現地レポート−タヒチ スケッチ・ツアーを皮切りに、シニア向け素材に注目

  • 2008年3月27日
タヒチに新ブームの予感
スケッチ・ツアーを皮切りに、シニア向け素材に注目


エア・タヒチ・ヌイ(TN)と、立教大学の庄司准教授ゼミナールによる産学連携で生まれた企画「タヒチ・スケッチツアー」が、業界内外で注目されている。画家・ゴーギャンが魅せられたタヒチでのスケッチは、日本に60万人いるとみられるシニアの絵画愛好者の心をゆすぶる十分な動機付けとなるだろう。既に、JTB地球倶楽部が5月から学びをコンセプトとするシニア向けのツアーの販売を決定。さらに現地ではスケッチ以外のシニア向け商材の開発が進んでいる。TNと庄司ゼミの実地研修に同行し、スケッチをはじめ、シニアにふさわしいタヒチの素材を探ってみた。
(取材協力:・エア・タヒチ・ヌイ、タヒチ観光局、メリディアン・タヒチ、シェラトン・モーレア・ラグーン・リゾート&スパ)


ゴーギャンを魅了した多様な景観
スケッチ・絵画創作の場「アトリエ」も登場


 スケッチや絵画ツアーの旅行先は、美しい建築物、川や湖などの起伏があり、花や紅葉などアクセントのある自然景観の多いヨーロッパが主流。単なる海や山の単調な風景はスケッチや絵画を描く対象になりにくく、ビーチリゾートが提案されることはほとんどなかった。しかし、タヒチを絵画の対象物として意識して見ると、通常の島内観光でもそのポテンシャルを感じるスポットが多い。今回の行き先はタヒチ島とモーレア島だが、モーレア島の海はラグーン内のライトブルーやエメラルドブルー、岩場の部分は茶色っぽく、沖合いの深い海のコバルトブルーなどの色合いがあり、決して単調ではない。海に迫るような深い緑の山々、それを彩る南国の花々など、さまざまな景観が見られる。

 また、タヒチ島のパペーテには、港に停泊するクルーズ船や、マルシェやルロットと呼ばれる屋台、そこに行き交う人々のビビットな姿などがあり、“絵になる”と思わせる場面に幾度となく出会う。特に興味深い対象は、教会。定番の題材だが、ゴーギャンが通っていたというセント・パブティスタ教会の壁はさんご岩で作られ、パペーテのカテドラルのステンドグラスにはカヌーを漕ぐ人が描かれている。周囲を色鮮やかな花やヤシの木がアクセントをつけ、ヨーロッパ的だがタヒチらしいユニークさをかもし出ている。常に新しい対象を探すアーティストの関心を引くことだろう。

 よく手入れされたリゾートもまた、絶好の対象物であり、創作の場でもある。まさに楽園を思わせるタヒチ独特のゆったりとした雰囲気のなか、思うままに筆を進めることは、日本ではできない至福の体験だ。中でも、メリディアン・タヒチは2006年に「ル・アトリエ」を開設。創作とアーティストとの交流の場を設けており、JTB地球倶楽部のツアーにも組み込まれているという。創作の場のある環境は、こうしたツアーの後押しになる。

 実際、視察時にも同リゾートの滞在客である60代ぐらいのアメリカ人女性がアトリエを訪れ、絵画を見たり、アーティストにアドバイスをもらっていた。リゾート内の視察時には、その女性客がバルコニーでイーゼルを前に創作している姿も見かけた。

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“文化体験”で現地の理解促進
スケッチ・ツアー同行者や、それ以外のシニア・ツアーの可能性も


 今回、学生が企画したツアーは、パペーテとモーレアに4泊から6泊を滞在する日程。首都パペーテからTNの定期便で5分、高速フェリーで30分ほどの近さに豊かな自然が残るモーレアの組み合わせは、都市と田舎が手軽に楽しめ、ゆったりとした時間と活動的な過ごし方の2つを一度の旅行で体験してもらうには、ぴったりのコースだ。旅程では、単にスケッチや絵画のポイントを探し、創作する時間だけでなく、タヒチの文化が楽しめる観光地や体験が含まれているのもポイント。タヒチ島では、日本でも人気の「タヒチアン・ダンス」の体験レッスンがある。

 今回は現在、タヒチで最も人気のあるグループの一つ「オリ・タヒチ」でのレッスンプラン。まず、簡単な基本のステップを習い、音楽に合わせてダンスを楽しんだ後、師範の自宅に移動してプルメリアのレイを作るクラフトを体験するプランだ。企画した現地のランドオペレーター「タヒチ・ヌイ・トラベル」日本担当マネージャーの自壇地美千代氏は「タヒチアン・ダンスは今も祭りや結婚式には欠かせない日常のもの。本当の文化を体験してもらいたい」と、その意図を説明する。

 タヒチ島内には20ものタヒチアン・ダンスのスクールがあり、市民は3歳くらいから通い始めるとか。ホテルなどのショーに出るダンサーはほとんどが別の職業で生計を立てており、ホテルからの支給金はグループの運営に充てているという。それほど人々が愛する文化を体験し、その想いを知ることで、よりタヒチを理解できる。その上で創作活動にいそしめば、作品に対する気持ちもより深いものになるに違いない。

 また、夫婦で訪れ、夫がスケッチ、妻はタヒチアン・ダンスという過ごし方もできるし、タヒチアン・ダンスや文化体験をメインとする別のシニア向けツアーの可能性もあるだろう。今回紹介したタヒチアン・ダンスのレッスンは4月からワールド航空サービスが実施するシニア向けのタヒチ&モーレア8日間のツアーでも、組み込まれているという。


利益率の高い商品が望めるデスティネーション
気候、時差などシニアにふさわしい要素が豊富


 タヒチは日本人訪問客の8割がハネムーナー。高品質のリゾート群を武器に、イールドの高い安定したデスティネーションであるが、それはもう一つの利益率の高い市場であるシニアにも適した要素でもある。シニアの争奪戦に新企画を求める旅行会社にとっては、画期的な切り口といえるだろう。「スケッチ・ツアーを知った旅行会社から問い合わせが多数ある。中には『モデル日程でいいから早く見積もりが欲しい』という会社もある」(自壇地氏)ほどで、タヒチに対する期待度が伝わってくる。また、タヒチにとっても、人口構成的に減少が予測されるハネムーン以外の客層を拡充する必要があり、今回のスケッチ・ツアーはTNのみならず、オールタヒチで臨む一大プロモーションである。

 気になるシニア旅行者の動向だが、5年前から増えつつあり、タヒチでの体験を求める傾向が強いという。海でのアクティビティも人気で、ボラボラやモーレアでの「モツ・ピクニック(セミ・プライベート)」も好評。1人2万円と高額だが、美しい海に囲まれた無人島でシュノーケルやランチを楽しんで過ごす非日常での体験が受けているようだ。また、「ハイキングツアー」も計画中で、登山家の田部井淳子さん同行によるFAMツアーを実施するなど、新しい島内観光の企画に動き出している。

 年間平均気温が25度と常夏で気候が安定し、時差も5時間と体への影響も少ない。治安面も比較的安心でき、客引きが少なく、街歩きのストレスが少ないタヒチは、特にシニアが快適に旅行を楽しめる場所といえる。プロモーションを先導するTNでは、「シニアの絵画愛好家は60万人。その1%にも影響があれば」と期待する。スケッチ・ツアーを皮切りに、シニアに受け入れられる新たなデスティ
ネーションになりえるだろう。