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トップインタビュー:近畿日本ツーリスト代表取締役社長 吉川勝久氏

  • 2008年5月1日
社員全員参加型の中期経営計画を策定へ
双方向の旅行需要をつかみ、新たなビジネスモデルの確立を



 今春、近畿日本ツーリスト(KNT)代表取締役社長に就任した吉川勝久氏。近畿日本鉄道でグループ全体を統括した幅広い見識による采配が注目されるところだが、これに加え吉川氏は自身の強みを「明るさ」と自負している。旅行市場は激変にさらされ、KNTも昨年には組織を再編し、1月から新たなスタートを切った。吉川氏に今後のKNTを導く方向性、グループ会社との連携などを聞いた。(聞き手:編集長 鈴木次郎、構成:秦野絵里香)


−旅行形態は団体から個人、販売は店頭からインターネットと、旅行市場は大きく変化しています。この流れをどのように捉え、今後のビジネス展開にどのように活かすか、考えをお聞かせください

吉川勝久氏(以下、敬称略) 旅行市場の傾向は、おおむねその通りだろうと考えている。今年1月の再編は、そうした業界を取り巻く変化の流れに対応することが目的だ。まず、事業を6つに分け、どういう方針で取り組んでいくか、テーマや課題をはっきりさせながら進めていく。団体と提携販売、店頭販売のKNTツーリストの3つは、それぞれを磨くことで、着実に伸ばしていきたい。さらに、成長性という観点では、イベント・コンベンション・コングレスを中心とするECC、インターネット販売を手がけるeビジネス、国の政策であるビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)と関連する国際旅行の3分野は非常に期待が高く、大きく伸びる分野と予想している。その成長性も見える形になりつつあり、今後、この分野に経営資源を注力していく考えだ。その準備のために、既に昨年、箱根高原ホテルの株式を売却し、連結子会社の奥日光高原ホテルなどは持分法適用の関連会社に変更しており、旅行業への特化を進めていく経営側の体制の整備も済ませた。

 就任前の2月末、各部門の部門長と話し合い、現状の認識をヒアリングした。また、各カンパニー長と毎月の定例会議で、1月から3月までの進捗状況とこれからの方針の報告を受けている。その際、それぞれが取り組むべき明確な課題を持ち、その課題に対して不足しているもの、補うべきものについて、私自身も認識を改めた。


−社長就任が決まった際、社員と意見交換する強い意欲を示されていました。現在まで、どのようなコミュニケーションをはかり、新たに見つけた課題、あるいは評価する点はありましたか

吉川 社長就任後、社内向けにイントラネットでメッセージを送った。これは各部門長だけでなく、社員一人ひとりがそれぞれの役割を明確に認識するため、会社の今後の方針を伝えなければいけないと感じたからだ。そうしたところ、多くの現場の社員からさまざまな反応が返ってきており、有意義であったと思う。これまでは近畿日本鉄道でグループ会社という関係からKNTを外から見ていたが、実際に中に入ってみると、創造性やクリエイティブな力を持っていると感じている。これまで毎月のようにKNTに訪問し、創造性に触れていたが、「業界の先駆け」「野武士集団」といわれた時代もあるが、そうした表現とは別にして、それ以上のものを感じている。私自身はこれからも、会社のトップとして社内をまわり、多くの人に「明るいですね」といわれる自分の長所を活かし、より多くの現場の声を聞いていきたい。

 社内にいると、旅行市場は落ち込んでいる環境にはあるが、まだ膨らみつつある、とも感じる。もちろん、今は転換点にあるかもしれないが、近畿圏と比べると東京をはじめとする首都圏は大きくなる可能性を秘めている。あるいは、韓国や東南アジアに多くの富裕層が存在しており、中国を含めたこれらの地域の経済成長にともなうインバウンドの発展も、われわれにとって追い風だ。VJCは1000万人の目標を前倒しする意欲が見えてきているが、それも実現できると思える。また、海外旅行は伸び悩んでいるものの、日本旅行業協会(JATA)と旅行会社各社によるビジット・ワールド・キャンペーン(VWC)で国の協力を得て、2000万人の達成に向けて事業を展開していくことで業界を変えていけると感じている。つまり、インバウンドとアウトバウンドを双方向に展開することが一つのテーマで、そこから新たなビジネスモデルが生まれるだろう。つまり、インとアウトの双方向の旅行需要をビジネス化し、事業をおこなうことが私の一番の課題だと捉えている。そのためにはまず、旅行需要をいかに拡大するかは大きな課題だ。社員とのコミュニケーションは、このような転換点にある旅行業を、現場の仕事において具体的に伝えていくことであり、これを実現するのが私の役割だ。

 旅行需要では、若年層の需要が低迷していると言われている。ただし、これも一つの転換点に来ていると考えている。携帯電話やパソコンなど、“渇いた”モノへの興味が強いが、生活圏から離れて新しいことや、体験したいと考えるのが人間だ。だからこそ、我々は新たな観光資源をいち早く、かつ強く訴求することが重要だろう。


−双方向のビジネスについて、今後の方向性や可能性を教えてください

吉川 グローバル化が進む国際的時代において、旅行業は大きな役割がある。まず、消費者一人ひとりにうるおいを与える仕事をしているという意味で、社員のモラルを高めたい。そうした視点から、韓国のハナツアーとの提携も双方向ビジネスの一つになる。インバウンドだけ、アウトバウンドだけではなく、双方向の旅行需要に取り組むことで、新たなビジネスモデルも生まれる。プラットフォーム戦略の継続はもちろん、提携など持ちあわせる資本、海外の拠点を活かした展開、さらに新たな仕組みも含めさまざまな選択肢があると思う。


−第1四半期の決算を発表されました。中間決算や今期の決算、そして中期計画について、どのように実現、実施していきますか

吉川 第1四半期の決算は、再編にともなう費用の増加もあり、移行段階という認識だ。今期の決算は、第1四半期を受け、下方修正するというより、必達する目標と考えている。中期経営計画は今年8月、改めて発表する予定だ。これまでの中期経営計画と異なり、各カンパニー長との意見交換をはじめ、社員を含めた全員参加型の計画としていきたい。前期は赤字無配であったことを考えれば、従業員や株主、旅館連盟、提携先など、ステークホルダーに納得してもらえる形にしなければいけない。必要であれば、近鉄グループの力を注ぐこともあるだろう。

 ただし、大前提はKNTの経営資源であるヒト、モノ、カネで実現することだ。私がKNTの社長に就任した理由のひとつにパーソナリティ、力量だけでなく、近畿日本鉄道副社長としての経歴を活かすことができないかという点で送り出されたと思っている。資金的な面で銀行からの借入や債券の発行、資本注入などの可能性もあるが、これらの選択肢はKNTが自力でできる最大限のものを踏まえた上で、私自身が考えることだ。全員参加型で考え、「できる」と判断すれば、資金的な選択肢を選ばないこともある。


−KNTと近鉄グループの連携は今後、どのようになるのでしょうか

吉川 これまでのKNTの改革は、KNTの経営資源の中でおこなってきた。しかし、私が社長になったということは、KNTだけの改善ではなく大きな意味で改革をめざすものと感じている。鉄道事業の経営や企画、営業に携わってきた私の新たな目線で、近鉄グループのどの力を利用すれば役立つかを考えることを含めて再編に活かすことができると思っている。

 特に、KNTは近鉄グループの中で最重要の会社である。事業では近鉄の旅客を誘致しており、近鉄の沿線において、近鉄の商品を造成し、利用を促進する存在でもある。近鉄は近畿圏の事業を主力とするが、KNTは日本全国を対象とし、海外にも拠点を持つ。そういう意味で、近鉄グループのブランド力を高めており、今後も日本、グローバルの動きにアンテナとしての動きや役割を担っていかなければいけないだろう。

ありがとうございました。


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