取材ノート:旅行動向シンポジウム採録

  • 2009年1月9日
09年の市場はコストセーブへ、燃油費縮小と円高効果は50代以上の層から
〜「上質な空間やサービスを味わう」旅行が減少−旅行動向シンポジウム〜


 財団法人日本交通公社(JTBF)が12月17日に開催した「第18回旅行動向シンポジウム」では、2009年の旅行動向見通しとして、2008年の海外旅行者数の見込みは対前年比7.5%減の1600万人となり、2009年は2008年の見込みからさらに5%減の1520万人になるとの予測を示した。国内宿泊旅行は2008年が1.0%減の見通し、2009年が2.5%減。一方インバウンドは2008年が2.1%増の852万人との見通しを立てたが、2009年は3%減の825万人になるとの予測だ。さらに、人数の減少のみならず、各人が支払う旅行費用の減少を希望する動向もあり、収入面が一層、厳しくなることが予想される。シンポジウムで話された、2009年の旅行市場の予測をまとめた。


▽関連記事
JTBF、2009年の海外旅行者数は続減の1520万人を予想−回復は10年半ば以降か(2008/12/18)

確たる「旅行観」が消費者の支持を集める−旅行動向シンポジウム(2008/12/24)


旅行に対する積極性が急減

 米国に端を発した金融危機により、これまで旅行市場を引っ張ってきた60代以上が資産運用などで影響を受けたため、旅行に対する積極性が急減。11月時点では30代と50代で積極性は昨年を上回っているが、今後金融危機が実体経済に本格的な影響を及ぼし始めれば、すべての年齢で積極性は減少するだろうと、JTBFでは推測する。

 こうしたことから、2008年のマーケットの概況は、海外旅行は昨年から続く減少傾向がさらに厳しくなり、1月から10月の旅行実施率が7.1%減に。国内旅行は2007年に上向いたものの、08年は0.9ポイント減の76.3%とマイナスに転化した。一方インバウンドも、世界的な旅行マーケットの減速で年半ばからマイナスとなり、年間を通じてはプラスを維持するも、伸び幅が大きく減少するという。

 2009年の旅行マーケットについては今後、市場全体は伸張しないが、その内容に大きな変化が生じるとしている。それは若年層を中心に正規雇用比率が低下するなかで、所得の伸びが抑えられ、さらには失業率も上昇することから、「旅行に行く人はますます出かけるが、行かない人はもっと行かなくなる二極化が進行する可能性がある」(黒須宏志・観光文化事業部主任研究員)という。

 また、これまで景気と旅行者数は密接にリンクしていたが、9.11事件とSARS以降、景気の回復と旅行者数の増加は連動しなくなってきたという。しかし、景気後退時には旅行者数の減少が起きている。2009年の海外旅行者数の予測である1520万人という数字は、実質経済成長率がマイナス1.6%の場合であり、これがマイナス2%になると、同7.2%減の1490万人にまで落ち込む可能性を示唆した。


ネット予約でコストセーブ、上質な旅行の希望も減少

 2009年の国内旅行マーケットは、マーケットを率先するオピニオンリーダー層に対するアンケート結果によると、景気後退に加えて大きなイベントもないため旅行に出かける頻度が減る見込みだ。2008年11月に今後1年間の旅行回数を聞いたところ、「かなり減る」が5.3%(2007年11月:2.0%)で、「少し減る」は20.9%(同:11.3%)。逆に「かなり増える」は12.5%から4.8%に、「少し増える」は29.8%から16.8%に増加している。

また、旅行単価も減少傾向を示すと予測。今後1年間の国内宿泊旅行の1回あたりの費用の増減について聞いたところ、「かなり増える」が2.8%、「少し増える」が15.3%であるのに対し、「かなり減る」は5.2%、「少し減る」は22.2%となった。また、旅行会社に期待する役割を聞いた質問でも、「規模を活かして航空券や宿泊を安く仕入れて販売してほしい」が63.6%でトップ。ただし、この質問では「個人では体験できないような旅行商品を提供してほしい」が52.9%で2位、「自分の好きな旅行分野の専門支店が充実すると良い」が36.6%で3位、「テレビなどで有名になる前に良い施設を推薦してほしい」が30.3%で4位となっており、旅行のプロとしての役割に期待する声も依然として大きいと言える。

 どうやって旅行費用を抑えるかという問いに対しては、ほぼ半数が「ネット予約で費用を抑える」(47%)と答え、逆に「今後の旅行の重点」として「上質な空間やサービスを味わう」が52%から46%へ減少している点も見逃せない。


人口の4%が海外旅行の約6割を創出

 海外旅行マーケットでは2010年半ばまで反転が見られないものの、燃油サーチャージの縮小・廃止と円高はプラスに作用する見込み。特に20代と50代以上を中心に効果が見られ、中でも50代以上の反応は早く現れると予想する。また、格安商品を利用する層よりも格安商品を利用しない層の方が強く反応しており、黒須氏は「低価格がすべてではない」と強調する。円高の影響を方面別に見ると、欧州以外の長距離方面は引き続き苦戦する状況が続き、中国はこれまでの反発から増加傾向にあるものの韓国の伸び幅は縮小、アジア方面はマイナス基調になるとしている。また、長距離方面の人気が高まるにつれ航空会社の座席供給量が需要を下回るかもしれず、これがボトルネックとなる可能性を示唆した。

 また、若者の海外旅行離れなどにより、市場への「新規参入層」の縮小が10年続いたことで、成長余力は大幅に低下。現在は人口の4%が海外旅行の約6割を生み出す状況という。さらに、ここまで堅調であった60代以上が金融危機でマイナス成長に転化し、50代以下の勤労者世代への影響もこれから本格化してくると見通す。

 一方インバウンド・マーケットは、中国は引き続き経済の拡大から増加傾向が見込まれるものの、韓国のウォン安、米国経済の失速などの要因から全体としてはマイナスに転化する可能性を指摘。市場別では、中国が3%増、韓国が12%減、アメリカは6%減、台湾は2%減となる予想だ。