外客数トップがブランド強化と受入整備に着手−観光大国フランスの新たな取組み
フランスは年間8200万人の観光客が訪れる、世界最大の観光受入国だ。各国からの旅行者の誘致を担うフランス政府観光局では「フランス観光国際アドバイザリー委員会」(CCI)を設け、各市場からの意見を取り入れながら、観光分野での政策の方向性を議論している。昨年6月のパリ総会では2020年に向けた政策の方向性が話された。世界で最も多くの外客数を集めるものの、訪問者数や観光収入のさらなる増加や今後の競争激化に向けた考えが意識された総会であった。観光大国の真剣な取り組みは、日本からのアウトバウンド送客だけでなく、インバウンド施策でも参考になる。
▽自己分析でホスピタリティ、テーマ性の薄さを認識
フランスでは現在、国の経済に対して観光の重要性を強く認識し、国民総生産(GDP)に占める割合で1%増をめざす方針にある。観光客の絶対数の増加に加え、フランスでの旅行中の滞在日数を長期化することで、その実現をめざしている。CCIでは2020年には観光客数は現在の8200万人から1億人、GDPのシェアは6.3%から7.6%へ、そして雇用効果では直接・間接を含み180万人から60万人分を上積むことをめざすことが話された。
観光客の増加に向けては、新興国市場での対応を強化する。たとえば、BRICS諸国からの訪問者の増加をめざしており、その第1弾としてインドに観光局のオフィスを開設。イメージの醸成にはじまり、各種の情報提供やインターネットを活用したプロモーションを手がけていく。一方で、従来からフランスへの訪問者を送り出している日本を含む各国では、マーケティングを強化する。特に、旅行先を選択する決断に強くアピールしていくことを意識する。その際の大きな課題は、スペインやイタリアと比べ、人々のホスピタリティが薄いこと。さらに、テーマ性が弱いと認識。フランスのイメージが強い「食」のテーマでも現在はイタリアに及ばないと捉えている。
▽弱点の克服−フランスの強みと一極集中の打開
CCIでは、フランスの課題として(1)客室などの供給の問題、(2)プロモーション、(3)査証問題など入国面や航空と鉄道の連携などのアクセス、(4)サービスや宿泊施設でのホスピタリティ、(5)税の優遇、(6)今行く動機付けをつくる、の6つをあげる。
ただし、6つの課題は根本的な問題を含んでおり、例えば、交通の問題ではパリに一極集中する航空、鉄道の問題を検討しなければならない。他国と比べて観光客の地方への分散化が進んでおらず、フランスはパリに950万人、ニースに120万人のところ、スペインはバルセロナに470万人、マドリッドに390万人、セビリアに120万人、イタリアはローマに600万人、ベニスに290万人、ミラノに190万人、フィレンツェに170万人だ。こうした地方への誘客の少なさを「眠れる宝石(Sleeping Treasure)」と表現し、地方市場のプロモーションの強化が重要な施策と位置づける。このため、たとえばバスク地域など、近隣国との観光客の誘致についても積極的に取り組んでいく姿勢だ。さらにアクセス面では鉄道、航空の交通サービス提供者の協力が必要不可欠としている。
それ以外にも、コミュニケーションの不足や、消費者の期待値が低い点など、根本的な課題の解決が必要だ。たとえば、会議で指摘された点として、人々はイベントやお祭りなどでは開催前後の情報を求めており、これらの情報提供が有効であるとされた。また、食への研究を進め、ワインテイスティングに代表されるように職人気質をよりアピールしていくことで地方への誘客をはかっていく。フランスでは「フードフランス」と銘打ち、特徴あるフランスの地方の食を紹介する事業を手がけており、こうした機会を活用しながら、旅行のプロモーションにもつなげていく。
また、ホスピタリティの側面では、週末に店が休むことも言及された。現在はTGVがパリ/ロンドン間を2時間15分で走っており、ショッピングを目的とする場合はロンドンへ流れることも多いという。さらに、ファッション流行の発信地としてもパリからロンドンへ移っていると指摘もあり、観光業界として週末の店舗営業などを促していく考えもある。
▽2020年に向けて関係者の団結をうながす
これらの弱点を認識しつつ、今後の施策としてまず、(1)ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、日本のシニア層、BRICSの新興国市場のマーケットの獲得を進め、(2)消費額を増やすことをねらう。特に、アクティビティの利用を増やし、クオリティを高めること、そしてビジネス渡航も経済効果としては重要な要素との認識だ。(3)さらにサスティナビリティを意識し、パリ以外の地方都市への誘客を念頭に置きながら、訪問先となる都市の組み合わせ、(4)新たなデスティネーションの育成に重点をおく。主要市場は2020年まで、現在と同規模の客数を維持しながら、シニア層については1.7倍に拡大。特にシニア層をひきつけることは高額の消費だけでなく、ファミリーでの旅行や三世代旅行などを誘引する可能性もあり、若年層の旅行需要の確保という点でも重要性の高い項目として対応していく。一方の新興市場は3.5倍の伸びを描く。
世界的な傾向として、旅行以外の消費に資金を使う傾向があることから、平均的な消費をする旅行者層よりも、高額所得者層と格安旅行の旅行者層の両端に焦点をあてる。また、クチコミ情報をはじめインターネットでの情報発信を強化しつつ、価格と質のバランスを保つ。人々の休暇が短くなっていることに対しても明確なオファーを提案していくほか、フランスの安全性を打ち出し、環境問題にも引き続き課題として取り組んでいく。
こうした一連の施策のうち、法的な整備をするのが、観光担当大臣のエルベ・ノベリ氏。たとえば、宿泊施設の「星」の格付けは現在、4ツ星が最高だが、これを法改正により5ツ星として、現在の「最高級」ホテルの上に位置づけられるホテルを指定していく。
ノベリ氏は新施策を打ち出すことで、経済成長の基盤として重要性を認識すること、新たなブランド「フランス」のもとにひとつになって活動をすること、インターネットをはじめとする新たな手法を使いつつ、国と地域の協力で予算と効果の高い方法を志向していくことを強調。「フランスへ来ることが名誉であると思ってもらえることをしなければならない」と話し、新たな出発を関係者に促した。
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◆ フランス、新観光政策を策定し受入体制改善など取組み−新シンボルマークも(2008/10/10)
▽自己分析でホスピタリティ、テーマ性の薄さを認識
フランスでは現在、国の経済に対して観光の重要性を強く認識し、国民総生産(GDP)に占める割合で1%増をめざす方針にある。観光客の絶対数の増加に加え、フランスでの旅行中の滞在日数を長期化することで、その実現をめざしている。CCIでは2020年には観光客数は現在の8200万人から1億人、GDPのシェアは6.3%から7.6%へ、そして雇用効果では直接・間接を含み180万人から60万人分を上積むことをめざすことが話された。
観光客の増加に向けては、新興国市場での対応を強化する。たとえば、BRICS諸国からの訪問者の増加をめざしており、その第1弾としてインドに観光局のオフィスを開設。イメージの醸成にはじまり、各種の情報提供やインターネットを活用したプロモーションを手がけていく。一方で、従来からフランスへの訪問者を送り出している日本を含む各国では、マーケティングを強化する。特に、旅行先を選択する決断に強くアピールしていくことを意識する。その際の大きな課題は、スペインやイタリアと比べ、人々のホスピタリティが薄いこと。さらに、テーマ性が弱いと認識。フランスのイメージが強い「食」のテーマでも現在はイタリアに及ばないと捉えている。
▽弱点の克服−フランスの強みと一極集中の打開
CCIでは、フランスの課題として(1)客室などの供給の問題、(2)プロモーション、(3)査証問題など入国面や航空と鉄道の連携などのアクセス、(4)サービスや宿泊施設でのホスピタリティ、(5)税の優遇、(6)今行く動機付けをつくる、の6つをあげる。
ただし、6つの課題は根本的な問題を含んでおり、例えば、交通の問題ではパリに一極集中する航空、鉄道の問題を検討しなければならない。他国と比べて観光客の地方への分散化が進んでおらず、フランスはパリに950万人、ニースに120万人のところ、スペインはバルセロナに470万人、マドリッドに390万人、セビリアに120万人、イタリアはローマに600万人、ベニスに290万人、ミラノに190万人、フィレンツェに170万人だ。こうした地方への誘客の少なさを「眠れる宝石(Sleeping Treasure)」と表現し、地方市場のプロモーションの強化が重要な施策と位置づける。このため、たとえばバスク地域など、近隣国との観光客の誘致についても積極的に取り組んでいく姿勢だ。さらにアクセス面では鉄道、航空の交通サービス提供者の協力が必要不可欠としている。
それ以外にも、コミュニケーションの不足や、消費者の期待値が低い点など、根本的な課題の解決が必要だ。たとえば、会議で指摘された点として、人々はイベントやお祭りなどでは開催前後の情報を求めており、これらの情報提供が有効であるとされた。また、食への研究を進め、ワインテイスティングに代表されるように職人気質をよりアピールしていくことで地方への誘客をはかっていく。フランスでは「フードフランス」と銘打ち、特徴あるフランスの地方の食を紹介する事業を手がけており、こうした機会を活用しながら、旅行のプロモーションにもつなげていく。
また、ホスピタリティの側面では、週末に店が休むことも言及された。現在はTGVがパリ/ロンドン間を2時間15分で走っており、ショッピングを目的とする場合はロンドンへ流れることも多いという。さらに、ファッション流行の発信地としてもパリからロンドンへ移っていると指摘もあり、観光業界として週末の店舗営業などを促していく考えもある。
▽2020年に向けて関係者の団結をうながす
これらの弱点を認識しつつ、今後の施策としてまず、(1)ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、日本のシニア層、BRICSの新興国市場のマーケットの獲得を進め、(2)消費額を増やすことをねらう。特に、アクティビティの利用を増やし、クオリティを高めること、そしてビジネス渡航も経済効果としては重要な要素との認識だ。(3)さらにサスティナビリティを意識し、パリ以外の地方都市への誘客を念頭に置きながら、訪問先となる都市の組み合わせ、(4)新たなデスティネーションの育成に重点をおく。主要市場は2020年まで、現在と同規模の客数を維持しながら、シニア層については1.7倍に拡大。特にシニア層をひきつけることは高額の消費だけでなく、ファミリーでの旅行や三世代旅行などを誘引する可能性もあり、若年層の旅行需要の確保という点でも重要性の高い項目として対応していく。一方の新興市場は3.5倍の伸びを描く。
世界的な傾向として、旅行以外の消費に資金を使う傾向があることから、平均的な消費をする旅行者層よりも、高額所得者層と格安旅行の旅行者層の両端に焦点をあてる。また、クチコミ情報をはじめインターネットでの情報発信を強化しつつ、価格と質のバランスを保つ。人々の休暇が短くなっていることに対しても明確なオファーを提案していくほか、フランスの安全性を打ち出し、環境問題にも引き続き課題として取り組んでいく。
こうした一連の施策のうち、法的な整備をするのが、観光担当大臣のエルベ・ノベリ氏。たとえば、宿泊施設の「星」の格付けは現在、4ツ星が最高だが、これを法改正により5ツ星として、現在の「最高級」ホテルの上に位置づけられるホテルを指定していく。
ノベリ氏は新施策を打ち出すことで、経済成長の基盤として重要性を認識すること、新たなブランド「フランス」のもとにひとつになって活動をすること、インターネットをはじめとする新たな手法を使いつつ、国と地域の協力で予算と効果の高い方法を志向していくことを強調。「フランスへ来ることが名誉であると思ってもらえることをしなければならない」と話し、新たな出発を関係者に促した。
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