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ハワイ体験レポート(24)−ハワイの自然、文化に、思いを込めて縫い込むキルト

  • 2008年5月23日
ハワイの自然、文化に、思いを込めて縫い込むキルト
〜「キルト・イン・パラダイス」で見たハワイ〜



 フラやウクレレのほか、日本でも人気のハワイ文化の一つにハワイアン・キルトがあげられる。キルト作品や雑貨を集める人から自身で創作する人まで、愛好家の姿はさまざま。そのどちらにも興味があるイベントになりそうなのが、ハワイ・キルト・ギルドが毎年開催する「キルト・イン・パラダイス」だ。4月25日から5月4日まで開催された今年の展示会では、伝統的なデザインから現代ものまで、100点以上のキルトが展示された。訪問者の中には、キルトファンやキルターはもちろん、これからキルトを始めたい人や、じっくりと時間をかけて見学する若い男性のグループの姿も見られた。(文/写真:Maia)



ハワイならではのハワイアン・キルト

 1820年代、イギリスの宣教師の妻たちによって広まったハワイアン・キルトは、基本的に鮮やかな色合いのものが多く、2色の無地の布を使用している。パイナップル、椰子、ハイビスカスなど、主にハワイに生息する植物がデザインされ、そのパターンは一枚の布からできているのが特徴だ。

 会場のハワイアン・キルトのコーナーには、タヒチ旅行で見た真っ赤なハイビスカスをキルトに残したヨシダユキミさんの作品「タヒチアン・ハイビスカス」(Tahitian Hibiscus)がひときわ目立っていた。また彼女のキルトへの思いを込めた作品「ククイ」(Kukui)も印象的。「その昔、ハワイの人にとって、灯りとして利用されていたククイがとても大切な存在であったように、自分にとってキルトもそうである」、と自身の思いを綴っている。制作者の特別な思いを縫い込んだ作品は鮮やかで、とても素敵だ。

 ちなみに、「キルト・イン・パラダイス」を主催するハワイ・キルト・ギルドはキルトの伝統、文化、歴史を守るとともに、会員への教育や公共へのコミュニティサービスを通してキルトの知識を高めていく会員制の集まり。1984年に正式結成され、現在はハワイ、米国本土のほか、海外を含め、初心者から上級者まで200人以上の会員が活動している。今回展示されていたキルトは、すべてがこのハワイ・キルト・ギルド会員の作品だ。

 ギルドは毎月1回、ミーティングを開き、イベントの話し合いをしたり、キルトのデザインや技法を教えあう。このミーティングには、観光客も気軽に参加できるので、熱心なキルターにはお勧めだ。会員になると、キルト教室への参加やキルトライブラリーが使用できるほか、少人数のグループで集まってキルトをする「キルトビー」や、「リトリート」にも参加できる。日本のキルトグループを対象に、交流を目的にしたツアーも考えられるだろう。



今年のメインキルターは、ドリス・タンドさん

 建物の中では、メイン会場の外にたくさんの作品が展示されていた。今回の「キルト・イン・パラダイス2008」のメインキルターに選ばれたドリス・タンドさんの作品だ。

 作品に見入っていると、タンドさんから声をかけてきてくれた。日系3世のタンドさんは20年前に勤め先を退職後、長く続けられる趣味を探していたそうだ。まず、フラワーアレンジメントやエッグアートも試したが、「どこへでも持ち歩く事ができ、時間を気にしなくていいキルトは、自分の作りたい時に、自分の好きなだけ進めればいいし、これなら趣味として長く続けられる」、そう思ったそうだ。こうしてタンドさんは、すっかりキルト作りにはまってしまった。

 タンドさんの作品は、日本に影響されたものが多い。お気に入りのキルターは日本のキルト作家、片桐好子さん。片桐さんが教えてくれたという着物生地を使ったハンドアップリケから発想を得てできた作品が、「跳ねる鯉」(Jumping Carps)だ。また、「着物メドレー」(Kimono Medley)を作成している時に使った技法は、講習会で教えている。

 「キルトという言葉にとらわれず、自分のしたいことをなんでも試してみる」と、タンドさんは笑顔で話す。彼女にとってのキルトは、色で遊び、素材で遊ぶこと。着物や浴衣の生地や藍染め、絞りといった日本特有の生地が好きで、新しい素材や色の組み合わせを考えたり、ひとつの作品でミシンを使ったり、手縫いしたり、特別な技法を使ったりと、常に新しいことに挑戦し、日本をテーマにした作品以外にも、クリスマスやハロウィンなど季節をテーマにしたものなど、50作以上のキルトを作ってきた。勉強熱心で講習会やキルトショーへも足を運び、アメリカ本土、ヨーロッパ、そして日本にも出かける。行く先々で新しい技法や色使い、素材について学び、刺激を受け、自分の創造性を高めるのだそう。そして、ハワイに戻ると、自宅のリビングルームで大好きな韓国ドラマを見ながら、作品づくりに励むのだそうだ。



会場を埋めるユニークな作品たち、大賞は「クアロアの景色」

 会場内に入ると、次々と作品が目に飛び込んで来る。これだけの作品を展示しているキルトショーは、なかなかないだろう。ハワイの花や自然をテーマにしたもの、余布を使って作る伝統的なパッチワークキルトやアメリカのステンドグラスキルト、アジア文化に影響を受けたデザインほか、さまざまなキルトが所狭しと並んでおり、販売されているものもある。

 まず目を引いたのが、メリッサ・ドーソンさんの作品「夏に入る」(Slipping into Summer)。ロコが大好きなビーチサンダルの柄が入った小さな生地をふんだんに使い、ハワイらしいカラフルな作品だ。また、Tシャツを使ったユニークな作品、「タイガー・キルト」(Tiger Quilt)は、なんと男性キルターの作品。地元のマッキンレー高校のフットボールのコーチ、ジェレマイア・モエアヴァさんは、奥さんに影響されてキルトをはじめ、自身がコーチするチームのTシャツを使い、初めての作品を完成させたという。

 また、孫と一緒にしていた折り紙から発想を得て作られたヨシ・クラークさんの「折り紙」(Origami)は、日本の文化とハワイアンプリントが使われたオリジナリティあふれる作品だ。このほか、アップリケの外側に刺繍技法を使った作品や、紙を縫い込んで作ったキルト等、クリエイティブな作品が多く見られた。

 窓から見た景色をテーマにした作品が何点も飾られていたコーナーもあった。これらは、今年のコンテストのテーマ「ハワイの窓を通して見えるもの」をキルトで表現した作品で、ビジュアル、独創性、創造性、そして技能を基準に審査される。今年の大賞に輝いたのは、夕方の海に映えるチャイナマンズ・ハットを描いた、ダナ・カネアリイさんの「クアロアの景色」(View at Kualoa)。色使い、開閉可能なジッパー式のフレームなど、個性あふれる作品で、ミシン、手縫い、アップリケ、パッチワーク、刺繍など、さまざまな技法を駆使して作られていたのが印象的だった。これら作品の数々が展示された「キルト・イン・パラダイス」を通して、キルトの魅力だけでなく、ハワイの花や自然、そして文化にも触れることができたような気がした。

▽ハワイ・キルト・ギルド(Hawaii Quilt Guild)
http://www.hawaiiquiltguild.org/


▽ファブリックマート
http://www.fmart.com/
ハワイ最大級の生地専門店。ホノルル店では、パッチワーク用生地からキルト用の端布、ハワイアンプリント、テーブルクロス用生地、ビニール、そしてカーテン用生地まで、卸売価格で販売している。キルトに必要な手芸用品も多く扱っており、ハワイアン・キルトのパターンと生地がセットになったキットは人気商品で、日本からの観光客も多く訪れる。本店はアイエアにあり、他にカネオヘ、マウイ島カフルイにもお店がある。