取材ノート:アマデウス、環境変化への対応の鍵はサービス−IT企業へ転換
アマデウスは旅行会社のGDSというイメージが強いが、旅行関連業のバックヤードを支えるIT企業として変貌を遂げている。最も知られる部分は顧客管理ソリューション(CMS)システムで、航空券の手配、インベントリ情報、搭乗手続きや機材の出発を管理する「Amadeus Altea(以下、アルテア)」。これだけでなく、ホテル、レジャー旅行でのアクティビティなど、旅行会社が手配の際に必要とする幅広い分野のIT化に着手している。アマデウスが描く将来像を、フランス・ニースの開発センター、ドイツ・アーディングのデータセンターで複数の責任者に話を聞いた。
アマデウスが描く将来像
アマデウスは2006年2月1日、社名を「アマデウスITグループSA」に変更した。それまでの「アマデウス・グローバル・トラベル・ディストリビューションSA」というGDSの会社からIT企業へ変貌するという意思の表れだ。ただ、IT企業への変化は2006年ではなく、2004年に欧州オンライン旅行会社「オポド」の筆頭株主となり、アルテア・システムの提供を開始したことにさかのぼる。さらに、競合について「トラベルポートやセーバーではなく、IBM、EDSなどがコンペティターになりつつある」(シニア・ヴァイス・プレジデント、コーポレート・ストラテジーのフィリップ・シラク氏)というくらい、アマデウスの意識は変わりつつある。
アマデウスが提供する資料によると、GDS業界の伸びはSARSによる世界的な旅行需要の低減からの反動で2004年に5.5%増と大きな伸びを示したものの、それ以降は2005年に1.4%増、2006年に0.7%増、2007年に3.8%増、2008年は夏現在で1.8%増と2004年を上回る強さはない。また、現在は原油価格が落ち着いているものの、航空会社は燃油に限らず、市場からコスト削減を迫られ、かつ消費者の価格に対するシビアな見方が世界的にも強まっている。エールフランス航空とKLMオランダ航空の経営統合、ノースウエスト航空とデルタ航空の合併、ルフトハンザ・ドイツ航空がスイス航空を傘下におさめ、ブリュッセル航空を買収、さらにブリテッシュ・エアウェイズとイベリア航空の合併交渉など、航空業界の環境は激変にさらされている。
シラク氏はこうした環境を「大きなチャンスで、航空会社はGDSの開発と比べ、より複雑で、より大規模、かつ長期的な展開を考えている」という。このため、アマデウスとしては、売上シェアをGDSで80%、GDS以外で20%という現在の構成から、2010年ごろにはGDSを65%、GDS以外を35%へと変えたいという。こうした考えから、(1)機能の充実、(2)スケールメリット、(3)コスト削減、(4)アライアンスへの対応という観点で、開発環境を考えると、システムの「オープン化」が不可避だ。オープン化のメリットは一般に、「異なるプラットフォーム間での通信とデータ連携が容易」、「エンドユーザーのデータ加工、分析が容易」、「新技術への適応性が高い」、「高い柔軟性と拡張性」、「専用端末が不要」といわれる。旅行・航空業界では、コスト削減の圧力や常に高まる消費者のニーズにすばやく対応するための体制づくり、といえるだろう。アマデウスではオンライン販売の増加を見込むものの、GDSを使う流通も伸び率は低いながら今後も必要とされる分野であるという認識は強い。こうした課題認識から、2011年に現在のシステムを完全にオープン化する途上にある。
技術の進化にどう対応する「IT」企業か
オープン化のメリットを考慮し、アマデウスでは現在の状況で重要な項目としてクロス・チャネル、コントロール、カスタマイズ化、コミュニティ、コンテンツと位置づける。その背後にある考えは、「古いものがダメ」ではなく、「古いものを活かしつつ、新しいサービス、ビジネス・モデルや製品をつくるか」が重要と認識している。
特に、進化の著しい分野が携帯電話を活用した各種サービスだ。この分野は日系航空会社が国内線でモバイル・チェックインをはじめ、携帯電話を利用した予約、フライトスケジュール情報の提供という旅行サービスの前段階から、到着地情報の旅行中など幅広いサービスで、世界各国でもリードする存在。アマデウスでも、航空機の再予約、到着地の天候や予定時間、到着空港からデスティネーションへの足回り、デスティネーション情報とホテルのチェックイン・サービスと旅行に関わる各種の動線でサービスを提供する。
航空分野に限ると、国際航空運送協会(IATA)が完全eチケット化を推進したが、それ以外にもバーコード・ボーディングパス化、RFID(無線識別方式)の採用によるバゲージの管理、あるいはCUSS(Common Use Self-service Check-in System:自動チェックインシステムの共用化)などの取り組みがある。アマデウスもこうした流れに対応し、非接触型のチップを携帯電話に埋め込んで搭乗券として利用することに対応している。
こうしたサービスを提供する一方、これらのサービスをサポートすることが必要不可欠となる。たとえば、空港でチェックインする行為は24時間、世界中のどこかでおこなわれており、こうしたサービスを支援する場合には、常に細かな事柄から大きな問題への対応などが必要となる。旅行会社が予約するGDSでの対応も同様だが、世界の重要な拠点を視野にサービスセンターを置き、24時間対応が可能なサービスとして、こうした事態への対応、各オフィスでの連携を進めている。
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◆トップインタビュー:アマデウス・ジャパン代表取締役 大竹美保氏(2009/01/14)
アマデウスが描く将来像
アマデウスは2006年2月1日、社名を「アマデウスITグループSA」に変更した。それまでの「アマデウス・グローバル・トラベル・ディストリビューションSA」というGDSの会社からIT企業へ変貌するという意思の表れだ。ただ、IT企業への変化は2006年ではなく、2004年に欧州オンライン旅行会社「オポド」の筆頭株主となり、アルテア・システムの提供を開始したことにさかのぼる。さらに、競合について「トラベルポートやセーバーではなく、IBM、EDSなどがコンペティターになりつつある」(シニア・ヴァイス・プレジデント、コーポレート・ストラテジーのフィリップ・シラク氏)というくらい、アマデウスの意識は変わりつつある。
アマデウスが提供する資料によると、GDS業界の伸びはSARSによる世界的な旅行需要の低減からの反動で2004年に5.5%増と大きな伸びを示したものの、それ以降は2005年に1.4%増、2006年に0.7%増、2007年に3.8%増、2008年は夏現在で1.8%増と2004年を上回る強さはない。また、現在は原油価格が落ち着いているものの、航空会社は燃油に限らず、市場からコスト削減を迫られ、かつ消費者の価格に対するシビアな見方が世界的にも強まっている。エールフランス航空とKLMオランダ航空の経営統合、ノースウエスト航空とデルタ航空の合併、ルフトハンザ・ドイツ航空がスイス航空を傘下におさめ、ブリュッセル航空を買収、さらにブリテッシュ・エアウェイズとイベリア航空の合併交渉など、航空業界の環境は激変にさらされている。
シラク氏はこうした環境を「大きなチャンスで、航空会社はGDSの開発と比べ、より複雑で、より大規模、かつ長期的な展開を考えている」という。このため、アマデウスとしては、売上シェアをGDSで80%、GDS以外で20%という現在の構成から、2010年ごろにはGDSを65%、GDS以外を35%へと変えたいという。こうした考えから、(1)機能の充実、(2)スケールメリット、(3)コスト削減、(4)アライアンスへの対応という観点で、開発環境を考えると、システムの「オープン化」が不可避だ。オープン化のメリットは一般に、「異なるプラットフォーム間での通信とデータ連携が容易」、「エンドユーザーのデータ加工、分析が容易」、「新技術への適応性が高い」、「高い柔軟性と拡張性」、「専用端末が不要」といわれる。旅行・航空業界では、コスト削減の圧力や常に高まる消費者のニーズにすばやく対応するための体制づくり、といえるだろう。アマデウスではオンライン販売の増加を見込むものの、GDSを使う流通も伸び率は低いながら今後も必要とされる分野であるという認識は強い。こうした課題認識から、2011年に現在のシステムを完全にオープン化する途上にある。
技術の進化にどう対応する「IT」企業か
オープン化のメリットを考慮し、アマデウスでは現在の状況で重要な項目としてクロス・チャネル、コントロール、カスタマイズ化、コミュニティ、コンテンツと位置づける。その背後にある考えは、「古いものがダメ」ではなく、「古いものを活かしつつ、新しいサービス、ビジネス・モデルや製品をつくるか」が重要と認識している。
特に、進化の著しい分野が携帯電話を活用した各種サービスだ。この分野は日系航空会社が国内線でモバイル・チェックインをはじめ、携帯電話を利用した予約、フライトスケジュール情報の提供という旅行サービスの前段階から、到着地情報の旅行中など幅広いサービスで、世界各国でもリードする存在。アマデウスでも、航空機の再予約、到着地の天候や予定時間、到着空港からデスティネーションへの足回り、デスティネーション情報とホテルのチェックイン・サービスと旅行に関わる各種の動線でサービスを提供する。
航空分野に限ると、国際航空運送協会(IATA)が完全eチケット化を推進したが、それ以外にもバーコード・ボーディングパス化、RFID(無線識別方式)の採用によるバゲージの管理、あるいはCUSS(Common Use Self-service Check-in System:自動チェックインシステムの共用化)などの取り組みがある。アマデウスもこうした流れに対応し、非接触型のチップを携帯電話に埋め込んで搭乗券として利用することに対応している。
こうしたサービスを提供する一方、これらのサービスをサポートすることが必要不可欠となる。たとえば、空港でチェックインする行為は24時間、世界中のどこかでおこなわれており、こうしたサービスを支援する場合には、常に細かな事柄から大きな問題への対応などが必要となる。旅行会社が予約するGDSでの対応も同様だが、世界の重要な拠点を視野にサービスセンターを置き、24時間対応が可能なサービスとして、こうした事態への対応、各オフィスでの連携を進めている。
データセンターのコンセプトと「フォロイング・ザ・サン」
アマデウスのデータセンターは、ドイツ・ミュンヘン
近郊のアーディング(Erding)にある。建設当初は、ア
メリカの国防総省「ペンタゴン」を模したデザインを採
用し、建物の構造も強固に作った。万一、電力の供給が
不足するといった、不測の事態への対応なども考えてつ
くられた。ただし、計画当初と異なり、現在は3ブロッ
クまでしか完成していない。その理由は、データの格納
量が当初の計画とは比べ物にならないほど進歩し、デー
タ量は増えているものの、技術の進歩によって対応でき
ている。一方で、計画当初のコンセプトは、安全性の確保。これについては、建物の周囲
を警備犬としてシェパードが巡回し、施設への不法な侵入を防ぐ体制を整え、個人情報を
含むデータを守っている。
航空・旅行会社は24時間、アマデウスの各種サービスを利用する。正確には、「世界中
の24時間」に対応する必要がある。アマデウスでは、太陽の昇る地点を追っていくという
考え方から「フォロイング・ザ・サン(Following the Sun)」と呼んでいる。このコン
セプトで対応するサービスセンターは、ドイツのアーディング、アメリカのマイアミ、そ
してオーストラリアのシドニーの3ヶ所。さらにタイのバンコクなど、これらを補完する場
所も備えている。データセンターと人による24時間体制の確立により、現在のアマデウス
の各種サービスが支えられている。
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