観光庁と民間との連携が注目の一年に−活性化による海外旅行の需要喚起に期待

  • 2009年1月8日
旅行需要が伸び悩んだ2008年だが、昨年10月には観光庁が設立され、官民一体をめざした取り組みが注目されている。今後は観光庁をまじえ、どのように海外旅行の需要喚起を促していくか。2008年の概況を振り返りながら、在日外国観光局協議会(ANTOR-JAPAN)会長で香港政府観光局(HKTB)日本・韓国地区局長の加納國雄氏と観光庁観光産業課の奈良裕信氏に、それぞれの立場で語っていただいた。
                                     
                                     
                                     
−2008年を振り返り、どんな一年だったと感じていますか

奈良裕信氏(以下、敬称略 奈良) アウトバウンドについては予想以上に厳しかった。現在は円高へと転じ、特に韓国へのアウトバウンドが伸びている。

加納國雄氏(以下、敬称略 加納) 燃油サーチャージの高騰もインパクトは大きかった。今後は、燃油サーチャージの値下がりや円高が海外旅行を促進する契機になってほしい。観光庁が設立され、各デスティネーションと行政とのつながりが深まったことも重要喚起への大きな足がかりだ。日本旅行業協会(JATA)によるビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)も他国にはない取り組みであり、さらなる成果に期待したい。

 観光庁の設立を記念して実施したパスポート・キャンペーンも好調だった。パスポートへの関心を高め、ひいては海外旅行への興味喚起を促す目的であったが、2万人以上の応募があった。


−昨年10月1日に設立された観光庁には業界からも大きな期待が寄せられている。具体的には、どのような官民一体の取り組みを考えていますか

奈良 海外旅行の具体的なプロモーション活動は民間の担当になる。観光庁としては、各観光局、旅行会社、行政など関係者の連携がスムーズにはかれるよう橋渡しをしたい。すでに開始している海外旅行関係者との意見交換会もその一貫だ。また、旅行者がより海外に行きやすくなるよう、チャータールールの緩和のように旅行会社などの関係者が活動しやすい環境を整備することが国の役割だと認識している。

加納 観光庁ができたことで、環境整備が進んでいると思うし、民間の期待も高い。その一方、全体的に海外旅行の手控えムードが強まっており、今後はいかに消費者にとって魅力的な商品を開発するかが鍵になる。各観光局と旅行会社が一緒になって、旅行者を動機付けするような商品をつくっていきたい。

 もちろん各観光局でも新規商品を提案しているし、観光局が実施する業界向けの視察ツアーも、デスティネーションへの理解を深め、新たな企画づくりに役立ててもらえるだろう。今後は旅行会社からも積極的な企画の提案があると嬉しい。たとえば香港なら、「30種類の中国料理食べ歩き」や「珠江デルタも含めた周遊ツアー」などの企画も面白いはず。具体的な商品開発は観光庁の範疇外だが、旅行会社に促すことはできるだろう。特に、日本の旅行者はますます成熟しており、旅行に対する目的意識を持っている人も増えている。体験型ツアーが増えているのもその表れだ。消費者にあった新商品を打ち出すことで、アウトバンドが伸びる余地はまだまだある。カウンターでの接客もマニュアル通りではなく、幅のある対応がのぞまれている。

 また、最近では観光学科を創設する大学が増えているが、授業内容は地域振興が主で海外旅行・国際交流については少ない。観光庁としては、海外旅行振興の観点から、観光学科の生徒に交換留学やインターンシップを奨励するのも一つのアイディアだろう。

奈良 観光庁では、外国人留学生を行政体験研修として受け入れている。先日は博物館の外国語表記等の点検をおこない、観光客の目線で指摘してもらった。こうした活動は彼らにも良い経験になっているし、われわれも得るところが大いにある。

 アウトバウンドを国として目標設定し、推進していく理由のひとつには、若い世代を中心とした文化の相互理解の促進があげられる。観光立国としてインバウンドを増やすことは重要だが、多くの外国人旅行者を受け入れるためには国全体のホスピタリティを向上させることが不可欠だ。実際に外国を訪れて異文化を肌で体感すれば、日本を訪れる外国人旅行者の気持ちを想像するのも容易になるだろう。

加納 相互理解はアウトバウンドだけでなく、インバウンドにも大いに関わる。「ツーウェイ・ツーリズム」は海外旅行を開発していくうえで非常に意義ある手法だ。多くの国にとっても、日本は非常に重要なマーケットである。


−来年は日本香港観光交流年だが、これに対する取り組みは

加納 2009年は香港で短期滞在の訪日査証が免除されてから5周年、さらに日本人の国外渡航自由化45周年にあたる。こうした節目の年を観光交流年にできたことは非常に感慨深い。また、観光庁が発足して以来、初めてパートナーシップを組むイベントでもある。1月23日に香港で開催されるオープニングセレモニーには、観光庁長官の本保芳明氏が赴く予定もあり、共同でポスターも作成する。

 多彩なイベントも計画しており、7月には香港で初の日本トレンドショーとなる「トレンドエキスポ09 香港」を、東京では「香港ウィーク」を開催する予定だ。香港ウィークでは、香港のファッション、フード、さらにはビジネス分野など、香港のすべてを紹介したいと考えている。

奈良 昨年は日仏観光交流年であったが、ユーロ高で厳しい状況であったヨーロッパ市場においてフランスは健闘したと聞いている。香港も交流年の効果を期待している。


−昨年は航空機の定期便減少もあったが、チャーター便の規制が緩和された。これが旅行の活性化につながると思いますか

加納 地方からのチャーター便が増えれば、地方と世界がますます身近になる。成田などへ行く手間と時間が省けるのは大きい。たとえば、香港から日本へ雪を見に来ることを目的としたチャーター便も出るが、日本から香港への旅行者もいないと商業的にはうまくいかない。季節による変動もあるし、まずはチャーター便から始めるのはリスク軽減にも役立つ。もちろん、いずれは定期便になれば一層よい。

 地方からチャーター便を出すときは、いかにチャーター便を盛り上げるかが重要になる。地方で各観光局が説明会を開くのも一案だ。複数のデスティネーションが揃えば、ちょっとした国際的なイベントになる。旅行会社やJATAの支部にも協力してもらいながら、なるべくお金がかからない形でプロモーションする機会が欲しい。定期便だけでなく、ときにはチャーター便のための催しというのもありだろう。

奈良 観光庁としては、航空行政や地元自治体との調整役はできる。地方空港の空港利用促進協議会やJATAの支部、それに実際の旅行会社も交えて進めていけば、チャーター便の可能性も広がるだろう。定期便があるようなメジャーなデスティネーションだけでなく、定期便がない新たな路線へ就航することで新規デスティネーションを開発できるはず。定番以外の魅力を発掘する機会としても期待している。


−最後に香港政府観光局、観光庁として、2009年に向けての意気込みをお願いします

加納 HKTBとしては日本香港観光交流年に全力投球し、新たな飛躍の年にしたい。香港は様々な楽しみが詰まった「大人の遊園地」。返還前に行ったきりの人も多いかもしれないが、返還から10年以上経った香港には新たな魅力がある。満足度の高い旅行、価値を見出せる旅行を創出していきたい。

奈良 観光庁は昨年10月1日に設立されたばかり。昨年はまだ走り出しの期間だった。観光庁への期待度が高い分、今年は真価が問われる一年になるだろう。経済不況などしばらくは厳しい環境が続くが、2010年には羽田・成田空港の発着枠拡大も控えている。そうした先も見据えながら、準備や施策に取り組む年にしたい。


−ありがとうございました。