全日空、新IT運賃の導入を決定−日本航空は一部で調整、外航は様子見か

  • 2008年10月23日
 全日空(NH)は2009年上期以降の募集型企画旅行商品に適用するIT運賃について、燃油サーチャージを含む運賃(いわゆる「新IT運賃」)を旅行会社に提示することを正式に決定した。これにより6ヶ月の期間で造成する基幹商品において、総額表示が実現することとなる。日本旅行業協会(JATA)が今年5月、「燃油サーチャージ問題解決のための要望について」と題した要望書を日本航空(JL)とNH、および外国航空会社60社に送付した要望書への回答という形で、NHは上記の方針をJATAにも伝えた。JATAに正式にサーチャージ込みの旅行商品造成用運賃であるいわゆる「新IT運賃」の設定を回答した航空会社は、初めて。

 NHは今年7月には、募集型企画旅行商品において総額表示が実現する形で検討を進めている旨を明らかにしていた。パッケージツアーに提供する運賃は、IT運賃と6ヶ月固定の燃油サーチャージ運賃の総額が旅行会社に提示される。このため、パッケージツアーの旅行代金は固定となり、商品の広告表示や購入時点で金額が明確になり、消費者には分かりやすく、旅行会社も3ヶ月毎の変動に合わせた顧客への説明負担の軽減、添乗員などが燃油サーチャージ額を徴収することに伴う添乗員の負担なども解決される。

 なお、NHは航空券の個札について、従来どおり3ヶ月毎に国土交通省に申請、見直しを行う。このため、燃油サーチャージを導入した当初、目的としていた想定をしていない上昇分の徴収に加え、原油価格の増減にあわせた可動性を確保する。なお、他社便の乗り継ぎについては「システム的に対応できる会社とそうでない会社がある」ため、「出来るところから総合的に取り組んでみたい」(広報室)としている。

 今回の決定を受け、JLは新IT運賃に対し、「一部でそういった方向性で調整している。燃油サーチャージの取り扱いは各社と個別に進めており、一部商品で調整している最中」(広報室)と述べるにとどめている。外航は、NHだけでなくJLの動きも見守りたいという思惑も強いようだ。ある外航の日本支社長は「価格が激しく変動する状況では(新IT運賃の導入は)リスクが高い。パッケージツアーに提供するために、燃油サーチャージ額の決定時期も早くしなければならないことも、リスクを高める」と現段階ですぐに追随する姿勢は示していない。

 NHの決定を受け、ジェイティービーでは「JATAも含め、旅行業界が要望していたことが実現し、総額表示に向けて前進し、NHに感謝したい」としつつ、「総額表示は他の航空会社との交渉もあって現在は決定していないが、NHについては交渉がさらに前進する。交渉の場では、消費者が納得できる運賃を提示してほしい。他社とは、原則的には来年上期から全商品を総額表示にできるよう交渉を続けていく」とコメント。近畿日本ツーリストでも「6月30日の国交省による通達でできた総額表示の流れを後押しするもの。消費者の立場としても良いこと。NHに対しては、燃油価格が下がってきているなかで、適切な価格設定を求めたい」としている。こうした動きについて、観光庁でも「総額表示につながる動きとなり、通達がきっかけになったのであれば歓迎すべき動き」(観光庁観光産業課)とコメントしている。


▽原油価格の激しい変動への対応が今後の課題か

 今回のNHの決定は「大きな一歩」と評することが出来る。アメリカ政府の統計によると、原油価格はシンガポールケロシン市況で現在、1バレル90ドル台だが、今年7月には180ドルに迫っていた。ピーク時の価格から4ヶ月ほどで半額に下がっているが、今年5月ごろには125ドルであり、価格変動は上昇、下落の両局面とも急激だ。石油輸出国機構(OPEC)が減産を検討し、価格を維持するとも伝えられる中で、大局的には燃油サーチャージ額の廃止基準である60ドル台である2005年前の価格帯に下がることに大きな期待も現時点では持てない状況もある。今回はこうした動向も踏まえた上で、航空会社も旅行会社もリスクをとる妥協点を見いだした結果と言え、消費者が旅行を決定する費用の提示や旅行会社の販売現場における徴収においても改善が期待される。

 現在のところ、新IT運賃の旅行会社への提示を決定した航空会社はNHのみ。そのNHも、燃油サーチャージは「1月以降の燃油は下がる見込み」としつつ、「付加運賃といえるレベルを超えている」とコメントしており、難しい手綱さばきをうかがわせる。ただし、航空会社も旅行会社も一致するであろうポイントは、需要への影響がどの程度およぶかについて。6ヶ月間、燃油サーチャージが固定となる価格が今後、上昇する局面では航空会社の経営、下落する局面では需要に対する影響をどれだけ和らげるか、そしていずれの局面でも旅行会社は戦略的に商品展開を行うことで需要喚起を図ることが注視される。

 大手旅行会社の幹部は以前、6ヶ月にわたり展開する基幹商品のパッケージツアーではなく、3ヶ月サイクルの季節商品を基幹商品とし、販売を検討していた時期もあった。NHが6ヶ月の燃油サーチャージの固定に道を開いたが、全社が総額表示に合意するかはまだ流動的だ。全社が合意できない場合でも、需要が弱い時期にあるだけに、3ヶ月の季節商品をはじめ、戦略的かつ機動的に商品展開する用意を整えること、大幅な原油価格の下落や上昇に備えた航空会社と旅行会社の燃油サーチャージを含めた航空仕入れに関わる額の「さじ加減」の腕前が、今後はいっそう重要になるだろう。(鈴木)


▽関連記事
10月以降の燃油額、デルタは値下げ−据え置きも目立ち、需要を考慮か(2008/09/10)
日本航空、総額表示に「協力姿勢」−JTBは来年上期の導入に前進(2008/08/25)
全日空、10月以降の燃油サーチャージを一部値上げ−新路線区分と基準を適用(2008/08/19)
燃油サーチャージ値上げ、旅行会社は「タイミングが悪い」と需要を懸念(2008/08/19)
全日空、新IT運賃に前向き−「徐々に進んでいる」(2008/07/16)
国交省、燃油サーチャージの総額表示で通達を発出−約款改定が今後の焦点か(2008/07/01)
JATA、09年上期商品で“新IT運賃”を−燃油サーチャージで航空会社に要望書(2008/05/12)
JATA、航空局に燃油サーチャージで要望−鈴木局長「下がらない分の組み込みを」(2008/03/10)