Marriott Bonvoy

インタビュー:ドイツ観光局ディレクター・マーケティングの西山晃氏

  • 2008年8月19日
ドイツファンを増やす活動に集中
−テーマを明確にした旅行の提供を



ドイツ・セミナーで、西山氏の熱のこもったプレゼンテーションを聞いたことがある人も多いだろう。その西山氏が今年4月、ディレクター・マーケティングに就任した。ドイツへの旅行商品の人気は根強いものの、日本市場の低迷とも重なり、送客数が伸び悩むことを大きな課題と捕らえているという。西山氏に、今後の活動方針について聞いた。(聞き手:弊紙記者 秦野絵里香)




                                                                −今後の方針、強化したい取り組みについて教えてください

西山晃氏(以下、敬称略) パッケージ旅行を企画していただき、販売してもらっても、市場全体が伸びることがあまり期待できない環境にあります。そのような環境にあっても旅行に行きたい人を中心に、「ドイツファン」を増やすことに集中していきたい。アクティビティを通じて地道にファンを増やし、旅行者の拡大に取り組んでいきたいと考えています。

 以前、ドイツ観光局のスタッフによる手作りのイベントを実施したことがあります。弊局ではメールマガジン「ドイツ旅メール」を月一回、配信しており、その5周年を記念してドイツビールやワインを通じて交流するドイツカフェを、レイルヨーロッパの協力を得て開催したのです。ねらいは、これまでメルマガを読んでいただいた読者に「ありがとう」と「これからもよろしくお願いします」という気持ちを表現すると同時に、メルマガ会員のさらなる拡大をはかったものです。新規登録者のアドレスを2件紹介することを条件に募集したところ、108名の応募があり、抽選で20組40名を招待し、結果的に200名以上の新規会員を増やすことができました。


−インターネット化が進み、消費者との実際のコミュニケーションの場が縮小しつつあります。こうしたイベントの開催はどのような意味がありましたか

西山 大々的なプロモーションで一挙に多数を集客することばかりでなく、小さいながらも密度の濃い活動の重要性に改めて気づきました。今までほとんど取り組んでいなかったことで、1対1のコミュニケーションを蜜にとること、それを定期化すること、メルマガ会員のロイヤリティを高めることが大切だと思います。こうした活動とともに、雑誌をはじめ、各種のメディアにドイツを取り上げていただくプロモーションを続けることで、ドイツのファンを増やしていくことにつなげていきたい。こうしたイベントは他の観光局で取り組んでいるものですが、ドイツ観光局としては初めてのこと。新たな考え、スタイルを積極的に取り入れ、小さな活動から少しずつでも「ドイツ好き」を増やしていきたいですね。

 また、異業種とのコラボレーションにも取り組んでいます。メルセデス・ベンツをはじめ輸入車販売を手がけるヤナセと連動し、ヤナセの各地の販売店でドイツのユネスコ世界遺産の写真展として掲示しています。店頭とウェブサイトで告知をし、双方のメルマガ会員を増やしていくことで相乗効果を進めています。

 また、今年で26回目になるトレイン・ジャックを東京と大阪で開催。恒例のドイツ旅行のプレゼントキャンペーンは人気が高く、今年は約1500件の応募が集まりました。こうしたさまざまな取り組みが、ドイツに関心を持つきっかけとなり、実際の旅行につながればと考えています。


−最近の旅行者は目的志向が強いといわれますが、その傾向への対応策をどのように考えていますか

西山 自分の好きなこと、目的があるからこそ自分の好きなように旅行の計画をたてたいと思うのでしょう。だからテーマ性を強く打ち出すと、FITの旅行形態が増えていく。そうした流れに対応するねらいから、昨年は個人旅行を対象とした12のモデルコースを提案しました。ドイツで開催されたサッカーのワールドカップでは、鉄道を使って移動することが初めてでも、鉄道のサイトで自分で予約し、実際に訪れ、移動をする人がいました。旅行は何かをしたいという欲求を満たすための手段ですから、FIT化は止められることは出来ない流れだと思います。

 その一方で、ヨーロッパという遠い国に対する不安、言葉の壁など、日本人の気質が大きく変わらない限り、グループ旅行はなくならないとも考えています。今後も大手旅行会社が企画・造成するパッケージ商品の送客は重視し、その送客に依存する部分は大きいと考えています。ただ、これまで通りのシリーズ化された定番商品だけでなく、テーマを明確にした旅行商品が出てくると消費者をひきつける新たな切り口になると思います。FITが楽しむ要素に加え、個人ではなくグループだからこそできることを考えたい。


−パッケージ商品以外にも、旅行業界との協力に取り組んでいますね。修学旅行など、団体旅行ではどのような考えでしょうか

西山 特に2004年以降は修学旅行の促進に取り組んでいますが、明確なテーマを持った旅行を提案していきたい。ドイツは語学だけでなく、平和教育をテーマに据えることができます。ちょうど、来年はベルリンの壁崩壊20周年、バウハウス誕生90周年と記念の年にあたるため、そのテーマを専門とする学校などにも提案、訴求できると考えています。

 こうしたテーマの高い旅行はグループ旅行からFITまで、自分の好きなこと、やりたいことに関心が高いという人にアピールができます。ドイツのデスティネーションを満遍なく伝えるだけでなく、例えば自動車や花など、ドイツの中で楽しめるテーマを明示してプロモーションしています。旅行に慣れていない人でも、目的があるからこそ行ってみようと思う人もいる。そのきっかけを提案し続けることは必要です。


−そのほか、旅行業界と取り組んでいくことでお考えになっていることはありますか

西山 これまで続けてきた活動を継続していくことは大切です。たとえば、定期的にセミナーを開催すること、ファムトリップの開催で現地を知ってもらうこと、これらは、新しい旅行商品を作る動きにつなげる鍵になります。それと同時に、地方都市の旅行会社の方に、いかにドイツを訪れるツアーの造成、販売につなげてもらう方策を重視していきたい。昨年は20都市で各種のセミナーを開催しましたが、東京、名古屋、大阪といった大きな市場と異なり、地方ではビールとソーセージ、あるいはノイシュバンシュタイン城など定番のドイツを訴求することで、集客できる。こうした点から、地方発のツアーはまだまだグループ旅行の可能性を見出しており、新規の取り込みを含めて今後の伸びが期待できると考えています。

 例えば、福岡のセミナーでは、旅行会社や航空各社など関係方面と協力関係を築き、地元の空港を利用して、海外に出かけたいというニーズが強くあると肌で感じました。そうした成果の一つとして、熊本発で約600名を集めた旅行商品があります。阪急交通社とアシアナ航空が2006年11月から2007年4月までの期間、熊本県だけで販売する商品として、3泊5日ドイツの旅というものを販売しました。フライトの都合からソウルでの一泊を含み、ケルンの大聖堂とライン川を見る商品で、ドイツには実質2泊でした。しかし、関係者は熊本だけで約600名を集客し、しかも冬の期間にそれだけの成果をあげることができたことに大いに満足していました。

 ただし、地方都市でのプロモーションは、その土地固有の気候、風土にも左右されます。例えば、雪が降らない西日本地方の方がヨーロッパの冬、例えば最近のツアーに多いクリスマス・マーケットに関心を持つ人が多いかもしれない。逆に、北海道ではミュンヘンの冬を売り込んでも大きな関心をひきつけられないと思います。そういう意味で、日本の各地にある独特の文化、地域の特色、市場を踏まえ、観光局として提案できるテーマを伝えて一緒に旅行商品を作っていきたいし、作っていけると考えています。


−ありがとうございました。