トップインタビュー:ブリティッシュ・エアウェイズ日本・韓国地区支社長のロジャース氏

  • 2008年3月26日
ヒースロー空港の新ターミナル「T5」
新しい旅行体験を提供する空港に


 ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)日本・韓国支社長のジュリアン・ロジャース氏がロンドン・ヒースロー空港のターミナル5(T5)の供用開始を前に、空港の施設、日本市場でのサービス体制の強化、および営業動向などについて語った。ヒースロー空港はこのところ、許容する処理能力を超えた旅客数を受け入れ、ロストバゲージが発生し、旅行業界から問題を指摘する声もあった。新たに利用を開始する施設、サービスに加え、最近の航空運賃を取り巻く状況について聞いた。(聞き手:編集長 鈴木次郎)


−いよいよ3月27日にT5がオープンします。どのよう空港になるのですか

ジュリアン・ロジャース氏(以下敬称略) T5は旅客に新たな経験を提供する施設になる。空港の容量が拡大し、いたるところで最新のテクノロジーを使い、ラウンジ、ショッピングエリアも充実している。長距離路線、欧州域内など短・中距離路線があつまり、最終的にはBA便の95%が集結する。

 T5は現在、大きく2つのビルで構成されており、T5AとT5Bと呼んでいる。この2つのビルは動くエレベーターでつながり、T5AからT5Bまで、約45秒と短時間で移動できる。最終的には2010年5月、T5Cとして3つ目のビルが完成する予定で、引き続き、拡張が進む予定だ。(写真右上)

 旅客ターミナルの施設は、自動チェックイン機と荷物預け入れ機をそれぞれ96台用意し、利用者がチェックインのために列に並んで待つことがなくなるだろう(写真右下)。セキュリティの向上も現在の航空輸送には重要な課題で、BAとBAA(英空港会社)が協力し、5分で終えるように工夫した。混雑している場合でも、10分で手続きを終えることができるように設計している。ここでは旅客がかばんの中からパソコンを出し入れすることなく、検査を受けることができ、快適性にも配慮したものだ。

 また、国内線の航空機に搭乗する際、搭乗ゲート前で指紋を押してもらう仕組みを採用している。これは、国内線でも搭乗する旅客の本人確認をすることが目的。このような仕組みで、国内線と国際線の旅客が施設内の店舗を利用でき、国内線利用者は免税品の対象とはならないが、豊富にそろえた各種の店舗でのショッピングを楽しめる。また、万が一、搭乗口を間違ったとしても、確実に搭乗便への案内もできる。


−日本では、ヒースロー空港でのロストバゲージに対する不安が一部に広がっていた

ロジャース そうした問題は、T5の供用開始により、大きく改善される。新しい手荷物処理システムは、1時間に1万2000個の手荷物を輸送できる。このシステムは、最も早い場合には着陸から15分で最初の荷物がターンテーブルに到着する。

 これまでヒースロー空港の荷物処理システムは、既にある建物を動かすことはできず、荷物処理システムの改修を続けてきた結果、無理を強いている部分があった。結果として、満足をいただけないものとなったことは残念だ。今回の新システムは手荷物処理システムの構想を踏まえ、建物の設計をしていったもので、表面的な部分だけでなく、着実にやるべき仕事を想像しながら作ったもの。根本的な対応が違い、新施設では問題が大きく改善されるだろう。


−最近の日本発旅客需要は、どのように推移していますか。また、新施設への影響とあわせてお聞かせください

ロジャース 昨年は為替相場が円安に推移しており、目標をやや下回りそう。ただし、ビジネスクラス「クラブ・ワールド」での新シートを契機に、サービスのアップグレードを進めており、プレミアエコノミーのキャンペーンの展開などにより、プレミアムクラスでは目標を上回りそうだ。

 このうち、ビジネス需要は6%から7%の増加をみている。いわゆる法人需要は、日系航空会社に比べると割合は少ないが、引き続き、法人営業を担当する5名体制で取り込みを継続していきたい。企業の出張需要に対応する運賃を設定し、インハウスの旅行会社とともに、エンドユーザーである企業の出張者のニーズを引き出し、サービスを改善していく。顧客の声を引き出し、直接聞いていくことが重要なプロセスで、この活動には旅行会社の協力を得ていきたい。日系航空会社のように、マイレージで付加サービスを提供して対抗することはできないが、英国市場では逆のことが言え、日本では日本の活動をしていく。

 ビジネスクラスをはじめ、プレミアクラスのサービス向上で前年比増を記録したことは、ヒースロー空港の新施設の供用開始も良い方向に働いていく。ビジネス、レジャーと旅客にとって使いやすさ、利便性を考慮したサービスを着実に提供していきたい。


−今年はどのように推移すると予想しているか、お教えください

ロジャース 2008年は非常に厳しい年になると思う。経済は減速傾向にあり、円/ポンドの為替相場は円安傾向にある。ただ、1月から3月の実績、予約状況は好調に推移しており、4月から6月は例年通り、需要は強いというのが現在の見方だ。ゴールデンウィークの予約も堅調に進んでおり、良い状況といえるだろう。

 レジャー市場に関しては、常に変化する市場だ。この変化を着実にとらえ、対応していかなければならない。大きなトレンドは、需要がグループから明確な旅行目的のあるFITをはじめ、小さなセグメントになってきている。こうした動きは、英国政府観光庁(VB)が進めているプロモーションも鍵となる。ロンドンで言えば、伝統的な観光地であるバッキンガム宮殿やハイドパークだけでなく、現代的な文化、レストランや映画など紹介するものは多い。

 ただ、繰り返しになるが、T5のオープンにより、ヒースロー空港を利用した旅行体験は全く新しいものになる。乗り継ぎの利便が向上することは、レジャーでもビジネスであっても大いに貢献するだろう。


−日本市場では先ごろ、国土交通省が航空会社に対し、日本発国際航空運賃に関していわゆる下限撤廃を通知した。この影響、変化を感じていますか

ロジャース これはペックス運賃でIATA・PEX運賃の下方70%に設定していた下限を撤廃した措置だが、こうしたルールが設けられていることが世界の動向から遅れており、撤廃は歓迎すべきことだ。ただし、航空会社にとって完全に自由に運賃を設定できるか、という点では課題もある。つまり、航空会社は行政に対して申請(ファイル)をしなければならず、このプロセスにかかる時間があるため、自由度という点では改善すべき点が残る。BAとしては、戦略的に運賃を出していきたいが、IT運賃を効果的に活用することも課題になる。

 今後は、価格設定を自由にできないとグローバルでの競争に対応できない。BAとすれば、日本路線だけでも、ボーイング747型機を1日2便運航しており、この座席を効率的に販売するためには、自由度の高さは必要不可欠だ。

 また、今年は日本就航60周年を迎える記念の年。秋には旅行業界の関係者などに集まっていただき、イベントを開催することも検討している。1日2便の運航は日本市場へ信頼、約束の大きさでもあり、今後も旅行業界からのサポートをいただきたいと考えている。


ありがとうございました