取材ノート:教育旅行に新しい商機あり−教育旅行シンポジウムより

  • 2008年9月1日
教育旅行に新しい商機あり−教育現場が進めるキャリア教育と“体験の場”

 修学旅行を含めた教育旅行は、学校指導要領の方向性に影響されるところが多い。先ごろ日本修学旅行協会が開催した教育旅行シンポジウムでは、この春に改定された学習指導要領を意識し、「産業観光を通して、いかにキャリア教育を進めるか」をテーマに論じられ、「旅行会社の果たす役割が大きい」との期待も出された。このチャンスを取り込むには、これから本格的に展開される「キャリア教育」とニューツーリズムの分野でもある「産業観光」について、旅行会社としても積極的に学ぶ姿勢が必要だろう。今回はまず、学校現場が強くベクトルを向ける「キャリア教育」について、基調講演で登場した創造開発経済所所長の高橋誠氏の「キャリア教育と特別活動」から、説明する。

▽関連記事
教育旅行、旅行会社への期待高まる−学習指導要領改定で産業観光に脚光(2008/08/28)


生きる力の形成する学習、その進め方は?

 なぜ今、キャリア教育なのか。入社3年後の高い離職率、派遣やアルバイトなどの比正社員が3割以上という正社員の減少する世の中で、目標を定められず、ニートやフリーターといわれる若者が増加している。そのため、単なる職業指導、進路指導にとどまらず、職業観や勤労観を育成し、主体的に進路を選択できる能力・態度を育てる、いわば“生きる力を形成すること”が、学校現場で求められている。さらに高橋氏は、将来の目標に向けて意欲を向上し、自己実現を達成することで、より良い社会の創造にも繋がる。これがキャリア教育の究極の目標だとしている。

 そのため、今後はキャリア教育を教育の中心にするべきとし、日本より先進するアメリカでのキャリア教育のメッカであるサンディエゴの事例を紹介。カリフォルニア州立大学サンディエゴ校では、1学年につきキャリア教育の専門家が1名専従し、専門家と将来の目標に基づいて選択コースや科目を決める。その後、半年や1年ごとに面談し、フォローアップする。アメリカでは生徒に自分の責任で考えることを促しており、学校側ではそのサポートをする体制を整えるようにしているが、日本では多少同様の体制を持つ学校があるものの、まだ緒についたばかりだという。

 日本でも文部科学省がキャリア教育をすべての教育現場で推進することを推奨している。その具体的な方法だが、各教科授業での実践の場のほか、将来設計、生き方を考える総合的な活動の時間、さらに地域や企業、行政で働く人による授業、社会見学、教育旅行、職場体験といった特別活動などさまざまな要素があり、生活のありとあらゆるものが関わることを説明。そのため、人の生業にかかわる産業観光は、キャリア教育にとって有益であるとする。


見て、学んで、体験する、産業観光はキャリア教育に最適

 産業観光では、産業文化財の見学や生産現場の視察と体験、地域の産品や生産製品が対象。これを教育に結びつければ、それらを視聴し、学習し、体験して学びとることができる。しかも、その範囲は地元、国外、海外の幅広いエリアから選択が可能だ。

 ただし、産業観光はまだ一般には知られておらず、国土交通省が推進する「ニューツーリズム創出・流通促進事業」の一つとして取り上げられている分野である。そのため、まだまだ緒についたばかりで、今後の活性化への期待と同じくらい課題も多いのが実態だ。高橋氏は産業観光をキャリア教育に取り入れるための課題として、(1)産業観光施設のリスト化と提携、(2)産業観光を紹介・教育する組織・人材の確保(3)産業観光施設からの情報発信、(4)産業観光と教育機関の連携、の4つのポイントが重要であると説いた。これらを踏まえた対応が、旅行会社にも求められているといえるだろう。