ブームの兆し、「産業遺産」(2)富岡製糸場(群馬県富岡市)

  • 2009年1月27日
 「産業遺産」がそのものズバリ観光スポットになっている例は、それほど多くない。これまで、費用がかかるために自治体が保存や管理に積極的でなかったことが大きな理由だ。とはいえ、観光スポットとして、しっかり人を集めているところもある。その代表が群馬県にある富岡製糸場だ。

 日本史の教科書で明治初期の「殖産興業」の項を見ると、必ず登場する錦絵。巨大なレンガ造りの建物に大きな煙突から吹きあがる煙、あるいは巨大な工場内にずらっと並ぶ女工の姿。きっと誰でも一度は目にしたことがあるだろう。それが明治5年(1872年)に建設された富岡製糸場の様子だ。

 明治政府の富国強兵政策の一環として、官営工場としてスタートした富岡製糸場。その後1893年に民間会社に移管。時代とともに管理する会社は変わっていったが、1987年まで実に115年もの間、操業が続けられてきた。20数年前まで現役の工場として稼働していたおかげで、主要な建物の多くが130年以上も前に建てられたとは思えないほどの状態で残されている。

 場所は上信電鉄上州富岡駅から南西へ1キロメートルほど。駅周辺の繁華街を抜けると、赤いレンガの巨大な建物群が目に飛び込んでくる。すべての建物が公開されているわけではないが、長さ140メートル、幅12メートルで、当時世界最大規模を誇った繰糸工場は内部の見学が可能。フランスから招へいされた技師のために建てられた建物などを含め、当時の雰囲気を見学できる。正午を除く毎時1時間ごとに、解説付きのツアーが出ており、参加者はガイドの説明を聞きながら、明治から昭和の歴史に思いをはせる。

 富岡市は2005年に工場が寄贈されると、建物の保存に努めるとともに、日本の産業を世界に知らしめた歴史的な遺産を観光スポットとすべく、積極的に整備を進めてきた。「広報とみおか」によれば、建物を市が管理するようになってから、昨年11月末までの累計入場者数は約59万4991人。2007年には維持管理する予算を確保するため、入場有料化(大人500円)に踏み切ったが、見学者数はその後も伸び、現在は複数の観光バスツアーも催行されている。

 昨日紹介した「軍艦島」を含む、九州・山口の近代化産業遺産群同様、ここも世界遺産登録をめざしており、2007年に暫定リストに掲載された。有料化後も順調に見学者数が増えているのはその注目度のおかげもあるだろうが、官民一体となって観光資源としての価値を高めてきたことが最大の理由だろう。現在、富岡市や周辺住民だけでなく、群馬県も一緒になり、工場の建物だけでなく、周辺部の環境整備を進めている。昨年の選考では世界遺産登録には至らなかったが、これらの活動が観光促進に役立っているのは間違いない。

 なお、富岡製糸場は2008年度の「ニューツーリズム創出・流通促進事業」の実証事業に、神流川発電所などを組み合わせたツアーで採択された。


▽富岡製糸場 世界遺産推進ページ 
http://www2.city.tomioka.lg.jp/worldheritage/index.shtml


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