トップインタビュー:ワタベウェディング代表取締役社長 渡部秀敏氏
変化する市場で「本質」を追求−海外ウェディングの将来は明るい
少子化による市場の縮小や消費者の趣向の多様化など、旅行業界と同様の課題を抱えるウェディング業界。そのような状況で最大手のワタベウェディングは、中期経営計画で掲げる目標「2010年度500億円(07年度比41.6%増)」の達成に向け、アジアへの進出やゆうちょ財団からメルパルク11施設の事業承継など展開を続けている。変化する環境のなかで生き残り、成長を続けるための方策について、6月に代表取締役社長に就任した渡部秀敏氏に聞いた。(聞き手:本紙編集長 鈴木次郎、構成 松本裕一)
−41歳での社長就任。経営者としての抱負は
渡部秀敏氏(以下敬称略) ウェディング業界では、68歳の現会長よりも市場に近い感覚を持っていることはプラスに作用するだろう。ただし、若さによる「恐れ知らず」は、良い面はあるが一部分でしかない。経営は非常に複雑で、それらをバランスよく判断するための経験は「成功」も「失敗」も十分ではない。最後は自分で決定するが、多くの先輩方と意見交換をすることを大切にしている。
私が大切にしている言葉に、1993年から8年間駐在したオーストラリアで知った「fair go」がある。オーストラリアは移民の国なので、価値観が異なる時にフェアかどうかを考える。その際に、フェアであれば実行するという精神で、私も「理にかなっていればやってみよう」と考えている。これまでのウェディング業界は、挙式にある程度の形式があったため、サービス面でも同様に定番を提供することで安定的な業績を保てる、というセオリーがあった。しかし、消費者の趣向が多様化しており、伝統的な挙式にとどまらず、ハウスウエディングやレストランウエディングなど常に新しいスタイルが登場し、いわゆる「セオリー」が通用しなくなっている。従来どおりの対応だけでは、人口が減り、市場が縮小する中で取り込める消費者はさらに少なくなる。このため、特に消費者に直接応対する現場の従業員の声を聞き、「理にかなっているか」、「フェアか」を考え、コンセンサスが得られれば、迷わず進めると信じている。
−海外ウェディングの現状、展望や対策は
渡部 私たちの考えは、海外ウェディングと国内ウェディングではなく、「デスティネーション・ウェディング」と「ローカル・ウェディング」と定義している。デスティネーション・ウェディングは海外や沖縄など、旅行をともなう非日常的な空間での結婚式をあらわし、ローカル・ウェディングは新郎新婦の地元での挙式。そのように分けた方が消費者の目線から外れないと考えている。
このデスティネーション・ウェディングの現状は、オーストラリアやヨーロッパなど長距離の移動をする方面が厳しいが、アジア・リゾートの勢いは強く、バリや沖縄は非常に好調に伸びており、グアムが堅調、ハワイは安定的に推移している。このうち沖縄は現在、年間7000組ほどで、沖縄でのウェディング全体に占めるワタベウェディングのシェアは5割程度に達している。
居住地から離れた非日常的な空間で挙式することへの欲求、需要は絶対になくならないだろう。そうした欲求や需要は、特に先進国になるほどに強い傾向がある。発展途上のある国では「食べること」の欲求が強く、挙式に村中の人々を呼び、ひたすら食事をするようなかたちもある。先進国では一般的に生活に余裕ができ、人が人に感謝や祝福の気持ちを伝えるウェディングの「本質」がより重要になる。気持ちを伝える上で、赤い夕陽やさわやかな海など非日常的空間は舞台装置として演出効果が高く、デスティネーション・ウェディングの魅力も高まる。例えば、イギリスでは全体の25%、アメリカでは20%が居住地を離れて結婚式を挙げており、日本はまだ10%ほどにとどまっている。語学への不安から、海外の挙式に二の足を踏むといった行動は旅行会社と同じ悩みを抱えている。しかし、デスティネーション・ウェディングが減ることは考えにくく、日本市場のシェアの低さから考えても将来は明るいと考えている。
また、短中期的には、景気の減速感もウェディングに影響してくるだろう。特に、地方都市におけるデスティネーション・ウェディング需要が拡大すると予測している。人間関係のつながりが強い地方は、どうしても招待客が多くなる。このため、経済的に厳しい中で、招待する側もされる側も重荷になってしまうが、招待しなければ角が立つ。しかし、挙式するカップルの地縁を離れるデスティネーション・ウェディングであれば、両者とも傷つかない。これはバブル崩壊後に見られた現象で、90年代は毎年15%前後の伸びを示した。ドル安傾向も、ワタベウェディングの海外挙式全体の8割を占めるハワイとグアムの追い風になると考えている。懸念材料は、原油の高騰など旅行業界と同じで、リゾート路線の減便は旅行会社以上に直接的な影響を受けることになる。
−先ごろメルパルクの事業を承継したが、国内ウェディングはどう展開する方針か。また、性質の異なる2種類のウェディングに取り組むことの意義、効率性は
渡部 メルパルクの事業承継は、国内ローカル・ウェディングの強化をねらったもの。9.11やSARSで海外渡航の意識が減退した際に、経営を安定化するためにローカル・ウェディングを強化する必要性を感じた。現在は、このローカル・ウェディング2事業を車の両輪のように展開し、さらに衣装やアルバム、DVD製造などウェディングに関するコンテンツの販売事業でリスクを分散している。どちらか一方が伸びた場合は、バランスを考えて他方に経営資源を再投入している。
「メルパルク」は、素晴らしいハードとサービスを手ごろな価格で提供するお値打ち感が得られるブランドとして市場では安心感が定着しており、メリットは大きい。十数年前であれば、新郎新婦の出身地が同郷という場合が多かったが、現在は新郎新婦の出身地が北海道と沖縄というように遠方の地方という場合もある。こうした傾向が進んでいくと、ブランドや分かりやすさが重要になる。例えば、新郎側の地域では認知度の高い式場でも、新婦側の地域で知られていなければ「名も知らない式場には呼びにくい」となり得るが、「メルパルク」は日本各地に地域密着型で展開しており、多くの人にとって選ばれやすい。
−中期経営計画の目標達成に向けた方策は。海外展開では中国進出を柱の一つとしている
渡部 目標とするところは、数字のみではなく、ウェディングの本質を愚直なまでに追及すること。結婚式の形態は多様化しているが、その本質はどの結婚式でも変わらない。むしろ、しきたりや慣習として式次第や進行が伝統的に決まっている結婚式と比べ、新郎新婦の意向が反映されやすくなった現在は、これまで以上に本質が重要になってきている。一生の伴侶とのスタートラインで「気持ちを伝える」場を演出する重要な使命を、世界中の誰よりも上手に、かつ一所懸命に果たしたい。これらの取り組みを進めるなかで、数字や方法論など、経営的な面を固めていきたい。
海外での展開は、生活水準が向上しているアジアの人々に対するローカル・ウェディングとともに、デスティネーション・ウェディングを提供していくことが命題だ。すでにネットワークは構築しており、ネットワークの中で「どこからどこに動くか」という点だけを考えれば良いため、他社に比べ圧倒的に優位にあると考えている。進出先は、まずは香港と台湾、中国沿岸部。それぞれの地域によってニーズが異なるため、これに応えられれば他の地域でも展開できると考えている。香港店を開業した際には、直後に沖縄での挙式を数十件受注し、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)にも貢献できるだろう。
方針としては、世界各国の生活水準が高まりつつある中で需要はあり、それが顕在化するタイミングを逃さずに商品を投入する。このため、常にアンテナを立てておくことと、機動的に動いていくことが重要だ。タイミングは各国の芸能界のタレントがどこにハネムーンに向かうか、あるいは航空会社の路線開設など様々な事象に影響を受ける。この動きは旅行会社が得意とするところであり、寄り添うように連携し、海外発の海外あるいは訪日ウェディングを開拓していきたいと考えている。ウェディングの本質を追及する企業として、宿泊や航空券の手配は身に余る。旅行会社とは、今後もこれまでと変わらず協力して取り組んでいきたい。
ありがとうございました。
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少子化による市場の縮小や消費者の趣向の多様化など、旅行業界と同様の課題を抱えるウェディング業界。そのような状況で最大手のワタベウェディングは、中期経営計画で掲げる目標「2010年度500億円(07年度比41.6%増)」の達成に向け、アジアへの進出やゆうちょ財団からメルパルク11施設の事業承継など展開を続けている。変化する環境のなかで生き残り、成長を続けるための方策について、6月に代表取締役社長に就任した渡部秀敏氏に聞いた。(聞き手:本紙編集長 鈴木次郎、構成 松本裕一)
−41歳での社長就任。経営者としての抱負は
渡部秀敏氏(以下敬称略) ウェディング業界では、68歳の現会長よりも市場に近い感覚を持っていることはプラスに作用するだろう。ただし、若さによる「恐れ知らず」は、良い面はあるが一部分でしかない。経営は非常に複雑で、それらをバランスよく判断するための経験は「成功」も「失敗」も十分ではない。最後は自分で決定するが、多くの先輩方と意見交換をすることを大切にしている。
私が大切にしている言葉に、1993年から8年間駐在したオーストラリアで知った「fair go」がある。オーストラリアは移民の国なので、価値観が異なる時にフェアかどうかを考える。その際に、フェアであれば実行するという精神で、私も「理にかなっていればやってみよう」と考えている。これまでのウェディング業界は、挙式にある程度の形式があったため、サービス面でも同様に定番を提供することで安定的な業績を保てる、というセオリーがあった。しかし、消費者の趣向が多様化しており、伝統的な挙式にとどまらず、ハウスウエディングやレストランウエディングなど常に新しいスタイルが登場し、いわゆる「セオリー」が通用しなくなっている。従来どおりの対応だけでは、人口が減り、市場が縮小する中で取り込める消費者はさらに少なくなる。このため、特に消費者に直接応対する現場の従業員の声を聞き、「理にかなっているか」、「フェアか」を考え、コンセンサスが得られれば、迷わず進めると信じている。
−海外ウェディングの現状、展望や対策は
渡部 私たちの考えは、海外ウェディングと国内ウェディングではなく、「デスティネーション・ウェディング」と「ローカル・ウェディング」と定義している。デスティネーション・ウェディングは海外や沖縄など、旅行をともなう非日常的な空間での結婚式をあらわし、ローカル・ウェディングは新郎新婦の地元での挙式。そのように分けた方が消費者の目線から外れないと考えている。
このデスティネーション・ウェディングの現状は、オーストラリアやヨーロッパなど長距離の移動をする方面が厳しいが、アジア・リゾートの勢いは強く、バリや沖縄は非常に好調に伸びており、グアムが堅調、ハワイは安定的に推移している。このうち沖縄は現在、年間7000組ほどで、沖縄でのウェディング全体に占めるワタベウェディングのシェアは5割程度に達している。
居住地から離れた非日常的な空間で挙式することへの欲求、需要は絶対になくならないだろう。そうした欲求や需要は、特に先進国になるほどに強い傾向がある。発展途上のある国では「食べること」の欲求が強く、挙式に村中の人々を呼び、ひたすら食事をするようなかたちもある。先進国では一般的に生活に余裕ができ、人が人に感謝や祝福の気持ちを伝えるウェディングの「本質」がより重要になる。気持ちを伝える上で、赤い夕陽やさわやかな海など非日常的空間は舞台装置として演出効果が高く、デスティネーション・ウェディングの魅力も高まる。例えば、イギリスでは全体の25%、アメリカでは20%が居住地を離れて結婚式を挙げており、日本はまだ10%ほどにとどまっている。語学への不安から、海外の挙式に二の足を踏むといった行動は旅行会社と同じ悩みを抱えている。しかし、デスティネーション・ウェディングが減ることは考えにくく、日本市場のシェアの低さから考えても将来は明るいと考えている。
また、短中期的には、景気の減速感もウェディングに影響してくるだろう。特に、地方都市におけるデスティネーション・ウェディング需要が拡大すると予測している。人間関係のつながりが強い地方は、どうしても招待客が多くなる。このため、経済的に厳しい中で、招待する側もされる側も重荷になってしまうが、招待しなければ角が立つ。しかし、挙式するカップルの地縁を離れるデスティネーション・ウェディングであれば、両者とも傷つかない。これはバブル崩壊後に見られた現象で、90年代は毎年15%前後の伸びを示した。ドル安傾向も、ワタベウェディングの海外挙式全体の8割を占めるハワイとグアムの追い風になると考えている。懸念材料は、原油の高騰など旅行業界と同じで、リゾート路線の減便は旅行会社以上に直接的な影響を受けることになる。
−先ごろメルパルクの事業を承継したが、国内ウェディングはどう展開する方針か。また、性質の異なる2種類のウェディングに取り組むことの意義、効率性は
渡部 メルパルクの事業承継は、国内ローカル・ウェディングの強化をねらったもの。9.11やSARSで海外渡航の意識が減退した際に、経営を安定化するためにローカル・ウェディングを強化する必要性を感じた。現在は、このローカル・ウェディング2事業を車の両輪のように展開し、さらに衣装やアルバム、DVD製造などウェディングに関するコンテンツの販売事業でリスクを分散している。どちらか一方が伸びた場合は、バランスを考えて他方に経営資源を再投入している。
「メルパルク」は、素晴らしいハードとサービスを手ごろな価格で提供するお値打ち感が得られるブランドとして市場では安心感が定着しており、メリットは大きい。十数年前であれば、新郎新婦の出身地が同郷という場合が多かったが、現在は新郎新婦の出身地が北海道と沖縄というように遠方の地方という場合もある。こうした傾向が進んでいくと、ブランドや分かりやすさが重要になる。例えば、新郎側の地域では認知度の高い式場でも、新婦側の地域で知られていなければ「名も知らない式場には呼びにくい」となり得るが、「メルパルク」は日本各地に地域密着型で展開しており、多くの人にとって選ばれやすい。
−中期経営計画の目標達成に向けた方策は。海外展開では中国進出を柱の一つとしている
渡部 目標とするところは、数字のみではなく、ウェディングの本質を愚直なまでに追及すること。結婚式の形態は多様化しているが、その本質はどの結婚式でも変わらない。むしろ、しきたりや慣習として式次第や進行が伝統的に決まっている結婚式と比べ、新郎新婦の意向が反映されやすくなった現在は、これまで以上に本質が重要になってきている。一生の伴侶とのスタートラインで「気持ちを伝える」場を演出する重要な使命を、世界中の誰よりも上手に、かつ一所懸命に果たしたい。これらの取り組みを進めるなかで、数字や方法論など、経営的な面を固めていきたい。
海外での展開は、生活水準が向上しているアジアの人々に対するローカル・ウェディングとともに、デスティネーション・ウェディングを提供していくことが命題だ。すでにネットワークは構築しており、ネットワークの中で「どこからどこに動くか」という点だけを考えれば良いため、他社に比べ圧倒的に優位にあると考えている。進出先は、まずは香港と台湾、中国沿岸部。それぞれの地域によってニーズが異なるため、これに応えられれば他の地域でも展開できると考えている。香港店を開業した際には、直後に沖縄での挙式を数十件受注し、ビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)にも貢献できるだろう。
方針としては、世界各国の生活水準が高まりつつある中で需要はあり、それが顕在化するタイミングを逃さずに商品を投入する。このため、常にアンテナを立てておくことと、機動的に動いていくことが重要だ。タイミングは各国の芸能界のタレントがどこにハネムーンに向かうか、あるいは航空会社の路線開設など様々な事象に影響を受ける。この動きは旅行会社が得意とするところであり、寄り添うように連携し、海外発の海外あるいは訪日ウェディングを開拓していきたいと考えている。ウェディングの本質を追及する企業として、宿泊や航空券の手配は身に余る。旅行会社とは、今後もこれまでと変わらず協力して取り組んでいきたい。
ありがとうございました。
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