に整備していくことが必要だ。
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