新春トップインタビュー:KNTツーリスト代表取締役社長 伊藤淑雄氏
対面販売ならではの人と人との関わり、信頼感を武器に展開
昨年発表された近畿日本ツーリストの組織再編の目玉として、1月1日付で始動した店頭販売専門会社、KNTツーリスト。KNT本社が運営していた店舗と旧・ツーリストサービスの店舗を統合し、取扱高はリテール専業で第2位という規模となる(2006年度の数値からの想定)。インターネット販売が伸びる中、対面販売しかできない付加価値を強化し、顧客満足を高めることが同社の最大の目的だ。代表取締役社長に就任した伊藤淑雄氏に今後の展開について聞いた。
(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎、構成:梶田啓子)
―KNTとして昨年はどのような一年でしたか
伊藤淑雄氏(以下、敬称略) 国内旅行が数パーセント増、世界陸上を扱った国際旅行は二桁成長と好調だったが、業界全体で期待された海外旅行は、結果として数パーセント減のマイナス成長だった。利益だけで言えば、戦力強化のため要員を確保したこと、宿泊予約サイト「ステイプラス」などインターネットの環境整備を視野にした投資から、一時的なコスト増が影響しただろう。
海外旅行については、燃油サーチャージの高騰、円安、中国での食の安全への懸念などのマイナス要因に加え、各社の期待が高かった団塊世代の動きが予想と比べゆっくりしている印象がある。この世代の方々は、時間が出来て、一度は旅行に出かけたかもしれないが、急激な伸びには繋がらなかった。確実に動いていると思うが、旅行に行かなければならないという必然性がなく、この層が旅行をしたいと急いでいないのだろう。
これまで海外旅行を牽引してきた20代後半から30代の女性が海外を訪れなくなっていることも、今後の大きな懸念材料だ。これは私個人の考えだが、銀座に次々とブランドが進出しており、日本限定や先行発売の商品が並び、わざわざ海外に行かなくても良くなったことも影響があるのではないか。美容など旅行以外にお金の使途が増えており、海外の主要なデスティネーションに一通り行き、落ち着いてしまったのかもしれない。こうした複合的な要素が生み出した結果でもあるだろう。
―今年は旅行市場への期待、予想をお聞かせください
伊藤 大きな伸びは期待できないだろうと見ている。海外旅行は良くて前年並みを維持する程度だろう。北京オリンピックがある、ほかに大きなインパクトはなく、燃油サーチャージを筆頭にマイナス要因は今年も継続する。
潮目が変わるとすれば、日系航空会社2社の燃油サーチャージ額の違いが、今後の旅行商品の販売に影響が出るのではないか。一度の旅行で数千円違うとなると旅行者の反応が変わると想像される。この厳しい状況において、お客様に選ばれる商品を着実に出していくしかないだろう。
―この数年、店舗での販売とインターネットとが対立するものと考えられてきました。今後は店舗販売の点からどのように対処していきますか
伊藤 インターネット市場の台頭は店頭の対面販売が押されてきたのは事実で、この勢いはまだ続く。KNTツーリストではインターネットにはない、人と直に接する対面ならではの付加価値を押し出していきたい。つまり勧めてくれるスタッフがおり、旅行商品がどういった形で作られているか、最適な季節がいつなのか、など対話の中で自然と伝わるような環境をつくることだ。そのために、効果的な店舗展開、そしてスタッフの育成が最重要な課題となる。
また、インターネットを単に阻害要素と捉えるのではなく、長所を認めて上手く付き合っていかなければ会社は伸びていけないだろう。現在、社内議論の場として「未来委員会」というSNSを立ち上げる計画だ。この内容は簡単に言えば「5年後、10年後この会社をどうするか」ということ。普段は集まることができない社員にも公募で声を上げてもらい、徹底的に議論を交わす。そして半年に一度ぐらい定期的に発表会を開催し、そこで実現できそうな企画があれば挑戦しいく。この未来委員会の最初の議題は、「インターネットとどう付き合っていくか」にしたい。これは今、全ての事業に関ってくることであり、スタッフ全員にとって避けては通れない問題だ。
―店頭販売専門の会社としてどのような施策を講じる予定ですか
伊藤 対面販売で生き残るため、最も大切にしていくことは人と人との直接的な関わりや信頼感。旅行という形のない商品だからこそ、商品を勧めるスタッフとお客様の間に信頼がなくてはならない。これから社員に伝えていこうと考えているのが「自分が旅をする心でお客様と接しなさい」ということ。自分が旅行をする場合、多くの人がいろいろなことに関して深く調べるだろう。そういう気持ちで接客をしてくれるスタッフがいれば、お客様の心に響き、店舗に行きたいと思ってもらえるのではないか。一番難しいことだが、本来、旅行の販売に求められているのはこうした「本気」ではないか。これは教育とも関わるが、時間がかかっても販売につながる確実性が出るだろう。
これを実現するため、「お客様に選ばれる会社」をコンセプトとして掲げる。具体的にはお客様の声を知り、その声に応えられるスタッフがおり、そのスタッフに会える素敵な空間を提供することだ。戦力となる1900名のスタッフのうち80パーセント以上が女性だが、このスタッフが落ち着いて、長く、また一旦、離れても復帰できる職場の環境、会社の体制を整えたい。
また、スタッフの教育方法を見直し、社内でアイデアを募り、これを実現する社内ベンチャーも積極的に行ないたい。まず、やってみることが大切で、そういう雰囲気を作りたい。万が一、だめだったらやめればいい。
―今後の店舗展開についてのお考えをお聞かせください
伊藤 269店舗でスタートしたが、今後、まだ拡大する予定だ。まず、KNTにはない海外旅行専門店の設置など、各種の専門店を充実させたい。あるいは専門店がいくつか同じスペースに存在する「テーマパーク型」の店舗もおもしろいだろう。
既存店舗の成功事例としては、神奈川県・川崎市の川崎ラゾーナ店のように、複数の旅行会社が集うトラベルゾーン型の店舗も良いのではないか。モールでは多くの店舗が出展しており、平均で15坪から20坪という旅行会社の店舗が埋もれてしまわないよう、同一モールに入居する2、3社がとなり同士に位置して、切磋琢磨することで、旅行に行きたい、あるいは旅行商品の購買意欲を高
める必要があるのではないか。こうした施策は、各社に
も呼びかけて、積極的に取り組みたい。
路面店では、どの都市に出店するかという点で地域は厭わない。ただし、駅に近いビルの上階など1階ではなくともお客様にとってアクセスが良い場所が条件だ。魅力のある人材がいて、お客様に選ばれる会社を目指しており、それが実現できれば、路面店にこだわる必要はないだろう。
―ありがとうございました
昨年発表された近畿日本ツーリストの組織再編の目玉として、1月1日付で始動した店頭販売専門会社、KNTツーリスト。KNT本社が運営していた店舗と旧・ツーリストサービスの店舗を統合し、取扱高はリテール専業で第2位という規模となる(2006年度の数値からの想定)。インターネット販売が伸びる中、対面販売しかできない付加価値を強化し、顧客満足を高めることが同社の最大の目的だ。代表取締役社長に就任した伊藤淑雄氏に今後の展開について聞いた。
(聞き手:弊紙編集長 鈴木次郎、構成:梶田啓子)
―KNTとして昨年はどのような一年でしたか
伊藤淑雄氏(以下、敬称略) 国内旅行が数パーセント増、世界陸上を扱った国際旅行は二桁成長と好調だったが、業界全体で期待された海外旅行は、結果として数パーセント減のマイナス成長だった。利益だけで言えば、戦力強化のため要員を確保したこと、宿泊予約サイト「ステイプラス」などインターネットの環境整備を視野にした投資から、一時的なコスト増が影響しただろう。
海外旅行については、燃油サーチャージの高騰、円安、中国での食の安全への懸念などのマイナス要因に加え、各社の期待が高かった団塊世代の動きが予想と比べゆっくりしている印象がある。この世代の方々は、時間が出来て、一度は旅行に出かけたかもしれないが、急激な伸びには繋がらなかった。確実に動いていると思うが、旅行に行かなければならないという必然性がなく、この層が旅行をしたいと急いでいないのだろう。
これまで海外旅行を牽引してきた20代後半から30代の女性が海外を訪れなくなっていることも、今後の大きな懸念材料だ。これは私個人の考えだが、銀座に次々とブランドが進出しており、日本限定や先行発売の商品が並び、わざわざ海外に行かなくても良くなったことも影響があるのではないか。美容など旅行以外にお金の使途が増えており、海外の主要なデスティネーションに一通り行き、落ち着いてしまったのかもしれない。こうした複合的な要素が生み出した結果でもあるだろう。
―今年は旅行市場への期待、予想をお聞かせください
伊藤 大きな伸びは期待できないだろうと見ている。海外旅行は良くて前年並みを維持する程度だろう。北京オリンピックがある、ほかに大きなインパクトはなく、燃油サーチャージを筆頭にマイナス要因は今年も継続する。
潮目が変わるとすれば、日系航空会社2社の燃油サーチャージ額の違いが、今後の旅行商品の販売に影響が出るのではないか。一度の旅行で数千円違うとなると旅行者の反応が変わると想像される。この厳しい状況において、お客様に選ばれる商品を着実に出していくしかないだろう。
―この数年、店舗での販売とインターネットとが対立するものと考えられてきました。今後は店舗販売の点からどのように対処していきますか
伊藤 インターネット市場の台頭は店頭の対面販売が押されてきたのは事実で、この勢いはまだ続く。KNTツーリストではインターネットにはない、人と直に接する対面ならではの付加価値を押し出していきたい。つまり勧めてくれるスタッフがおり、旅行商品がどういった形で作られているか、最適な季節がいつなのか、など対話の中で自然と伝わるような環境をつくることだ。そのために、効果的な店舗展開、そしてスタッフの育成が最重要な課題となる。
また、インターネットを単に阻害要素と捉えるのではなく、長所を認めて上手く付き合っていかなければ会社は伸びていけないだろう。現在、社内議論の場として「未来委員会」というSNSを立ち上げる計画だ。この内容は簡単に言えば「5年後、10年後この会社をどうするか」ということ。普段は集まることができない社員にも公募で声を上げてもらい、徹底的に議論を交わす。そして半年に一度ぐらい定期的に発表会を開催し、そこで実現できそうな企画があれば挑戦しいく。この未来委員会の最初の議題は、「インターネットとどう付き合っていくか」にしたい。これは今、全ての事業に関ってくることであり、スタッフ全員にとって避けては通れない問題だ。
―店頭販売専門の会社としてどのような施策を講じる予定ですか
伊藤 対面販売で生き残るため、最も大切にしていくことは人と人との直接的な関わりや信頼感。旅行という形のない商品だからこそ、商品を勧めるスタッフとお客様の間に信頼がなくてはならない。これから社員に伝えていこうと考えているのが「自分が旅をする心でお客様と接しなさい」ということ。自分が旅行をする場合、多くの人がいろいろなことに関して深く調べるだろう。そういう気持ちで接客をしてくれるスタッフがいれば、お客様の心に響き、店舗に行きたいと思ってもらえるのではないか。一番難しいことだが、本来、旅行の販売に求められているのはこうした「本気」ではないか。これは教育とも関わるが、時間がかかっても販売につながる確実性が出るだろう。
これを実現するため、「お客様に選ばれる会社」をコンセプトとして掲げる。具体的にはお客様の声を知り、その声に応えられるスタッフがおり、そのスタッフに会える素敵な空間を提供することだ。戦力となる1900名のスタッフのうち80パーセント以上が女性だが、このスタッフが落ち着いて、長く、また一旦、離れても復帰できる職場の環境、会社の体制を整えたい。
また、スタッフの教育方法を見直し、社内でアイデアを募り、これを実現する社内ベンチャーも積極的に行ないたい。まず、やってみることが大切で、そういう雰囲気を作りたい。万が一、だめだったらやめればいい。
―今後の店舗展開についてのお考えをお聞かせください
伊藤 269店舗でスタートしたが、今後、まだ拡大する予定だ。まず、KNTにはない海外旅行専門店の設置など、各種の専門店を充実させたい。あるいは専門店がいくつか同じスペースに存在する「テーマパーク型」の店舗もおもしろいだろう。
既存店舗の成功事例としては、神奈川県・川崎市の川崎ラゾーナ店のように、複数の旅行会社が集うトラベルゾーン型の店舗も良いのではないか。モールでは多くの店舗が出展しており、平均で15坪から20坪という旅行会社の店舗が埋もれてしまわないよう、同一モールに入居する2、3社がとなり同士に位置して、切磋琢磨することで、旅行に行きたい、あるいは旅行商品の購買意欲を高
める必要があるのではないか。こうした施策は、各社に
も呼びかけて、積極的に取り組みたい。
路面店では、どの都市に出店するかという点で地域は厭わない。ただし、駅に近いビルの上階など1階ではなくともお客様にとってアクセスが良い場所が条件だ。魅力のある人材がいて、お客様に選ばれる会社を目指しており、それが実現できれば、路面店にこだわる必要はないだろう。
―ありがとうございました