ハワイ対談(2)、再生の鍵は継続的な情報発信

  • 2008年1月16日
“感じる”ハワイめざして−「当たり前」から「新鮮」で「奥深い」魅力を

ハワイ対談(1)、相互理解が本来の魅力を掘り起こす

参加者:HTJディレクター 一倉隆氏
     日本航空 国際営業部 企画 マネージャー 青木剛氏
     シャイニングツアー 代表取締役 佐藤博氏
聞き手:弊誌編集長 鈴木次郎
                                                                        
                                                                        
−これまでの話にあがった特化した旅行商品に注力すると、“So much more Hawaii”では、人数としては絞られたターゲットにあわせ、過ごし方をいくつも提案していくことでしょうか。目指す方向性をもう少し具体的に、消費者に訴えていくポイントを詳しく教えていただけますか

一倉 ハワイには幅広い世代に楽しんでもらえる素材がある。三世代で訪れ、子どもたちはビーチ、若い世代はショッピング、おじいさんやおばあさんは子供、孫とは全く別の過ごし方をすることが可能だ。極端に言えば、1日をそれぞれが全く違う過ごし方をした後、夜は一緒に食事を囲んで話をするといったことができる。それだけバリエーションが豊富なのだ。「So much more Hawaii」では、8つのカテゴリーに分けているが、まだ知られていない過ごし方を紹介していきたい。これに加え、安全であることや恵まれた気候、セキュリティの面で高い満足度を提供できる条件が揃っている。

 年間では、ある一定時期にプロモーションを展開することは必要だ。春先は会社の人事異動をはじめ、休みが取れずにゴールデンウィーク以外は6月頃まで伸びない。また、 12月も年末で訪問者数ではローシーズンとなるが、これまで長く培ってきたホノルルマラソンというイベントがあり、12月は非常にいい。センチュリーライドは自転車を運ばなければならず、マラソンと同様に伸びるか分からないが、日本でも自転車人口が増えてきており、ハワイを楽しんでいただく新たなものとして期待している。フラのイベントでは、 7月の夏休み前に、一回の週末で終わるのではなく、なるべく多くの訪問者に楽しんでいただけるイベントとして展開していきたい。大きな潜在性を秘めるものを軸とし、年間を通じて楽しめるハワイの魅力を増やしていければ、と考えている。


青木 現在、観光局と話し合っているが、フラを中心とした新しい企画を考えている。ジャルパックが主催する7月のフラ・ホオラウナがあるが、これの発展な位置づけとして 11月に行なわれるフラ・カンファレンスの近くの1ヶ月、もしくは1〜2週間にフラに特化したイベントを集中して開催する。フラに興味のある人がその時期に訪れれば、これまでより深くフラについて知り、体験できる「フラウィーク」のようなものを作れないか提案したい。この企画が上手くいけば、ホノルルマラソン、センチュリーライドといったイベントだけではなく、一定の期間である程度の需要を生み、平準化しながらお客様に訪れていただくこともできるだろう。

 航空会社単独のピーアールにも限界があり、旅行会社や観光局と一緒にやっていければと思う。1 年や2年ではなく、ある程度の長い期間を視野に入れ、しっかり根付くプロモーションをしたい。航空会社は単なる輸送手段であり、様々な情報を客観的に、さらに消費者の視線から見て、本当に良い情報を提供できれば、相乗効果が生まれるだろう。


―販売を手がける旅行会社が最も消費者に近い立場になりますが、消費者に提案をされるとき、こうした情報をどのように整理して伝え、実際の旅行へつなげていきますか

佐藤 求められているのは一つのポイントだけだと思う。例えば、マラソンであればマラソンを走るという目的。もともと12月の第2週に行なわれた35年前のホノルルマラソンは、健康の増進を目的に心臓病の先生が企画したもので、日本側、あるいは航空会社や旅行会社にするとオフ対策だった。ただ、閑散期とはいえ、以前は「師走の忙しい時期になんで行くんだ」と休暇が取得しにくい習慣があり、適切でないとも思われたが、それでも集客し続けた。それが今では教師や公務員でも許可される時代になり、ますます活況を呈している。時代は変わるので、やはりきちんとした目的を打ち出すことが大切なのだろう。それが、35年も続く原動力となり、ブランドのあるイベントとなるまでに成長した要因だ。

 例えばフラで考えれば、フラを目的にするお客様が集まる時期には、3月のホノルルフェスティバル、4月にハワイ島で開催されるメリー・モナーク・フェスティバル、7月のフラ・ホオラウナ、そして11月のフラ・カンファレンスがある。新しいイベントはこの時期を避け、毎月とはいかないが10月、11月が催行に適していると考える。会場はカウアイ、マウイ、モロカイなど各島も考えたい。フラに歌われた場所を観光局でアピールし、ある程度の認知が高まれば、その歌に興味のある人は「じゃあ、行ってみよう」と動機づけにもなる。

 同じような例として、ウクレレ・ツアーで車をチャーターし、マウイ島に訪れたことがある。決められたコースではなく、先生の「ちょっと行ってみよう」という一言で、自由に行き先を決められるツアーが長続きしている。募集型企画旅行とは異なり、臨機応変に「東は雨だから、西に行こう」ということが出来る企画旅行の最たるもので、そういう旅行には先生の感性も重なる。

 スピリチュアルツアーも昨年、ハワイ島で催行したが、このごろはスピリチュアル・カウンセラーの江原啓之さんが出演するテレビ番組が多く、アピール性が高い。個人のお客様が、「ハレアカラに行ってみたい」や、「キラウェアに行ってペレ(ハワイに伝わる火の女神)に会いたい」など、そういう問い合わせが多い。その時、一人で行けないからツアーに参加してください、ということが旅行会社の腕のみせどころ。こうした場合、お盆や正月は別として、時期はあまり関係ない。ワンポイントを売るには何が良いか、そこが企画のしどころ、売りどころになる。


―日本からはハワイ島への直行便があるほか、オアフ島からマウイ島へのフェリーの運行もはじまりました。オアフ島だけでなく、観光局が4年前に打ち出した隣島を楽しんでいただく方向性は続けていきますか

一倉 ポテンシャルは十分あると考えているが、お客様はまだ少ない。日本人市場を支えるインフラがあるか否かが課題だ。1992年のハリケーン以前、カウアイ島は日本人の訪問先として非常に人気があった。しかし、残念ながらハリケーンの後に宿泊施設の問題から、お客様はハワイ島、マウイ島など他の島に移ったという事実がある。ニーズはあると認識されており、ビジネスとして上手くやれるのではないかと思う。

 インフラ面では、各島だけの問題にとどまらず、ハワイ全体での課題もある。例えば、価格面ではお客様が支払った額に見合う質を提供できているのか。宿泊施設のハードは良くなってきたと思うが、ホスピタリティ、あるいはサービスの問題や、旅行業界の方々から毎回のようにご指摘いただく到着時の印象の改善が重要だ。特にホノルル空港で、着いてから一歩目の印象の悪さは認識している。近代化のプランは出ているが、残念ながら 10年近くかけて完成に近づくプランで。、ただ、今年10月にはJLが到着するコンコースに動く歩道が完成し、少しずつ改善がはかられているする予定だ。

青木 隣島は、これまで旅行会社と一緒に商品を企画してきた。ただし、ホテルの取りづらさ、価格が高いことから、最近は縮小気味だ。そうは言っても、JLの運賃で隣島に行く FIT層も多く、ペックス運賃「JAL悟空」で隣島への運賃を設定したり、その運賃の買いやすさを狙い、 35日前までから7日前までに購入期限を短縮し、購入後3 日以内に発券という条件を1週間以内にするなど、利便性を確保している。FITには隣島を含め、運賃の価格、お求めやすさは改善してきている。需要にあわせ価格を三段階に設定し、需要の弱い場合には低価格となるダイナミックプライスも導入し、工夫をしている。

 ただし、一気に集客できる“ホームラン”のような商品は基本的にない。島にはそれぞれの良さがあり、消費者の動向にあわせ運賃を作り、背伸びをせずに着実に展開していきたい。


―ハワイの体験、文化を、消費者ニーズと旅行業界の提案を合致させていく必要があります。それぞれの立場から、今後の活動に向けたお考え、あるいは具体的な体験、もしくは文化や歴史での提案などお聞かせください。

佐藤 やはり“ウルトラC”はない。ハワイの文化や伝統、ハワイ語やフラ、ウクレレなど特化したものが鍵になる。そのほか、スポーツを絡めたイベント。これらは細分化し、それぞれを掘り下げていくしかないだろう。

 ハワイには、スピリチュアルから音楽、火山までと、精神的なものから物質的なものまで訴求する素材が多い。マウイ島には、私の目線からだとマウイマラソンがあり、これまで数十名単位で送客してきた。以前はJLが手がけており、窓口は昨年まで日本の雑誌社が担当していたのだが、今年2月に担当しないことが決まり、日本人がエントリーする場合はインターネットのみとなった。日本の窓口をどこかがやるならば、ある程度の送客が期待できる。こういう窓口が日本にしっかりとあれば、渡航需要として増える要素はある。例えば12月のホノルルマラソンに行けない人が、9月のマウイマラソンに行く。こういった窓口を絶やさず、かつ航空会社とのコンタクトを蜜に取り、観光局のサポートも得ることができると、業界で話が活性化するだろう。

青木 今のお話の“特化”という点は、旅行者の半分以上がリピーターというハワイの特性への対策に繋がるだろう。リピーターにはロコになりきれないけれど、それに近づきたいという願望が強い。そういった気持ちを持ってリピートする人たちに、過ごし方や体験の提案を航空会社や旅行会社も積極的に情報を提供していくことが求められてくる。旅行商品に組み込まなくても、行った先での過ごし方の提案などコンサルティング的な役割を旅行会社、あるいは観光局が担うことで、消費者の旅行意欲をくすぐっていく。成熟したハワイのマーケットに、もう少し踏み込んだもので新鮮味を提供できると考えており、航空会社としても継続して取り組んでいきたい。

一方で、初めての若年層が遠のいている点にも目を向けなくてはならない。先ほど、地方のカウンタースタッフの8割がハワイに行ったことがないという話があったが、日本航空では1月7日に約200名のご参加をいただき、研修用に羽田発チャーター便を運航した。旅行会社の方にきちんと、ハワイを訪れていただく、あるいは初めての人にはまず行ってもらい、知ってもらうことを繰り返しやらなければならない。不調のときに研修旅行をしている傾向もあるが、そうしたことに関わらず毎年やれると良い。

一倉 ハワイに限らず、海外旅行は様々なハードルがあり、これから自然増は難しい時代だ。日本旅行業協会(JATA)でも、まずハワイに元気になってもらいたいという話が出ていると聞いており、非常にありがたい話だ。その環境において、今後はどれだけ日本の旅行業界、あるいはデスティネーション競争で先頭にたち、切り拓いていけるかが、日本市場におけるハワイに課せられた課題だ。

 ハワイに行くことは、ある意味で当たり前のこと。言い方を変えれば、「かっこよくない」と思う人もいるだろう。その中で、ホノルルマラソンやマウイマラソンにエントリーする人には、年齢層によって異なるだろうが、ハワイが非常に響いている。この響く部分のニーズをどれだけ汲んでいけるか、また観光局としてどれだけ情報発信を継続できるか、今後のハワイ市場の再生の鍵ではないかと思う。

ありがとうございました