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ブームの兆し、「産業遺産」(1)軍艦島(長崎県長崎市)

  • 2009年1月26日
 年末年始に「巣ごもり消費」の傾向が指摘され、旅行需要が減少するなか、確実に人が動いている観光がある。キーワードは「廃墟ブーム」、「工場萌え」。崩れ落ちそうな廃墟に「侘び・寂び」に通じる芸術性を感じ、工場やコンビナートなど大規模で無機的な構造物の美しさに感動する。少し前までは、オタクやサブカルのテーマにしかならなかった活動が、今新しい旅の形として静かに注目されている。

 その代表的な観光スポットが「産業遺産」。私たちが生きる現代につながる歴史の遺構であり、圧倒的なリアリティが魅力だ。そんな産業遺産を今、新しい観光スポットとして注目する自治体や旅行会社が増えている。これからの国内旅行、さらにはインバウンドを考える上でも重要な観光資源となるだろう。また、消費者の旅行動向の観点としても注目してみたい。

 ちなみに、産業遺産を含む産業観光は、平成19年度に閣議決定された「観光立国推進基本計画」でニューツーリズムのひとつとして記述されており、観光庁の「ニューツーリズム創出・流通促進事業」の一環として、取組みが強化されている。


▽「九州・山口の近代化産業遺産群」のひとつ、軍艦島

 昨年9月、世界文化遺産の国内暫定リストに載り注目を集めた「北九州・山口の近代化産業遺産群」は、幕末から明治にかけて日本の近代化の礎となった遺産群。福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島、山口の6県にまたがり現存する多くの建造物は、それぞれに興味深い歴史がある。

 その中で特にユニークなものが「軍艦島」だ。廃墟ブームの中、マニアにとって「聖地」とまでいわれている。正式な名称は端島(はしま)。長崎市の中心から南西に約19キロメートル、最も近い陸地まで約4キロメートルの洋上に浮かぶ、周囲1200メートルの島である。明治初期から良質の石炭が採掘できる炭鉱として開発が進み、大正時代には日本で最初期の鉄筋コンクリートの集合住宅が建設された。島の周囲もコンクリートの壁で囲まれ、海上から見ると全体が軍艦のように見えたことからこの名が付けられた。

 明治、大正、昭和にわたって日本の産業を支え、最盛期の1960年には5000人以上が生活していた。島は学校や病院、映画館まで備えた都市として存在していたが、エネルギーが石炭から石油にシフトすると、徐々に衰退。1974年に炭鉱が閉鎖されると、それ以降無人島となり、島内の建物はそのままうち捨てられた。その後、島の保存運動や廃墟ブーム、産業遺産の世界遺産への登録活動などで注目されるようになり、観光資源としての存在感が高まったのだ。

 これまでも、島の周囲を巡る1時間から2時間のクルーズが通年運行されていたが、今年からこれまで許可されなかった学習、観光目的での上陸が可能となる。長崎市文化観光総務課によれば、現在、3ヶ所の見学広場とそれを結ぶ約220メートルの見学通路の整備が進められており、4月下旬には一般観光客の上陸ができるようになる予定。廃墟となった建物に入ることはできないが、近代日本の産業を支えてきた遺構をすぐ近くから見学できるようになる。

 同課によれば、すでに多くの旅行会社からツアーを作りたいとの問い合わせがあるそうで、長崎市としても歴史が学べる貴重な遺構を積極的にプロモートする計画を進めている。「特に教育旅行にぴったり」と考えている。

 廃墟となっている島の建物の保存は、費用の問題もありなかなか難しいが、近代産業遺産をどういう形で観光資源として取り込むか。今後の取り組みに注目していきたい。

軍艦島を世界遺産にする会 http://www.gunkanjima-wh.com/


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